Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Elevation of cerebrospinal fluid anti-cyclic citrullinated peptides antibody index is useful for rheumatoid meningitis preceding neurological symptoms without arthritis: a case report
Minako YamaokaTesseki IzumiNobuyuki EuraRyota SasakiTakao KiriyamaKazuma Sugie
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2020 Volume 60 Issue 9 Pages 631-635

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要旨

症例は62歳女性である.亜急性に異常行動,意識障害,全身痙攣,認知機能障害を呈し,頭部MRI 拡散強調画像とFLAIR画像で左半球優位に前頭葉,頭頂葉の脳溝に沿って高信号域を認めた.血清と髄液での抗cyclic citrullinated peptides(CCP)抗体上昇と髄液中抗CCP抗体価指数の上昇から,リウマチ性髄膜炎を疑った.ステロイドパルス療法と後療法により神経症状は改善し,髄液中抗CCP抗体は陰性化した.ステロイド漸減に伴い関節症状が生じ関節リウマチの診断に至った.本例は関節症状が顕在化する前に神経症状が先行したリウマチ性髄膜炎で,髄液中抗CCP抗体価指数が診断に有用であり,髄液中抗CCP抗体値の経過が治療の評価に有用と考えられた.

Translated Abstract

We report a 62-year-old female with rheumatoid meningitis. She presented with mental disorder, loss of consciousness, generalized seizures, and cognitive impairment. Brain MRI demonstrated high intensity lesions and abnormal enhancement along the left frontal and parietal sulci. Her serum and cerebrospinal fluid were positive for anti-cyclic citrullinated peptides (CCP) antibody, and the antibody index of cerebrospinal fluid anti-CCP antibody increased, which led us to suspect rheumatoid meningitis. Her symptoms improved immediately by methylpredonisolone pulse therapy and anti-CCP antibody turned negative in cerebrospinal fluid. However, she revealed arthritis with the reduction of betamethasone and was diagnosed as rheumatoid arthritis. We suggest that the elevation of antibody index of cerebrospinal fluid anti-CCP antibody is useful in the diagnosis of rheumatoid meningitis preceding neurological symptoms without arthritis, and anti-CCP antibody in cerebrospinal fluid may be helpful as the evaluation of the treatment.

はじめに

リウマチ性髄膜炎は関節リウマチの稀な合併症として知られているが,その多くが関節リウマチの診断後に神経症状を呈する1.一部に神経症状が先行する例もみられ,その場合はリウマチ性髄膜炎に特徴的とされるMRIでの軟膜造影像やステロイドへの反応性などが診断の手掛かりとなる2.また,リウマチ性髄膜炎では,リウマチ症状に先立って血清抗cyclic citrullinated peptides(CCP)抗体が上昇した報告や3,経過中に髄液中抗CCP抗体価指数が上昇した報告がある4.今回われわれは,髄液中抗CCP抗体価指数が上昇していたことからリウマチ性髄膜炎の診断に至り,さらに髄液中抗CCP抗体の陰性化が治療の評価に有用と考えられた症例を経験したため報告する.

症例

症例:62歳,女性

主訴:意識障害,異常行動

既往歴:20歳 子宮筋腫.42歳 右人工股関節置換術.

家族歴:叔母 関節リウマチ.

生活歴:喫煙歴 10本/日 × 46年.飲酒歴なし.

現病歴:2018年3月に右側頭葉髄膜腫を指摘され摘出術を受けた.5月に右共同偏視を伴う意識消失発作があり,同月にノーヘルメットでバイクを運転する,高価な買い物を勝手に契約するなどの異常行動も出現し,気分が高揚し興奮している様子もみられた.7月に左人工股関節置換術を受けたが,術後より時間を忘れる,知り合いを認識できないなどの認知機能障害がみられた.8月に意識消失を伴う全身痙攣を起こし,てんかんの診断でクロナゼパムとバルプロ酸が開始された.その頃より微熱があり,その後も床に放尿するなどの異常行動が続き,意思疎通が困難な状態になった.9月中旬に前医に入院となり,髄膜刺激徴候や炎症反応の上昇,頭部MRI異常を指摘された.独語がみられたり,傾眠状態になったりと意識障害が進行したため,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000 mg × 3日間)が施行された.簡単な会話ができる程度に意識障害は改善したが,精査目的に10月上旬に当科転院となった.

入院時現症:身長153 cm,体重38.5 kg,体温36.2°C,血圧135/55 mmHg,脈拍84/分.一般理学的所見に異常を認めなかった.神経学的には意識レベルはJCS I-2,GCS E4V4M6.Mini-Mental State Examination(MMSE)は11/30点(日時の見当識–5,場所の見当識–5,計算–5,遅延再生–1,文の復唱–1,書字理解–1,自発書字–1),Frontal Assessment Battery(FAB)は9/18点(類似性–2,語の流暢性–2,運動系列–2,葛藤指示–3)と失見当識や失語,失算,失書,前頭葉症状などの高次機能障害がみられた.脳神経に異常所見はなく,四肢にMMT 4程度の筋力低下があった.腱反射は両上肢で軽度亢進し,病的反射は陰性であった.感覚系,小脳系,自律神経系に明らかな異常なく,項部硬直やKernig徴候は認めなかった.

検査結果:血液検査では白血球数10,000/μl,血小板数46.3 × 104 μ/μl,血沈32 mm/hと遅延していた.生化学は特記なく,血清リウマチ因子(RF)75 U/ml,抗CCP抗体30.7 U/ml,MMP-3 104.3 ng/mlと上昇を認め,抗核抗体,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体,MPO-ANCA,PR3-ANCAは陰性であった.ウイルス抗体はHSV抗体,VZV抗体,CMV抗体,EBV抗体は既感染パターンであった.髄液検査は,初圧140 mmH2O,細胞数増多はなく蛋白が121 mg/dlと上昇していた.細菌培養や細胞診は陰性であった.髄液中の抗CCP抗体は0.7 U/mlであり,髄液中抗CCP抗体価指数(髄液抗CCP抗体価/血清抗CCP抗体価)/(髄液IgG/血清IgG)は1.5と上昇していた(基準値 <1.3).脳波では背景波は徐波化していたが,突発波は認めなかった.頭部MRIでは,FLAIR画像で左前頭葉と頭頂葉の脳溝に高信号を認め,ガドリニウム造影T1強調画像で同部位に造影効果を認めた.拡散強調画像では左頭頂葉脳溝に沿って点状の高信号が散見された(Fig. 1).

Fig. 1 Brain MRI on admission.

FLAIR images (A, B: axial, C, D: coronal) showed high intensity lesions along the left frontal and parietal sulci. The DWI images (E, F) revealed patchy high intensity lesions in the same area. Gadolinium-enhanced T1-weighted image (G, H) showed abnormal enhancement along frontal and parietal sulci predominantly in the left hemisphere.

入院後経過:前医のステロイドパルス療法後に意識状態は著明に改善し,後療法としてベタメタゾン2 mg/dayを継続した.第21病日にはMMSE 21点(日時の見当識–3,場所の見当識–1,計算–4,自発書字–1)と改善し,同日よりステロイドパルス療法2クール目を行った.第28病日の血液検査ではRF 35 U/ml,抗CCP抗体17 U/lと低下し,髄液中の抗CCP抗体は陰性化した(測定感度 <0.6 U/l).髄液蛋白は113 mg/dlとわずかに低下を認めた.MMSEは24点(日時の見当識–2,場所の見当識–1,計算–3)まで改善し,転院した.ベタメタゾンを漸減し,12月1日に中止したところ,四肢の関節痛や両手背の滑膜炎所見がみられるようになった.血液検査ではRF 69 U/ml,抗CCP抗体29 U/lと再上昇しており,関節リウマチの診断に至った(Fig. 2).

Fig. 2 Clinical course of the patient.

Consciousness level immediately improved after the first mPSL pulse therapy. Administration of oral betamethasone led to the improvement of cognitive dysfunction, and the decrease of anti-CCP antibody in serum and cerebrospinal fluid. When betamethasone was reduced to 1 mg/day, serum anti-CCP antibody elevated again. She complained of arthritis and was diagnosed as rheumatoid arthritis. CCP: cyclic citrullinated peptides, MMSE: mini mental state examination, mPSL: methylpredonisolone, VCM: vancomycin, MEPM: meropenem, LEV: levetiracetam, LCM: lacosamide.

考察

リウマチ性髄膜炎は,関節リウマチの稀な合併症として知られている.症状は頭痛,脳神経障害,痙攣,認知機能障害など多彩であり,頭部MRIの拡散強調画像,FLAIR画像での軟膜高信号や造影効果が特徴的とされている.多くの症例でステロイドが有効であるが,血液,髄液などで特異的所見が得られず,生検なしでは診断が困難なことも多い1

リウマチ性髄膜炎は,関節リウマチの罹患期間が長い症例に多いとされているが,本症例のように関節症状に先行して神経症状がみられる報告もある.既報告61症例の中で神経症状が先行した8例3)~9を表に示す(Table 1).初発症状は頭痛2例,痙攣2例,認知機能障害2例,片麻痺と感音性難聴が1例ずつと様々であり,関節症状なしではリウマチ性髄膜炎の診断は困難と予想される.

Table 1  Clinical characteristics of rheumatoid meningitis without arthritis at the onset of neurological symtoms.
Age/Gender Symptom Blood analysis
Anti-CCP antibody
(U/ml)
CSF analysis
Antibody index
of anti-CCP antibody
Treatment Outcome Reference
37 M Headache + ND DMARD, CS improved 5
58 F Hemiparesis + ND CS, CTX, infliximab improved 6
62 F Cognitive impairment NR ND CS improved 5
63 M Headache + ND CS improved 3
66 M Seizures + ND CS improved 7
67 M Sensorineural hearing loss ND CS, MTX improved 8
77 M Seizures + ND CS, MTX improved 9
84 F Cognitive impairment + 2.46 CS improved 4

CCP: cyclic citrullinated peptides, CSF: cerebrospinal fluid, NR: not reported, ND: not described, DMARD: disease-modifying antirheumatic drug, CS: Corticosteroid, CTX: cyclophosphamide, MTX: methotrexate.

一方,血清抗CCP抗体は,測定された7症例のうち6症例で上昇していた.抗CCP抗体は関節リウマチに特異性の高い自己抗体で,フィラグリンのアルギニン残基をシトルリン残基に変換したシトルリン化フィラグリンのエピトープとなるペプチドを人為的に環状化した分子(CCP)に結合する抗体である10)~12.リウマチ滑膜組織でシトルリン化蛋白が証明されており,関節局所ではシトルリン化蛋白により抗原特異的活性化反応を示したB細胞が抗CCP抗体を産生していると考えられている1213.抗CCP抗体は関節リウマチ発症前から血清に検出されるため6,関節症状のない患者でリウマチ性髄膜炎を疑う契機になり得る.

さらに,髄腔内の抗体産生の指標である髄液中抗CCP抗体価指数の上昇は,リウマチ性髄膜炎の診断に有用である可能性が指摘されている4.既報告8症例の中で,測定された1例で1.3を超えて上昇しており,髄腔内抗体産生が示唆された14.髄腔内の抗CCP抗体産生は,中枢神経でのシトルリン化蛋白産生,あるいは中枢神経へのB細胞浸潤に関与していると考えられ,リウマチ性髄膜炎の病態を表している可能性がある.リウマチ性髄膜炎の病理組織では,髄膜や血管周囲にT細胞リンパ球の浸潤に加えて,B細胞リンパ球が存在していた報告もあり4,中枢神経での抗体産生を示唆する所見かもしれない.

既報告8症例は,全例ステロイドで治療され,4例は免疫抑制剤も併用されていた.転帰は全て良好であった.本例でもステロイドが著効し,神経症状や画像所見の改善とともに,髄液中の抗CCP抗体の陰性化を確認できた.一方で関節症状が先行した例でも,診断がなされず治療介入されなかった多くの例が死亡しており,剖検によって診断されている5.リウマチ性髄膜炎は適切に治療されれば予後良好であり,早期診断と治療が重要といえる.本例のように,神経症状が関節症状に先行する場合は,診断に難渋することもあるが,特徴的な画像所見や血清抗CCP抗体,ステロイドへの反応性などからリウマチ性髄膜炎を鑑別に挙げることが重要である.

本例では,特徴的な頭部MRI画像に加えて,血清と髄液での抗CCP抗体の上昇からリウマチ性髄膜炎を疑った.また,良好なステロイド反応性や,後に関節症状が出現し関節リウマチと確定診断されたことも,本疾患の診断を支持すると考えられる.さらに,本例では症状の改善とともに髄液中抗CCP抗体の陰性化を確認でき,髄液中抗CCP抗体が病勢を反映していることが示唆された.ステロイドに反応性があり,MRI上病変が縮小傾向であったため,患者への侵襲を考え,髄膜生検は行わなかった.しかし,髄膜炎を起こし得る他の疾患が否定的で,髄液中抗CCP抗体価指数の上昇を認めたことから,リウマチ性髄膜炎と診断した.確定診断には生検が必須とされるが,病理所見がなくても,本例のように「片側大脳半球のくも膜下腔のFLAIR,拡散強調像での高信号とそれに沿った髄膜肥厚」という特徴的なMRI所見から早期にリウマチ性髄膜炎の診断に近づくことができ15,早期治療が奏効する可能性がある.診断には髄液中抗CCP抗体価指数の上昇が有用であり,髄液中の抗CCP抗体値を測定することは,診断のみならず治療の評価にも意義があると考える.

Acknowledgments

謝辞:本例の診療に協力いただきました天理よろづ相談所病院総合内科 佐田竜一先生に深謝いたします.

Notes

本報告の要旨は,第133回日本神経学会近畿地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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