理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O9-1
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口述
GABA受容体阻害下の運動療法が脳梗塞モデルラットの機能回復に与える影響
井上 貴博林 聖隆李 想北原 美佳前島 洋
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キーワード: 脳卒中, GABA, 運動
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抄録

【はじめに、目的】中枢神経系における活動電位は、グルタミン酸受容体を中心とする興奮性シナプス後電位(EPSP)とGABA受容体による抑制性シナプス後電位による(IPSP)により調整される。脳卒中後はGABAA受容体を介する持続的抑制(tonic inhibition)が増強され、活動電位の発生が抑制される[A. Clarkson, et al. 2010]。一方、非侵襲的な中枢性コンディショニングの一つである経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は微弱な電流で皮質興奮性を調整し、神経細胞を「易興奮性」とすることにより、脳卒中後の機能回復を促進する。そこで、tonic inhibitionの減少と、tDCSと同様な「易興奮性」の導入法として、GABA抑制性入力の薬理的阻害が考えられる。我々は、GABAA受容体の軽度抑制下における運動が、興奮毒性を呈すことなく大脳皮質や小脳における脳由来神経栄養因子BDNFとシナプス受容体の発現を増強することを以前の研究で明らかにした[K. Takahashi, et al. 2017, T. Inoue, et al. 2018]。本研究は、その成果を脳卒中リハビリテーションへと応用し、GABAA受容体阻害下の運動療法が脳梗塞モデルラットの機能回復に与える影響を明らかにすることを目的とした。

【方法】10週齢の雄性SDラット54匹に左中大脳動脈閉塞術(MCAO)を実施し、除外基準に該当しない29匹を対象にした。群分けは、①生理食塩水の投与を行うCON群(n=7)、②運動介入を行うEX群(n=7)、③GABAA受容体阻害薬(Bicuculline 0.25mg/kg, i.p.)を投与するBIC群(n=7)、④Bicuculline投与および運動介入を行うBICEX群(n=8)とした。運動介入はトレッドミルによる低負荷走行(11m/min, 30分)を行った。行動評価としてZea Longa score、Adhesive removal test、Rotarod testを実施した。2週間の介入終了後、全脳サンプルを採取しTTC染色による梗塞域の評価を行った。

【結果】介入前の行動評価および介入後の梗塞域において、有意な群間差は認められなかった。2週間の介入後、Adhesive removal testにおいて、CON群と比較してBICEX群のみ有意な上肢機能の改善が認められた(p<0.05)。Rotarod testにおいてはCON群、EX群、BIC群に有意差は認められなかったが、BIC群と比較してBICEX群は有意にバランス機能が改善した(p<0.05)。

【考察】行動評価より、運動介入単独では機能回復が見られないものの、GABA受容体阻害を行うことで同様の運動介入であっても機能回復が促進されることが明らかになった。これは、既存の治療介入であっても薬理的中枢性コンディショニングを行うことにより、各介入が相乗的に作用し治療効果を増強することを示唆している。今後、生化学分析や組織学的手法により機能回復の要因となる分子機構の検討を要する。

【結論】GABAA受容体の軽微な阻害による中枢性コンディショニングは脳卒中後の機能回復を促進させる可能性があり、脳卒中リハビリテーションにおける薬理的中枢性コンディショニングの有効性を示唆している。

【倫理的配慮,説明と同意】本研究における動物実験は、動物愛護管理法及び基本指針等に基づいた「国立大学法人北海道大学動物実験に関する規程」に準じて、国立大学法人北海道大学動物実験委員会による研究実施認定と指導の下、動物福祉の基本概念である3R (Replacement、Reduction、Refinement) の原則及び動物実験倫理に基づき実施した。また、本研究は事前に本学教員を動物実験責任者とする研究計画書を提出し、動物実験委員会による審議を経て、北海道大学総長の承認の下で実施した。

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© 2019 日本理学療法士協会
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