理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-A-0317
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佐賀大学農学部附属アグリ創生教育研究センターにおける動物介在療法の近赤外分光法を使った脳機能解析に基づいた効果検証
森田 由佳有馬 進上埜 喜八江原 史雄松本 雄一於保 伸子森田 義満堀川 悦夫
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抄録

【はじめに,目的】佐賀大学では,農業フィールド資源活用によるアグリセラピー(動物介在療法,園芸療法)の構築プロジェクトを立ち上げ,これまで食料生産手段として利用してきた家畜や作物栽培を,障害等を持つ患者のケア手段に応用することを目的とし,農学部,医学部,文化教育学部と共同でその可能性を探るため,研究教育の企画・推進を行っている。先行研究では,行動観察による評価を中心とした主観的なものが多く,実証的研究に基づいた エビデンスが検証されることが望まれている。その客観的評価として,生理的指標を用いた比較が挙げられる。生理的指標は自律神経変動測定である心拍変動解析,そして内分泌系ストレスマーカーとして唾液中のアミラーゼなど,いわゆるストレス起因の神経伝達物質の測定である。また,近年,人の心や体を支配する部位である脳の賦活を直接的かつ非侵襲的,そしてリアルタイムに捉えるための技術,装置の開発が進み,近赤外分光法(Near Infrared Spectroscopy:NIRS)といった手段が注目されつつある。NIRSの優れた点は,fMRIやPETと比べて,①微弱な近赤外線を使用しているため,無侵襲である。②小型で装置を移動することができ,特殊な検査室を必要としない。③被験者を寝台に固定する必要がなく,自然な状態で計測できるといった点である。動物や植物の介在による精神変化と付帯する生理的変化を捉えようとするとき,NIRSによる脳機能の測定は,その装置の仕様や利点も合わせて考えると優れた手法であるといえる。そこで本研究の目的は,本学農学部学生を対象に,アグリセラピー,今回は動物介在療法の効果を客観的評価である生理学的手法を用いて示し,その評価方法を検討することである。【方法】対象は佐賀大学農学部学生16名(男性8名,女性8名)とし平均年齢20.1±6.5歳であった。唾液アミラーゼは,唾液アミラーゼモニター(ニプロ株式会社製)を使用して,介入前,中,後測定した。唾液採取は,測定用のチップを口内(舌下)に30秒含むことにより行われ,唾液採取後直ちに分析装置に装着し,唾液アミラーゼ活性を測定した。自律神経変動測定(心拍変動解析)は介入中にCS600X心拍計付サイクルコンピュータ(Polar Japan社製)を使用して介入前,中,後の心拍変動解析を行うことにより自律神経機能の評価を行った。近赤外分光法(NIRS)は,介入中にウェアラブル光トポグラフィシステムIMC-220(HITACHI製)(光トポグラフィ)を使用して,脳血流中酸素化ヘモグロビン量を測定した。頭部傾斜による脳血流の変化を避けるために,頭部を傾けないように被験者に注意した。測定部位は前頭葉部とした。プロトコールは,まずNIRS,心拍計を装着し唾液摂取して唾液アミラーゼ活性を測定する。その後,30秒安静にし60秒ヤギの映像を見てもらう。これを3回繰り返す。そして唾液摂取して唾液アミラーゼ活性を測定する。つぎに30秒の安静後に60秒対照となる映像を見てもらう。これを3回繰り返す。そして唾液摂取して唾液アミラーゼ活性を測定する。【結果】光トポグラフィによって得られた脳活動(全ヘモグロビン濃度変化)の平均値を測定値とし,安静時,ヤギの映像視聴時,対照となる映像視聴時の3条件について分析を行った。多重比較を行ったところヤギの映像視聴時が全ヘモグロビン濃度変化が有意に高かった(p<0.05)。唾液アミラーゼ,心拍変動解析においては有意差は見られなかった。【考察】今回の結果により,動物の介入により前頭葉部を賦活させる可能性が高いことが,示された。脳機能測定を行う脳部位について,動物介在療法や園芸療法によって前頭葉に脳の賦活が見られたとの報告があるため,本研究では前頭葉を中心に測定することにした。前頭葉は外部環境と情動や生理などの内部環境の情報を統合し,反応動作・行動の手順をつくり,それを実行する部位であり,この脳部位の活動を捉えることは,動物による人の精神への影響と変化の原因を突き詰めることにおいて極めて重要な意味を持つと考えられる。また,この部分を賦活させることによって認知機能の低下を防止すると考えられる。唾液アミラーゼ,心拍変動解析においては有意差が見られなかったことから,今回は映像を見ながら様々な機器を体に装着した状態での実験であったため,そのことがストレスとなったとも考えられる。【理学療法学研究としての意義】動物介在療法の脳賦活効果を示せたことは,動物介在療法を障害等を持つ患者のリハビリテーションに応用し,その際の治療効果判定の一助となると考えられる。

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© 2015 日本理学療法士協会
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