理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1479
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口述
低強度自転車エルゴメーター駆動時の意図的な運動
―呼吸同調は認知機能を改善するか?
小柳 圭一高井 遥菜椿 淳裕安福 祐一解良 武士玉木 彰
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抄録

【はじめに,目的】運動は,認知機能を司る前頭前野(PFC)に好影響を及ぼすことが報告されている。中強度運動中はPFCの局所脳血流(rCBF)が増加し,運動後は一過性に認知機能が改善するとされる。また,低強度運動中はPFCのrCBF増加および運動後の認知機能の改善が少ないことが報告されている。しかし,低強度運動中のPFCのrCBFを増加することができれば,低強度運動でも認知機能を改善できる可能性があると考えられる。そこで,運動リズムと呼吸リズムを同期させる運動-呼吸同調(LRC)と呼ばれる方法に着目した。このLRCは運動リズムと呼吸リズムを同期させる二重課題である。二重課題はPFCのrCBFを増加させることから,低強度運動でも意図的なLRCの誘発によって,認知機能を改善することができると考えられる。本研究は,低負荷自転車エルゴメーター駆動時の意図的なLRCが認知機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は日本語を母国語とし,色覚異常および神経学的疾患の診断の既往が無い,右利き健常成人男女8名(22.4±1.6歳)とした。まず,自転車エルゴメーター(エアロバイク75XL,コンビウェルネス社)にて,運動負荷試験を実施し,最高酸素摂取量(VO2peak)を計測した。後日,30%VO2peakを運動強度として,2運動条件で計測した。実験プロトコルは,運動前に認知課題を実施し,10分間の運動課題後,10分間の安静をとり,再度認知課題を実施した。運動課題は自転車エルゴメーターを用いて,LRC非誘発条件,LRC誘発条件とした。LRC誘発条件は,運動-呼吸同調システム(LRCS-01-β,サンキ)を用いて,ペダリング運動2周期に対して呼吸1周期の比率にて,LRCを誘発した。なお,運動中のペダリング回転数は50回転/分とした。また,呼気ガス分析装置(AEROMONITOR AE-300S,ミナト医科学)から呼吸フロー,運動-呼吸同調システムからペダル踏み込みタイミングをAD変換器(Power Lab 16/30,ADINSTRUMENTS社)へ出力し,PCに記録した。また,LRC発生率は呼気開始時点とペダル踏み込みタイミングの周期間位相差を用いて,±0.1秒以内の呼吸が4呼吸以上連続した場合とした。認知課題はcolor word Stroop test(CWST)を用いた。難易度が易しい順に,中立条件,一致条件,不一致条件の3種類の難易度を各10問ずつ,PCを用いて対象者に提示し,反応時間(RT)を計測した。CWST実施時のrCBF計測は,光脳機能イメージング装置(FOIRE-3000,島津製作所)を用いて,CWST実施時の酸素化ヘモグロビン濃度(Oxy-Hb)を計測した。プローブは国際10-20法のCzを基準とし,左背外側前頭前野(LDLPFC)を覆うように配置した。解析はLDLPFCの全計測チャンネルの平均を用いて行った。課題提示前の2秒間の平均を基準値とし,課題提示後のOxy-Hbの最大値との変化量を解析に用いて,各難易度10問分の変化量を加算し,各対象者の代表値とした。認知機能の指標として,Stroop干渉を反映しているとされる不一致条件と中立条件の差分値をRTおよびΔOxy-Hbにおいてそれぞれ算出した。CWSTを用いた先行研究では,rCBFが増加した結果,Stroop干渉処理速度が高まることでRTが短縮するとしている。統計処理は,LRC発生率は対応のあるt検定,RTおよびStroop干渉のΔOxy-Hbは2元配置分散分析を用いた。また,交互作用が認められた場合,各運動課題において事後検定を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学倫理審査委員会の承諾を経て実施された。対象者にはヘルシンキ宣言に基づき研究の内容を文章と口頭で説明し同意を得た。また,被験者の自由意思によって辞退することが可能である旨も伝えた。【結果】LRC発生率は,LRC非誘発条件19%±11%,LRC誘発条件44%±18%となりLRC誘発条件で有意に高値を示した(p=0.008)。RTは主効果および交互作用は認められなかった。ΔOxy-Hbは,主効果は認められなかったが,運動課題と運動前後において交互作用が認められた(F=9.733 p=0.017)。Stroop干渉のΔOxy-Hbは,LRC誘発条件において有意に高値を示した(p=0.017)。【考察】先行研究によれば,運動前後のStroop干渉のΔOxy-Hbの増加はStroop干渉を克服するための脳活動を反映しているとされ,覚醒状態が関与する。本研究のLRC誘発条件は,意図的にLRCを誘発したためにLRC非誘発条件よりも運動努力感が伴っており,覚醒状態の変化による脳活動の変化を反映していたと考えられる。しかし,RTは主効果および交互作用が認められなかった。RTは刺激処理過程のみでなく,運動選択,運動準備などの出力にかかる時間も反映されるため,脳活動の変化が反映されなかったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】同じ低強度運動でも,LRCを誘発させることで覚醒を高め,LDLPFCのrCBFを増加させる可能性がある。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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