2021 Volume 61 Issue 3 Pages 166-171
症例は60歳男性.慢性硬膜下血腫を背景に失語と一過性の右上肢不全麻痺を呈した.発症1時間後の頭部MRIで左大脳皮質領域にdiffusion-weighted image(DWI)高信号,apparent diffusion coefficient低信号を認め,鑑別疾患として超急性期脳梗塞が挙げられた.しかし,硬膜下血腫に沿った大脳皮質と同側視床枕にMRI異常信号域が存在し,DWI高信号域と一致してfluid-attenuated inversion recovery(FLAIR)高信号をすでに認めたことから超急性期脳梗塞は否定的と考え,てんかん性発作と考えた.また,FLAIRで硬膜下血腫からくも膜下腔へ血腫成分の漏出を認め,同領域の皮質が発作の焦点と考えられた.MRIの異常信号の局在と信号変化の時期が,発症早期より両者を区別するために有用である可能性が示唆された.
A 60-year-old man developed aphasia and transient right upper limb paresis in the presence of chronic subdural hematoma and was transferred to our hospital at an early stage. Cranial MRI within an hour after onset showed diffusion-weighted image (DWI) hyperintensity in the left parietal, temporal, and insular cortex and the pulvinar, and decreased apparent diffusion coefficient (ADC) in the left parietal cortex and pulvinar, suggesting a differential diagnosis of hyper-acute ischemic stroke. However, the distribution and timing of the MRI abnormalities were considered to be atypical for hyper-acute ischemic stroke. The area with both DWI hyperintensity and decreased ADC included the cerebral cortex adjacent to the hematoma and the ipsilateral pulvinar, and fluid-attenuated inversion recovery (FLAIR) hyperintensity co-existed with DWI hyperintensity within only an hour from onset. Furthermore, FLAIR images showed infiltration of the hematoma content into the subarachnoid space, which might have triggered the attack. These findings collectively led us to diagnose an epileptic seizure. The present case suggests that the distribution and timing of MRI abnormalities are essential to differentiate epileptic seizures from hyper-acute ischemic stroke.
発症早期のてんかん性発作と超急性期脳梗塞の鑑別に時に苦慮することがある1).今回我々は,MRIの異常信号の局在と信号変化の時期から発症早期より両者を区別し得たてんかん性発作の症例を経験した.また本症例はくも膜下腔に血腫成分が漏出した慢性硬膜下血腫を合併しておりてんかん性発作の誘因と考えた.本症例におけるてんかん性発作発生の機序と,鑑別に有用と考えられるMRIでの異常信号の局在と信号変化の時期について考察を加え報告する.
症例:60歳,男性,右利き
主訴:非流暢性発語,言語理解不能,一過性の右上肢不全麻痺
既往歴:50歳代から高血圧症,脂質異常症,耐糖能異常.
家族歴:特記事項なし.
現病歴:2019年10月,強風で三脚から転倒し,右頭頂後頭部を打撲した.受傷2日後に近医脳神経外科を受診し,頭部単純CTを撮影したが,異常は指摘されなかった.同年12月下旬に,前頭部全体に重いような持続性の頭痛が出現し,右上下肢に動かしづらさを自覚し始めた.翌年1月上旬に近医を受診し,右上肢不全麻痺,頭部単純CTで左頭頂側頭部にかけて慢性硬膜下血腫を認め(Fig. 1A),穿頭血腫洗浄術が施行された.術後,CT上の血腫の増悪もなく(Fig. 1B),1月中旬に後遺症なく退院した.前医退院8日後(術後16日目)の1月下旬,勤務中の17時に突然,頭部全体が締め付けられるような頭痛とぼーっとするような思考力の低下を自覚した.その直後,同僚と上手く会話ができなくなった.相手の発言内容の理解ができず,自発的に話そうとしても言葉が出てこなかった.会社の医務室で血圧を測定しようとしたところ,右上肢を挙上しにくいことにさらに気づいた.明らかな痙攣は認めなかった.超急性期脳卒中が疑われ17時30分に当院に救急搬送された.この間に記憶の欠損はなかった.

A: Preoperative axial CT image showing left lateralized chronic subdural hematoma (arrowheads). B: Axial CT image on postoperative day 8.
入院時現症:脈拍98/分でリズムは整,血圧204/70 mmHg,体温37.0°C,一般身体所見に異常はなかった.神経学的には,明らかな意識障害は認めなかった.自発言語は非流暢で言語理解不能,復唱不能であった.発症時に認めた右上肢不全麻痺は消失しており,運動麻痺や筋トーヌス異常,および感覚障害は認めなかった.軽度の頭痛と頸部痛を認めたが,その他の髄膜刺激症候は認めなかった.
検査所見:血液検査では,血算に異常を認めなかった.生化学検査では,脂質異常症,耐糖能異常の既往を反映し,TG 234 mg/dl,HbA1c 6.3%と軽度上昇を認めた.随時血糖156 mg/dlと低血糖は認めなかった.またCRP 2.16 mg/dlと軽度高値であった.発症1時間後の頭部MRIで,左側に慢性硬膜下血腫の残存を認めた.血腫部位に接する左頭頂葉は皮質に沿ってdiffusion-weighted image(DWI)で高信号であり(Fig. 2A),同部位のapparent diffusion coefficient(ADC)値の低下(Fig. 2B),fluid-attenuated inversion recovery(FLAIR)での軽度高信号(Fig. 2C)を認めた.また,FLAIRで血腫に隣接する一部の脳溝に高信号域を認め,硬膜下血腫からの血腫成分の漏出と考えられた(Fig. 2C).これらの所見に加え,左島皮質と左側頭葉の皮質を中心にDWI高信号(Fig. 2D),同部位のADC等信号(Fig. 2E),FLAIR高信号(Fig. 2F)を,また視床枕ではDWI高信号,ADC低信号,FLAIR高信号を認めた(Fig. 2D~F).

A: Axial diffusion-weighted image (DWI) within an hour of symptom onset. The DWI image shows the area of hyperintensity in the left parietal cortex (arrowhead). B: Axial apparent diffusion coefficient (ADC) image within an hour of onset. There was a decrease in the ADC in the left parietal cortex (arrowhead). C: Axial fluid-attenuated inversion recovery (FLAIR) image within an hour of onset. The FLAIR image shows slight hyperintensity in the left parietal cortex (arrowhead) and sulcal hyperintensity beside the hematoma (arrows). D: Axial DWI within an hour of onset. The DWI shows the area of hyperintensity in the left pulvinar (dotted circle) and in the left cerebral cortex including the temporal cortex and the insular cortex (arrowheads). E: Axial ADC image within an hour of onset. The ADC was decreased in the left pulvinar (dotted circle). F: Axial FLAIR within an hour of onset. The FLAIR image showed hyperintensity in the left pulvinar (dotted circle) and in the left cerebral cortex including the temporal cortex and the insular cortex (arrowheads). (3.0 T; A and D: TR 5,100 ms, TE 65 ms; B and E: TR 5,100 ms, TE 65 ms; C and F: TR 10,000 ms, TE 102 ms)
入院後経過:発症1時間後の頭部MRIで島皮質を含む左大脳皮質にDWIで高信号,ADCで一部低信号を認め,超急性期脳梗塞との鑑別を要した.しかし視床枕にも同様の変化を認め,またFLAIRで一部の病変はすでに高信号域を認めた点からてんかん性発作を鑑別疾患の上位として考えた.その他,急性発症の経過が非典型であったが,画像上は,ウィルス性髄膜脳炎,穿頭血種洗浄術施行部位の感染に伴う細菌性髄膜脳炎も鑑別疾患として考えられた.腰椎穿刺により頭蓋内圧が急激に低下した場合,血腫が増悪するおそれが否定できないと考え,脳脊髄液検査は施行しなかった2).
しかしながら前述の通り,急性発症であった点,38°C以上の体温上昇を認めなかった点,項部硬直を認めなかった点,意識障害を認めなかった点から細菌性髄膜脳炎は総合的には積極的に考えにくいとも判断した.また,脳脊髄液検査を施行せずにエンピリックにウィルス性髄膜脳炎,細菌性髄膜脳炎を想定して加療を行った場合,バンコマイシンとアシクロビル併用での腎障害発現の危険性も考慮され,抗菌薬は投与せずにアシクロビル(1,875 mg/日)のみを投与開始した.その他,レベチラセタム(2,000 mg/日)での加療も開始した.
発症第2日目の朝,自発言語の流暢性の改善を認めたが,錯語と保続がみられ,復唱や言語理解,文字理解,音読,自発書字はいずれも不能であった.しかし同日の夕方には軽度の言語理解障害が残存する程度に急速に改善した.発症第2日目の頭部MRIではDWIでの高信号が等信号に改善しており,この時点で脳炎は否定的と考えられた.FLAIRでの高信号は残存していた.同日に施行した脳波検査では,単極誘導で左頭頂部と左後頭部に2.5~3 Hz,30 μVのδ波を認めた.また,4~5 Hz,30 μVのθ波の少量の混在も認めた.第3病日目,第7病日目に再検査したところ,これらの徐波は徐々に改善していった.経過から,失語を主症状とした慢性硬膜下血種に付随したてんかん性発作と診断した.発症第11日目に経過観察のために撮像した頭部MRIで異常信号がすべて改善していたこと,血中抗HSV抗体や抗VZV抗体が陰性であったことを鑑み,アシクロビルは発症第13日目に中止した.症状の再燃もないことから発症第17日目に後遺症なくレベチラセタム継続の上,自宅に退院した.
本症例は,慢性硬膜下血腫を背景に,突然発症の失語を主症状として発症1時間で搬送された.頭部MRIで広範な左大脳皮質領域にDWI高信号,ADC低信号域を認め超急性期脳梗塞との鑑別を要した.
初療時に虚血性脳卒中と考えられたものの,最終的にてんかんと診断された症例は過去にも少数ながら報告がある1).それらの症例は発症4.5時間以上で救急搬送されており,初回のMRIで片側の視床枕,海馬,大脳皮質にDWIとFLAIRで高信号を認め,初療時に脳梗塞と診断されて抗血栓療法が開始された1).本症例でも同様に視床枕と大脳皮質に信号変化を認めた.本症例が過去の報告と相違する点は,発症1時間で撮像したMRIでDWI高信号域にすでにFLAIRで高信号を認めたことである.てんかん性発作に伴うMRI信号変化は,DWI,FLAIRで高信号,ADCで低信号を呈することが多いとされるが,これらの変化はてんかん性発作による浮腫に起因し,浮腫の程度で信号値は変化する3).浮腫には血管性浮腫と細胞性浮腫があり,FLAIRはどちらでも高信号になるが3)4),ADCとDWIはどちらが優位かによってその変化が異なる.血管性浮腫の場合にはADCは高信号,時にDWIも高信号になり得る3)~5).細胞性浮腫にまで進行するとADCは低信号,DWIは高信号を呈する3)4).各シークエンスの信号変化に要する時間は,DWIとADCは最短で数分であることが知られているが,FLAIRについてはまだ明らかではなく動物実験からは数時間以内であることが示唆されている6)7).てんかん性発作に伴うFLAIR高信号は,過灌流に伴う血管性浮腫によるグリア細胞肥大を検出していると考えられている3).血管性浮腫の原因となる過灌流は発作後1分以内から生じるという報告があり8)9),発症早期からのFLAIRでの高信号を生じさせ得る.一方,発症4.5時間以内の超急性期脳梗塞ではDWIで高信号,ADCで低信号を認めるものの,FLAIRではまだ信号変化はなく,超急性期にはDWI-FLAIRミスマッチを認める10).脳梗塞により脳血流が減少すると,細胞内エネルギー代謝が減少し細胞性浮腫が生じることで,発症後数分からDWIでの高信号が認められるようになる11)12).それに対して脳梗塞によるFLAIRでの高信号は,緩徐に引き起こされる血管性浮腫が原因であり,発症後2~3時間まではわずかしか現れないとされている10)13).脳梗塞発症後1~4時間にかけて組織の浸透圧が上昇し,水含有量が増大することでFLAIRでの高信号は遅れて現れる11)14)15).本症例では突然発症の失語で発症し,発症1時間のFLAIRでDWI高信号域に高信号を認めたことから超急性期脳梗塞としては非典型的であると考えられた.したがって,発症時刻が明確で発症早期に来院したてんかん性発作を超急性期脳梗塞と区別するために,DWI高信号かつFLAIR高信号の “DWI-FLAIRマッチ” の所見が有用であることが示唆された.総じて,DWI,ADC,FLAIRの信号変化のパターンや異常信号を呈する部位の組み合わせからてんかん性発作と超急性期脳梗塞を区別できる可能性を考えた(Table 1)3)6)7)10)~13).
| DWI | ADC | FLAIR | Areas with MRI abnormalities | |
|---|---|---|---|---|
| Hyper-acute ischemic stroke |
Increases in a few minutes |
Decreases in a few minutes |
Remains iso-signal for 2–3 hours | Territories of the responsible cerebral arteries |
| Epileptic seizures | Increases in a few minutes |
Increases or decreases in a few minutes The changes depend on the extent of edema |
Possibly increases earlier than hyper-acute ischemic stroke (in an hour in this case) |
Cortex, thalamus (especially pulvinar), mesotemporal lobe, corpus callosum, contralateral cerebellar hemisphere, and basal ganglia |
ADC, apparent diffusion coefficient; DWI, diffusion-weighted image; FLAIR, fluid-attenuated inversion recovery.
慢性硬膜下血腫はてんかん性発作の原因として知られている16).一般的に慢性硬膜下血腫がてんかん性発作を引き起こす機序として,血腫の圧迫で血流障害をきたすこと,外科的手技で脳が障害されること,血腫によるグリオーシスが知られている17).また,血腫内容物のくも膜下腔への浸潤により脳実質が刺激されることも重要な要因と言われている18).本症例では,FLAIRで血腫に沿う脳溝の一部に高信号を認めたことから,血腫からくも膜下腔に血腫成分が浸潤し,左大脳皮質を起源としたてんかん性発作を引き起こした可能性が考えられた.
てんかん性発作でMRIの異常信号が認められる好発部位としては内側側頭葉,大脳皮質,脳梁,視床,対側の小脳半球,大脳基底核が知られている3).海馬は古くからてんかん性発作の起源となることが知られており19),高頻度にMRI異常信号を認め得る20).海馬で生じたてんかん性発作は視床枕を介して広範な大脳皮質へ広がるとされる21).本症例では海馬にMRI信号変化を認めなかったのは,てんかん性発作が海馬ではなく血腫に隣接する皮質を起源としたからだと推測される.ただし血腫などの外的誘因がない場合は海馬の信号変化に注目することは重要であると考えられる.一方,本症例で異常信号を呈した視床枕は広範な大脳皮質や皮質下領域と相互に連絡している22)23).視床枕は特に側頭葉皮質,側頭頭頂接合部,島皮質と強く連絡し,cortico-pulvinar connectionを形成する23)24).さらに視床枕とてんかんの関わりについては,視床枕は脳の背外側を起源とするてんかんで異常信号を呈しやすいとされている25).本症例では,まず,くも膜下腔にその成分が漏出した血腫に近接する大脳の背外側の頭頂側頭葉皮質で異常興奮が誘発され,その興奮がcortico-pulvinar connectionを介して視床枕に伝播したと考えられる.そこからさらに,cortico-pulvinar connectionを介して側頭葉皮質,島皮質へ伝播したと考えられた.実際に,発作の起源と考えられる頭頂側頭葉皮質領域と,異常興奮をその他の大脳皮質に伝播させる役割を果たした視床枕は,他の異常信号を呈した部位と異なりDWIで高信号,ADCで低信号の細胞性浮腫の所見を認め,同部位で強い異常興奮が生じていた可能性を示唆する.発症早期からの “DWI-FLAIRマッチ” の所見や海馬,視床枕,大脳皮質の異常信号は,早期にてんかん性発作と診断する上で重要な所見と考えられた.
一般的にてんかん性発作後の脳波検査所見として,脳波の平坦化や徐波化を高頻度に認める26).特にδ波はてんかんの最大81%に認められる重要な所見と考えられている27).本症例は,頭部MRIで広範な領域に異常信号域を認め,てんかん性発作の焦点は比較的広範だったと推測されるにもかかわらず,δ波とθ波は30 μVと低振幅であり明瞭なてんかん性放電も認めなかった.その理由の一つとして,血腫の影響で頭皮上脳波の振幅低下を生じた可能性を考える28).それ以外の病態として,頭部外傷,くも膜下出血などの急性,亜急性脳障害に伴うcortical spreading depolarization(CSD)の存在が検討され得る29)30).特に,本症例と類似するような硬膜下血腫を背景に持つ症例においてCSDがその病態把握と転帰判定に有用であったという報告があり,神経症状が持続しているにもかかわらず明瞭な徐波などの脳波異常を認めない場合にはCSDを考慮する必要があると考える30).
超急性期脳梗塞と発症早期のてんかん性発作との鑑別に時に苦慮することがある.MRIの異常信号の局在と信号変化の時期から発症早期より両者を区別できることが示唆された.
謝辞:頭部単純CTをはじめとした臨床情報をご提供くださった国家公務員共済組合連合会平塚共済病院 脳神経外科 横山高玲先生に深謝いたします.また本症例の診断・治療にご協力いただいた東京慈恵会医科大学 脳神経外科 海渡信義先生,東京慈恵会医科大学 精神神経科 須江洋成先生に深謝いたします.
※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.