理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 2-C-5-1
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症例報告
乳児を抱き床から立ち上がる動作の改善を目指した理学療法
~距骨開放骨折後の産後腰痛と足部機能に対する治療展開~
佐伯 訓明春本 千保子森 憲一
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抄録

【症例紹介】

 産後3ヶ月が経過した30代後半女性.妊娠直後の事故にて右距骨開放骨折を受傷し,創外固定術を施行.術後出産までの期間,足底の疼痛,歩行改善を目的に当院外来理学療法通院中であった.産後,床から乳児を抱き立ち上がる際に腰痛・足部痛が出現し,外来理学療法再開となった.今回,疼痛が出現する動作場面を分析し体幹・足部への介入を実施.一定の効果を得たので考察を加え報告する.

【評価とリーズニング】

 本発表期間は,産後理学療法再開時(産後3ヶ月)を初期,週2回の通院介入を行い,1ヶ月経過時を最終評価とした.

 初期評価では本人の個別性を重視する目的でCanadian Occupational Performance Measure(以下COPM,重要度・遂行度・満足度で表記)を使用.痛みなく子どもを抱き床から立ち上がれる(10・3・3)が聴取された.これらの動作を前方移動期・臀部離床期・重心上方期の3層に分類.乳児を抱き患側である右下肢立て膝位,左下肢は外側へ屈曲した横座り位が開始姿勢.股関節を屈曲し,左前方へ重心移動する前方移動期.左下肢へ重心を移動させ臀部が床から離れる臀部離床期.右下肢への重心移動を行いながら,体幹・股関節伸展により上方へ向かう重心上方期とした.

 重心上方期では,右下肢への荷重に伴い,前方へ移動する必要があり,右足関節の背屈外反が要求される.

 初期評価時,重心上方期では右足関節の背屈外反が不足し,右下肢への重心移動困難,脊柱起立筋が過緊張となり頸椎過伸展.動作完遂に11秒の時間を要した.

 Range of Motion Test(以下ROM-t, 右/左,単位°)足関節背屈(膝屈曲位)20/20,外反10/20.横足根間関節可動性(以下MT関節,右/左)-/+. Manual Muscle Testing(以下MMT,右/左)足関節底屈3/5,内反3/5. Numerical Rating Scale(以下NRS),重心上方期に腰部6/10,舟状骨底部に5/10.触察による筋緊張検査では脊柱起立筋と右側の後脛骨筋・母趾外転筋が過緊張であった.

 体幹伸展制御は臨床的に3つの構成要素に分類できる.1つ目は脊柱起立筋,2つ目は僧帽筋・広背筋,3つ目は腹圧上昇である.これらの構成要素は, 課題や環境により貢献する割合が変化する.

 Sahrmannは,腹横筋が過伸展しstretch weakness を呈している場合,体幹伸展で腹横筋の収縮が遅延し,活動しやすい脊柱起立筋ばかりで制御する.これらは偏った動員(biased recruitment )と呼ばれる姿勢制御の障害である述べている.本症例の場合,妊娠により腹横筋が過伸展され出産の収縮による腹圧の上昇が困難.また,乳児を抱くために上肢を使用することで,僧帽筋・広背筋を使用し辛く,脊柱起立筋による伸展が惹起されたと推察する.くわえ,産前から足部の疼痛があり,前方移動が困難であったことが更なる伸展を要求し症状が悪化したと考える.

【介入内容と結果】

 後脛骨筋・短母趾外転筋・腰背部過緊張に対する徒手的介入,臥位・立位にて腹部筋活動促通を実施.実際に乳児を抱いた状態で動作学習を試みた.

 最終評価にて,ROM-t右足関節外反20,MT関節回内可動性+/+,MMT足関節底屈4内反5.NRSでは重心上方期に腰部1/10,舟状底部1/10.筋緊張検査でも前述した筋の改善が得られた.

 重心上方期では右足関節背屈外反位で右下肢への重心移動が可能.脊柱起立筋の過緊張が軽減し,頸椎伸展が改善した.遂行時間は4秒に短縮.COPMでは10・8・8と2点以上の改善が得られた.

【結論】

産後女性の多くは,腹部筋の回復が得られないまま育児生活が開始される.また産前の状態も産後の疼痛・育児に大きく影響する.そのため産前から存在する問題点と産後出現する問題点を予測し,治療介入を行う重要性を再確認した.

【倫理的配慮,説明と同意】

本発表はヘルシンキ宣伝に基づき説明を行い,同意を得た.

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© 2019 日本理学療法士協会
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