Rinsho Shinkeigaku
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Review
Neuronal intranuclear inclusion disease (NIID)
Jun Sone
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2020 Volume 60 Issue 10 Pages 653-662

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要旨

神経核内封入体病(neuronal intranuclear inclusion disease; NIID)は,進行性の神経変性疾患であり,近年まで剖検により診断されていたが,2011年に皮膚生検が診断に有効と報告された後,症例数が増加している.2019年にはNOTCH2NLC遺伝子上のGGCリピート配列の延長が原因であると同定され,遺伝子診断も可能となった.NIIDでは,認知機能障害で発症し,頭部MRIでの白質脳症およびDWIでの皮髄境界の高信号が認められる群と,四肢筋力低下から発症する群の2群が認められる.今後,白質脳症およびニューロパチーの鑑別診断にNIIDを含める必要があり,皮膚生検と遺伝子検査を組み合わせ,NIIDを的確に診断し,病態解明を推進する必要がある.

Abstract

Neuronal intranuclear inclusion disease (NIID) is a progressive neurodegenerative disease that had been diagnosed by autopsy until recently, but the number of cases has increased since skin biopsy was reported to be useful in 2011. In 2019, the genetical cause of NIID was identified as the extension of the GGC repeat sequence on the NOTCH2NLC gene, and genetic diagnosis became possible. In NIID, there are two groups: a group onset with cognitive dysfunction, and with leukoencephalopathy on head MRI and a high intensity signal at the corticomedurally junction on DWI, and a group with limb weakness. It is necessary to include NIID in the differential diagnosis of leukoencephalopathy and neuropathy, and it is necessary to combine skin biopsy and genetic testing to accurately diagnose of NIID and promote pathological elucidation.

はじめに

神経核内封入体病(neuronal intranuclear inclusion disease; NIID, neuronal intranuclear hyaline inclusion disease; NIHIDもしくはintranuclear inclusion body disease; INIBD)は,共通する病理組織学的な特徴に基づいて提唱されてきた疾患である.H&E染色標本においてエオジン好性に染色される核内封入体が,中枢神経系および末梢神経系の神経細胞,glia細胞,Schwann細胞,さらに一般臓器の細胞の核内に広く認められる神経変性疾患とされてきた1)~3(Fig. 1).これらの核内封入体は,ユビキチンもしくはp62により陽性に染色され,電子顕微鏡下では限界膜を持たずフィラメント状の物質が渦巻き状に集合する像を呈する4)~6.この核内封入体は,中枢および末梢神経系に広く分布するが,必ずしも顕著な神経細胞脱落を伴うとは限らず,神経細胞脱落の部位および程度は症例ごとに異なっており,その結果,中心となる臨床症候が症例ごとに異なると報告されてきた5)~7.さらに発症年齢は乳児期から60歳代までと幅広いため,必然的にNIIDの臨床診断は困難とされてきた.NIIDの中には異なる複数の疾患単位が含まれている可能性について論じられることもあり7,多くの症例が剖検でNIIDと診断されていたため,報告症例数は少ない状態が長く続いていた8

Fig. 1 Histopathological findings of neuronal intranuclear inclusion disease (NIID).

A–F: Sporadic NIID, G–L: Familial NIID. A: sympathetic ganglion (H&E), B: neuron in temporal lobe (ubiquitin), C: renal tubule cells (ubiquitin), D: astrocyte (EM), E: sweat gland cell of skin (ubiquitin), F: fibroblast of skin (EM), G: dorsal root ganglion neuron (H&E), H: neuron in parietal lobe (ubiquitin), I: Schwann cell (ubiquitin), J: astrocyte (EM), K: fibroblast of skin (ubiquitin), L: fibroblast of skin (EM). Scale bars in A–C, E, G–I and K = 10 μm; in D, F, J and L =1 μm.

2011年,我々は家族性NIID家系例の検討から,皮膚生検がNIIDの生前診断に有効であることを報告した9.その後,頭部MRI画像上で白質脳症を呈し,DWI画像にて,大脳の皮髄境界が高信号を呈するといった特徴的な所見(Fig. 2)を呈する高齢発症例が,次々と皮膚生検によりNIIDと診断され報告されるようになり,NIID症例数が飛躍的に増加した10)~16.2011年以前にはNIIDと診断されていなかった症例が多数存在していたと推察される.我々はこれらのNIID症例を蓄積し,成人発症のNIID症例の臨床像を検討しその結果を2016年に報告した17.さらに,皮膚生検により診断した多くの家系例を用いて,マイクロサテライトマーカーを用いた連鎖解析に加えて,ショートリード型次世代シークエンサーおよびロングリード型次世代シークエンサーを用いたゲノム解析を行った結果,NIIDの原因遺伝子がNOTCH2NLC遺伝子のGGCリピート配列の延長であることを同定し,2019年に報告した1819(Fig. 3).

Fig. 2 Head MRI findings of neuronal intranuclear inclusion disease (NIID).

Both sporadic and familial NIID cases show leukoencephalopathy and DWI high intensity signal in corticomedullary junction. MRI findings of sporadic NIID cases with dementia (A and B) and sporadic NIID cases with weakness (C and D). MRI findings of familial NIID case with dementia at the onset of encephalitic episode (E and F) shows obvious edema in left hemisphere. MRI findings of familial NIID cases with weakness (G and H). T2 weighted image (A, C, E), FLAIR image (G) and DWI (B, D, F and H).

Fig. 3 Result of linkage analysis, the position of NOTCH2NLC gene and GGC repeat.

Linkage analysis with maicrosatellite markers shows high LOD score area in wide range of chromosome1 including centromere. Long-read next generation sequencer identified GGC repeat expansion in NOTCH2NLC exon 1 of isoform 2 and isoform 1 (Orange bar shows the position of GGC repeat).

本稿では,NIID研究の歴史から,皮膚生検の概要,NIID症例の臨床病理像について述べるとともに,ゲノム解析についても概説する.

NIID研究の歴史

NIIDの最初の報告例は,1968年にLindenbergらによって,Acta Neuropathologicaに報告された例とされている1.乳児期に発症した孤発例で,処女歩行の遅延,精神発達遅滞,下肢の失調および痙性の亢進が認められ,7歳時に特殊学級に入学している.その後下肢痙性が悪化,24歳時には臥床状態となり,便秘,腸炎,脱水を繰り返し,28歳時に肺炎で死亡し剖検となった男性例である.剖検マクロ像では,側脳室の拡大,大脳および小脳において白質の顕著な萎縮が指摘されている.光学顕微鏡下では,大脳皮質,基底核,小脳,脳幹といった中枢神経系の神経細胞およびグリア細胞,さらに腎臓,副腎,腸管平滑筋などの一般臓器の細胞で,エオジン好性の核内封入体が認められている.電子顕微鏡での検討などから,ヘルペスウイルス感染に起因して広範囲に核内封入体が出現した可能性についても検討されていた.

一方,1969年にはMartinらによって,亜急性に進行した多巣性白質脳症を呈した71歳発症の男性例が報告されている20.軽度の振戦で発症ののち,7ヶ月の間に失調,構音障害,歩行障害,高次脳機能障害が亜急性に進行したとされている.剖検では軽度の脳室拡大および大脳皮質下白質に褐色に変色した病変が3か所認められ,小脳白質には顕著な脱髄が認められている.エオジン好性の核内封入体が,神経細胞およびグリア細胞,さらに腎尿細管においても認められている.電子顕微鏡所見を含め,病理学的にはLindenbergらの症例によく類似しているものの,発症年齢,臨床症状が極めて異なっているため,同じ病態であるとの議論はなされず,NIIDとしては報告されていなかった.その後,Lindenbergらの症例に類似した小児期発症の症例21が報告されているのに加え,腸管麻痺を繰り返す家系例22,Freidreich ataxia様の症候を呈した幼児期発症例23,若年性パーキンソン病と臨床診断されていた小児例5,高齢発症の認知症例24など,様々な臨床症状を呈する症例が剖検によりNIIDと診断され報告された.核内封入体をきたす原因として,ヘルペスウイルスなどのウイルス感染による感染症の可能性につき検討された症例も散見されるが,電顕所見,ウイルス抗体価,PCR検査などの結果から最終的には否定的とされている.1990年には,Goutieresらによって腸生検がNIIDの診断に有効であると初めて報告されている25.11歳時に易怒性が顕著となり発症,その後,眼瞼痙攣,神経原性筋萎縮,小脳失調,高次脳機能低下が進行した症例に対し,全身麻酔下で直腸生検を行っている.腸管神経叢の神経細胞にエオジン好性の核内封入体を認め,電子顕微鏡下では顆粒状もしくはフィラメント状の物質からなる封入体を認めたためNIIDと診断している.また,10例の小児NIID例の文献をレビューし,脳神経障害に加えて錐体外路症候および脊髄前角障害を疑う症候を認めた場合にはNIIDを考慮すべきであると論じている.1990年代後半には,抗ユビキチン抗体を用いた免疫染色によって,NIIDの核内封入体がユビキチン陽性に染色されることが報告されるようになった3.以後,これらのH&E所見,免疫染色所見および電験所見などの病理学的な特徴を根拠として,NIID症例が報告されてきた.

2003年には,Takahashi-Fujigasakiらにより,30例ほどのNIID例がレビューされ,NIID症例を発症年齢および遺伝性から,小児発症群,若年発症群,成人発症群および家族性発症群に分類し,それぞれの臨床症状の特徴が記述されている7.小児発症群では四肢運動失調,構音障害,不随意運動が特徴的とされ,若年発症群では性格変化,錐体路症候,パーキンソニズムが認められることが多く,成人発症群では認知機能障害が認められるとしている.これらの症例の約70%は小児もしくは若年発症群であり,この時点でも成人発症群は数例の報告にとどまっていた.その後も診断方法としては剖検が主であり,依然としてNIIDとして報告される症例は少ない状況が続いた.直腸生検による腸管神経叢の検討2526あるいは末梢神経生検によるSchwann細胞の検討27などが生前診断の方法として議論されたが,いずれの方法も侵襲が大きく,また,直腸生検では診断できず剖検にてNIIDと診断された症例が報告されたこともあって28,生前にNIIDが診断されることはほとんどない状況であった.

皮膚生検によるNIIDの診断

我々は2005年より本格的にNIIDの原因遺伝子探索研究を開始していた.より多くのNIID症例を診断し,検討する必要があったため,NIIDの生前診断の方法の開発を進めていた.2011年,我々は家族性ニューロパチーの表現型を呈した家族性NIID例において,皮膚生検組織からNIIDの診断が可能であることを見出し報告した9.さらに2014年には,高齢発症で,頭部MRI上で白質脳症を認め,DWIで皮髄境界に沿った異常高信号を示す孤発性NIIDにおいても同様に皮膚生検で診断が可能であることを報告した29.皮膚生検については一般的に用いられている皮膚トレパンを用い,外果から10 cmほど中枢側の部位から採取している30.生検サンプルは,ホルマリン固定ののち薄切し,抗ユビキチン抗体もしくは抗p62抗体を用いて免疫染色を行い,陽性に染色される核内封入体の有無を検討している.免疫染色で一般的に用いられるDAB発色法を用いて検討が可能であるが,筆者の経験からは,免疫蛍光染色を用い,蛍光顕微鏡下で観察した方がより容易に核内封入体の有無を判定できる.H&E染色のみでの検討では偽陰性となる場合が多い印象である(Fig. 1E, K).抗ユビキチン抗体を用いた免疫蛍光染色で7例のNIID症例で検討した結果,皮膚生検組織中の脂肪細胞の10.8 ± 3.0%の核に核内封入体が認められた.同様に線維芽細胞の8.3 ± 3.1,汗腺細胞の4.9 ± 1.6に核内封入体を認めている9.しかし,筆者は,わずか数例ではあるが,一枚の皮膚生検スライドにわずか数個の核内封入体しか認められなかった症例で,後述するNOTCH2NLC遺伝子異常を認めた症例の経験があることから,場合によっては免疫染色を行なっても皮膚生検結果として偽陰性と判定されてしまう場合もあると推察される.皮膚生検所見が陰性であっても,皮膚所見以外の臨床所見からNIIDが強く疑われる場合には,後述する遺伝子検査を検討すべきであると考えられる.

さらに,最近,類似の病理像を呈するFXTAS(Fragile X premutation tremor/ataxia syndrome)3132の皮膚にも,NIID同様の核内封入体が認められたという報告がなされた33.皮膚生検陽性であっても,NIIDとFXTASの鑑別を行う必要があるため,今後は遺伝子での検討が必要になると思われる.

成人発症NIIDの臨床像

皮膚生検での診断が可能となるまでは,成人発症のNIID症例の報告はごく少数であったためにその臨床像は明らかではなかった.そこで我々は,皮膚生検および剖検によりNIIDと診断された成人発症のNIID 121例(孤発例98例,家族例23例)について,臨床症候および検査結果を検討した(Table 1).初発症状として,筋力低下を示す群と,もの忘れを示す群が認められたため,筋力低下群ともの忘れ群に分類し検討した.

Table 1  Summary of neuronal intranuclear inclusion disease (NIID) clinical manifestation.
Sporadic NIID total n = 98 Familial NIID total n = 23
Dementia
n = 97
Weakness
n = 1
Dementia
n = 12
Weakness
n = 11
Diagnosis Skin biopsy 96 (98.9%) 1 (100%) 11 (91.7%) 8 (72.7%)
Autopsy 2.1% 0 (0%) 0 (0%) 3 (27.3%)
Average onset age (range) 64.1 (42–77) 39 60.6 (43–75) 27.5 (16–39)
Average disease duration (range) 5.7 (1–24) 18 6.3 (1–15) 21.1 (3–44)
Sex ratio (male/female) 32/65 0/1 3/9 5/6
Clinical
manifestations
Muscles weakness 31.2% + 66.7% 100%
Sensory disturbance 25.3% + 45.5% 81.8%
Autonomic
impairment
Vomiting 12.8% 8.3% 45.5%
Bladder dysfunction 38.0% 55.6% 63.6%
Syncope 6.5% 0% 0%
Miosis 58.5% 71.4% 60%
Dementia 93.3% + 100% 9.1%
Tremor 24.5% + 25.0% 0%
Rigidity 19.4% 36.4% 0%
Ataxia 47.8% 63.6% 0%
Abnormal behavior 25.3% 41.7% 0%
Generalized convulsion 14.7% 8.3% 0%
Disturbance of consciousness 36.5% 33.3% 9.1%
Encephalitic episode 24.0% 8.3% 0%
Head-MRI Leukoencephalopathy 97.8% + 100% 40%
DWI U-fiber high 98.9% + 100% 33.3%
Ventricular distension 90.3% + 100% 40%
SPECT Hypo perfusion in cerebral cortex 96.1% + 66.6% 100%
Executive function
tests
MMSE (<24) 60.2% 20 0% 0%
FAB (<age matched average) 90.2% 15 100% 100%
Laboratory Data CK M:>260 IU/l F:>170 IU/l 6.7% 98 16.6% 87.5%
CSF Cell (>5/mm3) 11.4% 0 0% 0%
Protein (>45 mg/dl) 63.3% 30 42.9% 33.3%
Glucose(<50 mg/dl) 0% 65 0% 0%
HgbA1c (NGSP) (≥6.2%) 21.4% n.a. 0% 33.3%
FMR1 premutation 0% 0% 0%
Nerve conduction Motor MCV slowing 91.9% + 50% 100%
CMAP reduction 34.2% + 0% 71.4%
Sensory SCV slowing 64.0% + 50% 100%
SNAP reduction 43.2% + 25% 71.4%

Except for Diagnosis, Average onset age, Average disease duration and Sex ratio, we described each value as the number of incidence case/ the number of available case (%). About sporadic weakness case, each column showed actual value. We calculated incidence rate(%) for each value with available case number for each item. MCV slowing, SCV slowing, CMAP reduction and SNAP reduction were determined that each value below control average value –2SD. MMSE = mini mental state examination, FAB = frontal assessment battery, NGSP = national glycohemoglobin standardization program, CK = creatine kinase, MCV = motor nerve conduction velocity, CMAP = compound muscle action potential, SCV = sensory nerve conduction velocity, SNAP = sensory nerve action potential.

孤発性NIIDでは,高齢発症でもの忘れを主訴に受診する症例が大半を占めた.この群では発症年齢は平均で64.1歳であった.もの忘れ以外では,縮瞳が58.5%で認められたほか,失調を約47.8%,膀胱機能障害を38%,遷延する意識障害を36.5%に認めた.全身性痙攣も14.7%で認められた.また,意識障害,発熱,頭痛および嘔吐を呈する亜急性の脳炎様の症状を約24%の症例で認めた.症状の出現と同時に著明な脳浮腫と同部位のガドリニウム造影所見をMRI上で認める症例も認められた.このような脳炎様の症候に対し,ステロイドパルス療法を行った症例では,脳浮腫の軽減および意識レベルの改善に対して短期的には有効であった症例も認められたが,長期的予後への効果に対しては今後の検討が必要である.これらの症状以外に認められた症候としては,振戦,筋固縮,四肢筋力低下,感覚障害,異常行動などが挙げられる.異常行動の例としては,易怒性の亢進,意味不明の言動,脱抑制,ギャンブル依存などが認められた.検査結果では,頭部MRI DWI画像で皮髄境界に沿う形で認められる異常高信号領域を98.9%の症例で認めており,T2画像上白質脳症を97.8%で認めた.髄液検査では,髄液蛋白の上昇が63.3%の症例で認められ,神経伝導速度検査異常(伝導速度遅延,もしくは振幅の低下)を91.9%の症例で認めた.高次脳機能検査では,mini mental state examination(MMSE)が低下していた例が60.2%であったのに対し,frontal assessment battery(FAB)での低下を認めた例が90.2%とより高頻度で認められ,NIIDでの高次脳機能低下を検出するにはFABの方がより鋭敏であった.1例のみニューロパチーの経過中に物忘れ,白質脳症を発症した症例を認めた.後述する家族性NIID症例で,筋力低下と物忘れを発症した例に類似する臨床像であった.

家族性NIIDについても,孤発性NIID同様,もの忘れを初発症状とする症例と,四肢筋力低下を初発とする症例との2群が認められた.筋力低下群では発症年齢が平均で27.5歳と低い傾向があり,もの忘れ群では平均60.6歳と,孤発例の平均発症年齢により近かった.物忘れ群で高頻度に認められた症候として,縮瞳が71.4%,四肢筋力低下が66.7%,失調が63.4%,膀胱機能障害 55.6%,感覚障害 が45.5%で認められた.遷延する意識障害も33.3%で認められ,全身性痙攣,脳炎様症状もまれながら認められた.白質脳症,DWI 高信号は100%で認められた.髄液蛋白上昇は42.9%,NCV異常は50%で認められた.一方,筋力低下群では,筋力低下を100%,感覚障害を81%で認めたほか,膀胱機能障害を63.6%,縮瞳を60%で認めている.神経伝導検査での伝導速度遅延が100%で認められ,33.3%で髄液蛋白の上昇が認められた.また,経過中に物忘れと頭部MRIにて白質脳症が出現し,徐々に悪化,その後DWIの異常高信号が認められた症例も認められている.

以上の結果から,認知症を主症状とする例で,縮瞳,膀胱直腸障害などの自律神経症候を示し,頭部MRI画像で白質脳症および特徴的なDWI画像での皮髄境界の高信号を示す症例,加えて神経伝導速度検査で末梢神経障害を認め,髄液検査で蛋白の上昇を認める成人例は,NIIDを疑うべきと考えられ,皮膚生検での精査を検討すべきと考えられる.さらに,ニューロパチーで経過中に認知症の症状および白質脳症が進行するような症例においても同様にNIIDを疑う必要があると考えられる.皮膚生検を行い,ユビキチン陽性の核内封入体が認められればNIIDである可能性が極めて高いと考えられるが,病理学的にNIIDと類似した核内封入体を認める疾患として,FXTAS3132が挙げられる.神経系の細胞および一般臓器の細胞にユビキチン陽性の核内封入体を認める,といったNIID類似の病理像を呈す疾患であり,近年,皮膚組織にも核内封入体を認めるとの報告もある33.オリゴデンドロサイトには核内封入体が認められない点などが,NIIDとは異なるものの34,臨床の場面での鑑別は現在困難であることから,患者の同意が得られた場合には,鑑別として後述するNIIDの原因遺伝子であるNOTCH2NLC遺伝子のGGCリピートの延長の有無を検討するか,もしくはFXTASの原因遺伝子検査(FMR1遺伝子のGCCリピート延長の解析)を行うことが望ましいと考えている.

頭部MRI画像

孤発性NIID症例では,頭部MRI T2およびFLAIR画像で,白質脳症を認めた(Fig. 2).高信号域は,皮髄境界から脳回の根元のあたりまで広く認められる症例が多く,T2画像上は比較的均一で左右対称性に認められ,やや前頭葉優位の症例が多い印象である171829.外包にもT2高信号を呈する症例が認められる.DWI画像では,大脳の皮髄境界に沿った異常高信号域を認める.この高信号域は,脳梗塞急性期のDWI異常高信号のように経過とともに消退することはなく,持続的に認められている.病初期では,皮髄境界のごく狭い範囲にのみ高信号を認めるのみであるが,病期が長くなり症状が悪化するにつれ,皮髄境界に沿って拡大する傾向が認められる16が,深部白質にまで拡大する傾向は認められていない.また,脳炎様症状の出現時には,局所的な脳浮腫(Fig. 2E, F)とガドリニウム造影所見を示す症例も報告されている17

この皮髄境界のDWI高信号は,正常コントロールでは認められず,NIIDに特異性の高い所見であると考えている.しかし,MRI T2画像で白質脳症を呈した症例を多数例検討した研究では,DWIで異常高信号を示していない症例のなかにもNOTCH2NLC遺伝子のGGCレピート延長を認めた症例が報告されている35.四肢筋力低下で発症するNIID例も,発症当初は白質脳症およびDWI異常高信号いずれも示さない症例が存在することから,DWI異常高信号が認められないからといって,必ずしもNIIDが否定されるものではないと考えている.

NIID原因遺伝子同定

我々は2005年から,遺伝性ニューロパチーの臨床像を呈した成人発症NIIDの2家系例を中心にゲノムDNAを広く収集し,家族性NIIDの原因遺伝子の探索を開始した.全ゲノムにわたって分布する400か所のマイクロサテライトマーカーを用いて連鎖解析を行ったところ,2007年の時点で,ヒトゲノム上の20 Mbpにわたる領域が,Lod Score 4前後と,とても高いLod Score を示すことを見出した(Fig. 3).この20 Mbpの領域内には多数の遺伝子が存在していたため,当時,ようやく利用が可能となったショートリード型次世代シークエンサーを用いて,全エクソン解析および全ゲノム解析を行い,この20 Mbpの領域について様々な角度から検討を行ったが,原因遺伝子の同定には至らなかった.しかし,この解析で得られた一塩基多型(single nucleotide variant; SNV)情報を用いて,再度連鎖解析を行ったところ,マイクロサテライトマーカーを用いた連鎖解析結果とほぼ同一の領域において,Lod Scoreが高値を示したことから,おそらくNIIDの原因となっている遺伝子の変異はこの高Lod Score領域に存在するものの,一塩基変異ではなく,繰り返し配列の増幅などといったショートリード型次世代シークエンサーでは解析が困難である遺伝子変異であろう,との仮説を立てた.その後,皮膚生検による診断が可能となり,多くの家系例を研究に組み込むことが可能となった上に,Oxford Nanopore社のロングリード型次世代シークエンサー,MinIONによる解析が可能となったことで,NIIDの原因遺伝子が第一染色体上のNOTCH2NLC遺伝子上のGGCリピート配列の延長であることを最終的に同定した1819(Fig. 3).NOTCH2NLC遺伝子は,2013年に公開されたヒトのリファレンス配列hg38にて初めてヒトゲノム上に記載された遺伝子である.他の生物には存在しない,ヒト特有の遺伝子で,大脳を大きく成長させるために必要な遺伝子とされている36NOTCH2NLC遺伝子のGGCリピート配列が延長することによって,新たな毒性が獲得された結果,核内封入体が形成されるとともに種々の症状をもたらすと筆者は考えている.Table 1で示したNIID症例では,家族性NIIDについては全例,孤発性NIIDについては遺伝子解析の同意が得られた56例について全例で,GGCリピート配列の延長を認めた.また,正常コントロール225例の解析では,1例のみ61リピートの例を認めたが,その他の例はすべて30リピート以下であった.この61リピートの1例は,未発症の症例の可能性が排除できていない.現状としては30リピートよりも長い状態がNIIDの原因となっていると推察されるが,今後さらなる検討が必要である.これらの成果により,NIIDを病理学的にかつ遺伝学的に両面から診断することが可能となり,現在はFXTASなどの類縁疾患との鑑別を,より正確に行うことが可能となった.

病理組織学的検討

1968年にLindenbergらによってNIIDが文献上初めて報告1されて以後,H&E所見,電顕所見および免疫染色所見などの病理学的な特徴を根拠として,NIID症例が報告されている.我々の自検例においても過去のNIID報告例と同様の病理像を確認している(Fig. 1).その中には皮膚生検及び剖検の双方で核内封入体を認めた症例も含まれている.さらに,孤発性NIIDおよび家族性NIIDの各1例について,大脳での核内封入体の出現頻度について検討を行ったところ,神経細胞での核内封入体はおよそ5%から30%の範囲で認められた.また,アストロサイトの核内封入体に関しては,10%から30%の間で認められた.これらの頻度については,孤発性,家族性いずれについても大きな差は認められていない17

NIIDの病理標本を用いた免疫組織学的な検討についても報告されている.Ubiquitin,p62,SUMO-1については以前から核内封入体が陽性に染色されるとの報告があるが7937,加えて,HSP9038,FUS39,optineurin40,SIGMAR141などでも陽性に染色されるとの報告がされている.さらに,NIIDの細胞核では,転写,細胞周期などといった様々な細胞プロセスに関与するとされるPML body(Nuclear body)の形態及び分布が,コントロールのサンプルと比較して異なっているとの報告もあり,NIIDにおける神経変性過程のさらなる解明が期待される42.これらの病理学的なNIIDの研究に関しては,我が国の研究者が多く貢献していることも特筆すべきである5)~1113172942)~46.一方で,他疾患と臨床診断および病理診断された症例や,循環器疾患等の他疾患で剖検となった症例において,稀にNIIDに類似した核内封入体が認められたとの報告もされているため3242,今後は病理診断に加えてNOTCH2NLC遺伝子での検討を組み合わせ,NIIDの病態解析をより進めていく必要がある.

おわりに

皮膚生検による診断が可能となって以降,NIID診断例が増加しているが,その多くが,もの忘れの症状に加えてDWI 異常高信号を示した所見によって皮膚生検を検討されるに至っている.しかし,DWI異常高信号が認められないNIIDが報告されていること,また,もの忘れあるいは四肢筋力低下以外の,他の症候を呈するNIIDが存在している可能性についても念頭に置いておく必要があることから,今後,小児例を含め,より多くのNIID例を遺伝学的および病理学的に診断し蓄積し,さらなるNIIDの病態解明を進めることが必要である.NIIDの発症率は今まで考えられていたよりもはるかに高い可能性があり,白質脳症および末梢神経障害をきたす疾患の鑑別診断としてNIIDを考慮する必要がある.2019年度からは,厚生労働省の難治性疾患政策研究事業の一環として,NIIDの疾患概念確立および診断基準作成に関する研究班が発足している.数年以内には実臨床の場で活用できるようにNIID診断基準の策定を鋭意進めている47

Acknowledgments

謝辞:多くのNIID症例を検討させていただくことでNIIDの病態解明を進めることができております.貴重なNIID症例をご提供いただきました日本全国の多くの先生方に深謝させていただきます.

Notes

※著者に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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