理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-02-6
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口述演題
変形性膝関節症におけるピークトルク到達時間が歩行能力に及ぼす影響
山守 健太野口 裕貴鈴木 裕也
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キーワード: 高齢者, バランス, 筋パワー
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抄録

【はじめに,目的】変形性膝関節症(膝OA)は,高齢者において最も多い骨関節疾患の一つである。先行研究では,高齢膝OA患者では膝筋力・疼痛が移動能力低下を来すとの報告があり,近年では等尺性最大膝伸展筋力(最大伸展筋力)に至るまでの時間(ピーク時間)が日常動作でのふらつきや易転倒性と密接な関係性を持つという報告があり,最大筋力値が高値を示していてもピーク時間が遅延していれば,素早く動作を遂行出来ない可能性がある。例えば歩行やステップ動作等のバランス機能には,瞬発的な筋力発揮が必要であるが,ピーク時間と身体機能の関連を報告した数は少ない。そこで今回膝OA患者における等尺性膝伸展筋力とピーク時間,及び疼痛が歩行能力へ及ぼす影響を調査した。【方法】対象は,2013年4月から2015年9月までに膝OAによりTotal Knee Arthroplasty(TKA)施行目的で当院に入院し,術前評価を実施した女性30名(年齢77±6.0歳,BMI 24.6±3.74kg/m2)とした。検査項目は,Cybex Norm(メディカ社)を用いた最大膝伸展筋力評価と10m歩行テストの歩行時間(秒)及び歩数(歩),運動時の疼痛をVisual Analog Scale(VAS)(mm)で計測した。最大膝伸展筋力評価は,両側で実施し,膝60°屈曲位で最大等尺性収縮を5秒間,休憩を10秒間置き3~5セット実施した。そこから最大ピークトルク値(ピーク値)を体重で除したWeight Bearing Index(WBI)(N/kg)を算出して膝伸展筋力とした。また,ピーク値に至るまでの時間をピーク時間(秒)とした。統計解析には,術側に関係なくピーク時間遅延側のピーク値とピーク時間を採用した。統計処理は,WBI,ピーク時間,及び運動時VASと10m歩行テストと各々の相関関係の検討にPearsonの相関係数を用いた。なお有意水準は5%未満とした。【結果】WBIと10m歩行テストとの相関は,歩行時間r=-0.39(p=0.03),歩数r=-0.57(p<0.001)であり,有意な負の相関を認めた。ピーク時間と10m歩行テストとの相関は,歩行時間r=0.58(p<0.001),歩数r=0.53(p=0.003)であり,有意な正の相関を認めた。運動時VASと10m歩行テストとの相関は,歩行時間r=0.10(p=0.65),歩数r=0.15(p=0.48)であり,どちらも相関を認めなかった。【結論】膝OA対象者の筋力に関しては,WBIが大きい程歩行時間が早く,歩数が少ない結果であった。ピーク時間は短い程歩行時間が早く,歩数が少ない結果となり,WBIと比較して歩行時間とより強い関連を認めた。地域在住高齢者のピーク時間が10m歩行等の動的バランス能力との関連を認めたとの報告があり,本研究の結果から膝OA患者においてもピーク時間が歩行能力に関連する事が示された。運動時VASは今回の研究では10m歩行テストとの関連を認めなかった。ピーク時間は,運動単位数や神経伝導速度等の神経系要素が担っており,今後膝OA患者には,単に最大筋力向上を目的とした筋力増強運動だけではなく,全身運動を伴い,かつ運動速度を早くする等,神経系要素も考慮した運動介入が必要性であると考える。

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© 2016 日本理学療法士協会
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