抄録
今回,両側性唇顎口蓋裂患者で矯正歯科治療が終了し,舌弁による口蓋瘻孔閉鎖術を2度施行したが閉鎖が得られない症例を経験した。そこで,顎裂と口蓋瘻孔の縮小を目的として,骨延長による上顎歯槽骨の移動および矯正歯科治療を行い,良好な結果が得られたので報告する。
症例は,両側性唇顎口蓋裂を有する16歳9か月の男子で,上顎中切歯の遠心部に空隙がみられ,口蓋には16mm×14mmの口蓋瘻孔が残存していた。治療計画は,骨切り部位を両側上顎第一大臼歯の近心とし,上顎両側第一大臼歯の前方にある側方歯群を歯槽骨ごと骨延長により前方へ移動することとした。延長器はMartin社製Zurich type Ramus Distractor®を右側第一・左側第二小臼歯および第一大臼歯の矯正用バンドに鑞着し,tooth-toothタイプの延長器を作製した。延長方法は,1週間のLatency periodの後,1日に0.5mm×2の速度で延長を行い,左側5.0mm,右側7.5mm延長した。骨硬化期間(Consolidation period)は1か月とし,延長器は延長1か月後に撤去した。延長終了1か月後にエッジワイズ装置にて矯正歯科治療を開始し,骨延長によって新しくできた骨に上顎第一大臼歯を近心に移動した。そして骨延長施行1年後に,残存している口蓋瘻孔を耳介軟骨移植および局所粘骨膜弁にて閉鎖した。また,残存した顎裂部にβ-TCPと多血小板血漿(PRP: Platelet-Rich Plasma)および骨髄液を充填した。その後矯正歯科治療を継続し,歯牙欠損部の空隙を閉鎖するとともに,上下歯列の良好な被蓋と緊密な咬合関係が得られた。動的矯正期間は2年11か月であった。
歯槽骨骨延長を施行することで,以下の利点を有した。
1)口蓋瘻孔の縮小がはかれ,瘻孔閉鎖が容易となった。
2)顎裂部が閉鎖し欠損補綴が不要となった。