臨床神経学
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症例報告
発症早期から経時的な画像検査を行ったsurfer’s myelopathyの1例
伊賀崎 翔太鈴木 洋司酒井 直樹竹ノ内 晃之篠原 慶金本 忠久
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2020 年 60 巻 11 号 p. 752-757

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要旨

Surfer’s myelopathyはサーフィン初心者に発症する稀な非外傷性脊髄損傷とされる.症例は17歳女性.初めてのサーフィンのレッスン後に高度の対麻痺,両鼠径部以下の感覚障害,膀胱直腸障害を認めた.発症6時間後の脊髄MRIのT2強調画像で第8胸椎レベルから円錐部にかけて髄内高信号を認めた.脊髄の髄内高信号は第3病日には拡大を認め第8病日には軽減を示した.ステロイドパルス,抗浮腫治療を行い,約3週間後より運動機能や膀胱直腸障害の改善を認めた.本症例は,経時的に脊髄MRIを行うことにより初期の病変の拡大をとらえた.さらに画像上の改善と症状の軽快とのタイムラグがあることを示した.

Abstract

Surfer’s myelopathy is non-traumatic spinal cord injury which develops in beginner surfers. The patient was a 17-year-old female who developed severe paraplegia with bilateral sensory dysfunction below the groin and bladder/rectal dysfunctions after her first surfing lesson. A spinal-cord MRI performed six hours after onset revealed an intramedullary hyperintensity area from T8 to the conus medullaris on the T2 weighted images. Expansion of this hyperintensity area was observed on Day 3 and showed a reduction on Day 8. After providing intravenous methylpredonisolone, intravenous glycerol and intravenous edaravone, motor function and bladder/rectal functions began to improve after approximately three weeks. In this study, the expansion of the lesion in the early stages of the disease course was observed by sequential spinal MRI. Furthermore, a time lag between improvement according to imaging and improvement in symptoms was also observed.

はじめに

Surfer’s myelopathyはサーフィン初心者に発症する稀な非外傷性脊髄損傷とされる.2004年にThompsonら1によって初めて報告され,以後海外を中心に報告が散見される.過去の報告では脊髄虚血が原因であると考えられているが病態は明らかになっていない.今回われわれは,発症早期から経時的に画像検査を施行し病態を考察しえた1例を経験したため報告する.

症例

症例:17歳,女性

主訴:両下肢麻痺,感覚障害

既往歴:特記事項なし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2018年6月某日,13時頃から初めてサーフィンのレッスンを受けた.板に乗れる程度まで上達したが,14時半頃から海の中を歩くときに足が重く感じ15時には歩行出来なくなった.両鼠径部以下に異常感覚を伴い排尿したくても出来なくなった.板から転落などの外傷受傷はない.背部痛を認めない.近医を経て同日19時頃に当院救急外来へ搬送された.

入院時現症:身長152 cm,体重54 kg,体温37.1°C,血圧128/80 mmHg,脈拍81回/分・整.身体所見に特記すべき事項はない.

神経学的所見:意識清明で高次脳機能・脳神経に異常を認めなかった.運動系では上肢に異常はなく,両下肢では筋収縮は認めるが関節運動は認めなかった.感覚系では上肢や体幹部に異常はなく,両鼠径部以下に異常感覚と表在感覚鈍麻を認めた.母趾の位置覚は両側とも保たれていた.アキレス腱反射・膝蓋腱反射は両側ともに亢進しておりBabinski徴候は両側で陽性であった.尿意はあるものの自力で排尿・排便は出来ず,導尿で1,300 mlの尿流出を認めた.

入院時検査所見:血算・生化学に異常を認めなかった.凝固系ではAPTT 37.7秒,PI-INR 1.04,Ddimer 0.5 μg/ml,プロテインS活性87%(正常60~150),プロテインC活性92%(正常70~140)であった.自己免疫系は抗核抗体160倍(Homogeneous型160倍,speckled型160倍)であり,抗アクアポリン4抗体・抗SS-A抗体・抗SS-B抗体・P-ANCA・C-ANCA・抗カルジオリピン抗体はいずれも陰性であった.髄液検査では細胞数3/μl,蛋白126 mg/dl,糖50 mg/dl,IgG index 0.83であった.

発症6時間後の脊髄MRIではT2強調画像で第8胸椎レベルから円錐部にかけて脊髄中心性に高信号域を認め,軽度腫大を伴っていた(Fig. 1).T1強調画像では軽度の脊髄腫脹以外は異常を認めなかった.頭部CT/MRIでは異常を認めなかった.脊髄造影MRIでは第1腰椎レベルに前脊髄動脈とAdamkiewicz動脈と思われる血管を確認した.脊髄の造影効果は認めなかった.

Fig. 1 MRI findings of the thoracolumbar spine on Day1 and Day3.

(A) sagittal T2-weighted MRI of the lumbar spine. (B), (C) axial T2-wighted MRI at Th8/9 and Th12/L1 level examined 6 hours after symptom onset. A high intensity lesion on the spinal cord from Th8 to the conus was observed. (D) gadolinium enhancement MRI of the lumbar spine on Day 3. The anterior spinal artery (▲) and the artery of Adamkiewicz (→) are confirmed.

入院後経過:臨床経過や画像所見よりsurfer’s myelopathyと診断した.入院日よりステロイドパルス(メチルプレドニゾロン1,000 mg/日× 3日間)を1クール行い,高張グリセロール点滴やエダラボン点滴を併用した.抗血栓療法と深部静脈血栓症予防を兼ねて,抗凝固療法を行った.高張グリセロール点滴とエダラボン点滴は1週間行い,第8病日MRIにて脊髄高信号域の軽減を認め終了とした.第10病日よりステロイドパルス療法2クール目を施行した.抗凝固療法は深部静脈血栓症予防のため転院時まで継続した.その後はリハビリ継続にて下肢筋力は第20病日頃より緩徐に改善傾向を認め,膝立て保持が出来る程度まで改善した.同時期から下肢の痙性は経時的に強くなりクローヌスが容易に誘発されるようになった.温痛覚障害は残存したが入院時よりはわずかに改善した.位置覚障害は入院時には認めなかったものの第4病日には両母趾で半分程度しか正答出来なくなった.その後緩徐に改善し退院時には母趾の位置覚は全て正答可能となった.膀胱直腸障害に関しては第20病日頃より排便感覚は分かるようになったものの,排尿障害は残存しカテーテル留置を要した.経時的に検査した脊髄MRIではT2強調画像での髄内高信号域は第3病日には第6胸椎レベルまで拡大したが,第8病日には髄内高信号域の縮小傾向と脊髄腫大の軽減を認めた.その後も第16病日は同様の画像上の改善を認め,第33病日にはやや脊髄の萎縮を示した(Fig. 2).起立・歩行は困難だが自力でベッドから車椅子への移乗が可能となり,回復期リハビリ目的に第44病日転院となった.

Fig. 2 Time course of MRI findings on Days 1, 3, 8, 16, and 33.

Sagittal and axial T2-weighted MRI of the thoracolumbar spinal cord. Sagittal and axial T2-weighted MRI revealed hyperintensity on the spine from Th8 to the conus on Day 1. High signal lesion on the T2-weighted MRI was observed from Th6 to the conus on Day 3, with the spinal cord demonstrating increased swelling than that on Day 1. After Day 8, swelling of the spinal cord improved over time.

考察

Surfer’s myelopathyは2004年にThompsonら1によって初めて報告されたサーフィン初心者に発症する非外傷性脊髄損傷とされる.典型的には,サーフィン初心者においてサーフィンレッスン開始してしばらくしてから背部痛の後に下肢脱力や膀胱直腸障害が進行し,中位胸髄から脊髄円錐部に病変を呈する.ハワイでの発症報告が多いが,報告例の中では日本人を含むアジア人が多いとされ,国内での報告も散見される.原因は明らかになっていないものの腹臥位で背部を過伸展するサーフィンのパドリングの姿勢が引き金になっていると考えられている.脊髄虚血であることが疑われているが,脊髄病変の分布がAdamkiewicz動脈の分布に相当することなどから動脈性虚血とする説,腹部や肝臓による下大静脈の圧迫にValsalva maneuverが加わる静脈性虚血とする説,線維軟骨塞栓症を来している説が提唱されている2.血管造影で根動脈やAdamkiewicz動脈が描出されないことから動脈性虚血を支持する報告3もあるが,MRIでの異常信号の分布が脊髄中心から後方に強く静脈性虚血の要素が強い説4もあり,いずれも推測の域を出ない.本例では血管造影は施行していないが造影脊髄MRIにて前脊髄動脈やAdamkiewicz動脈が描出された.この所見のみで動脈性虚血を否定することは出来ないと考えるが,他の要因を考慮する必要があると思われる.

PubMed,医中誌,Google Scholarで検索しえたサーフィンによる非外傷性脊髄障害の報告例をTable 1に示す1)~35)~29.本文を確認出来ないものや明らかな重複症例は除外している.平均年齢は25.5歳(8~46歳)で若年に多いと考えられている.男性に多く(男性60人,女性20人),サーフィン歴は初回や初心者の報告が大多数である.80例のうちAmerican Spinal Injury Association impairment Scale(AIS)による障害の程度はAまたはBが44例,Cが11例,Dが24例,Eが1例であった.障害の程度が個々に参照可能な報告に限れば,AISでAやBの完全に運動機能が障害されているものは半数以上が改善せず予後不良なのに対し,運動機能が残存しているAIS C,D,Eでは大部分が改善し予後がよいことが示された.Freedmanら3の報告ではAIS Aの症例では全例運動機能の改善は認めなかったとされるが,AIS AからDまで改善した報告23や完全麻痺から運動機能が改善した症例の報告6810142028もあり,全例が予後不良とは言えないと考えられる.本症例では運動機能はほぼ完全に消失しており,排便感覚もなく,S4~5の仙髄領域における感覚機能も消失しているが,表在感覚・深部覚は完全喪失ではないためAIS Bに相当すると考えられた.発症時より両下肢麻痺は非常に高度であったが,緩徐に運動機能の改善を得ることが出来た.

Table 1  Reported cases of surfer’s myelopathy.
Years First author Cases Age Sex AISa on adimission AIS on
follow up
Level of sensory dysfuctions on admission Bladder and rectal dysfunctions present/absemt MRI T2 maximum change Steroid used/
not used
recoveryb/
no recovery
2004 Thompson TP1) 9 24.8 M8/F1 A/B1, D8 A/B1, D4, E4 Th10-L1 8/1 Th6 -Th11 2/0 (NS7) 5/4
2007 Avilés-Hernández I2) 1 37 M A A L1 1/0 Th6 1/0 0/1
2010 Shibayama Y5) 1 26 M A A/B Th10 1/0 Th8 1/0 0/1
2010 Kelly M6) 1 29 M A/B D NS 1/0 Th9 1/0 1/0
2011 Shuster A7) 1 23 M A/B A/B Th10 1/0 Th6 NS 0/1
2011 Dhaliwal PP8) 1 29 M A/B D L1 NS lower thoracic cord 1/0 1/0
2011 Karabegovic A9) 1 25 M D paraparesis thoracic lesion 1/0 cervical spine 1/0 1/0
2011 Chung HY10) 1 24 F A/B D Th11 1/0 Th6 NS 1/0
2011 Lieske J11) 1 15 F C D lower extremity 1/0 Th5 1/0 1/0
2012 Lin CY12) 1 19 M A/B NS Th10 1/0 Th9 1/0 NS
2012 Fessa CK13) 1 19 M A A L3 1/0 mid and lower spinal cord 1/0 0/1
2012 Chang CW14) 19 26.8 M14/F5 A5, B8,
C3, D3
A5, B4, C2,
D5, E3
Th10-L4 NS Th6-Th11 13/6 13/6
2013 Aoki M15) 1 26 M A C L1 1/0 Th7 1/0 1/0
2013 Takakura T16) 3 26.7 M2/F1 A3 A3 Th9-L3 3/0 Th8 1/1 (NS1) 0/3
2013 Nakamoto BK17) 23 26.3 M19/F4 A5, B3, C5,
D9, E1
NS Th8-L3 (16/23 subjects) 22/1 midthoracic region (Th5-10) 7/16 7/13 (NS3)
2016 Freedman BA3) 1 19 M A A Th11 1/0 Th9 1/0 0/1
2016 Teixeira S18) 1 23 F B C Th11 1/0 Th6 1/0 1/0
2016 Bakhsheshian J19) 1 32 M C E T8 1/0 Th7 0/1 1/0
2016 Sugiyama N20) 1 15 F B E L4 1/0 Th5 1/0 1/0
2016 Segami K21) 1 31 M A/B A/B L3 1/0 Th7 1/0 0/1
2016 Koyanagi T22) 1 30 M D E periproctal 1/0 normal 1/0 1/0
2016 Inagaki T23) 1 22 F A D Th12 1/0 Th9 1/0 1/0
2017 Choi J24) 1 34 M A A Th10 1/0 Th5 1/0 0/1
2018 Scatchard R25) 1 8 F A A Th11 1/0 Th5 1/0 0/1
2018 Choi JH26) 3 23.3 M3 A/B2, D1 A/B2, E1 Th10-L1 3/0 Th7-Th10 2/1 1/2
2018 Saruwatari R27) 1 23 F D E L5 1/0 Th10 1/0 1/0
2019 Yang MX28) 1 23 F A/B D Th11 1/0 Th6 1/0 1/0
2019 Nakano H29) 1 19 F C D bilateral legs 1/0 Th7 1/0 1/0
Current case 1 17 F B D L1 1/0 Th6 1/0 1/0

aAIS: American Spinal Injury Association Impairment Scale. Scale definition is described below. A: No motor or sensory function is preserved in S4–S5. B: Sensory, but not motor function, is preserved below neurological level and includes S4–S5. C: Motor function is preserved below the neurological level, and more than half of key muscles below the neurological level have a muscle grade <3. D: Motor function is preserved below the neurological level, and at least half of key muscles below the neurological level have a muscle grade of ≧3. E: Motor and sensory functions are normal. bRecovery is defined as ≧1 grade improvement in American Spinal Injury Association Impairment Scale from nadir to discharge/transfer from initial treating facility. NS: Not stated.

また,Teixeira ら18の報告によると,surfer’s myelopathyではT2強調画像で24時間以内に高信号を呈するとされているが,脊髄梗塞ではT2強調画像は発症から少なくとも15時間,多くの場合は48時間以内に変化は認めないとされている.本症例でも発症6時間でのT2強調画像で明らかな髄内高信号を認めており,上記に矛盾しないと考えられる.脊髄梗塞に比較してsurfer’s myelopathyの方が早期にMRI画像変化が現れる機序に関しては,動脈性梗塞だけでなく静脈性梗塞の関与が考えられる.田代ら4は,初心者はサーフィンによるパドリングや立ち上がりの動作の際に熟練者よりも胸腔内圧や腹腔内圧が上昇すると推測され,脱水や血液の過凝固状態などいくつかの要素が関与して,静脈還流の悪化につながり静脈性虚血をきたす可能性を指摘している.さらに,浮腫や炎症など虚血とは異なる機序も考えられる.稲垣ら23の症例では背部痛のタイミングが他の症例と異なることや急速に症状や画像の改善を認めたことから,腹臥位での背部の過伸展による肝臓の圧迫による下腿静脈閉塞,バルサルバ手技による胸腔内圧上昇,長時間のサーフィンによる血管内脱水から,二次的な硬膜外静脈叢の静脈圧の上昇を生じ浮腫が出現した可能性を指摘している.脊髄梗塞では髄液中の細胞数増多は多くない30とされるが,surfer’s myelopathyでは髄液中の細胞数が50/μlを超える上昇を示した報告13142426もみられる.本症例では細胞数増多はみられないがIgG indexの上昇がみられることから炎症による影響の可能性も否定出来ない.これらから早期から抗血栓療法に加えて抗炎症療法や抗浮腫治療が重要であると考えられ,文献からもメチルプレドニン治療が試みられている.発症から数日間は脊髄高信号域が拡大し,また,画像上の改善から臨床症状の軽快にはタイムラグが想定される.治療法は確立していないものの,早期の診断や治療介入が必要と考えられる.本疾患の認知度は低く,稀な疾患ではあるが,国内でも遭遇する可能性のある疾患であり,より本疾患が周知されることが必要と思われる.また,病態解明や治療方法の確立は今後の課題であり,症例や知見の蓄積により解明されることが望まれると考えられる.

Notes

本報告の要旨は,第154回日本神経学会東海・北陸地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
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