Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Successful treatment of Guillain–Barré syndrome-like acute inflammatory demyelinating polyneuropathy caused by pembrolizumab with a combination of corticosteroid and immunoglobulins: a case report
Rei HashimotoTakehiro UedaYukio TsujiYoshihisa OtsukaKenji SekiguchiRiki Matsumoto
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2020 Volume 60 Issue 11 Pages 773-777

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要旨

症例は74歳男性,非小細胞肺がんに対しペムブロリズマブを投与し,10日後に四肢筋力低下が出現し,歩行困難になった.末梢神経伝導検査で遠位潜時延長,異常な時間的分散,神経伝導速度低下を認め,免疫チェックポイント阻害薬によるギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome,以下GBSと略記)様急性炎症性脱髄性ポリニューロパチーと診断した.免疫チェックポイント阻害薬によるニューロパチーは従来のGBSと異なり,副腎皮質ステロイドを中心とした免疫治療が有効との報告があり,本症例でも免疫チェックポイント阻害薬の中止,免疫グロブリン大量静注療法に加えて,ステロイド治療を併用し,良好な予後を得た.

Abstract

A 74-year-old man, who received pembrolizumab for the treatment for non-small cell lung cancer, developed quadriparesis 10 days after the first course of treatment accompanied by gait disturbance. Dysesthesia was observed in the distal extremities, and tendon reflexes were absent. Neurological examination and peripheral nerve conduction study supported the diagnosis of Guillain–Barré syndrome-like acute inflammatory demyelinating polyneuropathy caused by pembrolizumab. The administration of pembrolizumab was discontinued. Moreover, he was initially treated with intravenous immunoglobulin therapy, followed by intravenous methylprednisolone therapy and oral prednisolone. The limb weakness improved to a degree that he could walk alone on discharge. Pembrolizumab, which is an immune checkpoint inhibitor with a high anti-tumor effect, is reported to cause various adverse events. However, neuromuscular complications following cancer treatment with immune checkpoint inhibitors are relatively rare. Treatment with corticosteroids is considered to be effective for treating immune-related adverse events. Corticosteroids were effective in treating peripheral neuropathy caused by immune checkpoint inhibitors in this patient. Thorough treatment should be considered with a combination of corticosteroids and immunoglobulin therapy, in addition to discontinuation of immune checkpoint inhibitors, for this rare entity, which differs from that for idiopathic Guillain–Barré syndrome.

はじめに

免疫チェックポイント阻害薬は様々な悪性腫瘍に適応が広がり,良好な抗腫瘍効果をもたらしている.ペムブロリズマブはprogrammed cell death-1(PD-1)阻害薬であり,活性化T細胞に発現するPD-1に結合することで,細胞障害性免疫機能を再活性化させ,抗腫瘍効果を発揮する.しかし,抗PD-1阻害薬はT細胞の免疫抑制をブロックすることで免疫関連有害事象(immune-related adverse events,以下irAEと略記)を引き起こすことが知られている.神経筋疾患のirAEには,重症筋無力症,筋炎,ニューロパチー,横断性脊髄炎,脳炎などが報告されている12.免疫チェックポイント阻害薬によるニューロパチーの報告は少なく,その臨床像や治療方針は不明な点も多い.今回,ペムブロリズマブ投与後にギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome,以下GBSと略記)様の急性炎症性脱髄性ポリニューロパチー(acute inflammatory demyelinating polyneuropathy,以下AIDPと略記)を発症した1例を経験した.一般的にirAEは副腎皮質ステロイド製剤が有効とされており,本症例も副腎皮質ステロイドを含めた免疫治療により改善を認めた.従来のGBSとは異なり,免疫チェックポイント阻害薬によるAIDPは副腎皮質ステロイドを積極的に併用すべきと考えられたため報告する.

症例

症例:74歳,男性

主訴:両下肢筋力低下

既往歴:関節リウマチ(2013年),Trousseau症候群(2018年).

家族歴:特記すべきことなし.

生活歴:喫煙20本 × 53年間.

現病歴:2018年7月に非小細胞肺癌と診断された.病理組織でPD-ligand 1(PD-L1)が陽性と判明し,9月中旬にfirst lineとしてペムブロリズマブ(200 mg/body)を投与した.投与から10日後に下肢の脱力感が出現し,徐々に増悪した.投与13日後には歩行ができなくなった.両下肢挙上が困難となり,投与後21日目に当科入院した.

入院時一般身体所見:身長159 cm,体重66 kg,血圧110/52 mmHg,体温36.8°C,脈拍106回/分・整であった.一般身体所見に異常はなかった.

入院時神経学的所見:JCS I-2で,脳神経所見は正常だった.下肢優位,遠位筋優位の四肢筋力低下を認め,MMTは上肢3~5,下肢1~2で左右差はなかった.四肢腱反射は消失していた.両手関節,両膝関節以遠に異常感覚を認めた.振動覚は四肢で低下していた.自律神経障害は認めなかった.両側Lasègue徴候が陽性だった.

入院時検査所見:血液検査は血算に異常なく,生化学検査は血糖171 mg/dl,HbA1c 7.1%で,抗GAD抗体52.9 U/ml(基準値 <5.0 U/ml)と陽性で,抗アセチルコリン受容体抗体は0.4 nmol/l(基準値 <0.2 nmol/l)だった.抗ガングリオシド抗体(IgM/IgG-GM1, GM2, GM3, GD1a, GD1b, GD3, GT1a, GT1b, GQ1b, Gal-C, GalNAc-GD1a, GT1aおよびIgG-GD1a/GD1b),傍腫瘍性神経症候群関連抗体(amphiphysin, CV2, PNMA2, Ri, Yo, Hu, recoverin, SOX1, titin, zic4, GAD65, DNER)は陰性だった.サイトメガロ,EB,単純ヘルペス,水疱帯状疱疹ウイルスはいずれも既感染パターンだった.髄液検査は細胞数7/mm3,蛋白100 mg/dl,ミエリン塩基性蛋白178 ng/ml(基準値 <102 ng/ml)と上昇していた.IgGインデックス0.37,オリゴクローナルバンドは陰性だった.

末梢神経伝導検査は四肢運動神経で著明な遠位潜時延長および異常な時間的分散を認め,複合筋活動電位は低下していた(Table 1).F波は正中,脛骨神経では導出されず,尺骨神経で潜時延長,導出率低下を認めた.感覚神経活動電位はいずれも導出されず,これらの所見よりAIDPが主病態と考えた.頭部MRIで,左前頭葉にTrousseau症候群による急性期脳梗塞及び,左前頭葉,頭頂葉に微小な転移性脳腫瘍が見られたが,これらは神経脱落症状を来しうる病変ではなかった.腰椎造影MRIで神経根の肥厚や造影効果は認めなかった.

Table 1  Results of the nerve conduction study.
Nerve Side DL
(ms)
CMAP (mV)
distal/proximal
MCV
(m/s)
F-latency
(ms)
F-freq
(%)
SNAP
(uV)
SCV
(m/s)
Median R 15.0 0.6/0.3 13 N.E. N.E. N.E. N.E.
L 9.2 1.0/0.5 28 N.E. N.E. N.E. N.E.
Ulnar R 4.9 3.2/2.5 43 29.5 43 N.E. N.E.
L 6.9 2.0/0.9 41 N.E. N.E. N.E. N.E.
Tibial R 5.9 0.6/0.3 43 N.E. N.E.
L 18.7 0.1/0.02 48 N.E. N.E.
Sural R N.E. N.E.
L N.E. N.E.

DL: distal latency, CMAP: compound muscle action potential, MCV: motor nerve conduction velocity, F-freq: F wave frequency, SNAP: sensory nerve action potential, SCV: sensory nerve conduction velocity, N.E.: not evoked, R: right, L: left

入院後経過(Fig. 1):ペムブロリズマブによるAIDPと診断し,入院第1病日から免疫グロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulin,以下IVIgと略記)400 mg/kgを5日間投与した.入院第3病日,誤嚥性肺炎により呼吸状態が悪化し,ICUで人工呼吸管理を4日間行った.IVIg投与後も筋力低下は著変なく,改善が得られなかったため,入院第14病日からステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン500 mg/day,経静脈投与)を5日間行い,開始直後から両下肢筋力は改善を認めた.感染症,せん妄,糖尿病のリスクを考慮し,後療法はプレドニゾロン20 mg/day(0.3 mg/kg/day)に減量して開始した.入院第26病日からステロイドパルス2コース目を行い,四肢遠位筋筋力が軽度改善した.入院第35病日の末梢神経伝導検査では,右正中神経の遠位潜時および複合筋活動電位が改善し,右腓腹神経の感覚神経活動電位が導出された(Fig. 2).入院第54病日に車椅子移乗が可能となった.異常感覚は両手指,両足趾に残存したが,短距離の独歩が可能となり,入院第84病日に自宅退院した.

Fig. 1 Clinical course of the case.

IVIg administration followed by thorough treatment with intravenous and oral corticosteroids resulted in an improvement of the MRC score. The patient could walk by himself on discharge (day 84). IVIg: intravenous immunoglobulin, mPSL: methylprednisolone, PSL: prednisolone, MRC score: Medical Research Council score (total MMT scores of the deltoid, biceps brachii, triceps, wrist extensor, finger extensor, first dorsal interossei, iliopsoas, hamstrings, tibialis anterior, and extensor hallucis longus muscles).

Fig. 2 Results of nerve conduction study after immune therapy.

The nerve conduction study showed improvements on day 35 after administration of IVIg, intravenous methylprednisolone and oral prednisolone therapy. The distal motor latency of the right median nerve was shortened and the temporal dispersion improved with increased CMAP. The SNAP of the right sural nerve could be evoked after treatment. IVIg: intravenous immunoglobulin, mPSL: methylprednisolone, PSL: prednisolone, CMAP: compound muscle action potential, SNAP: sensory nerve action potential, Rt: right.

考察

免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験(59試験,9,208例)の検証で,抗PD-1阻害薬による神経筋疾患の発症率は6.1%とされており,さらに抗cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4(CTLA-4)阻害薬を併用することで12.0%と増加する3.これらのうちCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE:有害事象共通用語規準)でGrade 3~4の重症神経筋疾患は1%未満と考えられており,重症筋無力症,筋炎,ニューロパチー,横断性脊髄炎,脳炎などが報告されている4

irAEとしてのニューロパチーは大半が初回投与から3か月以内に発症するとされる5.Massachusetts General Hospitalから報告された免疫チェックポイント阻害薬関連のニューロパチーの調査では,脳神経障害,non length-dependentな多発神経根炎,小径線維ニューロパチー,ANCA関連多発単神経炎,後根神経節炎,length-dependentな運動感覚性軸索障害,神経痛性筋萎縮症に分類され,多様な病型から構成されていると考えられる6.また免疫チェックポイント阻害薬によるニューロパチーの神経電気生理学的所見の検討では,急性脱髄性ニューロパチーが最多(56.5%)で,有痛性軸索障害(21.7%)が次いで多かった7.我々の症例はペムブロリズマブ初回投与の10日後に発症し,末梢神経伝導検査で脱髄性変化を認めた.入院第35病日に施行した末梢神経伝導検査では,正中神経の遠位潜時及び複合活動電位振幅と,腓腹神経の活動電位振幅は改善したものの,正中感覚神経活動電位は導出できないままであった.神経終末端部を中心に伝導障害の改善が見られ,sural sparing patternに類似した所見となったことは,本例が遠位部に強い脱髄を起こし,治療にて速やかに改善したことを示唆している8.既報告を渉猟した限り,同様の改善を認めた症例はなく,本例で見られた所見が免疫チェックポイント阻害薬による末梢神経障害に特徴的かどうかは不明であるが,脱髄だけでなくイオンチャネルの機能不全なども関与している可能性があると考えられた910.なお,本例では抗ガングリオシド抗体は陰性だったが,GM2,GalNAc-GD1aのIgM抗体陽性のPD-1阻害薬関連AIDPが報告されている11

米国臨床腫瘍学会のirAEガイドライン4では,GBSの治療として免疫チェックポイント阻害薬の中止,IVIgや血漿交換療法に加えて,高用量のメチルプレドニゾロン内服が有効とされており,重症例ではステロイドパルス療法の併用が推奨されている.本例では,IVIgを投与した後にステロイドパルス療法を開始し,直後から症状が改善した.IVIgによる治療効果が出現し始めたタイミングと重なったという可能性は残るが,症状改善が見られない経過において,ステロイドパルス療法は検討されうる治療法であり,併用することは妥当と考えられた.また,せん妄,易感染性,糖尿病のリスクを考慮して,プレドニゾロン20 mg/day(0.3 mg/kg/day)と低用量を選択したが,ステロイドパルス療法と併用することで,増悪することなく良好な治療効果を認めた.このように,副腎皮質ステロイドの有効性が高い点が,従来のGBSとの大きな相違点と考えられる.

抗PD-1阻害薬による神経筋疾患のirAEのsystematic reviewでは,ニューロパチーは免疫治療の反応性が良好で,95%が一定の症状改善を認め,観察期間内での死亡例がなかったと報告されている12.しかし,抗CTLA-4阻害薬によるGBSでは腸閉塞,呼吸不全により死亡した症例13が存在する.また,インフルエンザウイルスワクチン投与後に発症したGBSがニボルマブ投与により急性増悪し,死亡した症例もある14.さらに,免疫チェックポイント阻害薬による慢性炎症性脱髄性多発神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy,以下CIDPと略記)も少例ながら存在し1516,ステロイド漸減中に症状が増悪し,ステロイド増量により症状改善した例が報告されている15

免疫チェックポイント阻害薬によるGBSの病態には制御性T細胞が関連している可能性が指摘されている14.制御性T細胞はT細胞の免疫不応答を誘導し,過剰な自己免疫を抑制することで,自己免疫性疾患の発症予防に重要な役割を担っている.従来のGBSにおいて,急性期に末梢血液中の制御性T細胞が減少し,回復期には正常化することが知られており17,制御性T細胞に関連した一過性の自己免疫亢進が背景にあると考えられる.他方,PD-1は制御性T細胞にも発現しており,PD-1刺激シグナルは制御性T細胞を活性化し,免疫抑制作用を増強することが知られている18.すなわち抗PD-1阻害薬は,制御性T細胞を抑制することで自己免疫寛容の破綻をきたす可能性がある.

元来,GBSは単相性の経過をとるが,免疫チェックポイント阻害薬による場合は,遷延する薬効による免疫寛容の破綻が背景にあるため,CIDPの様に慢性の病態を惹起する可能性がある.そのため,本症例の様に副腎皮質ステロイドの長期投与が病態抑止に有効と考えられる19

免疫チェックポイント阻害薬によるニューロパチーは多様な病型で構成され,病態が解明されていない点も多い.従来のGBSと異なり,免疫チェックポイント阻害薬によるGBS様のAIDPは,免疫チェックポイント阻害薬の中止,IVIgに加えて,ステロイド治療を積極的に併用することが重要と考えられる.

Acknowledgments

謝辞:抗ガングリオシド抗体を測定いただきました近畿大学医学部脳神経内科 楠進先生に深謝いたします.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2020 Societas Neurologica Japonica
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