主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに・目的】
近年、脊髄損傷は不全損傷が増加傾向にあり、運動機能が残存するものは歩行能力を再獲得する可能性が高いと報告されている。一方で、その損傷度と回復具合は様々であり、不全損傷者の的確な予後と移動能力を予測することは難しい。そこで今回、不全脊髄損傷者を退院時の歩行獲得状況で分類し、基本動作能力や身体機能評価を比較することで、不全脊髄損傷者の転帰の特徴を明らかにすることを目的に調査を実施した。
【方法】
対象は、2016年1月1日から2017年12月31日までに当院回復期病棟に入院した脊髄障害を有するものとし、診療録より後方視的に情報を抽出した。期間内に入院し、運動機能に影響を及ぼす既往を有するものを除いた46名のうち、Frankel分類C以上で、入院期間内で歩行練習が実施できたもの31名、そのうち入院時から歩行自立できていたもの7名を除いた24名とした。
退院時の歩行状況は、病棟での生活場面の歩行自立を基準とし、自立群と非自立群に分類した。調査項目として、基本情報(年齢、性別)、ADL評価としてFIM、FIMの運動合計(FIM運動)、認知合計(FIM認知)を、基本動作能力として、寝返り、起き上がり、座位、立ち上がり、立位、歩行を、身体機能評価として10m歩行時間、TUG、バーグバランステスト、6分間歩行を用いた。ADL評価、基本動作能力、身体機能評価は入院時と退院時で抽出した。基本動作能力の各項目については、できる能力について観察に基づいて行い、全介助1、最大介助2、中程度介助3、最小介助4、監視・見守り5、修正自立6、自立7の7項目に分類した。
歩行自立群と非自立群との比較は、年齢、入院時のFIM、FIM運動、FIM認知、基本動作能力の各項目について、Mann-Whitney U検定を用い、有意水準は5%未満とした。統計ソフトは、EZR version1.37を使用した。
【結果】
退院時の歩行状況について、自立群が15名(年齢は61.5±20.0歳)、非自立群が9名(60.7±23.2歳)であった。群間の比較において、FIM、FIM運動、立位、歩行の項目については有意な差がみられたが、年齢、FIM認知、寝返り、起き上がり、座位、立ち上がりについては有意な差はみられなかった。
退院時の身体機能評価については、自立群において10m歩行時間10.7±4.7秒、TUG11.3±4.0秒、バーグバランステスト46.8±9.1、6分間歩行339.7±131.4mであった。
【考察】
今回の結果からは、先行研究で報告されている年齢、認知項目での有意な差はみられなかった一方で、入院時の立位、歩行の項目で有意な差がみられた。歩行自立を目指すうえで、回復期入院時の立位、歩行といった下肢機能の影響が大きい動作が、介助を要しながらも実施できることが歩行獲得に影響を及ぼすことが示唆された。一方で、入院時の基本動作が全項目で全介助であったにも関わらず、退院時に歩行獲得できた方が2名おり、退院時の歩行状況の予測の難しさが示された。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は、広島市立リハビリテーション病院倫理委員会の了承を得て実施した。情報収集については、入院時に主治医より患者、あるいは患者家族に対して説明を行い、同意を得て実施している。情報収集の際、個人が特定される項目を抽出しないよう十分に配慮した。