理学療法学Supplement
Vol.47 Suppl. No.1 (第54回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-73
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シンポジウム
理学療法の臨床に繋がる基礎研究
小澤 淳也
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抄録

 本学会のテーマ「学術と臨床の連携」という言葉から,トランスレーショナル・リサーチ(橋渡し研究)が先ず思い浮かぶのではないだろうか。トランスレーショナル・リサーチとは,医療シーズ(治療候補の探索)としての基礎研究の成果を,新しい診断や医療機器や医薬品などの治療に繋げることを目的に行う研究である。我が国が推進しているトランスレーショナル・リサーチとは,創薬や医療機器など,アカデミアと産業界が繋がることを目標としたものであり,基礎研究と理学療法の臨床との懸け橋となる研究とはややイメージが異なる。理学療法分野では,評価や治療の技術・提供方法などに直接影響を与える研究といえよう。アカデミアに所属し,研究を生業とするものにとっては,掲載された論文の数や雑誌の評価のほうが関心は高いかもしれない。しかし,実験室から生まれた研究データが,結果的に理学療法の臨床現場に届き,治療や患者を変えることを想像するだけでワクワクするし,社会に及ぼす影響は大きい。

 動物実験では,ヒトでは困難な組織採取や投薬が出来るほか,臨床研究で問題となる交絡因子を除去することが出来るというメリットがある。我々の研究グループは長年,運動器,特に関節組織を研究対象として動物実験を行ってきた。その中で,関節拘縮と炎症との関係を,ある程度包括的に解明するに至る一定の成果を得た。本講演では,関節拘縮の誘発・増悪因子について,また拘縮回復過程の自然経過や運動や物理療法の効果についての我々の研究内容を紹介するとともに,今後の臨床応用の道筋を提案したい。

 臨床では,症例の中から「現象」を捉え,その中の共通した傾向から「事実」を見出す。「事実」の蓄積から「概念(コンセプト)」が生まれ,「理論(セオリー)」が形成される。運動器の理学療法の近年の発展は著しく,様々な治療概念や理論が提唱されているが,実験的仮説検証が行われていない概念や理論も少なくない。理学療法の特性上,致し方ないところではあるが,この概念形成における「ミッシングリンク」の解明には学術的意義があるだけでなく,新規の治療に繋がるヒントが隠されている。

 本学会は,臨床研究と同様に基礎研究にも理解を示し,発表の機会を与えてくれることに敬意の念と感謝を申し上げたい。今後もこの方針を継続し,本学会が学術と臨床とを繋ぐ場として大きな役割を果たしてくれることを切に願っている。

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© 2020 日本理学療法士協会
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