理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-030
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口述発表
演題名:地域レベルのスポーツの会参加割合と1~3年後の介護サービス受給率の関連:エコロジカル分析
井手 一茂鄭 丞媛宮國 康弘浅田 菜穂近藤 克則
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抄録

【はじめに,目的】

 ハイリスクアプローチから地域づくりによるポピュレーションアプローチへ介護予防政策が転換した.地域づくりによる介護予防を推進する上で,地域診断が重要とされ,地域リハに資するリハ専門職において求められる能力の1つである.介護予防における地域診断指標のうち,要介護認定関連指標(要介護認定率,介護サービス受給率など)に関する先行研究では,横断研究が多く,縦断研究の蓄積が求められている.そこで,社会参加の1つであるスポーツの会に着目し,参加割合が高い介護保険者では,1~3年後に介護サービス受給率(以下,受給率)が下がっているのかを検証した.

 

【方法】

 対象は日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study,JAGES)で2013年度日常生活圏域ニーズ調査データ分析支援プロジェクトに参加した99介護保険者(357,850名)とした.最終的な分析対象は分析に用いる質問項目に欠損のない84介護保険者(297,064名)である.質問紙の回答は各介護保険者の年齢構成の違いを考慮して,直接法で年齢調整を行った.研究デザインは,介護保険者を分析単位とした重回帰分析(有意水準5%)とした.目的変数は2014,2015,2016年度の受給率とした.受給率は介護保険事業状況報告書(月報,2014-2016年度)を用いて計算した介護サービス受給者数の近似値を1号保険者数で除す形で算出した.説明変数はスポーツの会への月1回以上の参加割合,調整変数は単身高齢者割合,可住地人口密度とした.

 

【結果】

 2013年のスポーツの会参加割合は,6.2~34.0%で27.8%ポイントの差が見られ,介護保険者間の受給率は,2014年度10.7%ポイント(9.6~20.3%),2015年度11.9%ポイント(9.9~21.8%),2016年度11.8%(9.5~21.3%)の差があった.さらに,単身高齢者割合,可住地人口密度を調整した上でも,スポーツの会参加割合が高かった介護保険者で介護サービス受給率が低くなる有意な負の関連(β:-0.32~-0.34)を認めた.

 

【結論】

 2013年度に月1回以上スポーツの会へ参加している人の割合が高い介護保険者ほど,2014~2016年の受給率が低下しているという傾向がみられた.要介護認定を受けても実際に介護サービスを受給しない者がいることを考えると,要介護認定率ではなく,受給率をアウトカムとすることで,より地域の実情を反映した地域診断が可能になると考えられる.理学療法士をはじめとするリハ専門職が地域づくりによる介護予防の中で,地域の高齢者のスポーツの会参加割合を高めるような取り組みを行うことで,受給率低下に寄与できると考えられる.本研究は一時点のスポーツの会参加割合と1~3年後の受給率との関連を検証しているが,今後はスポーツの会参加割合の経年変化による数年後の介護サービス受給率の変化についても検証していく必要がある.

 

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は千葉大学,国立長寿医療研究センターの倫理審査委員会の承認を得て実施した.

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© 2019 日本理学療法士協会
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