Rinsho Shinkeigaku
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Review
Trends and challenges in clinical research on cerebral small vessel disease, with a particular emphasis on type-1 small vessel disease
Yusuke Yakushiji
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2020 Volume 60 Issue 11 Pages 743-751

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要旨

脳小血管病(cerebral small vessel disease,以下SVDと略記)とは,脳微細血管劣化に伴う効率的な脳内微小循環・代謝・ネットワーク維持の困難な状態,及びそれらによる認知・身体機能低下状態を指す.高血圧性細動脈障害を基盤とした1型SVDは,白人に比べ東アジア人に多い.近年,脳小血管負荷を包括的に半定量化するための取り組み,すなわちMRIマーカー評価に基づいたSVDスコア化が注目されている.この概念は「脳小血管負荷に実用的な閾値はあるか?」という新たな疑問を生んだ.SVD画像マーカーの自動解析手法の開発はこの疑問を解き,1型SVD患者への最適な介入法の発見につながるであろう.

Abstract

Cerebral small vessel disease (SVD) is defined as difficulty maintaining efficient microcirculation, metabolism, and neural networks caused by degeneration of small vessels of the brain, as well as cognitive or physical dysfunction caused by this difficulty. The most common SVD (i.e., type 1 SVD), which is driven by hypertensive arteriopathy, appears to be more prevalent in people with East Asian ethnicity than in Whites. Recent attention has been paid to a SVD scoring system using major MRI markers of SVD in an attempt to comprehensively semi-quantify the SVD burden in the brain. This concept raised a new question: “Is there a practical threshold for the comprehensive SVD score?” The development of computational methods to assess SVD imaging markers could answer this question, and may help identify the optimal intervention for patients with type 1 SVD to prevent stroke and dementia.

はじめに

脳小血管病の概念は2010年以降に明確化され,脳卒中・認知症に強く関連することがわかってきた.関連する画像診断技術の発達は今後も進み,病態解釈に基づく予防的介入が可能となるのもそう遠くない将来であろう.しかし,脳小血管病という用語は未だ広く認知されているとは言い難い.筆者が察するに,脳小血管病が病理学的に不均一な小血管障害の総称で,定義が曖昧であること,直接観察ができないこと,脳卒中や認知症の一歩手前の(深刻でない)状態と捉えられていることなどがその理由と思われる.本稿では,その定義を見直し,行われている研究の方向性と今後の課題を説いていくが,疾患スペクトラムが広いため,各論部分では,生活習慣病関連のcommon diseaseである1型脳小血管病を中心に概説する.

“脳小血管病の定義”

脳小血管は,小・細動脈,毛細血管,および小静脈を含み,脳内で最も代謝の活発な大脳核や白質線維間のネットワーク機能を最適に維持する臓器である1.“脳小血管病(cerebral small vessel disease,以下SVDと略記)”という用語は,1980年代に登場したが,多くの神経病理医は静脈に注目していなかったことに代表されるように2,病理学,臨床神経学,神経放射線医学という異なる学術領域で,ニュアンスの違い,誤解を引きずりながら使用されてきた.脳小血管は生前に直接確認が困難であるため,SVDに付随するCT・MRIなどの神経画像上の脳病変を通じて臨床的意義の研究がなされてきた.このような背景から,神経放射線医学的には画像上の脳病変自体がSVDと同義語として用いられていることがある.また,SVD付随病変はラクナ,白質病変などの虚血メカニズムで発生するもののみと誤解されている場合もある.しかし,磁化率強調MRIの登場で検出可能となった脳微小出血(cerebral microbleeds,以下CMBsと略記)のような出血起源のものもSVD付随病変に含まれるようになった.以上の事項を網羅すると,SVDとは「脳内の微細な動・静脈,及び毛細血管が何らかの原因で障害され,脳内微細血管周囲で営まれる適切な循環・代謝・神経ネットワーク維持が困難となる器質的・機能的変化を伴う症候群」と定義できる.これらの破綻による症候群の代表が脳卒中,認知症である.

SVDの病理分類

PantoniはSVDを病理学的に6型に分類することを提唱した(Table 13

Table 1  Pathological classification of SVD.
    Pathogenesis Notes
Type 1 Arteriolosclerosis (or age-related and vascular risk factor-related SVD) Pathological findings include fibrinoid necrosis, lipohyalinosis, microatheroma, microaneurysms, segmental arterial disorganization
Type 2 CAA Sporadic or hereditary
Type 3 Inherited or genetic SVDs
(distinct from CAA)
Related diseases include CADASIL, CARASIL, hereditary multi-infarct dementia
of the Swedish type, MELAS, Fabry’s disease, hereditary cerebroretinal vasculopathy, hereditary endotheliopathy with retinopathy, nephropathy and stroke, small vessel diseases caused by COL4A 1 or 2 mutations
Type 4 Inflammatory and immunologically mediated SVD Related diseases include Wegener’s granulomatosis, Churg-Strauss syndrome, microscopic polyangiitis, etc.
Type 5 Venous collagenosis
Type 6 Other SVD Related diseases include post-radiation angiopathy and non-amyloid microvessel degeneration in Alzheimer’s disease

SVD = cerebral small vessel disease; CAA = cerebral amyloid angiopathy; CADASIL = cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical ischemic strokes and leukoencephalopathy; CARASIL = cerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical ischemic strokes and leukoencephalopathy; MELAS = mitochondrial encephalopathy with lactic acidosis and stroke-like episodes; COL4A = type IV collagenα. The table was generated from the data of Pantoni2.

1型SVDは細動脈硬化,もしくは加齢と血管リスク因子(特に高血圧)に関連したもので,病理学変化として中膜の平滑筋消失,線維性硝子物質の沈着,血管狭窄,フィブリノイド壊死,脂肪硝子変性,微小粥腫,微小動脈瘤,分節状動脈破壊を伴う.随伴する虚血性変化にはラクナ病変やラクナ梗塞が,出血性変化にはCMBsや脳出血がある.また白質血管では中膜平滑筋細胞の増殖と脱落,中・外膜の膠原線維の増生を特徴とするfibrohyalinosisが見られる.これは,血管弾性の喪失による脳灌流圧の変化に対する血管反応性低下を介して,白質血流低下による大脳白質病変の原因となる.

2型SVDは孤発性,もしくは遺伝性の脳アミロイド血管症(cerebral amyloid angioapthy,以下CAAと略記)で,髄膜や大脳皮質の毛細血管,小・中サイズの動脈・細動脈の血管壁への脳アミロイド蛋白沈着を特徴とする.CAAの病型は沈着する脳アミロイド蛋白の種類で分類される.その種類には,アミロイドβ(Aβ),シスタチンC,プリオン蛋白,ABri/ADan,トランスサイレチン,ゲルゾリン,ALがあるが,ここでは頻度が最も高い “Aβ沈着によるCAA” を論じる.アルツハイマー型認知症で見られる老人斑はAβ42が主だが,CAAでの血管に沈着するものはAβ40が主である.CAAは侵される血管サイズの範囲により,CAA1型(5 μ~2 mm),CAA2型(10 μ~2 mm)に区別される.すなわち,5 μ~10 μの毛細血管も障害されうるのはCAA1型である.CAA1型と2型では,アポリポ蛋白Eのε2やε4アレルへの関連や4,血液脳関門の透過性などが違うため5,異なる病理背景を有すると考えられている.Aβ沈着は血管平滑筋の外側から始まり,平滑筋細胞の変性を経て,最終的には中膜全体がアミロイド線維で置換される.障害が高度になると,フィブリノイド壊死,微小動脈瘤,中膜・外膜間に空隙が生じるdouble barrel appearanceなどの形態変化を生じ,出血源となる.

3型SVDはCAAを除いた遺伝性のもの,4型SVDは炎症性・免疫介在性のもの,5型は細・小静脈周囲の膠原線維の増生を伴う血管硬化・閉塞を伴うvenous collagenosis,6型はその他(放射線治療関連血管症など)であるが,詳細は原著を確認されたい3

研究ツールとしての出血性SVD

ヒトのSVD研究の進歩は,付随する画像所見(SVD関連病変)を捉えるMRI診断技術の向上によるところが大きい.SVD関連病変の用語,定義に関してはSTandards for ReportIng Vascular changes on nEuroimaging(STRIVE)として取りまとめられおり6,最近のMRIを用いたSVD研究では,このSTRIVEに準拠して行うのが慣例である.これらを解釈すると,脳血管障害イベントとの時間的な関連(急性病変か否か),発症機序(虚血,出血,その他)で分類することができる(Table 2).これらの中で,CMBsはその分布パターンでSVD病理を推定することが可能な点で特徴的である.すなわち,脳深部・テント下CMBs(脳葉CMBsとの混合型も含む)は高血圧に関連する1型SVDを,脳葉限局性CMBsは2型SVDを示唆する7.このように背景にある優勢なSVD病理を推定できる点,並びに病理学的裏付けのある読影法・評価スケールがあることから8)~10,CMBsは様々なSVD研究で神経画像マーカーとして利用されている.但し,患者コホートに比べ,一般住民コホートでの脳葉限局性CMBsのCAA診断率は低いことは知っておかなければならない11.Acute convexity subarachnoid hemorrhage(SAH)やcortical superficial siderosis(cSS)は,2型SVDに特異的なマーカーである.前者は,軟膜下出血の急性期にCTやMRI fluid-attenuated inversion-recovery(FLAIR)画像で見られるが,無症候のことも多く,タイムリーな検出が困難である.cSSは,acute convexity SAHが洗い流された後に残存する軟膜下ヘモジデリン沈着を見ており,より遭遇する可能性は高い.それでもCMBsに比べると12,一般住民1314,認知症疾患1516,脳卒中17のいずれの集団でも検出頻度が非常に低い(Fig. 1).cSSはCAAを抽出する研究にはマーカーとして優れるが18,1型・2型SVDを比較する研究用のマーカーとしては不適切であろう.

Table 2  STRIVE classification of SVD-related lesions on brain MRI.
Acute lesions Chronic lesions
Ischemic nature Recent small subcortical infarct Lacune of presumed vascular origin
WMH of presumed vascular origin
Microinfarcts
Hemorrhagic nature Cerebral hemorrhage Cerebral microbleed
Acute convexity SAH cSS
Other Brain atrophy
Perivascular space

STRIVE = STandards for ReportIng Vascular changes on nEuroimaging; SAH = subarachnoid hemorrhage; SVD = cerebral small vessel disease; WMH = white matter hyperintensity; cSS = cortical superficial siderosis.

Fig. 1 The prevalence of CMBs and cSS in different disease settings.

The graph show the prevalence (%) of CMBs and cSS in the general population and in patients with mild cognitive impairment, Alzheimer’s disease, ischemic stroke, and intracerebral hemorrhage. Bars indicate the 95% confidence interval (CI). Regarding the prevalence of CMBs (data were extracted from Yakushiji12)), the values (95% CI) are 5.0% (3.9–6.2%), 13.8% (8.2–19.4%), 23.0% (17.0–30.0%), 33.5% (30.7–36.4%), and 60.4% (57.2–63.6%), respectively. Regarding the prevalence of cSS (data were extracted from the following references: general population13)14); mild cognitive impairment and Alzheimer’s disease15)16); ischemic stroke and intracerebral hemorrhage17)), the values (95% CI) are 0.9% (0.5–1.3%), 2.0% (0.7–3.2%), 4.9% (3.2–6.6%), 1.0% (0.1–1.9%), and 4.7% (1.0–8.4%), respectively. CMBs = cerebral microbleeds; cSS = cortical superficial siderosis.

1型SVDの人種差

2012年,筆者らは本邦健常人の横断的研究結果として,脳深部・テント下CMBsが認知機能低下に関与することを報告したが19,同年発表のオランダの一般住民対象研究では,脳葉限局性CMBsが認知機能低下に関連していた20.この二つの論文を深読みすると,興味深いことに,CMBs保有者内の脳深部・テント下CMBsの割合は,日本人では63%で,オランダ人では32%であった.そこで筆者らは,「SVD病理の分布には人種差があると仮説を立て,国際共同研究を企画した.11件のコホート研究(東アジア住民群:日本6件,韓国1件,中国1件;西洋住民群:米国1件,アイスランド1件,オーストラリア1件)より13,985名の個別データを収集し,individual participant data meta-analysisを行った21.結果は東アジア住民群で脳深部・テント下CMBs保有率が2倍以上高く(OR 2.78, 95% CI 1.77~4.35),その数も2.8倍多かった(Prevalence ratio 2.83, 95% CI 1.27~6.31).脳葉限局性CMBsに関しては,保有率,数ともに二群間で差はなかった.すなわち,東アジア人では1型SVDが特に多いことが示された.細動脈硬化による血管破綻の代表疾患である脳出血の頻度が「日本人では欧米の2倍である」22ことを加味すると,1型SVDは東アジア人に多いのはほぼ事実であろう.

Fig. 2 Candidates for factors that facilitate CMBs with type 1 SVD pathology.

The candidates for factors that facilitate CMBs with type 1 SVD pathology (e.g., medical environment, diet culture, genetics, and other) are shown. These candidates cause uncontrolled mid-life hypertension or inflammation, and ultimately BBB disruption, which represent the underlying pathogenesis of deep or infratentorial CMBs. The right figure (brain) shows representative locations for CMBs with type 1 SVD pathology, including territories of white matter perforating arteries, basal ganglia perforating arteries, and penetrating arterioles originating from pontine arteries. BBB = blood brain barrier; CMBs = cerebral microbleeds; SVD = cerebral small vessel disease.

東アジア人と1型SVD

このように我々の仮説は,1型SVDの人種別頻度差という形で立証されたが,東アジア人で1型SVDが多い理由は不明である.国別,人種別で差が生じ得る事実から,1型SVD進行の促進因子候補を,①医療環境,②食文化,③遺伝子,④その他,に分けて考察してみたい(Fig. 2).①に関して,1990年代の西洋諸国と東アジアでの高血圧医療状況を比較した研究があるが,高血圧の認知・介入の時期,コントロール状況において西洋諸国と日本では大きく変わらなかった23.②に関しては,日本・韓国での塩分摂取量は12.7 g/日と,西ヨーロッパの8.8 gと比べ多く,一定の影響はあるだろう.③については,日本人では,塩分感受性高血圧遺伝子(αアデュシン,アルドステロン合成酵素,G蛋白β3サブユニットなど)の遺伝子多型の頻度が白人よりも高く,日本人は食塩感受性の高い高血圧人種であると考えられている24.これらの知見からは,高血圧は日本に多いと考えてよいはずだが,前述の我々のメタアナリシス研究では,高血圧の頻度は白人で高かった.このことは,高血圧への血管内皮感受性の遺伝的差異,すなわち同程度の高血圧暴露であっても,続発する血管内皮障害の程度には人種的な差異があることを示唆するのかもしれない.事実,内皮障害の指標とされる循環炎症性内皮細胞(circulating inflammatory endothelial cells),並びにCMBsの炎症性バイオマーカーと期待されている可溶性E-selectionは,同程度の高血圧において,白色人種よりも黒色人種で多いなど2526,炎症介在性内皮障害には人種差があると考えられている.④については,筆者は口腔内衛生の人種差が1型SVDに関与する可能性に注目している.齲歯の主因であるStreptococcus mutansS. mutans)は,Cnmタンパクを菌体表層に発現しているか否かでCnm陽性と陰性に分けられ,前者はコラーゲン結合能を有する27.2015年に,CMBs検出者では,未検出者に比べCnm陽性S. mutans保菌者やCnmコラーゲン結合活性上昇者が4~5倍多く,Cnmコラーゲン結合活性上昇はCMBs検出の強力な関連因子である(オッズ14.4,95%信頼区間5.46~38.1)ことが示された28.この関係は1型SVDの表現型である脳深部・テント下CMBsで強い29.この背景には,細動脈硬化により脳小血管から露出するコラーゲンに結合したCnm陽性S. mutansが,局所炎症を惹起し,血管破綻に至らしめ,最終的に出血を生じるというプロセスが考えられている.1980~90年代の小児から採取された唾液中で調べられたCnm陽性S. mutans保菌率は,フィンランド人に比べ,日本人で多かった30.北米の小児でも,日本人より比較的少ない保菌率であること31S. mutansの定着は幼少期にほぼ完成してしまうことを鑑みると,成人日本人でも保菌率は欧米人に比べ高いのかもしれない.すなわち, “国・人種別の1型SVD保有率にはCnm陽性S. mutans保有率が関連する” という仮説も生まれる.

1型SVDと脳卒中・認知症

CMBsの分布様式が,脳卒中や認知症の発症病型に関連することがわかってきた(Table 3).一般住民を対象としたオランダの縦断研究では,全脳卒中,脳梗塞,脳出血のいずれにも一貫して関連したのは脳深部・テント下型CMBs(脳葉型も有する混合型を含む)であった32.一般住民におけるCMBs分布パターンと認知症発症病型との関連を調べた縦断的研究は2件ある3334.これら結果からは,脳深部・テント下型CMBs(脳葉型も有する混合型を含む)が全認知症や血管性認知症のマーカーのようである.このように一般住民では1型SVD病理が脳卒中・認知症発症の鍵となっている.人種別の1型SVDの頻度を考えると,一般住民における1型SVD進行予防介入は東アジア人でより効果的だろう.

Table 3  Population-based study that investigated the association distribution of CMBs and subsequent stroke or dementia.
All cause stroke Ischemic stroke Intracerebral hemorrhage
Rotterdam Study32)
 Any CMBs HR 1.71 (1.08–2.73) NS HR 5.68 (1.68–19.27)
 Strictly lobar CMBs NS NS HR 5.32 (1.39–20.37)
 DI CMBs* HR 2.89 (1.61–5.20) HR 2.45 (1.25–4.81) HR 5.98 (1.08–33.16)
All cause dementia Alzheimer’s disease Vascular dementia
Rotterdam Study33)
 Any CMBs HR 1.73 (1.03–2.90) HR 1.83 (1.00–3.33)
 Strictly lobar CMBs NS NS
 DI CMBs* HR 2.42 (1.18–4.96) NS
AGES–Reykjavik Study34)
 Any CMBs NS NS NS
 Strictly lobar CMBs NS NS NS
 DI CMBs* NS NS p = 0.010

CMBs = cerebral microbleeds; DI = deep or infratentorial; HR = hazard ratio; NS = not significant. * with or without lobar CMBs. The table was generated from the data of Akoudad32)33) and Ding34).

SVDの包括的評価法

各々のSVD付随病変は共存することが多く,完全に独立した所見ではない12.2013年にそれら病変の数・程度を評価し包括する概念としてtotal SVD scoreが提唱され35,その翌年に現行版が発表された36.Total SVD score評価には,STRIVEで規定された頭部MRI上の推定血管原性ラクナ(lacune of presumed vascular origin),CMBs,推定血管原性白質高信号(WMH of presumed vascular origin),血管周囲腔の所見が用いられる(Fig. 36.後二者は重症度判定であり,各々Fazekas分類37やエジンバラ大学が提唱する重症度分類38が採用されている.Fig. 3に示す規定を満たす所見があれば,各々1点が加算され,4点が最重症となる.Staalsらが発表した現行版では36,本スコア上昇が,年齢,男性,高血圧,喫煙,ラクナ梗塞に関連した.順位回帰分析で示されたこの結果は,本スコア1点上昇に伴う各々の血管リスクと関連性(オッズ)の上昇は常に等しいことを証明している.すなわち,スコア構成要素の各1点の重みは概ね等しいと解釈して良い.本邦の健常人においても,本スコア上昇には加齢,高血圧の有無,血圧値高値,および糖尿病が関連した39.つまり,本スコアは加齢や生活習慣病により生じる細動脈硬化を基盤とした1型SVDの重症度指標といえよう.

Fig. 3 Definitions of total SVD score components.

The figure, generated from references 636) and 37), shows visual assessments, definitions, assigned scores, and MRI positive examples* of components for the total SVD score. A) A FLAIR image shows a lacunae with a hyperintense rim adjacent to the left lateral ventricle. B) A gradient echo T2*-weighted MRI shows 5 small, round, and hypointense lesions in the deep regions of the brain. C) A T2-weighted MRI shows dot-like hyperintense lesions (11 or more) in the bilateral basal ganglia. D) A FLAIR image shows patchy confluent lesions with hyperintensity on deep white matter regions (Fazekas grade 3). * The presented MRIs are our original images. FLAIR = fluid-attenuated inversion recovery; PVS = perivascular spaces; SVD = cerebral small vessel disease; WMH = white matter hyperintensity.

Fig. 4 Kaplan–Meier curves for the cerebro-cardiovascular event-free survival rate stratified by total SVD score (0, 1, and 2 or more points).

SVD = cerebral small vessel disease. Permission to reuse the figure has been granted by the publisher (SAGE).

SVD疾患スペクトラム内の閾値

神経画像的な観点を例にとっても,ラクナ病変1個のみの場合から,ラクナ・CMBs多発と重症白質高信号を伴うビンスワンガー病に至るまでと40,SVDは広い疾患スペクラムを有することがわかる.Total SVD scoreというコンセプトの登場は「どこからが注意すべきSVDなのか?」という新たな疑問を突きつけた.すなわち,本スコアの何点が実用的な将来の疾患発症の閾値になるのかという課題が生じ,その答えが様々な縦断的コホート研究で示されつつある.虚血性脳卒中患者を対象とした研究では,脳卒中再発に関しては3点以上がリスクであり(score 3, hazard ratio(HR)2.02, 95% confidence interval(CI)1.29~3.18; score 4, HR 3.20, 95% CI 1.83~5.59)41,全死亡のリスクは4点であった(HR 2.11, 95% CI, 1.36~3.25)42.一般住民1,651名を平均7.2年間の追跡をしたロッテルダム研究では,2点以上が脳卒中発症のリスク(score 2, HR 2.92, 95% CI 1.32~6.49; score 3~4, HR 3.55, 95% CI 1.29~9.78)であった43.我々が行っている脳ドック受診者を対象とした Kashima Scan studyでは,脳卒中ハイリスク状態や頭蓋内主幹動脈病変のない1,349名(平均年齢:57.7歳,男性:47%)を対象に平均6.7年の追跡を行った44.ベースラインのスコアと脳心血管イベント(脳卒中,一過性脳虚血発作,虚血性心疾患,急性心不全,および大動脈解離)の発症率の関連を調べた結果,スコア0点群では1.5%(2.3/1,000人・年),1点群では3.3%(4.8/1,000人・年),2点以上群では11.5%(17.7/1,000人・年)と,total SVD scoreが高いほどイベント発生率が高かった(Fig. 4).本スコア別グループ単位が1上昇する毎にイベント発症例のハザード比は2.17上昇した(95%信頼区間:1.36~3.46).つまり,スコア0点群に比べ,2点以上群では脳・心血管イベント発生のオッズは4.71(=2.172)であった.認知症発症に関しては,前述のロッテルダム研究では,ベースラインの本スコアとの関連はなかった43.中国の一般住民456名を4.6年間追跡した研究でも,本スコア4点とMMSE低下幅との関連しか見出されていない45.このように,対象とするコホートとアウトカム毎にtotal SVD scoreの至適カットオフ値は異なる.現時点では,本スコアは脳・心血管イベント・死亡の指標であるが,認知症についてはまだ十分な根拠がない.また,脳・心血管イベントを予見する本スコアの閾値は,健常人で低く(2点以上),脳卒中患者では高い(3点以上).この閾値の違いは,健常人に比べ,脳卒中患者ではベースライン時のSVD重症度が進行しているためだろう.

SVDの自動評価

Total SVD scoreという概念の誕生は,SVD(特に1型SVD)の研究領域に一石を投じた.その後,2型SVDのマーカーであるCAA版total SVD scoreも登場している46.これらのコンセプトはシンプルであり,将来の脳卒中・認知症発症のリスク層別化への有用性の探索を中心に,研究は今しばらく活発に行われるであろう.しかし,目視による各所見の評価は未だ煩雑で,現状では臨床現場への普及は困難である.これを打開するには自動定量・定性化が現実的な解決法であろうが,現時点ではまだ開発途上の段階である47.SVD付随病変のコピューター解析に関しては,ラクナや血管周囲腔については再現性の証明された解析法はまだない.脳萎縮,白質高信号,及びCMBsに対しては,再現性のある自動解析法が報告されているが,それらの施設間一致率は,磁場強度,シークエンスタイプ,装置,ヘッドコイルなどの違いによりばらつきが多くなる.将来的にはこれらMRIパラメーターの違いの補正を可能にする大規模研究が必要である.

1型SVD進展修飾薬の展望

1型SVDが加齢の影響を受ける以上,その根治薬は望めない.よって,1型SVDの現実的治療は,生活習慣病による影響を排除し,年齢相応の脳小血管構造を維持する進展修飾になる.1型SVDの予防的介入効果のエビデンスは,高血圧治療による脳出血予防効果のエビデンス,抗血小板薬長期多剤併用による脳出血増加のエビデンスなど,参考になる支持所見が揃っている.すなわち,安全かつ適切な降圧治療,抗血栓薬治療が1型SVD進展予防の大前提である.SVD進展修飾効果を期待して行われている既存薬の臨床試験としては,シロスタゾール(ホスホジエステラーゼ3阻害薬),タダラフィル(ホスホジエステラーゼ5阻害薬),アロプリノール(尿酸生成阻害薬),セロリに含まれるブチルフタリドがある48.この中でもシロスタゾールは,脳卒中二次予防効果に関する大規模臨床試験で,ラクナ梗塞患者で再発を抑制し49,かつ脳出血も増やさなかったため5051,1型SVD予防の有望薬剤であろう.同薬剤は,2型SVDであるCAAのモデルマウスの血管へのAβ沈着を予防することも証明されている52.これらはシロスタゾールによる内皮機能保護や平滑筋細胞増殖抑制を通じた,血栓形成予防,血管保護51,及び血管周囲腔のAβ排泄能維持によると考えられている53

おわりに

我々が臨床でよく遭遇するSVDは,加齢と高血圧などによって惹起される1型SVDである.1型SVDは東アジア人に多く,我々日本人こそが,本領域の予防法開発にリードしていくべきである.SVD研究の現実的目標は,高齢者での脳卒中・認知症という老年期の2大神経疾患への進行過程修飾である.

Acknowledgments

Cnm陽性Streptococcus mutansに関する最新知見をご教授いただいた英国University of SouthamptonのClinical and Experimental Sciences教室 齊藤聡先生に深謝します.

Notes

※著者に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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