理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-NV-16-3
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前大脳動脈領域に限局した脳梗塞の予後に影響を及ぼす因子の検討
窪田 秀俊高橋 智明
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キーワード: 前大脳動脈, 脳梗塞, 合併症
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抄録

【はじめに,目的】前大脳動脈(以下ACA)領域に限局する脳梗塞は比較的まれであり,そのため,詳細な臨床的検討は少なく散見される程度である。ACA領域梗塞の臨床的症状の特徴は,下肢に強い麻痺,精神症状,発症時の無言が出現頻度が高く,そのほかに感覚障害,強制把握,脳梁離断症候群が報告されている。また,機能的予後は良好とされている。実際に,ACA全領域の広範囲の梗塞により上記症状を呈したが,6か月後には運動機能の改善および歩行可能となった症例を経験した。その一方で改善に難渋した症例も経験した。そこで今回,日常生活自立度の指標である日本版modified Rankin Scale(以下mRS)を用いて,退院時の自立度に影響を及ぼしている因子を検討することを目的とした。【方法】対象は,2009年3月から2015年6月までに当院に入院した脳梗塞患者1785名のうち,初回発症かつACA領域に限局した脳梗塞と医師により判断された26名(男性15名,女性11名,年齢77.9±11.5歳)とした。情報収集は診療録等から後方視的に行い,収集項目は年齢,性別,病型(心原性,アテローム血栓性,その他),入院前および退院時mRS,入院時modified NIH Stroke Scale(以下NIHSS),入院時患側下肢Manual Muscle Testing,合併症の有無,臨床症状の有無,離床開始期間,理学療法(以下PT)実施単位数とした。合併症は発症1ヶ月内における肺炎,尿路感染症,消化管出血等とし,臨床症状は精神症状,発症時の無言,感覚障害,強制把握,脳梁離断症候群の5項目とした。また,離床開始期間は発症日から車椅子乗車もしくは歩行練習開始日までの期間,PT実施単位数は発症から1ヶ月間におけるPT実施日の平均単位数とした。解析は,まず,退院時mRSと各項目の相関関係を明らかにするためにSpearmanの順位相関係数の算出を行った。次に,退院時mRSを従属変数に,強い相関を認めた2項目(合併症の有無,離床開始期間)を独立変数とし,ステップワイズ法を用いて重回帰分析を行った。統計学的処理は統計解析ソフトJSTATを使用し,有意水準はいずれも5%とした。【結果】退院時mRSと有意な相関を示した項目は,年齢(r=0.56,p<0.01),入院前mRS(r=0.39,p<0.05),NIHSS(r=0.59,p<0.01),合併症の有無(r=0.83,p<0.01),精神症状の有無(r=0.49,p<0.05),離床開始期間(r=0.73,p<0.01)であった。r>0.7の相関係数を認めた2項目を独立変数とした重回帰分析の結果,合併症の有無(β=0.70),離床開始期間(β=0.20)が採択された(R2=0.65,p<0.01)。【結論】ACA領域に限局した脳梗塞に対して,退院時のmRSに影響を与える因子を検討した今回の研究結果では,重回帰分析にて合併症の有無および離床開始期間が採択された。このことから,ACA領域脳梗塞患者において,合併症の発症と離床の遅延は,退院時の生活自立度に影響を与えることが推察され,合併症予防の重要性を再認識できた。

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© 2016 日本理学療法士協会
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