理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0006
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口述
インシデント報告数増加への取り組みとインシデント内容について
リハビリテーション科における過去5年間の分析
椎木 孝幸市田 嘉也今高 康詞吉田 誠倉持 由惟構井 健二金森 貴未西本 好輝森岡 銀平安達 由紀中畑 温貴
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抄録

【はじめに,目的】インシデントレポートを提出する大きな目的は,重大な医療事故を未然に防ぐことである。近年,理学療法士の数が急激に増加し,新卒の入職者を複数人受け入れる施設は多くなっている。経験の少ないセラピストがアクシデントを起さないようにするためには,提出されたインシデントの事例を共有しておくことが大事である。ハインリッヒの法則によると1つの重大な事故の背後には29の軽微な事故があり,その背景には300の異常が存在するといわれている。インシデントレポート数の目安は,病院全体で1ヶ月に病床数の1/3は必要という報告や1年間で病床数の5倍との報告があるが,リハビリテーション部門における報告数はどの施設を取ってみても少いのが現状である。当院においても平成15年からレポートの提出を義務づけているが,開始当初はインシデントの数は少なく,報告数を増やすことが一つの課題となっていた。5年前より報告数を増やす取り組みを行った結果,報告数の増加が見られたため,5年間のインシデントの分析とともに若干の考察を加えて報告する。【方法】対象は2009年1月~2013年12月までの5年間に当リハビリテーション科に提出されたインシデントレポート416件とした。インシデントレポートをレベル0~2に分類し,月単位で集計した。報告数増加の取り組みとしては,1.インシデント事例の紹介と検討会の実施,2.危険予知トレーニングの実施,3.患者急変時の対応に関する勉強会の開催,4.インシデントレポートの簡素化と記名式への変更,5.リスクマネージャーによる講義などを実施した。すべての取り組みは危機管理能力を向上させる目的でおこなった。【結果】2009年のインシデント報告数は43件,2010年は66件,2011年は92件,2012年は97件,2013年は118件と年々増加した。また内訳は,レベル0が2009年11件,2010年29件,2011年36件,2012年23件,2013年38件と大きく増減は見られなかったが,間違いが認められたレベル1以上の件数は,2009年32件,2010年37件,2011年56件,2012年74件,2013年80件と増加傾向にあった。レベル1以上の内容については,5年間で「転倒・転落」が54件,「診療時間管理」が50件,「接触」が31件の順で多かった。報告者の経験年数は2年~5年目が最も多く216件,1年目は87件であった。1人当たりの報告数は1年目が多く,6年目以降の報告数は減少していた。インシデント発生の時間帯は午前中が191件,午後が206件,時間外が19件であった。インシデント発生場所は,理学療法室が243件,作業療法室が93件,病棟が30件の順で多かった。【考察】新人教育の中でインシデントは,罰を与えるものではなく人事考課には影響しないということをまず最初に認識させた。また逆に提出することで自分の身を守ることができることを繰り返し説明したことで,取り組み前に比べるとレポートを提出しやすい環境になったと思われる。検討会では実際に起こった事例を提示し,改善策についてグループで話し合う場を設け,またリハビリテーション室の環境からどのようなインシデントが発生し易いかなどの危険予知能力を高めるトレーニングを行った。方法で示す1~5のどの取り組みが効果的であったかについては定かではないが,毎年繰り返しインシデントに関する勉強会を開催したことによって,少しずつ危機管理に関する関心が高まり,報告数の増加につながったと思われる。報告数の増加に伴い,レベル1以上の件数も増加した件については,スタッフ数が増え,1日で実施するリハ件数が増えたことなどが考えられる。1年目の1人当たりの報告数は,他に比べて多かったが,これは指導者からの提出の促しがあったことも要因として考えられる。逆に6年目以上では報告数が少なくなっていることは,経験を積みインシデントを未然に防ぐ能力が身に付いたことも考えられるが,報告を怠っていることも考えられるためこれについては,今後の課題と捉えている。今後は,より質の高いインシデントレポートを作成し,情報共有を図り医療事故防止に努めていきたい。【理学療法学研究としての意義】医療事故を未然に防ぐためにはインシデントレポートの提出が不可欠であり,報告数を増加し,インシデントの内容をスタッフ全員で共有することは非常に重要である。報告数の増加への取り組みを行った結果,報告数は増加したことから一定の成果があったものと考えられる。

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