日本口蓋裂学会雑誌
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原著
術前顎矯正治療における光学印象の試み(第一報)
―撮像時の湿潤と動きの影響―
長谷川 紘也真野 樹子土屋 隆子土肥 洋介ダシドンドク オトゴントヤ豊田 亜希子品川 令藤本 舞須田 直人
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2017 年 42 巻 3 号 p. 208-214

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抄録

唇顎口蓋裂児の術前顎矯正に用いる口蓋床やHotz床の作製は,乳児や新生児へのアルジネートなどの印象材を用いた印象採得後に石膏模型上で行われてきた。しかしながら,このような印象材の使用は,唇顎口蓋裂の患児に対し,嘔吐や誤嚥のリスクを生じ全身管理を必要としてきた。
近年,口腔内スキャナーを用いた光学印象が汎用化され,我々は唇顎口蓋裂児の術前顎矯正でも活用している。しかしながら現在市販されている口腔内スキャナーは,有歯顎の撮像を目的とし,無歯顎の新生児や乳児を対象として開発されたものではない。また新生児や乳児は成人と異なり,唾液流出量が多く,撮影中の体動も大きい。今後術前顎矯正におけるさらなる効率的な口腔内スキャナーの臨床活用を行う上で,基礎的検討が必要と考えた。そこで唇顎口蓋裂を有する乳児や新生児の光学印象における種々の条件が,撮像時間と精度に与える影響を検討した。
資料として,明海大学病院矯正歯科を受診した生後40日の右側唇顎口蓋裂児(顎裂幅と口蓋裂幅は各々3.0mmと11.5mm)から作製したエポキシ樹脂製口腔模型を用いた。光学印象はワンドが小さな口腔内スキャナーを用いて行い,1)水道水および人工唾液による模型表面の湿潤,2)シェーカーによる模型の8の字立体振盪,3)シリコーン印象材による顎裂部へのランドマークの付与,の3条件が撮像時間と撮像精度に与える影響を検討した。
撮像時の湿潤と立体振盪は,いずれも撮像精度に影響を与えなかったが,撮像時間を有意に延長した。一方,顎裂部へランドマークを付与すると撮像時間は有意に短縮され,ランドマーク以外の部位の撮像精度に影響を与えなかった。
以上より,唇顎口蓋裂児の術前顎矯正に用いる口蓋床やHotz床の作製にあたり,新生児や乳児の顎裂部にランドマークを設け,体動を最小限とし,唾液の管理を行うことが効率的と考えられた。

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© 2017 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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