主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【症例紹介】
第一子を出産後11ヶ月が経過した34歳女性。妊娠中から産後にかけて、股関節・腰部・骨盤帯痛が増悪した症例に対して腰部骨盤帯股関節複合体(以下、LPH複合体)の機能不全と姿勢アライメント修正により症状改善が得られたため報告する。レントゲン所見上では、軽度腰椎側弯、腰椎前弯頂点がL4、大腿臼蓋インピンジメント疑いを認め、医師より筋-筋膜性腰痛症と診断され理学療法開始となった。疼痛はNumerical Rating Scale(以下、NRS)にて右鼠径部・股関節外側に4/10、腰部中央・右臀部に3/10を認めた。また、疼痛が持続することで、歩行困難や身体変形に対する将来への不安感が認められた。既往歴は右顎関節症があり、尿失禁が妊娠中のみ認められた。職業は専業主婦であり、運動習慣はないが1日1~2万歩程度の活動量がある。家族構成は3人暮らしで、夫は育児に対して協力的である。
【評価とリーズニング】
疼痛の増悪因子は、長時間の座位および立位・歩行における右下肢への荷重であるが、左下肢への荷重・安静臥位により疼痛緩和し、24時間の変動はなく睡眠障害も認められなかった。Red Flagsとして側弯症、Yellow Flagsとして将来への不安が認められた。本症例は、妊娠により腹部突出によるsway-back姿勢やホルモンの影響による靭帯や筋の弛緩により骨盤帯周囲の不安定性が出現し、産後の子育てや活動量の増加に伴い症状が増悪したのではないかと考えた。そのため、理学療法評価は、①股関節②仙腸関節③椎間関節④椎間板に問題があると仮定し実施した。また、組織治癒のメカニズムとして症状が1年以上継続していることから慢性期であると考えた。姿勢アライメントは頭部前方突出、胸椎後弯頂点の下方変位、腰椎前弯減少、右肩甲帯の下制、左肩甲帯の挙上が見られ上半身の左方変位が認められた。触診では、疼痛部位に圧痛所見を認め、腰部多裂筋の萎縮や腹横筋の収縮の困難さを認めた。股関節の自動運動・他動運動、体幹の自動運動を評価し、特殊検査としてOberテスト、Thomasテスト変法、Patrickテストを実施した。股関節の他動運動は最終屈曲位、体幹の自動運動は伸展・左右側屈・右回旋で疼痛誘発を認めた。体幹と下肢の間の力の伝達の評価としてASLRを用い、右股関節屈曲時に大転子の上方化、左下肢挙上時に右腰背部に違和感が認められた。Oberテストは左右とも陰性、Thomasテスト変法は左右とも陽性、Patrickテストは左右とも陽性であった。深部腱反射は、左右とも膝蓋腱反射消失、左右ともアキレス腱反射正常、感覚検査は右下肢に比べ左下肢で感覚鈍麻、MMTは右下肢筋力MMT4、SLRテストは左右とも陰性、FNSテストは右陽性であった。Roland-Morris Disability Questionnaire(以下、RDQ)日本語版は7/24であった。疼痛のメカニズムとして、入力系の問題として感覚障害、処理系の問題として将来への不安、出力系の問題として腰背部に筋スパズムがあり圧痛が認められた。そのため、治療内容としては、LPH複合体の機能改善を目的に、体幹の深部筋に対する治療と姿勢アライメントの修正を中心に行った。日常生活の管理として、活動量の調整と股関節へのストレスを回避するような動作を行い疼痛自制内で日常生活を行うように指導した。
【介入内容および結果】
背臥位で骨盤前方に他動的圧縮力を加え、腹横筋の収縮を入れた状態で下肢の自動運動を行うことで股関節の違和感が軽減したため、体幹の深部筋に対する治療を中心に行った。また、活動量の調整と立位や子どもを抱く姿勢の修正を行い、臼蓋と大腿骨頭被覆率を補償する骨盤前傾位になるように修正した。その結果、3ヶ月後には、右鼠径部・股関節外側の痛みがNRS1/10と僅かに残存したが、その他の痛みは改善した。
【結論】
本症例の問題解決方法としてクリニカルリーズニングを用い対象者と双方向性のコミュニケーションを図りながら行うことで症状軽減には繋がった。今後の課題としては、対象者や同僚とより効果的なコミュニケーションを図ることでより効果的なクリニカルリーズニングができるのではないかと考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
本演題発表にあたり、患者に対して口頭および書面で説明を行い、同意を得た。