理学療法学Supplement
Vol.47 Suppl. No.1 (第54回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-68
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教育講演
運動器症状に対する骨盤底機能評価
~術後の癒着や筋の過緊張が引き起こす股関節運動制限~
田舎中 真由美
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抄録

 近年,骨盤底筋群が腹横筋,横隔膜,多裂筋と共同して活動し,体幹の安定性に関与すると報告されたことにより,骨盤底筋群に対するアプローチが尿失禁や骨盤臓器脱等の骨盤底機能障害だけでなく,腰痛症などの運動器症状に対しても用いられるようになってきている。骨盤底筋群は四肢の関節に存在する筋群と同様に骨格筋である。特に腰痛-骨盤-股関節に運動器症状がある場合は,骨盤底筋群の筋力だけでなく,左右の筋緊張や柔軟性及び骨盤底筋群に連結する筋膜も考慮する必要がある。

 筆者は臨床上,尿失禁や過活動膀胱を主訴として来所する症例の中に,下腹部から股関節に繋がる筋膜の問題により可動制限と疼痛をきたしている症例に遭遇することがある。一方,変形性股関節症で尿失禁を併発している症例も珍しくはない。これは下腹部から骨盤底筋群,股関節周囲筋への筋膜連結のいずれかに部分的な軟部組織の癒着や筋の過緊張が関連していると考える。

 下腹部から骨盤底筋群への連結は,下腹部の浅腹筋膜は2層あり,深層のスカルパ筋膜は,外陰部・会陰部の浅筋膜へつながる。この筋膜は,泌尿生殖部の皮下組織の膜で,尿生殖隔膜の縁に付着し,側方では坐骨枝と恥骨下肢に付着する。更に骨盤底筋群と股関節周囲筋群は表層と深層で連結している。一つは浅層の尿生殖隔膜と内転筋群で,もう一つは深層の骨盤隔膜に存在する腸骨尾骨筋と股関節外旋筋である内閉鎖筋である。このように下腹部と骨盤底筋群,股関節周囲筋は表層と深層の両者で深く連結している。

 例えば開腹術後症例において,術創部の硬さや筋膜の硬さに左右差がある場合,硬い術創部を有する腹部は,腹式呼吸時に動きが乏しくなり,それに応じて骨盤底部の動きも低下し,下方へ連結する股関節の可動性も低下していることが多い。腹直筋離開により腹部の浅筋膜の滑走不全があり,重積箇所に圧痛を生じている場合も,股関節の屈曲の可動性低下を呈す。

 また股関節屈曲時の疼痛や運動制限を有す症例は,slump姿勢で姿勢制御を行っていることが多い。この場合,骨盤底筋群の中でも後方部の尾骨筋の過緊張が考えられる。尾骨筋の過緊張に明らかな左右差がある場合,更に股関節の屈曲の可動性低下をも引き起こしてしまう。

 従って,尿失禁などの排泄症状だけでなく,股関節痛や股関節の可動制限が生じている場合,浅腹筋膜の癒着や腹直筋離開による筋膜滑走不全,骨盤底筋群の過緊張が一つの因子となり,骨盤底筋群に連結する上下の筋膜に影響を与え,運動機能障害を呈していると考えられる。

 今回は,筆者が実施している運動器症状の評価:下腹部・骨盤底筋群・股関節周囲筋の筋膜連結と骨盤底筋群の筋力と柔軟性評価を,症例を通して紹介する。

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