臨床神経学
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会長講演
会長講演 多発性硬化症の研究を通して学んできたこと
糸山 泰人
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2009 年 49 巻 11 号 p. 699-707

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抄録

「multiplicity in time and space in CNS」を診断基準の骨子とする多発性硬化症(multiple sclerosis,MS)の診断には多様な病態と疾患がふくまれる可能性がある.MSの認識が遅れた日本では,視神経や脊髄に病変の主座をおく再発性の炎症性疾患はMSと考えられ,視神経脊髄型MS(OSMS)としてアジアのMSの特徴とされてきた.一方,欧米では類似の疾患を視神経脊髄炎(neuromyelitis optica,NMO)とよんできたが,両疾患には多くの臨床的および検査学的所見の共通性があることや,最近発見されたNMO-IgGが共通に存在することを考えると両者は同一疾患と考えられる.このNMO-IgGはNMO/OSMSにのみにみられMSにはみとめられない血清抗体で,その標的抗原はwater channelのaquaporin4(AQP4)でありアストロサイトに局在している.このNMO-IgGに加えてNMO/OSMSが示す臨床的特徴,すなわち視神経と脊髄という病変部位の選択性,極端な女性優位性,3椎体以上の長さのMRI脊髄病巣,髄液オリゴクローナルバンドが陰性である点などを考えてみると,NMO/OSMSとMSはきわだった差異を示していることに気付かされる.さらに,免疫組織化学的にはNMO/OSMSの脊髄病変ではAQP4とアストロサイトのマーカーであるGFAPの染色性が欠落しているが,MBP陽性の髄鞘は病変で比較的保たれていることが明らかとなった.この所見はMBPのみが欠損するprimarily demyelinating diseaseであるMSの病変特徴とは根本的に異なるものであり,NMO/OSMSはMSと病態を異にする疾患と考えられる.加えて,急性期のNMO患者の髄液では著明なGFAPの増加があり,NMOはastrocyteがprimaryに傷害される新たな概念の疾患と考えられる.現在,AQP4抗体が関与するNMOの病態機序が培養系や動物モデルで明らかにされつつある.今後はNMOへの新たな治療法の開発が求められる.

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© 2009 日本神経学会
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