理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-A-0265
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健常者への直流前庭電気刺激が主観的身体垂直に及ぼす影響
~簡易型身体垂直測定装置を用いた検討~
廣澤 全紀網本 和砂田 瑞季山本 純一郎小森 智子髙城 翔太松島 栞
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抄録

【はじめに,目的】Karnathら(2000)は,脳卒中患者における健側肢が接触面を押して患側方向に倒れ込むpusher現象が,主観的身体垂直(以下,SPV)と主観的視覚垂直(SVV)の乖離により生じるとした。また,直流前庭電気刺激(以下,GVS)は,経頭蓋直流電気刺激(tDCS)機を使用し,両側の乳様突起間から微弱な直流電流を通電し,前庭器官を刺激する電気刺激法である。先行研究では,GVSにより側方・回旋方向への自己動揺感覚が生じるとされており,GVSがSPVに与える影響が示唆されているが,定量的な検討はなされていない。仮に,GVSによってSPVが偏倚することが明らかとなれば,SPVを意図的に偏倚させ,垂直認知の偏倚に起因するpusher現象を代表とする姿勢定位障害患者の姿勢を操作する可能性がある。上述したGVSの臨床応用の可能性の基盤として,本研究では健常者へのGVSがSPVに及ぼす影響について,簡易型身体垂直測定装置を用いて定量的に検討することを目的とする。【方法】対象は健常成人8名(男性3名,女性5名,25±1.8歳)とした。電気刺激にはDC-STIMULATOR(neuroConn GmbH製)を使用した。臨床神経生理学会の脳刺激法に関する委員会が示した,経頭蓋直流電気刺激の安全性についての指針に準じ,GVSの刺激強度は1.5mA,刺激時間は20分間とした。左乳様突起に陰極電極,右乳様突起に陽極電極を貼付する方法(以下,L-GVS),左に陽極電極,右に陰極電極を貼付する方法(以下,R-GVS)との2条件を2日間に分けて実施した。左右どちらの極性を先行させるかは,各対象者に無作為に割り付け,1日目と2日目の測定はそれぞれ極性が異なるGVSを実施した。1日目の測定から2日目の測定は,2日以上7日以内の間隔で実施した。SPV値を刺激前(Baseline)に測定してから,閉眼の安静端座位にてGVSを20分間実施した。その後,刺激終了直後,10分後,20分後に同様の手順でSPV値を測定した。統計処理は,BaselineにおけるSPV値の平均値についてWilcoxonの符号付順位検定を用いて差の検定を行った。また,GVS後の計3回のSPV値の平均値について,Baselineの平均値を1として変化率を求め,Wilcoxonの符号付順位検定を用いて差の検定を行った。すべて有意水準は5%とした。【結果】BaselineのSPV値はL-GVSにおいて0.29±1.37°,R-GVSにおいて0.08±0.97°となり有意な差は認められなかった。GVS実施から20分後のSPV値の変化率に有意な差が認められた(p<0.05)。L-GVSでは前額面上で反時計周りへ13.6%,R-GVSでは時計周りへ17.4%の変化率であった。また,GVS実施直後,10分後の変化率に有意な差は認められなかった。【考察】先行研究では,陽極側に身体の自己動揺感覚が生じるとされている。本研究においても,GVSによって陽極側の前庭器が刺激され陽極側への身体の動揺感覚が生じたことにより,測定時には陽極側へ偏倚したSPVを鉛直に近づけようとした結果,SPV値は陰極側へ有意に偏倚したと考える。また,20分後の変化率に有意な差が認められた点について,先行研究では半側空間無視患者へのGVSは,星末梢試験や線分二等分試験の結果を即時的かつ1日から数日間に渡って持続的に改善するとの報告がある。同様に,SPVにおいてもGVSによる効果が持続した可能性があるかもしれない。また,本研究におけるSPVの測定の特性上,複数回測定を行うことで精度が向上し誤差が小さくなったことで,GVSによる効果が検定結果として出現したとも推察できるが今後の検討課題である。【理学療法学研究としての意義】GVSは刺激強度の調整が可能であり,副作用の少ない前庭刺激法であるとされている。また,機器は小さく持ち運びが可能であり,運動療法や机上課題での併用など応用範囲は広いと考える。本研究は,GVSがSPVへ及ぼす影響について検討した初めての研究であり,今後のGVSのリハビリテーションへの応用に向けての手がかりになると考える。

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© 2015 日本理学療法士協会
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