理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-04-3
会議情報

口述演題
腰痛の有無による腰部変性後弯症の身体機能の特徴
千葉 恒杉澤 裕之菅原 敏暢矢倉 幸久小林 徹也神保 静夫妹尾 一誠清水 睦也今井 充熱田 裕司伊藤 浩
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】腰部変性後弯症(LDK)は,農業に従事する中高齢女性に多くみられる脊柱変形の一つであり,脊柱支持組織の加齢変性に伴い腰椎部の前弯減少もしくは後弯化をきたしたものと定義されている。LDKの主症状の1つとして,慢性腰痛が挙げられる。これは歩行時の体幹前傾増大により,腰部伸筋の筋内圧が上昇し,筋内血流が減少することで,阻血性の痛みを引き起こすものと考えられている。しかし,臨床場面においては,LDKが重度であっても腰痛を訴えない症例をしばしば経験する。この腰痛を訴えないLDKを詳細に調査した報告は見当たらない。そこで,本研究の目的は,腰痛の有無によるLDKの体幹機能の特徴を調査し,LDKに対する理学療法を再考することとした。

【方法】対象は,2010年から2015年までに北海道十勝地方の農村地区の一般住民脊柱検診に参加した中高齢女性220例(65.4±6.6才)とした。検討項目は,年齢,腰痛VAS,腰椎前弯角(LL)などの標準的なX線計測項目,体幹背屈可動域,等尺性筋力計を用いた腹筋力および背筋力,歩行時の体幹前傾角(dTIA),健康関連QOL(SF-36)とした。LDKの臨床定義として,X線でのLL減少とdTIA増強と報告されていることから,本研究においては検診参加者のLL平均(29.9±16.0 °)1SD以上減少例(LL<13.9 °),またはdTIA平均(4.3±3.5°)1SD以上増加例(dTIA>7.8°)をLDK陽性とした。検診参加者220例のうち,LDKは50例抽出され,腰痛の有無により,腰痛なし群13例(64.8±5.4才),腰痛あり群37例(69.3±6.4才)の2群間に分類した。腰痛の有無によるLDKの体幹機能の特徴を明らかにするために,従属変数を腰痛の有無,独立変数を全ての検討項目とし,多重ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。

【結果】ロジスティック回帰分析の結果,背筋力のみ選択され,オッズ比0.74(95%信頼区間:0.57-0.97)であった(p<0.05)。

【結論】LDKの臨床症状として,腰痛およびdTIA増加の他に,背筋力低下や背屈可動性の低下も伴っていることが先行研究で報告されている。本研究の結果から,腰痛を訴えないLDK例では腰痛を訴える例と比較し,背筋力が有意に高値であった。従って,LDKに対する理学療法においては,背筋運動を優先的に指導することが重要と考えられた。本研究の限界として,住民健診の性質上,腰痛評価はVASのみで,屈曲型や伸展型といった運動方向や腰痛が再現される動作などは評価していないこと,また腰痛の有無で2群に分類したが,腰痛の程度は反映されていないことが挙げられる。今後は200例以上の縦断データを解析し,LDKや経年的な腰痛に影響を及ぼす因子を検討することで,更なる理学療法上の有効な介入方法を模索していきたい。

著者関連情報
© 2017 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top