理学療法学Supplement
Vol.47 Suppl. No.1 (第54回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-78
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シンポジウム
「徒手理学療法のエビデンスをどう構築するか」
~腰部脊柱管狭窄症に対する理学療法の効果検証~
公森 隆夫
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抄録

 急速な高齢化にともない加齢変性疾患の増加が予想され,理学療法士の高齢者へのヘルスマネージメントが重要となる。その中で腰部脊柱管狭窄症は60歳以上に多く見られる疾患で,椎間板や椎間関節の変性や脊椎すべり症によって脊柱管を狭窄することにより特徴的な症状が起こる。脊柱管狭窄症に対する理学療法効果に関する無作為対照化試験により,ストレッチやトレッドミル歩行などの運動療法と徒手理学療法を組み合わせた介入において短期間の下肢痛や殿部痛改善に効果があったことが示されている(Whitmanら,2006年)。しかし理学療法による介入の効果が認められる一方で,症状の悪化や手術療法に移行する重度患者も存在し治療が長期化する例も少なくない。適切な介入のためには,症状により患者を層別化し状況にあった介入を行っていく必要がある。

 徒手理学療法部門では日本理学療法士協会の協力のもと,2016年度から徒手理学療法の効果を明らかにすることを目的とした研究を進めてきた。2018年度からは脊柱管狭窄症への短期的な介入効果におけるクリニカルプレディクションルール開発を目的とした多施設共同研究を行っている。

 研究を進めるうえでの問題点として腰部脊柱管狭窄症の診断が困難であることが挙げられる。日本整形外科学会診療ガイドライン委員会編集の腰部脊柱管狭窄症ガイドライン2011による腰部脊柱管狭窄症の診断基準は,1.殿部から下肢の疼痛やしびれを有する,2.殿部から下肢の疼痛やしびれは立位や歩行の持続によって出現あるいは増強し,前屈や座位保持で軽快する,3.歩行で増悪する腰痛は単独であれば除外する,4.MRIなどの画像診断で脊柱管や椎間孔の変性狭窄状態が確認され,臨床所見を説明できる,の4つをすべて満たすことと設定している。そのため診断にはMRIやCTが必要となるが,腰部脊柱管狭窄症の保存的治療を行う施設の多くはクリニックであり,ガイドラインの診断基準では対象を特定出来ないという問題点があった。これに関してはSugiokaらの基準を採用している。年齢,罹患期間,前屈と後屈動作での症状の変化,立位姿勢での症状の有無,間欠性跛行,尿失禁などの項目で点数化し7点以上を基準としている。

 本講演では,以上のような臨床的問題点を考慮すると共に,脊柱管狭窄症に対する徒手理学療法のエビデンス構築の新たな取り組みを紹介する。

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© 2020 日本理学療法士協会
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