理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 2-C-1-1
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症例報告
思春期特発性側弯症患者に対する運動療法と装具療法を実施した一症例
-シュロス法に基づく運動療法を中心に-
山本 愛宮﨑 純弥宇於崎 孝
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抄録

【症例紹介】思春期特発性側弯症は原則として、Cobb角が20~45度の進行性あるいは骨未成熟の症例に対して装具療法が適応され、Weinstein.SLらによって装具療法による側弯の進行防止の効果が示されている。運動療法では近年、側弯症に対する運動療法であるシュロス法の装具療法との併用による効果が示されている。シュロス法とは、側弯症を3次元的な椎体の位置変位と捕らえ、呼吸運動や筋収縮によって変形の矯正を促す運動療法である。今回、思春期特発性側弯症の患者に対して、シュロス法に基づく運動療法を装具療法と併用しながら実施する機会を得たのでここに報告する。

 症例は、治療開始時Risser 0の11歳5ヶ月の女児であった。装具療法はSNNB(瀬本永野ナイトブレース)とOMC装具(大阪医大式装具)にて行っており、シュロス法に基づく運動療法を継続している症例である。

【評価とリーズニング】11歳4ヶ月のときに思春期特発性側弯症と診断された。コブ角は、T2-5で10度、T5-10で25度、T10-L4で35度の側弯が確認できた。Adams 前屈テストにおいてscoliometerを使用した傾斜角はT8で10度であった。シュロス法による分類はLleHTriSleタイプに該当した。右骨盤は左に比較し1.8cm挙上し、右下肢は左に比較し9mm長かった。Lonsteinらの計算式によると進行リスクは100%に近く、進行期のコブ角の悪化を最小限に抑えることが重要と考えた。

【介入内容および結果】理学療法は2016年6月~2017年12月外来にて12回実施し、セルフエクササイズの習得と修正姿勢の維持を目標とした。LleHTriSleタイプに適応される骨盤の修正、側臥位、座位でのエクササイズ、体幹の筋力トレーニングを実施した。保護者にも説明と指導を行い自宅でも毎日10~20分のセルフエクササイズの継続、習慣的な修正姿勢の保持を実施するよう指導を促した。理学療法開始時点でのコブ角はT2-5で10度、T5-10で25度、T10-L4で35度であった。最終評価時におけるコブ角はそれぞれ、15度、19度、14度であった。

【結論】思春期特発性側弯症では進行期に無治療の場合、月に約1度進行するとされている。装具療法では側弯の進行の予防には効果があるが、改善までは期待できないのが現状である。装具脱後2年後に、装具療法開始時と終了時のコブ角の差が5度以上なければ、装具療法は効果的があると考えられている。シュロス法の効果についての報告では、25~40度のコブ角を呈する進行期のリスクの高い側弯症患者において、装具療法中のシュロス法は、コブ角、リブハンプ、およびQOLスコアの改善が装具療法単独グループよりも優れていたことが示されている。

 本症例はRisser 0の進行期であるが、21ヵ月間のフォローアップによりコブ角は胸椎6度、腰椎21度の改善が見られた。このことから、装具療法と併用したシュロス法が側弯の改善に効果的であったと考える。側弯症患者では左右の筋の不均衡や、左右非対称な胸郭の呼吸パターンが生じることが明らかにされており、装具による変形の矯正とシュロス法に基づいた不均衡な筋収縮や呼吸パターンの修正により側弯進行防止の可能性が示唆された。しかし、上部胸椎においてコブ角が5度増加していることから更なる進行を防止するようフォローしていく必要があると考える。また頭部の位置により計測値が変化しやすいことも考慮し、レントゲンのみでなく視診による評価を慎重に行う必要性がある。症例はまだ進行期にあることから、今後もフォローアップを継続していく必要があると考えられた。

 装具療法終了の条件は、「カーブが5度以上進行しない、年間1cm以上身長が伸びない、初潮または声変わりから2~2年半以上経過している、Risser signが4以上である、性成熟が十分である」とされている。OMC装具は、治療中は脊柱弯曲角度が30%程度改善することが明らかになっているが、装具離脱後1年以上経過した症例の弯曲改善角度は約7%まで低下すると報告されている。さらに、成長が終了した時点で35~40度以上の側弯症は加齢とともに徐々に進行することがあるとされている。今後、症例が装具療法を終了する際は、コブ角が治療前の角度に戻らないよう運動療法を指導し慎重に評価していく必要があると考えられた。

 側弯症に対する運動療法は、本邦においてエビデンスが少なく今後症例数を増やし、装具療法と併用した運動療法の効果について明らかにしていくことが望まれる。

【倫理的配慮,説明と同意】症例には本発表の目的と意義について口頭で十分に説明し、同意を得た。

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