Rinsho Shinkeigaku
Online ISSN : 1882-0654
Print ISSN : 0009-918X
ISSN-L : 0009-918X
Case Reports
Nonrecanalization after mechanical thrombectomy in acute ischemic stroke due to infective endocarditis: an autopsy case
Fumiya KutsunaKairi YamashitaTadashi KanamotoHirokazu KurohamaYohei TateishiAkira Tsujino
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 61 Issue 10 Pages 671-675

Details
要旨

症例は右片麻痺,失語を主訴に搬送された86歳男性.拡散強調画像で左島皮質から前頭葉に高信号域があり,MRAで左中大脳動脈が閉塞していた.血栓回収療法を行ったが再開通は得られなかった.血液培養検査でEnterococcus faecalisが検出され,大動脈弁に可動性の疣腫を認めたことから感染性心内膜炎と診断した.その後多臓器不全で死亡し,病理解剖を施行した.脳塞栓部には細菌塊を伴う血栓があり,炎症細胞が血管壁内に浸潤し,内弾性板は一部破綻していた.血栓と血管壁は癒着していた.感染性心内膜炎による脳塞栓症では,血栓と血管壁の癒着が血栓回収療法による再開通を得られにくくする要因の一つかもしれない.

Abstract

An 86-year-old man was admitted for the abrupt onset of right hemiparesis and aphasia. DWI revealed the high intensity legion in the left insular cortex, and MRA demonstrated the left middle cerebral artery occlusion. Recanalization of the artery was not achieved after mechanical thrombectomy. The diagnosis of infective endocarditis was made as Enterococcus faecalis was cultured from the blood, and mobile vegetation was detected at the aortic valve by transthoracic echocardiography. The patient died from multiple organ failure at 19 days. Autopsy findings revealed fibrin-rich thrombus in the left middle cerebral artery containing neutrophils and bacteria. At the occluded site, neutrophils had intensively infiltrated into the vessel wall, and endothelial cells had partially disappeared. Moreover, disrupted internal elastic lamina was discovered. These findings could indicate that the thrombus had adhered to the vessel wall. The adhesion of the thrombus and vessel wall could be associated with unsuccessful recanalization after endovascular thrombectomy in patients with ischemic stroke due to infective endocarditis.

はじめに

感染性心内膜炎では神経学的合併症の頻度が多く,特に虚血性脳血管障害の割合が高い12.その中で,脳主幹動脈閉塞を発症する割合は25%程度と報告されている3.脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞に対する血栓回収療法の有効性が示され4,感染性心内膜炎に生じた急性期脳梗塞に対する血栓回収療法の報告も散見されるようになった5)~14.しかし,その有効性についての定まった評価はない.今回我々は,感染性心内膜炎に合併した急性期脳梗塞に対して血栓回収療法を施行し,再開通し得なかった症例を経験した.病理解剖で観察された血栓と血管壁の癒着が,再開通に至らなかった原因の一つである可能性が考えられた.感染性心内膜炎における脳塞栓症の病態や治療方針を検討する上で重要な所見であると考え報告する.

症例

症例:86歳,男性

主訴:意識障害,右片麻痺,失語

既往歴:高血圧症,2型糖尿病,脂質異常症,陳旧性心筋梗塞(経皮的冠動脈形成術後).

内服歴:アスピリン腸溶錠100 mg/日,グリクラジド錠20 mg/日,テネリグリプチン臭化水素酸塩錠20 mg/日,シンバスタチン錠5 mg/日,アジルサルタン錠20 mg/日,アムロジピンベシル酸塩錠5 mg/日.

現病歴:2020年2月上旬,尿路感染症による敗血症と診断され,前医へ入院しメロペネム0.5 g 1日2回が投与された.起炎菌はEnterococcus faecalisであった.15日後,18時に意識障害,軽度の右上下肢麻痺が出現した.発熱に伴う症状と判断されたが,21時頃より右上下肢麻痺の悪化,失語が出現したため,脳血管障害が疑われた.頭部CTで出血性病変はなく,虚血性脳血管障害が疑われたため,翌日0時24分に当院へ搬送された.

入院時所見:身長163.0 cm,体重53.6 kg.血圧114/46 mmHg,脈拍85回/分,体温36.7°C,呼吸数18回/分,SpO2 96%(室内気).意識はGCS E3V1M5,左眼球共同偏倚と右口角下垂,右片麻痺(徒手筋力テストで上下肢共に1/5)があり,NIHSSスコアは22であった.

検査所見:血液検査では,WBC 19,800/μl,CRP 9.62 mg/dlと上昇し,BNP 1,840 pg/mlやD-dimer 3.9 μg/mlも上昇していた.頭部MRI拡散強調画像では左前頭葉から島皮質にかけて高信号が出現し,DWI-ASPECTSは6であった.Fluid-attenuated inversion recoveryで一部のみが淡く高信号となっており(Fig. 1A),MRAでは左中大脳動脈は起始部で閉塞していた(Fig. 1B).

Fig. 1 Neuroradiological findings on admission.

A) DWI reveals the high intensity legion in the left insular cortex, frontal lobe, and anterior temporal lobe. B) In the same region, fluid-attenuated inversion recovery imaging does not reveal the high intensity. C) MRA demonstrates the left middle cerebral artery occlusion. D) Left internal carotid angiography shows the left middle cerebral artery occlusion prior to mechanical thrombectomy. E) The immediate flow restoration of the middle cerebral artery is achieved due to deploying the stent retriever (arrow). F) The middle cerebral artery is not recanalized at the end of the procedure (arrowhead).

治療経過:Enterococcus faecalisによる敗血症であり,感染性心内膜炎の可能性が否定できなかったため,アルテプラーゼ静注療法は施行されなかった.発症前のmodified Rankin Scaleスコアは1であり,来院時のNIHSSスコアやDWI-ASPECTSから有効性が上回ると判断し,血栓回収療法が施行された.ガイディングカテーテル9F OPTIMO(東海メディカルプロダクツ,春日井,愛知)を左内頸動脈に留置し,造影した.左中大脳動脈水平部M1起始部の閉塞が確認された(Fig. 1C).CHIKAI14(朝日インテック,瀬戸,愛知)とマイクロカテーテルであるMarksman(Medtronic, Minneapolis, MN, USA)を用い,Penumbra 5MAX ACE60(Penumbra, Alameda, CA, USA)を左内頸動脈遠位部まで誘導した.マイクロカテーテルの先端は左中大脳動脈M2上行枝におき,血栓回収ステントであるSolitaire 6 × 40(Medtronic, Minneapolis, MN, USA)を展開した(Fig. 1D).ガイディングカテーテルのバルーンを拡張し,DACの持続吸引を行い,ステントをDAC内に回収した.わずかな血栓が回収されたが,中大脳動脈水平部の遠位部に狭窄が残った.M2上行枝はわずかに描出されるようになった.マイクロカテーテル先端をM2下行枝におき,1回目と同じシステムで血栓回収を行ったが血栓は回収されず,再度M1閉塞になっていた.計4回同様の手技を行ったが再開通は得られず,Thrombolysis in cerebral infarction(TICI)grade 0で終了した(Fig. 1E).発症から445分,来院から61分で鼠径穿刺がなされ,発症から治療終了までは524分であった.当院入院時の血液培養検査からもEnterococcus faecalisが検出された.また,第1病日に施行された経胸壁心エコーで,大動脈弁に可動性の疣腫があり,中等症から重症の大動脈弁閉鎖不全症を伴っていた.以上より,感染性心内膜炎と診断され,ゲンタマイシン硫酸塩60 mg 1日1回が開始された.第3病日からセフトリアキソンナトリウム水和物2 g 1日2回に変更された.しかし,第19病日に多臓器不全で死亡し,家族の同意を得て病理解剖が行われた.

病理所見:大動脈弁左冠尖,無冠尖の大動脈側に高度の弁破壊を伴う30 mmの不整な疣腫の付着が観察された(Fig. 2A).疣腫は全体的に赤色調で,構造内部には小球菌が散見された(Fig. 2B).左中大脳動脈は,フィブリン主体の血栓で閉塞しており,血栓の一部には好中球やリンパ球といった炎症細胞や小球菌塊を伴っていた.血栓と接している血管壁の一部で血管内皮の消失がみられ,血栓と血管壁が癒着していた.また,閉塞部の血管壁には好中球主体の炎症細胞浸潤がみられ,エラスチカ・ワンギーソン染色で血管壁内弾性板の断裂が確認された(Fig. 3A~C).左中大脳動脈閉塞部の血栓と同質の細菌塊が,大動脈弁に付着した血栓でみられたことから,細菌性感染性心内膜炎による脳塞栓症であることが示された.

Fig. 2 Histopathological findings of aortic valve.

A) Vegetation on the non-coronary cusp and left coronary cusp of the aortic valve measuring about 30 mm in maximal diameter. B) The vegetation consists of inflammatory cells (arrow), bacteria (arrowhead), and fibrin (red arrow). (Hematoxylin and eosin stain, ×400, Bar = 50 μm).

Fig. 3 Histopathological findings of the left middle cerebral artery.

A) Internal elastic lamina is partially disrupted (arrow). (Elastica van Gieson stain, ×20, Bar = 1 mm). B) Neutrophils infiltrate into the vessel wall. (Hematoxylin and eosin stain, ×200, Bar = 100 μm). C) Neutrophils and bacteria are contained in the thrombus (arrowhead). (Hematoxylin and eosin stain, ×400, Bar = 50 μm).

考察

本症例は,感染性心内膜炎による脳主幹動脈閉塞に対して血栓回収療法を施行した症例の剖検報告である.病理解剖所見により,血栓回収療法で再開通が得られなかった原因の一つとして,血栓と血管壁の癒着が影響していた可能性が考えられた.

感染性心内膜炎による脳梗塞症例の剖検報告は少なく15)~17,さらに脳主幹動脈閉塞に対して血栓回収療法を試みた症例の剖検報告については,これまで1例しかない5.その症例では,左中大脳動脈分枝閉塞に対して血栓回収療法が試みられたが血管攣縮を生じ,翌日には再閉塞していた.発症から9日後の病理解剖所見では,多数の好中球が血管壁内に浸潤し,それが内弾性板にも及んでいた.一方,非細菌性血栓性心内膜炎やその他の機序による脳塞栓症では,剖検例において血管壁への好中球浸潤はみられていない18)~20.本症例は,脳梗塞発症後第19病日に病理解剖が施行された.中大脳動脈の血管壁には好中球が強く浸潤し,内弾性板の断裂も観察された.血栓と血管壁との境界が不明瞭で,これらが癒着している状態であった.本症例で,有効な再開通が得られなかったのは,フィブリン主体の血栓であったことが要因として大きかったと考えられたが2122,血栓と血管壁の癒着も関与していた可能性を考慮する必要があると考えられた.

病理解剖は脳梗塞発症から時間が経って行われている.そのため脳梗塞発症時に血栓と血管壁の癒着がどの程度起こっていたかを証明することは困難であった.過去の報告も同様で,一般的に脳梗塞発症後ある程度の時間が経過して病理解剖に至ることから,敗血症に伴う脳梗塞症例で閉塞部位における血管壁の早期変化を証明することは非常に困難である.敗血症に伴う中大脳動脈領域の脳塞栓症発症から2日後にくも膜下出血を生じ,中大脳動脈分岐部閉塞と同部位の解離性動脈瘤がCT angiographyで証明された剖検例が報告されている17.我々の症例と同様に好中球が内膜へ浸潤し,内弾性板の断裂もあった.さらに偽腔内に血球の侵入があり,解離性動脈瘤が形成されていた.病理解剖は脳梗塞発症4日後に施行されていたが,CT angiographyで解離性動脈瘤が証明されていたのは中大脳動脈閉塞2日後であるため,その時にはこの病理学的変化が起こっていた可能性が高いと考えられた.中大脳動脈閉塞によると思われる脳梗塞発症1日後や2日後に,閉塞した中大脳動脈周囲に厚いくも膜下出血を発症した報告もあり2324,敗血症に伴う塞栓症では,血栓から閉塞部位の血管壁への炎症の波及が比較的急速に起こっているのかもしれない.本症例では発症から血栓回収療法までに約7時間経過していた.血栓から血管壁への炎症細胞浸潤はその時点ですでに始まっていたのかもしれない.

本症例は,4回のステントによる血栓回収が行われたが,良好な再開通は得られなかった.感染性心内膜炎における脳主幹動脈閉塞に対する血栓回収療法の効果について,症例報告やケースシリーズ研究のレビューで検討されている6.TICI grade 2bまたは3の再開通であったのは14人(47%)と比較的多かったものの,13人(43%)の再開通の状況が不明で,その有効性を論じるには不十分であった.また,血栓回収療法を施行した敗血症に伴う脳塞栓症4例とそれ以外の脳梗塞61例を比較した単施設の検討では,ステント型血栓回収デバイスによる再開通率や予後に差はなかったものの,敗血症に伴う脳塞栓症のほうが回収の回数が多く(5.8回vs. 2.2回,P < 0.001),治療時間が長かった(137.7分vs. 59.8分,P < 0.001).また,最終的にステントを留置した症例も多かった(3例(75%)vs. 1例(1.6%),P = 0.008)7.ステント型血栓回収デバイス以外にも,感染性心内膜炎における脳塞栓症に対して吸引型カテーテルによる血栓吸引(a direct aspiration first pass technique,以下ADAPTと略記)が良いとの報告もある8.血栓と血管壁の癒着が再開通に難渋する原因と考えるならば,炎症や菌塊の血管壁への過度な圧着を避けるため,ステント型血栓回収デバイスを併用せずに吸引型カテーテルのみによるADAPTを選択することを考慮する必要がある.また,閉塞部が感染に伴った炎症巣であることを考慮すると,同部位へのステント留置術は再閉塞や動脈解離など合併症の懸念があるが,治療選択肢の一つとして考慮すべきかもしれない.

感染性心内膜炎による脳塞栓症に対して血栓回収療法を施行した剖検症例を報告した.感染性心内膜炎における脳主幹動脈閉塞を早期に再開通させることは,虚血巣の拡大を抑え,出血を予防し,その結果として適切な時期での心臓外科手術介入へつながる可能性があることから25,血栓回収療法の施行は必ず考慮すべきである.しかしながら,有効な再開通が得られにくい症例が存在することに留意し,吸引型カテーテルを優先して使用することを前もって想定しておく必要があるかもしれない.また,血栓と血管壁が癒着する可能性を考慮し,発症からより早期に血栓回収療法を施行することが再開通を得るために重要である.今回,病理解剖により敗血症に伴う脳塞栓症の病態を明らかにした.不幸な転帰をたどった症例では,患者の家族と相談し,病理解剖について適切な説明を行うことも臨床医の責務として留意しておく必要がある.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2021 Societas Neurologica Japonica
feedback
Top