Rinsho Shinkeigaku
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Brief Clinical Notes
A 74-year-old man who underwent carotid artery stenting with symptomatic right internal carotid artery stenosis with congenital agenesis of the left internal carotid artery
Yuki HamadaMei IkedaYusuke YamashitaTakuro ArimizuGo TakaguchiHideki Matsuoka
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2021 Volume 61 Issue 10 Pages 696-699

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要旨

74歳男性.1か月前より歩行時のふらつきを自覚.頭部MRI検査では右中大脳動脈領域に新鮮脳梗塞巣を呈し,頸部血管超音波検査で右内頸動脈起始部の高度狭窄を認めた.左内頸動脈は存在が確認できず,頭部CT検査で左頸動脈管がないことから先天的左内頸動脈無形成と診断した.内科治療抵抗性の右内頸動脈狭窄症に対して頸動脈ステント留置術を行い,良好な経過が得られた.先天的内頸動脈無形成例は特殊な血行動態,解剖学的特徴を有する.特に脳梗塞合併例では,機序や病型の理解と,併存疾患の知識に熟知しておく必要がある.

Abstract

A 74-year-old man visited our hospital with a 1-month history of awareness of wobbling while walking. Head MRI revealed fresh cerebral infarction in the territory of the right middle cerebral artery, and cervical carotid ultrasonography revealed severe stenosis at the origin of the right internal carotid artery. No left internal carotid artery could be confirmed, and no carotid canal was evident on CT of the head, suggesting congenital agenesis of the left internal carotid artery. Carotid artery stenting was performed for the stenosed right internal carotid artery that was refractory to medical treatment, obtaining a good outcome. Patients with congenital internal carotid artery agenesis show unique hemodynamics and anatomical features. Particularly in cases with cerebral infarction, an understanding of the etiology and complicated classification of disease types is needed, in addition to familiarity with comorbidities.

はじめに

内頸動脈無形成はTodeらによって1787年に初めて発見された血管形成異常である1.今回我々は,左内頸動脈の先天的無形成に症候性の右内頸動脈起始部狭窄を合併し,頸動脈ステント留置術を行った症例を経験したため,解剖学的事由,血行動態など発生学的考察を交えて報告する.

症例

患者:74歳,男性

主訴:歩行時のふらつき

既往歴:2型糖尿病,脂質異常症.

家族歴:特になし.

生活歴:もともとの生活は自立.

現病歴:X-1年12月,歩行時のふらつきを自覚.発症4週間後に他院入院となった.精査の結果,右内頸動脈起始部の高度狭窄に加え左内頸動脈の無形成の所見を認めた.経過中にアスピリン,ロスバスタチン内服下で脳梗塞の再発を認めたため,さらなる追加治療が必要と判断され当科紹介,発症6週間後に他院入院となった.

入院時現症:身長158 cm,体重53.4 kg,血圧151/89 mmHg,心拍数72回/分・整,体温36.4°C,SpO2 98%(room air).意識レベルはJapan coma scale I-1,脳神経系では左中枢性顔面神経麻痺,破裂音で拙劣な構音障害を認めた.運動系では明らかな筋力の左右差は認めず,歩行も問題なかった.感覚系,協調運動系,高次脳機能系では異常はなく,NIHSSスコアは2/42点であった.

検査所見:血液検査では末梢血で白血球11,370/μl(好中球76.9%)と上昇していたが,CRPは正常範囲内であった.生化学系ではLDL 77 mg/dlと正常範囲下限程度でコントロールされていた.凝固系に異常値は認めなかった.HbA1cは8.2%と高値であった.入院時頭部MRIでは,DWIで右内頸動脈の分水嶺領域に散在性の高信号域を認めた(Fig. 1A, B).ADCでは同部に一致して等~低信号,FLAIRで高信号であり,急性期-亜急性期の梗塞が混在していた.頭頸部MRA,頸部血管超音波検査では左内頸動脈の描出を認めず(Fig. 1C, 2E),前者では両側後交通動脈が描出されていた.右内頸動脈起始部は,頸部CT angiographyで壁不整,潰瘍形成を伴う高度狭窄を認め(Fig. 1D),頸部血管超音波検査でもNASCET法81.0%の有意狭窄であり塞栓源と考えられた(Fig. 2D).血管造影検査では左総頸動脈造影で左内頸動脈の描出はなく,外頸動脈系から内頸動脈系への潜在的吻合も認めなかった(Fig. 2A, B).頭部CT検査骨条件画像では左頸動脈管は無形成であった(Fig. 2C).

Fig. 1 DWI, MRI and neck CTA on admission.

A, B) DWI on admission demonstrates multiple infarctions in the right internal carotid arterial watershed lesion. C) MRA on admission shows absence of the left internal carotid artery (white arrow). D) The right internal carotid artery indicates severe stenosis revealed by CT angiography.

Fig. 2 Angiography, head-CT, and neck ultrasonography.

A, B) Left common carotid angiography shows absence of the left internal carotid artery and reveals a lack of potential anastomosis from the external carotid system to the internal carotid system. C) CT of the head shows absence of the left carotid canal (white arrow). D) The right internal carotid artery indicates severe stenosis. E) The left common carotid artery shows absence of a left internal carotid artery.

入院後経過:入院43病日目に右内頸動脈狭窄に対し頸動脈ステント留置術を行った.術中はINVOS(In Vivo Optical Spectroscopy 5100Cシステム)を装着した.PercuSurge Guardwire(Medtronic, Minneapolis, MN, USA)を用いて遠位血流遮断下に手技を行ったが,頸部撮影を行うと外頸動脈系から潜在的吻合を介して眼動脈から逆行性に内頸動脈系へ灌流する良好な側副循環を認めた.4.5 mm × 30 mmバルーンで病変部の前拡張を行い,10 mm × 31 mmステントを展開し良好な拡張が得られた.なお後拡張は行わなかった.術中にINVOSの数値の変化や虚血症状,徐脈低血圧発作はなかった.

術後経過:帰室後,収縮期血圧は100 mmHg台で経過し,頭痛やけいれんなど過灌流症候群を疑わせる所見は認めなかった.術後翌日の頭部MRI検査では術中脳梗塞所見は認めず,MRAでは右中大脳動脈皮質枝の描出が明瞭となった.治療2週間後にmRS (modified Rankin Scale) 0で近医に転院となった.

考察

内頸動脈無形成は0.01%の発生頻度と言われ2,原因は胎生期における第3大動脈弓または背側大動脈の欠損や形成不全が考えられている3.これは,神経堤の発生過程に起きる異常であり,神経堤細胞起源の細胞や組織の疾患あるいは疾患群は “neurocristpathy” と呼ばれる4.Neurocristpathy症候群には本疾患以外に,神経芽種,褐色細胞腫,先天性低換気症候群,神経線維腫症I型,DiGeorge症候群,大動脈縮窄症,PHACE症候群,もやもや病などが属する5

内頸動脈が先天的無形成なのか,後天的閉塞なのかを区別するにはいくつかの方法がある.決定的な区別法は頸動脈管形成の有無を確認することである.頸動脈管は錐体骨内にある管腔状の構造物で胎生5~6週に形成されるが,内頸動脈の形成に依存される.すなわち,胎生期に内頸動脈が形成されなければ頸動脈管は形成されず無形成となり,一時形成され早期に退縮した場合には頸動脈管は低形成となる2.我々の症例ではCT検査骨条件で左頸動脈管の形成の痕跡がないことを確認し,先天的な内頸動脈無形成と考えられた.また,側副血行の発達の仕方も鑑別に有用である.Lieら6は内頸動脈無形成例の側副血行路のパターンをType A~Fの六つに分けて報告している.我々の症例はType Aに該当し,無形成側の後交通動脈が発達することで,後方循環系から内頸動脈領域へと灌流していた.無形成側の後交通動脈が太く発達することや,後交通動脈起始部が脳底動脈先端部近くから分岐することは,Lie分類Type Aの内頸動脈無形成を強く示唆する所見である.しかし,Lie分類Type Bの場合には内頸動脈後天的閉塞の際の側副血行の発達パターンと似ており,無形成との区別が難しいこともあり注意を要する.

本症例は内頸動脈無形成を有し,対側に症候性内頸動脈狭窄を伴った症例であり,頸動脈ステント留置術を施行したが,過去に同様の報告はない.一般的に,後天的な対側内頸動脈閉塞を有する内頸動脈狭窄に対して頸動脈内膜剝離術はハイリスクであり,頸動脈ステント留置術が望ましい7.本症例では頸動脈ステント留置術を選択したが,内頸動脈血流遮断時に外頸動脈から眼動脈を介した豊富な側副循環の存在があったことや,INVOSの数値に変化がなかったことなどから,右大脳半球への豊富な側副循環があったことが予想された.結果,術中虚血症状の出現もなく安全に手技を行うことができた.

以上,脳神経内科医にとって知っておくべき知見を多く含んだ貴重な症例と考えここに報告した.

Acknowledgments

謝辞:患者様の紹介や情報提供を頂いた今村総合病院 脳神経内科 脇田政之先生には,この場を借りて深謝を申し上げます.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
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