臨床神経学
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依頼総説
Duropathiesの概念と画像診断
柳下 章
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2021 年 61 巻 1 号 p. 1-5

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要旨

Kumarは硬膜,特に脊柱管前部硬膜に欠損あるいは損傷があり,髄液漏出を呈する疾患群に対してduropathiesという概念を提唱した.脳表ヘモジデリン沈着症(superficial (hemo) siderosis,以下SSと略記)と多髄節性筋萎縮症(multisegmenal amyotrophy,以下MSAMと略記)はduropathiesである.SSの硬膜欠損は,脊柱管内および頭蓋内手術時の不完全な硬膜閉鎖による例と,原因不明例がある.後者は大多数がC7/Th1~Th2/Th3の前部硬膜にある.MSAMの自験7例全例に,C3脊髄前角にT2強調像にて高信号を認めた.その内6例に硬膜欠損が判明し,C7/Th1~Th2/Th3の前部硬膜にあった.SSと同様な部位であり,同部位のFIESTA(fast imaging employing steady state acquisition)横断像が必須である.

Abstract

Kumar defined duropathies as disorders with dural defects–related cerebrospinal fluid leaks, particularly of spinal anterior dura mater, Superficial (hemo) siderosis (SS) and multisegemental amyotrophy (MSAM) were included in duropathies. Dural defects of SS had two types; one was incomplete closure of the dura in the spinal and cranial operations, the other was a spontaneous defect in the spinal anterior dura mater. In a majority of SS patients, spontaneous dural defects were detected at the levels of C7/Th1 to Th2/Th3 on axial FIESTA (fast imaging employing steady state acquisition) images. Similarly, dural defects in our 6 cases with MSAM were showed at C7/Th1 to Th2/Th3. Axial FIESTA images were crucial on MR imaging. T2 weighted images demonstrated abnormal hyperintense lesions in both anterior horns at the level of C3 spinal cord in all of 7 patients with MSAM. A dural defect in one case was not found.

1. 概念

2012年,Kumarは脊柱管内硬膜の欠損あるいは損傷により神経症状を呈する疾患に対してduropathiesという概念を提唱した1

Duropathiesは主に,脊柱管前部硬膜に欠損あるいは損傷があり,くも膜にも異常を来し,髄液が硬膜外に漏出することにより起こる疾患群と考えられる.

Duropathiesには下記疾患が入る1.特発性頭蓋内圧低下症(spontaneous intraranial hypotension,以下SIHと略記.または特発性脳脊髄液漏出症ともいう)は脊柱管からの髄液漏出により,頭蓋内の髄液が減少し発症する.髄液漏出により,脊柱管内の硬膜外静脈叢の異常が生じ,そこからの出血がくも膜下腔に入ることで,脳表ヘモジデリン沈着症(superficial (hemo) siderosis,以下SSと略記)となる.硬膜欠損部より髄液が漏出し,続いて脊髄が硬膜外に突出することによって,特発性脊髄ヘルニア(idiopathic spinal cord herniation,以下ISCHと略記)になる.さらに,髄液貯留が長い間に脊髄を圧迫して,脊髄前角に異常を呈し,多髄節性筋萎縮症(multisegmenal amyotrophy,以下MSAMと略記)になる.硬膜外くも膜囊胞は髄液貯留による囊胞形成と考えられる2

一人の患者が複数のduropathiesを呈していることも多い.SS患者に明らかなSIHの既往があったり3,MSAMではSSの合併が多い.ISCHの患者に,SSを伴ったり4,SIHを認める例もある5

Kumarは平山病もdurupathiesとした1.しかし,硬膜欠損および髄液漏出もないので,平山病はduropathiesではないと本稿の筆者は考えている.

2. 画像

Durupathiesを画像から考えると,脊柱管内の前部硬膜の描出が必須であり,MRI矢状断像ではT2強調像およびFIESTA法〔(fast imaging employing steady state acquisition)あるいはCISS(constructive interference in steady state)〕,横断像では薄いスライス〔東京都立神経病院(以下,当院)では1 mm厚〕が可能なFIESTAが最も有効である.通常は,脊椎椎体あるいは椎間板に接して描出されない,前部硬膜をいかに描出して,その後方への偏位を診断するかが,duropathies全体において,重要である.

さらに,硬膜欠損を描出するにはFIESTA横断像が必須である.同横断像は撮像範囲が長くなると,撮像時間がかかり,患者の動きによるartifactが多くなるので,できる限り範囲を絞ることが大切である2.本稿ではSSとMSAMについて記載する.

3. 脳表へモジデリン沈着症(SS)

(1) 臨床と病態

SSは古典型(脳幹小脳型)と,皮質型に分かれる.後者は脳アミロイド血管症の関与が考えられており6,本稿では省略する.前者は脳幹と小脳にヘモジデリン沈着(hemosiderin deposition,以下HDと略記)がめだち,小脳失調と難聴,ときに脊髄症を呈する.Wilsonらによると,古典型48例40例(83%)がduropathiesであった(硬膜欠損があった)7

グリア(膠細胞)のある部位のみに,HDが起きるので,脳と脊髄表面のみにヘモジデリンが沈着し,脳神経および脊髄神経には沈着しない.聴神経は脳幹に近い部位はグリアに覆われ,その部位が長いことによってHDが起こり,難聴を呈するとされている78

HDにより,プルキンエ細胞の消失,その結果として,小脳失調が起きるとされる78.最も早期にHDが認められるのは小脳上部である(Fig. 18.小脳天幕があり,髄液の流れが遅くなり,HDが起こると考えている8.経過が長いSSでは,小脳上部に破壊性変化がおよび,小脳実質が消失して見える(Fig. 1).Bergmannグリア細胞が鉄を取り込むとする説もあるが7,異常な細胞であり,SS患者にその細胞が常在するとは考えにくい.

Fig. 1 脳表へモジデリン沈着症(superficial (hemo) siderosis,以下SSと略記).

70代,女性,約20年と5年前に右肩外傷の既往がある.15年前より右優位の両側性難聴がある.3年前に再び外傷を受け,その後,右下肢痛としびれを認め,感覚低下と歩行障害が出現した.右優位の感音性難聴,右下肢の協調運動障害,右下肢の温痛覚,振動覚の低下を認めた.当院の腰椎MRIにて,脊髄にヘモジデリン沈着(hemosiderin deposition,以下HDと略記)が見つかり(非掲載),頭部MRI,頸胸椎MRIを撮像した.

A:T1強調矢状断像(3 T)にて,小脳虫部上部(中心小葉と山頂)に破壊性病変を認める(→).B:T2強調横断像にて,小脳上部に萎縮とHDを認め(→),図Aの病変に対応している.C:FIESTA(fast imaging employing steady state acquisition)矢状断像(頸椎から上部胸椎)(1.5 T)にて,Th1/2~Th3/4に,前部硬膜の後方偏位があり(→),硬膜外に髄液漏出を認める.SSがduropathiesであることを示す.D:FIESTA横断像(Th2/3上部)にて,前部硬膜の後方偏位を認め(→),硬膜外に髄液漏出がある.E:FIESTA横断像(Th2/3下部)にて,前部硬膜中央右に欠損を認める(→).

補足:手術にて,Th2/3前部硬膜に7 × 2 mm大の欠損が確認された.硬膜外腔には出血があったが,出血源は不明だった.術前に髄液中には最大850個/μlの赤血球を認めたが,術後3年半後の髄液検査では消失した.

特発性硬膜欠損によるSSでは,硬膜欠損部位の硬膜外静脈叢からの出血,あるいはその近くの硬膜外に血腫を多くの例にて認めているので,出血源は硬膜外静脈叢であると考えられる89.なぜ,静脈叢からの出血が起きるのかはよく分かっていない.

(2) 画像所見

HDはT2*強調像あるいはsusceptibility-weighted imagingが分かりやすいが,T2強調像でも十分認識できる(Fig. 178.3 TのMRI装置が望ましい.

脊柱管内に出血源があっても,必ずしも,脊髄にはHDは起こらず,小脳上部のみのこともある.

(3) 硬膜欠損(損傷)部位の同定

① 手術後に発生するSS

手術時の硬膜閉鎖が不完全なことにより,髄液が漏れ,偽性髄膜瘤をつくり,その周囲からの出血が長い年月にわたってくも膜下腔に入ることによって発生する.脊柱管内のみでなく,後頭蓋窩にも起こる710.自験例でも,小脳髄芽腫の術後にSSとなった例がある8.術後,1~2年で発症するのではなく,多くの例は10年近く経過している.

② 特発性硬膜欠損によるSS

前部硬膜欠損の大多数は原因不明(特発性)である(Fig. 1).

わが国において,最も多数例のSSにおける硬膜修復術を施行している吉井俊貴(東京医科歯科大学整形外科)によると,特発性前部硬膜欠損20例に修復術を施行した.その部位はC7/Th1が1例,Th1/2,8例,Th2/3,8例 Th3/4,2例,Th5/6,1例である.また,手術未施行であるが,既に欠損部位が判明している3例もすべて,C7~Th3の間にあった.さらに,特筆すべきは,術前にFIESTA横断像にて欠損部位の同定が全例できたことにある11

自験例ではTh4/5であったものが1例あり,手術にて確認されている.それ故に,SSの硬膜欠損部位の同定にはC7~Th3を最初に細かく,ていねいにFIESTA横断像を撮ることが重要である.複数回施行することも必要である.当院の装置では,約5椎体分のFIESTA横断像は6分26秒かかる.おそらく1回の検査時間としては限度に近い.検査時間がそれ以上になると,動いた画像になりやすい.上記部位にないときには.Th3~6の同横断像を追加する.

なお,硬膜修復術を施行し,髄液中に出血しなくなると,それまで多数あった髄液中の赤血球が消失する.それによって,硬膜欠損部位の同定と修復の成功が確認できる(Fig. 18

特発性硬膜欠損部位がFIESTA横断像にてわからない際には,硬膜外の髄液漏出部位に絞って,digital subtraction myelography(DSM)を施行する(下記参照).

4. 多髄節性筋萎縮症(MSAM)

(1) 臨床

一側優位が多いが,両側性の上肢,上肢帯の筋萎縮,筋力低下を来す疾患であり,長い経過を有する例が多い12.自験7例の平均年齢は59.4(48~67)歳であり,男性が6例である.筋萎縮/筋力低下は右優位が4例,両側同程度が1例あった.経過は8ヶ月から20年であるが,中位は10年である.明らかな外傷歴が3例にある.

(2) 画像所見

① SSの合併

SSを画像にて確認できたものが4例,画像ではSSを認めないが,髄液中の赤血球が著明に増加していたのが2例あり,1例を除いて全例にSSの合併が考えられる.小脳失調は2例に,難聴は1例にあった.

② 脊髄前角

C3の脊髄前角両側に7例全例にT2強調像にて高信号を認め,C2~4の範囲に及ぶこともある(Fig. 2).筋萎縮に左右差のあった7例中5例にて患側前角の高信号がより大きい.筋萎縮の原因は前角障害によると考えられる.経過中に急激な筋力低下を1例に認めたが,MRIは前回と同様であり,その変化を捉えられなかった.

Fig. 2 多髄節性筋萎縮症(multisegmenal amyotrophy,以下MSAMと略記).

60代,男性,慢性硬膜下血腫により約26年前に手術の既往がある.12年前,朝覚醒後に左上肢の挙上ができないことに気がついた.妻に左肩の筋萎縮を指摘された.筋力低下はその後,増悪寛解を繰り返し,左足の痺れや痛みも出現した.2年前より,右上肢の筋力低下も認めた.他院にて,MSAMと診断され,当院に入院した.他院のMRIからC3に高信号があるMSAMであり,硬膜欠損部位はC7~Th3前部硬膜にあると考え,同部位のFIESTA(fast imaging employing steady state acquisition)横断像を最初に撮像した(Fig. 2A).

A:FIESTA横断像(1.5 T)にて,C7/Th1において,前部硬膜の後方偏位があり,その中央右に硬膜欠損を認める(→).B:T2強調矢状断像にて,C2~3の脊髄前部に線状の高信号を認める(→).さらに,前部硬膜の後方偏位をC4以下に認める(▶).C:T2強調横断像(C3)にて,両側の脊髄前角に高信号を認め(→),図Aの線状の高信号に対応する.髄液貯留はC3よりもC4以下に大きい.

補足:手術にて,C7/Th1前部硬膜に3 × 1 mmの欠損を認めた.なお,この症例では髄液中に赤血球を認めず,画像上もSSを認めない,唯一の例外であった.

1例のみに後索にも高信号をT2強調像にて認めた.

平山病に認められる片側優位の脊髄萎縮を認めない.

③ 髄液貯留

全例に下部頸椎から上部胸椎にかけて,前部硬膜外に髄液貯留を認める(Fig. 2).経過の短い例ではC3脊髄前方に,硬膜外髄液貯留がある.これが脊髄前角の変性を起こしたと考えているが,病歴が長い例では必ずしも,C3前部硬膜外に髄液貯留を認めない.経過中に硬膜外髄液貯留が減少した可能性はある.前部硬膜外静脈叢の拡大があり,脊髄を軽く圧排しているのが1例にあった.

SIHの症状を示した自験例はないが,1例に上部頸髄にて前部硬膜外静脈叢の拡大,硬膜内静脈の拡大があり,画像はSIH様の所見を示していた.Zakariaらの例は起立性頭痛を認め,頭蓋内硬膜に造影効果があり,SIHを伴ったMSAMである13

(3) 硬膜欠損部位

自験例では7例中6例に判明している(Fig. 2).1例は他疾患にて他院に入院したために,経過を追えず,欠損部位は不明である.欠損部位はC7/Th1が2例,Th1/2が2例,Th2/3が2例である.SSの欠損部位と同様である.自験6例に,SSの要素があり,両者は非常に近い関係にあると考えている.なお,外科医は欠損部位が判明し,SSを伴っていた5例中2例において,欠損部位近くの硬膜外,あるいは硬膜内に血腫を認めている.

(4) DSM

2例において,硬膜欠損部位を描出するために,DSMが施行された12,(DSMの方法については文献14を参照).2例とも漏出部位を指摘できた,1例はFIESTA横断像でも同定でき,同一部位であった.他の1例はFIESTA横断像にて描出できなかった.

この2例のDSMにて,硬膜欠損は硬膜外の髄液貯留部位の範囲内にあった.DSMにて硬膜外に髄液の漏出を認め,その最下部に硬膜欠損があった.DSMでは頭部と頸部を低くし,腰椎穿刺部位を高くして,腹側位で頭側に向けて,造影剤を前部くも膜下腔に流す.造影剤がくも膜下腔から前部硬膜外に移行する際に,体位の関係から,欠損部位より足側の前部硬膜外には逆流しないことによると考えている.

(5) 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis,以下ALSと略記)との鑑別

MSAMはALSの重要な鑑別疾患である1215.他院にてALSと診断され,後に,MSAMと診断が訂正された自験例がある12.Retrospectiveに見ると,ALSと診断時の他院MRIにて,既に脊髄前角に高信号をT2強調像にて認め,硬膜外髄液貯留があり,MSAMと診断できた.

欠損部位がC7~Th3の間にあるので,硬膜外髄液貯留もその部位近くにて通常は最大となる.しかし,脊髄前角の高信号はC3が中心であり,欠損部位から遠い部位にある(Fig. 2).この乖離の原因が分かっていない.Locus minorisがC3にある理由が分からない.

(6) 過去の報告例

脊髄前角に高信号を認めたMSAM報告は3例あり,いずれもC3が含まれ,C2~5にかけて高信号が存在した131516.その内,Kumarらの1例のみに欠損部位が判明しており,Th2/3にあり15,自験例と同様であった.

一方,脊髄前角に高信号を認めず,上肢筋の筋力低下を来し,硬膜外に髄液貯留を呈した例がある.Delucaらは3例を報告している17.1例はSSを合併していた.しかし,その欠損部位はTh12/L1,Th11/12,C4と異なっていた.C4の例は神経根スリーブからの髄液漏出であった.脊髄前角に高信号を伴う例と,少し様相が異なるように考えている.

Notes

※著者に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
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