理学療法学Supplement
Vol.47 Suppl. No.1 (第54回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-87
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腰部脊柱管狭窄の診断と治療
紺野 慎一
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抄録

 腰部脊柱管狭窄の症状の特徴としては,神経性間欠跛行が挙げられる。間欠跛行の内容を十分に問診し,さらに歩行負荷試験を行い症状の分析を行えば,診断が可能である。障害部位が神経根のみか,馬尾かで治療方針が異なってくるので,これを正確に診断する必要がある。ABI(ankle brachial pressure index)<0.9の症例では,血管性間欠跛行である可能性が高い。

 神経原性間欠跛行は,歩行負荷試験や選択的神経根ブロックによる症状分析で馬尾型,神経根型,および混合型の3群に分類できる。馬尾型は,自覚的には下肢,臀部および会陰部の異常感覚,膀胱直腸障害,下肢脱力感や性機能不全を訴え,疼痛はない。他覚的には多根性障害を特徴とする。たとえば,責任高位がL4/5椎間高位である場合には,第5腰神経根以下の多根性障害を呈する。神経根型は,自覚的には下肢の疼痛を主訴とする。他覚的には単根性障害を特徴とする。この型の脊柱所見や自覚症状は単一神経根ブロックで一時的に消失する。混合型は,馬尾型と神経根型の合併型で,下肢の疼痛は単一神経根ブロックで一時的に消失するが,他の症状には何らの変化も起きない。

 脊柱管狭窄には変形性脊椎症や変性すべり症等のさまざまな疾患が含まれている。日本脊椎脊髄病学会では医師用の診断サポートツールを開発している。7点をカットオフ値に設定した場合の感度は92.8%,特異度は72.0%である。患者用として自記式の診断サポートツールも開発されている。

 腰部脊柱管狭窄に対する保存療法は,投薬,各種神経ブロック療法,装具療法および理学的治療など多岐にわたっている。腰痛・下肢痛を主訴とする症例を治療する場合には,消炎鎮痛薬の投与や各種ブロック療法を行う。術前に精神医学的問題の有無のスクリーニングを行い,精神医学的問題がある可能性が高い症例では,手術は可能な限り避ける必要がある。手術の絶対的適応はない。術前に患者の活動制限の程度,社会背景,および精神医学的問題の有無を十分に把握することが重要である。手術により通常,間欠跛行は消失する。しかし,手術をしても経年的に術後成績は悪化することが多い事実を術前に説明しておく必要がある。さらに,神経自体の不可逆性変化に由来する安静時のしびれは,術後残存しやすいことを説明しておく。

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© 2020 日本理学療法士協会
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