2011 年 51 巻 2 号 p. 125-129
症例は77歳女性で構語障害,右の顔面と四肢の不全麻痺で搬入された.両側方への注視麻痺をみとめたが,垂直性の眼球運動制限はなく,不全型閉じ込め症候群であった.第1病日の頭部MRIで橋被蓋正中部に梗塞巣を同定.症状は数日動揺したが,抗血小板療法にて四肢の麻痺は急速に改善し約二週間で独歩可能となり,眼球運動は緩徐に回復し第81病日には軽度の両側性外転神経麻痺が残存するのみとなった.経過と画像より本症例の両側方視の制限は両側の内側縦束と両側外転神経核の障害により出現し,傍正中橋網様体の関与は乏しいと考えた.臨床的に良好な経過をたどり,画像に現れない脳幹の虚血症状の推移を観察できた症例であった.