日本口蓋裂学会雑誌
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症例
片側性唇顎口蓋裂の治療
—長期観察症例から得られたこと—
石崎 朋美鮎瀬 節子鐘ヶ江 晴秀岡崎 恵子中納 治久槇 宏太郎
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2022 年 47 巻 3 号 p. 231-241

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抄録

片側性唇顎口蓋裂は,上顎骨の発達や歯列形成などに問題が生じる。今回我々は,治療が良好に終了し,その後長期に安定している片側性唇顎口蓋裂患者を幼少期から成人に至るまで観察し,片側性唇顎口蓋裂の治療を行うにあたり,この疾病のもつ特性のどのようなことに注意し考慮すべきかを,長期観察症例の治療を振り返ることにより,検討した。
患者は,左側唇顎口蓋裂の女性。生後3ヶ月時に口唇形成術を,1歳6ヶ月時にpushback法による口蓋形成術を行い,5歳0ヶ月時から矯正歯科にて管理を始めた。乳歯列期には上顎骨劣成長を示し,下顎骨が前方位を示す骨格性下顎前突であった。上顎歯列の前方および側方の重篤な狭窄が認められ,全歯列にわたり逆被蓋であった。舌位は常に低位であった。通法に従い第一期治療として上顎前方牽引装置およびリンガルアーチにより上顎骨の前方成長促進,中切歯被蓋の改善を行い,口腔筋機能療法を併用し正常な舌位の獲得および構音訓練を行った。第二期治療として,14歳10ヶ月時,正常咬合を獲得することを目的とし,上顎側方拡大,マルチブラケット法,口腔筋機能療法を行った。
17歳9ヶ月時に動的治療を終了し,保定を開始した。動的治療終了後6年9ヶ月時overjet,overbiteの減少がみられ,わずかな後戻りが認められたが,口腔筋機能療法を再度行い,動的治療終了後10年1ヶ月経過した現在は,骨格的変化は認められず咬合はほぼ安定し,良好な状態が継続されている。
本症例を振り返り,口蓋形成術の術式,上顎前方牽引開始時期,矯正治療開始時期,治療方針,目標の達成度,長期安定性など非破裂者とは違う多種多様な問題を総合的に判断し,治療方針を立案する必要があると考えられた。唇顎口蓋裂という状況下の治療について,特化した注意が必要であることを報告する。

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© 2022 一般社団法人 日本口蓋裂学会
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