理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-0441
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口述
Brisk walkingの歩幅の違いがエネルギー代謝へ及ぼす影響
出口 憲市江西 哲也佐藤 紀加藤 真介
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抄録

【はじめに,目的】アメリカスポーツ医学会では,健康増進の運動療法としてBrisk walkingが推奨されている。一般的にwalking指導では,下肢筋活動量の増大を目的として歩幅を大きくする歩容が推奨されているが,歩幅の増減がエネルギー消費に及ぼす影響については明らかにされていない。また,歩幅の増加は変形性膝関節症患者では内反モーメントの増大により疼痛を出現させる可能性がある。そこで本研究では,Brisk walkingの歩幅の違いがエネルギー代謝へ及ぼす影響を検討した。【方法】対象者は健常成人男性10名(年齢:21.9±0.7歳,体重:60.3±6.3kg,BMI:21.0±2.1kg/m2)であり,歩行速度を測定するために,3分間の通常歩行を実施して平均値から自由歩行速度を測定した。その結果より,トレッドミル(Aeromill;NIHONKOHDEN社製)を使用して30分間の自由歩行速度(natural walking;NW)条件を実施した。その際に20秒毎に歩幅を計測して自由歩行速度より,それぞれ20%のスピードを増加した歩幅アップ(自由歩行速度より歩幅を20%増加,long step;LS)条件およびピッチアップ(自由歩行速度と同じ歩幅でピッチを20%増加,pitch;P)条件をクロスオーバーデザインにより,それぞれ30分間実施した。エネルギー消費量測定には呼気ガス分析装置(fitmate pro;COSMED社製),歩数測定にはライフコーダEX(スズケン社製),心拍数測定にはハートレートモニター(FT80;POLAR社製)を使用した。また,各条件には1日以上のウォッシュアウト期間を設定してほぼ同一時刻に実施した。すべてのデータは平均値±標準偏差で示し,SPSSver22.0を用いて解析をした。各条件の比較には一元配置分散分析後にBonfferroni検定を用いた。なお,危険率は5%未満を有意水準として採用した。【結果】自由歩行速度の平均速度は,4.4±0.5km/hであり,歩行スピードの20%アップ条件の平均速度は5.3±0.6km/hであった。また,目標歩幅および各条件時の歩幅の実測値は,LS条件で82.6cmおよび82.0±6.2cmであり,P条件で68.9cmおよび69.3±5.1cmであった。NW条件,LS条件およびP条件のエネルギー消費量は,それぞれ130.9±14.0kcal,172.1±29.7kcal,163.2±27.0kcalであり,NW条件とLS条件およびP条件との間に有意な差が認められた(p<0.01)が,LS条件とP条件の間には有意な差は認められなかった。また,歩数はそれぞれ3270.4±319.3歩,3301.1±298.6歩,3849.5±356.9歩であり,NW条件およびLS条件とP条件との間に有意な差が認められた(p<0.01)。さらに,NW条件,LS条件およびP条件の運動終了時の心拍数は,それぞれ92.8±7.8beats/min,112.0±9.5beats/min,112.4±10.5beats/minであり,VO2は,それぞれ903.2±104.9ml/min,1183.3±235.1ml/min,1122.2±193.2ml/minであり,NWとLSおよびP条件との間に有意な差が認められた(p<0.01)。【考察】本研究の結果により,Brisk walkingでのピッチアップ歩行でも一般的に推奨されている歩幅アップ条件と同様にエネルギーを消費させることが示された。その原因の一つとしては,運動時間内の歩数の増加により,筋収縮頻度が増加したために歩幅の増加による筋活動量の増加と同等にエネルギーを消費したと考えられる。また,LS条件およびP条件の運動終了時でのHRおよびVO2の値に有意な差が認められなかったことから,身体機能への負荷が両条件において同等であったと考えられる。歩行時の歩幅の増加は,内反モーメントを増加させることが報告されており,中高年者では膝関節の負担は増大すると考えられる。したがって,膝関節の負担を軽減する歩行方法が重要であり,ピッチを増加させる歩行は,エネルギー消費に関しても効果的であるために,整形疾患の患者への運動処方として推奨できる可能性が示唆された。本研究は,歩行スピードおよび歩幅を規定する目的でトレッドミルを使用しているために,今後は平地歩行および変形性膝関節症などの整形疾患の患者での検討を進めることで,より臨床的意義のある研究になると考えられる。【理学療法学研究としての意義】Brisk walkingは臨床的に最も普及している運動療法の一つであるが,歩幅を一定に維持してピッチを増加させる歩行は,エネルギー消費量が歩幅アップ歩行と同様に効果的であることが示された。本研究のプロトコールを変形性膝関節症の患者で検討することで,エネルギー消費に効果的かつ膝関節への負担を軽減できる運動処方となる可能性が示唆された。

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© 2015 日本理学療法士協会
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