Rinsho Shinkeigaku
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Current and future strategies for burnout in Japanese neurologists
Takayoshi ShimohataMakoto KuboIkuko AibaNobutaka HattoriKazuto YoshidaYoshiko UnnoKazumasa YokoyamaTakashi OgawaYumiko KasedaRyoko KoikeYuko ShimizuYoshio TsuboiManabu DoyuSonoko MisawaTakafumi MiyachiTatsushi TodaAtsushi TakedaCommittee for Career Development Promotion, Japanese Society of Neurology
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2021 Volume 61 Issue 2 Pages 89-102

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要旨

医師のバーンアウトに関連する要因を明らかにし,今後の対策に活かすため,2019年10月,日本神経学会はバーンアウトに関するアンケートを脳神経内科医に対して行った.学会員8,402名の15.0%にあたる1,261名から回答を得た.日本版バーンアウト尺度の下位尺度の平均は,情緒的消耗感2.86/5点,脱人格化2.21/5点,個人的達成感の低下3.17/5点であった.また本邦の脳神経内科医のバーンアウトは,労働時間や患者数といった労働負荷ではなく,自身の仕事を有意義と感じられないことやケアと直接関係のない作業などと強く関連していた.これらを改善する対策を,個人,病院,学会,国家レベルで行う必要がある.

Abstract

To identify factors associated with burnout among Japanese physician and to use them in future measures, the Japanese Society of Neurology conducted a survey of neurologists on burnout using a web-based questionnaire in October 2019. A total of 1,261 respondents, 15.0% of the 8,402 members, responded to the survey. The mean of the subscales of the Japanese Burnout Scale was 2.86/5 points for emotional exhaustion, 2.21/5 points for depersonalization, and 3.17/5 points for lack of personal accomplishment. In addition, the burnout of our country’s neurologists is not related to workloads such as working hours and the number of patients in charge, but also to a decreased meaningfulness and professional accomplishment. Therefore, it is necessary to take comprehensive measures to improve these issues at the individual, hospital, academic and national levels.

はじめに

バーンアウトは,1970年代にヒューマン・サービスの場で作られた概念で,仕事上の慢性的な感情的,対人的ストレスに対する反応である1.つまり過剰な労働負担や精神的ストレスが継続することで,サービス従事者は情緒的に力を出し尽くし,消耗してしまった状態となり,情緒的資源の枯渇は,やがてクライエントに対する無情で,非人間的な対応を招く.さらに成果の急激な落ち込みと,それにともなう自己効力感(仕事の遂行に成功できる感覚)や達成感の低下が生じ,仕事に喜びを感じられなくなる.Maslachらは,情緒的な資源の枯渇を「情緒的消耗感」,クライエントに対する無情で,非人間的な対応を「脱人格化」,自己効力感や達成感の低下を「個人的達成感の低下」と名付けた1.そして,これら三つを下位尺度とした評価尺度であるMaslach Burnout Inventory(MBI)を作成し,これらの下位尺度がバーンアウトを高い精度で説明できることを示した1

医療は代表的なヒューマン・サービスの一つであることから,医師はバーンアウトの危険に曝されている.米国のすべての診療科医師を対象とした調査では,45.8%の医師が,MBIで定義されるバーンアウトの状態を呈していた2.さらに医師のバーンアウトは,離職率の上昇や医療過誤と関連し,患者ケアの質および患者満足度を低下させることも明らかにされた3)~7.以上より医師におけるバーンアウト対策は喫緊の課題と言える.

日本神経学会は「医師のバーンアウト」に対して先駆的な取り組みを行ってきた.第59回学術大会(2018年,札幌)において,シンポジウム「脳神経内科医の燃え尽き症候群を防ぐために~バーンアウトしないためのTipsをシェアしよう~」を開催し,バーンアウトの現状についての議論を開始した.バーンアウトを経験した参加者の医師から,対策を求める切実な意見が述べられた.また第60回日本神経学会学術大会(2019年,大阪)では,シンポジウム「脳神経内科医の燃え尽き症候群を防ぐための対策と提言」を開催した.このなかで大学所属の医師,および女性の神経学会専門医を対象とした二つのアンケート調査が行われたが89,いずれもバーンアウトの頻度が高いことが報告され,全学会員を対象とした調査が必要であるという意見が挙がった.日本神経学会のバーンアウトに対する取り組みは注目を集めたが,この問題に先駆的に取り組む脳神経内科医にバーンアウトが多いという誤解も生じた10

以上を踏まえ,脳神経内科医全体におけるバーンアウトの状況を明らかにし,今後の対策に活かすことを目的として,2019年10月,全学会員を対象としたバーンアウト,およびキャリア満足度に関するアンケート行い,バーンアウトの頻度や影響する因子について検討した.さらに米国神経学会と中国神経学会がそれぞれ2016年,2014~2015年に行った調査結果1112と対比し,考察を行った.

対象・方法

日本神経学会の全学会員に対し,2019年10月1日から1か月間,インターネットを用いたアンケートを行った.アンケートは米国神経学会が使用した設問11と,日本神経学会キャリア形成促進委員会が作成した独自の設問とし,前者は許諾を得た上で日本語訳し,翻訳業者に依頼して英語に逆翻訳したものを原文と比較し,日本語翻訳版の妥当性を確認した.具体的には,米国神経学会のアンケート11の設問14,21,22は日本の現状に合わせて文章の改変を行い,設問23,25,26,27は日本の実情に合わないため削除した(設問24は設問23に繰り上げた).この結果,本アンケートの設問の1から23は米国神経学会におけるバーンアウトに関するアンケート調査を日本語訳,もしくは日本の現状に合わせ改訂したものとなり,設問の24から37は日本神経学会キャリア形成促進委員会が作成した独自の質問項目となった.結果的にアンケートの項目としては,回答者の基本的情報と職業的特徴,サブスペシャリティと労働的負担,バーンアウトおよびキャリア満足度,自身の仕事を有意義と感じること(仕事の有意義性)等についての設問で構成した.

バーンアウトの評価尺度には,日本版バーンアウト尺度を用いた.これは田尾13が作成した20項目をもとに,久保の研究の中で項目の追加,削除が行われ,最終的に17項目にまとめられたものである14.各項目は,本邦の労働環境を考慮し,一読してわかりやすい項目とするため,MBIをそのまま翻訳することは避け,MBIを含めて海外で用いられていた尺度を参考にして,新たに作成されたものである.下位尺度はMBIと同様に「情緒的消耗感」,「脱人格化」,「個人的達成感の低下」の三つからなる.看護師およびホーム・ヘルパーを対象とした調査では,探索的因子解析でこれら3因子構造が再現され,検証的因子分析では尺度の変数間の関係性と整合性が高く,モデルの適合度は良好である15.また前述の米国や中国の脳神経内科医を対象としたアンケートではMBI,もしくは対人援助職を対象としたHuman Services Survey(MBI-HSS)を使用し,カット・オフを設定して,バーンアウトを定義している1112.一方,本邦の医師を含む医療職に対して,日本版バーンアウト尺度と日本版MBI-HSSの適合度について,採点法に基づいた確認的因子分析を行った研究では,日本版MBI-HSSと比較し,日本版バーンアウト尺度のほうがより高い適合度を示していた16.このため,本研究では,より本邦の医療職の労働状況に即したアンケート結果を得るため,日本版バーンアウト尺度を採用した.しかし日本版バーンアウト尺度にはバーンアウトを定義するためのカット・オフ値はないため,バーンアウトの頻度を算出することは断念した.

解析としては,まず全回答者のアンケート結果を集計した.次に日本版バーンアウト尺度の「情緒的消耗感」,「脱人格化」,「個人的達成感の低下」の三つの下位尺度に影響する因子を明らかにするために,各下位尺度を目的変数,アンケートの各項目を説明変数として,ステップワイズ法による重回帰分析を行った.勤務時間など,極端な値を含む変数は,その影響を除くため段階尺度に変換したものを使用した.また,カテゴリー変数はダミー変数として分析に供した.キャリア満足度に関する二つの質問とwell-being,QOL,疲労と日本版バーンアウト尺度の三つの下位尺度について,Pearsonの相関係数を算出し,キャリア満足度との関わりを評価した.データの分析には,IBM SPSS Statistics 25を用いた.

倫理

学会員に対するアンケート調査に倫理審査が必要かについては,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に明確な記載がないものの,「人を対象とした医学研究以外の研究に該当する」として倫理審査が必要でない研究という指針が示されていることや17,本研究は,学会が学会員を対象として,その労務環境を調査する内容になるが,回答は強制ではなく任意であり,非人道的な質問も含まれていないことから,倫理審査は不要と判断した.個人情報の保護については委員会内で配慮して実施できると考えた.アンケート結果(エクセルファイル)は解析担当者のみがパスワードをかけた状態で管理した.

結果

日本神経学会員でメールアドレスが登録されている8,402名の15.0%にあたる1,261名から回答が得られた.また748名より,統計学的解析に必要な設問のすべてに回答が得られた.回答者の基本的情報と職業的特徴をTable 1に示す.年齢の中央値は45歳で,年代は20代から70代以上まで順に4.7%,28.2%,31.6%,21.3%,11.8%,2.4%であった.性別は28.2%が女性であった.勤務先は一般病院が51.4%,大学36.6%,開業4.6%であった.2020年8月の日本神経学会の全学会員のデータと比較すると,年代は全学会員では,20代から70代以上まで順に5.7%,22.4%,22.6%,22.3%,18.0%,9.1%であり,回答者は30代,40代で多く,60代,70代以上で少ない傾向であった.また女性の比率は23.6%で,回答者は女性に多い傾向であった.また全学会員では,一般病院が53.6%,大学29.9%,開業12.7%であり,回答者は大学で多く,開業医で少ない傾向であった.

Table 1  バーンアウトに関するアンケート.
(1)米国神経学会アンケート
【幸せとキャリアへの満足度】
1.あなたの意見では,日本神経学会は脳神経内科医におけるバーンアウトを減らす試みを行うべきだと思いますか?
  ①はい ②いいえ ③分からない
2.あなたの幸せ(well-being)は,ほかの医師と比べて,どう考えますか?
  ①不良(医師のボトム30%) ②平均以下(31~40パーセンタイル) ③平均(41~60パーセンタイル) 
  ④平均以上(61~70パーセンタイル) ⑤きわめて良好(医師のトップ30%)
3.今日を含むこの1週間で,(a)あなたの総合的なQOLはどうでしたか?(b)平均して疲労のレベルはどうでしたか?(VAS 0~10より選択する)
4.あなたは最近6ヶ月ぐらいのあいだに,次のようなことをどの程度経験しましたか?あてはまると思う番号を選んでください.(1. ない 2. まれにある 3. 時々ある 4. しばしばある 5. いつもある)
  (1)こんな仕事,もうやめたいと思うことがある.
  (2)われを忘れるほど仕事に熱中することがある.
  (3)こまごまと気くばりすることが面倒に感じることがある.
  (4)この仕事は私の性分に合っていると思うことがある.
  (5)同僚や患者の顔を見るのも嫌になることがある.
  (6)自分の仕事がつまらなく思えてしかたのないことがある.
  (7)1日の仕事が終わると「やっと終わった」と感じることがある.
  (8)出勤前,職場に出るのが嫌になって,家にいたいと思うことがある.
  (9)仕事を終えて,今日は気持ちのよい日だったと思うことがある.
 (10)同僚や患者と,何も話したくなくなることがある.
 (11)仕事の結果はどうでもよいと思うことがある.
 (12)仕事のために心にゆとりがなくなったと感じることがある.
 (13)今の仕事に,心から喜びを感じることがある.
 (14)今の仕事は,私にとってあまり意味がないと思うことがある.
 (15)仕事が楽しくて,知らないうちに時間がすぎることがある.
 (16)体も気持ちも疲れはてたと思うことがある.
 (17)われながら,仕事をうまくやり終えたと思うことがある.
【あなたのキャリア】
5.以下の文章に対するあなたの意見の一致ないし不一致の程度を評価して下さい:私の仕事のスケジュールでは私の個人生活/家族生活のための十分な時間を取ることができる.
  ①強く当てはまる ②当てはまる ③中間 ④当てはまらない ⑤強く当てはまらない
6.もしあなたが自分のキャリアの選択を再考できるなら,再び医師になることを選びますか?
  ①間違いなく選ばない ②おそらく選ばない ③わからない,中間 ④おそらく選ぶ ⑤間違いなく選ぶ
7.もしあなたが自分の専門の選択を再考できるなら,再び脳神経内科医になることを選びますか?
  ①間違いなく選ばない ②おそらく選ばない ③わからない,中間 ④おそらく選ぶ ⑤間違いなく選ぶ
8.あなたには脳神経内科を選択した明確な理由があるか思います.あなたが脳神経内科を選ぶ動機となった活動に,十分時間を費やすことはできていますか?
  ①非常にたくさん ②たくさん ③いくらか ④あまり多くない ⑤全然ない ⑥該当しない
9.以下の文章に対するあなたの意見の一致ないし不一致の程度を評価して下さい.(①強く当てはまる ②当てはまる ③中間 ④当てはまらない ⑤強く当てはまらない)
 (a)私は私の仕事をどのように行うかを決定するかなりの自己決定権を持つ.
 (b)私の行う仕事は,私にとって有意義なものである.
 (c)概して,私は私の仕事に満足している.
10.事務作業に費やす時間についての以下の文章に対するあなたの意見の一致ないし不一致の程度を評価して下さい.(①強く当てはまる ②当てはまる ③中間 ④当てはまらない ⑤強く当てはまらない ⑥分からない,該当しない)
 (a)患者ケアに直接的に関係のある事務作業(例:オーダー入力,口述,検査結果見直し,患者ポータル(注)を介した患者とのやりとりなど)に私が費やす時間の量は妥当である.
 (b)患者ケアに間接的に関係のある事務作業(例:文書のやり取り,書類の完成,電話への応対など)に私が費やす時間の量は妥当である.
  注;患者ポータルとは,米国で導入が進んでいる,患者が医療機関から直接,医療データの一部を閲覧することができる仕組み.
11.あなたは自分の仕事において,あなたを手助けする効果的な補助スタッフをどのぐらい持っていますか?
  ①あまりにも多すぎる ②多すぎる ③ほぼ良い ④少なすぎる ⑤あまりにも少なすぎる
【あなたの仕事量】
12.典型的な1週間において,あなたは何時間,働いていますか?
13.あなたの職業人としての時間の何%を以下の業務に費やしていますか?
  臨床(  )%, 研究(  )%, 教育(  )%, 管理(  )%, その他(  )%  (合計100%)
14.典型的な4週間において,宿直,日直等はそれぞれ何回ですか?
15.1週間において,病院で何人の外来患者を診察していますか?(もし外来患者を診察していなければ0人と書いてください)
16.病院を回診する平均的な1週間において,何人の入院患者を回診していますか?(もし入院患者を診察していなければ0人と書いてください)
17.あなたは1年において週末の回診を何回行う責任がありますか?(注:1年ですべて回診すると52週になります)
18.典型的な1ヶ月において,あなたは何時間ボランティア(例;慈善団体,専門職的団体,宗教的団体,ないしスポーツ団体)に時間を費やしていますか?
【あなたについて】
19.西暦何年うまれですか?
20.あなたの性別を選んでください.
  ①男性 ②女性
21.あなたが勤務する都道府県は?
22.あなたの職業を最も良く言い表しているものはどれですか?
  ①研修医ないし専攻医 ②脳神経内科専門医(指導医ではない) ③指導医 ④施設の長(教授,診療部長など) 
  ⑤開業医 ⑥その他
23.臨床,研究,教育の観点から,あなたの主な活動の中心はどれですか?
  □ 自律神経障害 □ 行動神経学・神経精神病学 □ 小児神経学 □ 臨床生理学 □ 血管内治療・インターベンション神経学 
  □ てんかん □ 神経学全般(general neurology) □ 老年神経学 □ 頭痛医学 □ 感染症・神経ウイルス学 □ 運動異常症 
  □ 神経修復・リハビリテーション □ 神経救命救急 □ 神経疫学 □ 神経遺伝学 □ 神経ホスピタリスト(病棟総合医) 
  □ 神経画像 □ 神経免疫・多発性硬化症 □ 神経筋疾患 □ 神経筋病理 □ 神経腫瘍学 □ 神経眼科学 □ 神経耳科学 
  □ 疼痛医学 □ 神経緩和学 □ 睡眠医学 □ スポーツ神経学 □ 外傷性脳障害 □ 血管神経学・脳卒中 □ その他
(2)日本神経学会アンケート
【あなたのライフについて】
24.婚姻の有無について選んでください.
  ①未婚 ②既婚 ③離別・死別
25.お子さんはいらっしゃいますか?
  ①無 ②有(   人)
26.現在,介護の必要なご家族がいらっしゃいますか?
  ①無 ②有 (   人)
27.一日のうち家事(育児・介護の時間を含む)に費やす時間はどのぐらいですか?
  平日 約(    時間),休日 約(    時間)
28.家事(育児・介護を含む)を主に担っている方はどなたですか?
  ①自分 ②パートナー ③自分とパートナーでおよそ半分ずつ ④親 ⑤その他
29.1日の平均睡眠時間は何時間ですか?
30.もっとも当てはまるものはどれですか?
  ①常勤(脳神経内科専門医) ②非常勤(脳神経内科専門医) ③常勤(非専門医) ④非常勤(非専門医) 
  ⑤専攻医ないし研修医 ⑥大学院生 ⑦産休・育休中(脳神経内科専門医) ⑧産休・育休中(非専門医) 
  ⑨留学中 ⑩退職 ⑪その他
31.もっとも当てはまる勤務先はどれですか?
  ①一般病院 ②大学 ③研究機関 ④開業 ⑤療養施設 ⑥健診センター ⑦行政機関 ⑧その他
【バーンアウトについて】
 ここでいうバーンアウトとは「仕事を通じて力を出し尽くして消耗してしまった状態になる,患者さんないしスタッフに対する無情で非人間的な対応をする,職務に関わる達成感が低下している」のいずれかを認める場合を指します.
32.バーンアウトの経験はありますか?
  ⓪全くない→35の項目へ ①なりそう,も含め経験がある→33へ
33.これまでのバーンアウトの発生回数は何回ですか?また各年代での発生回数を教えてください.
34.バーンアウトの状況について,以下の質問にお答えください.(1回目について記載してください)
 〈1〉発生当時の年齢:①20代 ②30代 ③40代 ④50代 ⑤60代 ⑥70代以上
 〈2〉勤務形態:①常勤 ②非常勤(パートタイム・フリーランス) ③大学院生 ④産休・育休中 ⑤留学中 ⑥退職 ⑦その他
 〈3〉発生当時の勤務先:①一般病院 ②大学 ③研究機関 ④開業 ⑤療養施設 ⑥健診センター ⑦行政機関 ⑧その他
 〈4〉程度:①なりそうなことがあった ②なったが休まなかった ③少し休んだ(有給休暇範囲) ④診断書を出して休職した 
    ⑤転職した ⑥退職した
 〈5〉関連していると思われる要因(複数回答可):①時間外労働(□ 当直 □ オンコール) ②業務過多 ③職場の人間関係 ④患者・家族からのクレーム ⑤上司の無理解 ⑥ハラスメント(□ パワハラ □ セクハラ □ アカハラ □ マタハラ □ ジェンダーハラスメント □ その他) ⑦家族問題(□ 育児 □ 介護 □ 配偶者 □ 受験 □ その他) ⑧研究 ⑨更年期 ⑩人事異動 ⑪自身の病気 ⑫自身の性格 ⑬給与 ⑭睡眠時間 ⑮医療訴訟 ⑯対象疾患(□ 緊急性が高い □ 難治性疾患が多い □ 重症が多い) ⑰その他
 〈6〉バーンアウトしたことは,性別と関係していると思いますか?
    ①関係している ②関係していない ③わからない
 〈7〉対処(複数回答可):①仕事を休んだ ②労働時間を減らした ③職場内で配置換えを申し出た ④家族に相談した ⑤上司に相談した ⑥友人に相談した ⑦職場内相談窓口に相談した ⑧精神科・心療内科などを受診した ⑨耐えた ⑩留学した ⑪大学院に進学した ⑫パート・フリーランスになった ⑬職場・病院を変わった ⑭転科した(    科に) ⑮退職した ⑯まだ立ち直っていない ⑰その他
  2回目について記載してください
  (2回以上経験者は,クリックすると上記(3)〈1〉~〈7〉記入欄が出現する)
35.バーンアウトしないために,個人として予防的に必要なことは何だと思われますか?(複数回答可)
  ①自身の心の健康に気をつける ②バーンアウト・メンタルヘルスについて学生時代から教育を受ける ③趣味を持つ 
  ④何でも相談できる人を持つ ⑤ストレスを感じたら早めに相談する ⑥仕事量を減らす ⑦他職種の人と交流する 
  ⑧リベラルアーツを学ぶ ⑨その他
36.バーンアウトしないために,病院や国が予防的に行う必要があることは何だと思われますか?(複数回答可)
  ①複数主治医・勤務交代性の導入 ②nurse practitionerやphysician assistantへのタスク・シフト ③当直後帰宅を含む勤務間インターバル制度の導入 ④給与待遇の適正化(当直やオンコールへの報酬,大学-一般病院間格差の是正) ⑤各施設における当直回数の適正化 ⑥職場内休憩室の設置 ⑦職場内相談窓口の設置 ⑧職場におけるメンタルヘルスに関する啓発活動の活性化 ⑨休みをとりやすい環境の整備(有給休暇の確保) ⑩医師の大病院集約化 ⑪医師の増員(国,施設,専門医レベルを含む) ⑫ハラスメントに関する教育 ⑬ハラスメントの禁止・処罰の規制強化 ⑭リーダーシップ研修 ⑮女性も男性と同等にキャリアを積んでいけるような支援 ⑯先輩医師に相談できるようなメンター制度 ⑰若手医師,地方勤務医師の研究や論文執筆の機会・時間的余裕の提供 ⑱その他
37.バーンアウトに関するご意見があれば,どうかご記入をお願いします.(自由記載)

サブスペシャリティと労働的負担に関する結果をTable 2に示す.サブスペシャリティは神経学全般が45.5%と最も多く,次いで血管神経学・脳卒中が10.2%,運動異常症が5.8%と多かった.1週間の平均労働時間は55.1時間で,うち66.4%が臨床に,12.6%が研究に,7.9%が教育に費やされていた.1か月あたりの宿直・日直の回数の中央値はそれぞれ1回ずつで,宿直・日直ではない患者対応のための時間外勤務も1回であった.1週あたりの外来患者数,入院患者数の中央値はそれぞれ40人,10人であった.1年あたりの週末回診回数は12回であった.平均睡眠時間は6.0時間/日であった.

Table 2  本調査の回答者の基本属性.
基本的情報 全体に対する比率,%
 年齢,歳
  中央値(IQR) 45​(37~55)
 性別,人
  男性 905​ 71.8
  女性 336​ 26.6
 婚姻の有無,人
  既婚 980​ 77.7
 子の有無,人
  あり 833​ 66.1
 介護を要する家族,人
  あり 152​ 12.1
 勤務地方,人
  北海道 52​ 4.1
  東北 81​ 6.4
  関東 432​ 34.3
  中部 204​ 16.2
  近畿 197​ 15.6
  中国 97​ 7.7
  四国 32​ 2.5
  九州 161​ 12.8
職業的特徴
 勤務先,人
  一般病院 648​ 51.4
  大学 461​ 36.6
  研究機関 27​ 2.1
  開業 58​ 4.6
  療養施設 18​ 1.4
 勤務形態,人
  研修医ないし専攻医 154​ 12.2
  脳神経内科専門医(指導医ではない) 377​ 29.9
  指導医 428​ 33.9
  施設の長(教授,診療部長など) 179​ 14.2
  開業医 54​ 4.3

日本版バーンアウト尺度とキャリア満足度に関する項目をTable 3に示す.日本版バーンアウト尺度の下位尺度の平均は,情緒的消耗感2.86/5点,脱人格化2.21/5点,個人的達成感の低下3.17/5点であった.「再び医師を選ぶ」,「再び脳神経内科医を選ぶ」と回答したのはそれぞれ50.4%,51.1%であった.現在の仕事に満足していると回答したのは46.2%であった.47.3%が個人生活/家族生活に十分な時間を取ることができないと回答した.56.5%が現在の仕事が有意義であると回答した.54.9%が仕事の自己決定権があり,26.1%が脳神経内科を選択する動機となった活動に十分な時間費やせていると回答した.事務作業に関する設問では,オーダー入力,口述,検査結果見直しなど,患者ケアに直接関係のある事務作業に費やす時間は妥当と回答したのは34.4%で,文書のやり取り,書類の完成,電話への応対など,間接的に関係する事務作業については20.0%であった.また,効果的な補助スタッフについては,62.5%が少なすぎると回答した.

Table 3  サブスペシャリティと労働負担.
サブスペシャリティ 全体に対する比率,%
主な分野,人
 神経学全般(general neurology) 574​ 45.5
 血管神経学・脳卒中 129​ 10.2
 運動異常症 73​ 5.8
 老年神経学 68​ 5.4
 神経筋疾患 62​ 4.9
 神経免疫・多発性硬化症 51​ 4.0
 神経修復・リハビリテーション 43​ 3.4
 血管内治療・インターベンション 29​ 2.3
 臨床生理学 27​ 2.1
 神経遺伝学 20​ 1.6
 行動神経学・神経精神病学 19​ 1.5
 神経ホスピタリスト(病棟総合医) 16​ 1.3
 てんかん 15​ 1.2
1週間の平均労働時間,時間/週
 平均(±標準偏差) 55.1(±20.5)
業務内容の比率
 臨床に費やす時間比率,%
 平均(±標準偏差) 66.4(±25.4)
 中央値(IQR) 70.0(50.0~90.0)
 研究に費やす時間比率,%
 平均(±標準偏差) 12.6(±18.5)
 中央値(IQR) 5.0(0.0~15.0)
 教育に費やす時間比率,%
 平均(±標準偏差) 7.9(±9.1)
 中央値(IQR) 5.0(0.0~10.0)
1か月あたりの宿直・日直
 宿直,回/月
 中央値(IQR) 1(0~3)
 日直,回/月
 中央値(IQR) 1(0~1)
 宿直・日直以外の患者対応の時間外勤務,回/月
 中央値(IQR) 1(0~5)
1週当たりの外来患者数,人/週
 中央値(IQR) 40(20~70)
1週当たりの入院患者数,人/週
 中央値(IQR) 10(4~20)
1年当たりの週末の回診回数,回/年
 中央値(IQR) 12(0~26)
睡眠時間,時間/日
 平均(±標準誤差) 6.0(±1.2)

つぎに日本版バーンアウト尺度の三つの下位尺度を目的変数としてStepwise法(投入基準:P < 0.05,除去基準:P > 0.10)による重回帰分析を行い,有意な関連を認めた項目をTable 4に示す.説明率(調整済みR2)はすべて0.4以上であり,ストレス調査としては十分な説明率だと考えられた.情緒的消耗感と特に関連の強かった項目は,仕事が自分にとって有意義であること(以下,有意義性),個人/家庭生活のための時間,年齢,間接的な事務作業,補助スタッフ,業務に研究が占める割合,脳神経内科を選択した動機などであった.脱人格化と特に関連の強かった項目は,有意義性,年齢,間接的な事務作業,脳神経内科を選択した動機,補助スタッフなどであった.個人的達成感の低下と特に関連の強かった項目は,有意義性,脳神経内科を選択した動機,業務に臨床が占める割合,自己決定権,非指導医の専門医などであった.

Table 4  本調査で使用した項目の基本集計.
日本版バーンアウト尺度 全体に対する比率,%
情緒的消耗感(5点満点)
 平均(±標準偏差) 2.86(±.92)
脱人格化(5点満点)
 平均(±標準偏差) 2.21(±.85)
個人的達成感の低下(5点満点)
 平均(±標準偏差) 3.17(±.77)
“自分のキャリアの選択を再考できるなら,再び医師になることを選びますか”
 「おそらく選ぶ」,「間違いなく選ぶ」,人 635 50.4
“自分の専門(speciality)の選択を再考できるなら,再び脳神経内科医になることを選びますか”
 「おそらく選ぶ」,「間違いなく選ぶ」,人 644 51.1
“概して,私は私の仕事に満足している”
 「強く当てはまる」,「当てはまる」,人 582 46.2
総合的QOL(10点満点)
 平均(±標準偏差) 5.4(±4.7)
 6点以下 805 63.8
疲労のレベル(10点満点で10が最良)
 平均(±標準偏差) 4.7(±2.1)
“私の仕事のスケジュールでは私の個人/家族生活のための十分な時間を取ることができる”
 「当てはまらない」,「強く当てはまらない」,人 597 47.3
“あなたの幸せ(well-being)は,他の医師と比べて,どう考えますか”
 「不良(医師のボトム30%)」,「平均以下(31~40パーセンタイル)」,人 280 22.2
 「平均(41~60パーセンタイル)」,人 508 40.3
 「平均以上(61~70パーセンタイル)」,「極めて良好(医師のトップ30%)」,人 460 36.5
“私は私の仕事をどのように行うかを決定するかなりの自己決定権を持つ”
 「強く当てはまる」,「当てはまる」,人 692 54.9
“私の行う仕事は,私にとって有意義なものである”
 「強く当てはまる」,「当てはまる」,人 713 56.5
“あなたが脳神経内科を選ぶ動機となった活動に,十分時間を費やすことはできていますか”
 「非常にたくさん」,「たくさん」,人 329 26.1
“患者ケアに直接的に関係のある事務作業a)に私が費やす時間の量は妥当である”
 「強く当てはまる」,「当てはまる」,人 434 34.4
“患者ケアに間接的に関係のある事務作業b)に私が費やす時間の量は妥当である”
 「強く当てはまる」,「当てはまる」,人 239 20.0
効果的な補助スタッフの数
 「少なすぎる」,「あまりにも少なすぎる」,人 788 62.5

a)例:オーダー入力,口述,検査結果見直し,患者ポータルを介した患者とのやりとりなど. b)例:文書のやり取り,書類の完成,電話への応対など.

職業満足度に関する二つの設問と,Well being,QOL,疲労,日本版バーンアウト尺度の三つの下位尺度との相関係数をTable 5に示す.日本版バーンアウト尺度のほうがWell being,QOL,疲労よりもおおむね高い相関係数を示した.

日本版バーンアウト尺度の下位尺度間で相関係数を求めた.情緒的消耗感と脱人格化では0.739,情緒的消耗感と個人的達成感の低下では0.390,脱人格化と個人的達成感の低下では0.427であった(すべての相関係数のt値は1%水準で有意).

Table 5  日本版バーンアウト尺度の重回帰分析.
情緒的消耗感
項目 標準化偏回帰係数(β)
 有意義性 −0.287
 患者ケアに間接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当 −0.134
 個人/家族生活のための十分な時間を取ることができる −0.192
 年齢 −0.185
 業務比率 研究 −0.121
 効果的なスタッフが充足している −0.134
 脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる −0.106
 婚姻ダミー_未婚 0.082
 地域ダミー_近畿 0.070
 専門ダミー_神経修復・リハビリテーション −0.063
 専門ダミー_臨床生理学 −0.060
調整済みR2 = 0.405
脱人格化
項目 標準化偏回帰係数(β)
 有意義性 −0.469
 患者ケアに間接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当 −0.122
 年齢 −0.172
 脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる −0.112
 効果的なスタッフが充足している −0.107
 介護が必要な家族c) 0.007
 ボランティアの時間/月 0.069
 地域ダミー_近畿 0.063
 勤務機関ダミー_大学 −0.063
 専門ダミー_神経筋疾患 −0.059
 専門ダミー_神経修復・リハビリテーション −0.058
調整済みR2 = 0.419
個人的達成感の低下
項目 標準化偏回帰係数(β)
 有意義性 −0.473
 業務比率 臨床 0.123
 脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる −0.128
 身分ダミー_専門医(非指導医) 0.100
 仕事における自己決定権 −0.105
 ボランティアの時間/月 −0.062
調整済みR2 = 0.427

注1)投入された項目のF値はすべて5%水準で有意.マイナスの偏回帰係数がバーンアウトの抑制変数,プラスが促進変数を示す.

注2)ダミー変数 地域:「関東」を基準,専門:「神経学全般」を基準,身分:「指導医」を基準,勤務機関:「一般病院」を基準.

本アンケートと米中のアンケートの結果の比較をTable 6に示す.米国11と比較すると,回答者の年齢は本邦の方が6歳若く,男性が多かった.専門領域は日米ともに神経学全般が最多であったが,本邦では脳卒中が多く,米国ではてんかんが多かった.労働時間や仕事の自己決定権,疲労,事務作業に関する結果は日米でほぼ同様であったが,職業満足度や個人生活/家族生活のための十分な時間は本邦の方が低く,とくに,仕事が有意義と回答した頻度はとくに低かった(56.5%対87.6%).中国の報告は,女性が占める割合が高いこと,職業満足度が最も低いこと,さらに個人生活のための十分な時間があると答えた回答者は3.2%とわずかであったことが特徴であった12

Table 6  well-being,QOL,疲労および日本版バーンアウト尺度とキャリア満足度との関係.
「再び医師になることを選びますか」 「再び脳神経内科医になることを選びますか」
Pearsonの相関係数 Pearsonの相関係数
Well being 0.293 0.285
QOL 0.215 0.203
疲労 0.169 0.138
情緒的消耗感 −0.329 −0.279
脱人格化 −0.352 −0.382
個人的達成感の低下 −0.368 −0.364

注1)相関係数のt値はすべて1%水準で有意

Table 7  日米中でのアンケート結果の比較.
日本神経学会アンケート
(2019年)
米国神経学会アンケート
(2016年)
中国神経学会アンケート
(2014~2015年)
回答率 15% 40.5% 60.7%
基本的特徴
 年齢中央値 45歳 51歳 中央値は不明.
20~50歳までで90.1%.
 男性 71.8% 65.3% 46.0%
 専門領域(多い順) ①​神経学全般(45.5%),
②​血管・脳卒中(10.2%),
③​運動異常症(5.8%)
①神経学全般(31.9%),
②てんかん(8.9%),
③小児神経学(8.3%)
データなし.
労働負担
 労働時間 55.1時間/週 55.3時間/週
(clinical practice)
平均は不明.
55時間以上が42.1%.
58.1時間/週
(academical practice)
 週末の回診回数 17.0回/年 9.9回/年 データなし
職業満足度
 「再び医師を選択する」 50.4% 61.3% 25.3%
 「再び脳神経内科医を選択する」 51.1% 67.2% データなし
 「現在の仕事に満足している」 46.2% 67.0% 34.2%
個人生活/家族生活のための十分な
時間がある
20.2% 32.9% 3.2%
自己決定権がある 54.9% 59.9% データなし
QOLのVAS 5.4 6.2 データなし
疲労のVAS 4.7 5.2 データなし
仕事が有意義である 56.5% 87.6% データなし
事務作業に関する設問
 直接的な事務作業の量が妥当 34.4% 23.0% データなし
 間接的な事務作業の量が妥当 20.0% 15.9% データなし
 補助スタッフが少なすぎる 62.5% 56.3% データなし

考察

1. バーンアウト対策の重要性

Table 5より,「再び医師/脳神経内科医を選択する」という項目と最も強く関連していたのがバーンアウト尺度であった.したがって,医師のキャリア満足度を高めるためには,医師のバーンアウト対策を講じることが有効であることが示されたと考えられる.

2. 脳神経内科医のバーンアウトの特徴

本研究の対象である脳神経内科医のバーンアウト傾向を評価する際,同じ尺度を使った他の対象の結果と比較する方法が考えられる.以前からバーンアウト研究の対象となってきた看護師のデータ15と比較する.この研究の対象となった看護師1,827名の平均値は情緒的消耗感3.25,脱人格化2.07,個人的達成感の低下3.56であった.この値と比較すると,本研究の脳神経内科医の平均値は情緒的消耗感と個人的達成感の低下はかなり低く,脱人格化は少し高いという結果となる.

また本研究では,情緒的消耗感と脱人格化の間で強い相関が認められたことに加え,これら二つの下位尺度と個人的達成感の低下の間にも比較的高い相関が認められた.これは,個人的達成感の低下と,残りの二つの下位尺度との関連は低く,個人的達成感の低下はバーンアウトの独立した因子であるという,日本版バーンアウト尺度を用いたこれまでの報告1415とは異なる結果であった.本研究の対象となった脳神経内科医の傾向として情緒的消耗感が低く,個人的達成感が高いという先の考察をふまえると,脳神経内科医は比較的高い達成感,効力感を感じており,それが消耗感ひいてはバーンアウトの抑止につながっているとの推測が成り立つ.

3. 量的な労働負担とバーンアウト

本アンケートでは,米国,中国のアンケート1112で認められたバーンアウトと,労働時間や夜間オンコール数,患者数といった量的な労働負担とのあいだに有意な相関は認めなかった.医師の労働時間とバーンアウトに関する既報としては,労働時間制限の効果を調べたシステマティック・レビューにおいて,バーンアウトに有効であったのは六つの研究のうち二つのみと報告されている18.また労働時間制限によって限られた時間内に同じ量の仕事をするプレッシャーが,疲労とストレスを増加させたという報告もある19.すなわち,単に労働時間の制限を行うだけではバーンアウト対策として不十分な可能性が示唆された.

4. 事務作業とバーンアウト

本研究では,間接的な事務作業の量が多すぎること,効果的な補助スタッフの数が少なすぎることが,バーンアウトと関連していた.直接,患者ケアに関わらない煩雑な事務作業が医療現場の消耗感を高め,意欲の低下につながるものと考えられた.電子カルテはその一因であり,情報過多,過剰なデータ入力,システム反応の遅さなどが,バーンアウトに有意に関連することが報告されている20.患者のケアと直接関係のない事務作業がバーンアウトの危険因子であることは,外科医やがん専門医の検討でも報告されている2122.これに対して,医療スクライブ(書記)の導入は,ランダム化比較試験で患者の満足度を損なうことなく,医師全体の満足度,カルテの質と正確さへの満足度,カルテ作成の効率に有意な改善をもたらすことが示されており23,医師のバーンアウト対策として有効と考えられる.

5. 仕事の有意義性とバーンアウト

本研究では,米国の報告11と同様に,自身の仕事を有意義と感じられないことがバーンアウトと有意に関連していた.同様の結果が内科医における検討でも報告されており,自分にとって最も有意義な活動に費やす時間が20%未満と少ない場合,バーンアウトの有病率は2.75倍と増加すると報告されている24.また,重回帰分析の結果,仕事の有意義性はバーンアウトの下位尺度すべてにおいて最も関連性の高い項目となっていたことに加え,「脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる」という項目もバーンアウトの下位尺度すべてと高い関連性を示していた.

仕事が有意義と回答した本調査の回答者が米国と比べて著しく少なかったという結果を加味すれば,個人的に意味のある仕事に時間を費やせることで得られる達成感や効力感を通してキャリア満足度を高めることは,バーンアウト対策として重要かつわが国の医療現場の喫緊の課題だと考えられる.自身の仕事を有意義と感じられればバーンアウトを防止できるかについては,渉猟した限り報告はないが,委員会としてはバーンアウトのリスクを減らす可能性があるものと考えている.

6. 本研究の限界

本研究の限界としては,第一にアンケートの回答率が15%と低く,よりバーンアウトに関心が高い人が回答した可能性がある.回答者と全学会員の年代,性別,勤務先の比較では,30代,40代,女性,大学の勤務者の割合が高い傾向があり,これらの群でよりバーンアウトに対する関心が高い可能性がある.第二に,日本版バーンアウト尺度にはカット・オフ値が設定されていないため,バーンアウトの頻度が算出できないことや海外の既報11, 12)との比較ができないことが挙げられる.

おわりに

本邦の脳神経内科医におけるバーンアウト調査の結果について報告した.間接的な事務作業量の過多と,効果的な補助スタッフの数が少なすぎることが,バーンアウトと関連していたが,単に労働時間の制限を行うだけでは不十分な可能性が示唆された.本邦の脳神経内科医におけるバーンアウトにおいて,自身の仕事を有意義と感じられること,そしてそこから達成感や効力感を得ることが重要な意味を持つことを認識し,これらを促進する総合的な対策を行う必要がある.具体的な方法として,個人での工夫の共有,病院や学会,国家における組織改革や働き方改革,そしてキャリアアップ支援とリーダーシップ教育などを積極的に進めていく必要がある.具体的な方法として,①個人での工夫の共有,②病院や学会,国家における組織改革や働き方改革,そして③キャリアアップ支援とリーダーシップ教育などを積極的に進めていく必要がある.①については,「早めに吐き出す,愚痴る.無理だと思ったらNoと言う.仕事から離れる時間を作る.仲間と話をする」ということがシンポジウムにて提案された8.②については,複数主治医・勤務交代制の導入,勤務間インターバル制度の導入,休みを取りやすい環境の整備,タスク・シフト,各施設における当直回数の適正化,給与待遇の適正化,医師の増員が考えられる.③については,女性に対するキャリアアップ支援や,若手医師,地方勤務医師の研究や論文執筆の機会・時間的余裕の提供が考えられる.また男女間や大学病院・一般病院間におけるバーンアウトの比較や,新型コロナ感染症がバーンアウトに及ぼす影響については重要な課題であり,今後,検討を行い明らかにしたい.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2021 Societas Neurologica Japonica
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