日本口蓋裂学会雑誌
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原著
口蓋裂患者での口蓋化構音発現と口蓋形態,咬合状態および鼻咽腔閉鎖機能との関連性についての音声言語学的考察
山本 奈加子金髙 弘恭板垣 祐介五十嵐 薫
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ジャーナル 認証あり

2017 年 42 巻 3 号 p. 215-224

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抄録

口唇口蓋裂に関連する問題は多岐にわたり,なかでも,コミュニケーション障害となり得る言葉の問題は,個人のQOLを考える上で重要な部分を占める。しかしながら,これまでの研究では,口唇口蓋裂患者における口蓋化構音の発現要因について充分な検討がなされていなかった。
そこで本研究では,客観的な評価指標を用い,口蓋化構音発現と口蓋形態や咬合状態,鼻咽腔閉鎖機能との関連性を音声言語学的観点から総合的に明らかにすることを目的とした。
対象は東北大学病院・唇顎口蓋裂センターにて,治療・管理を行う片側性唇顎口蓋裂36例とした。口蓋形態計測のために,各対象者の4~5歳時の歯列模型を非接触3次元計測装置によりスキャンし,3次元計測ソフトウェアにより3次元的計測を行った。加えて,咬合評価および鼻咽腔閉鎖機能検査を実施し,口蓋化構音発現との関連性について統計学的に検討を行った。
その結果,本研究では以下の点が明らかとなった。
①口蓋形態の計測結果
長径,幅径,高径,表面積,容積,いずれにおいても,正常構音群と比較し口蓋化構音群で小さい傾向を示した。特に,口蓋後方の幅径と高径で有意差を認めた。
②咬合評価
咬合については,正常構音群と比較して,口蓋化構音群では半数以上が不良傾向にあり,特に,患側臼歯部の頬側咬合では,有意な悪化が認められた
③鼻咽腔閉鎖機能評価
両群とも良好例が多く,口蓋化構音発現との有意な関連性は認められなかった。
本研究結果より,特に,口蓋後方における幅径の狭窄や高径の浅化と,それに伴う患側の臼歯部頰側咬合の悪化が,口蓋化構音の発現に関与している可能性が示唆された。これらの研究成果を口唇口蓋裂患者の治療に反映させることで,患者個人のQOL向上に寄与するものと期待できる。

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© 2017 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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