Rinsho Shinkeigaku
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Brief Clinical Notes
A case of adult-onset type II citrullinemia triggered by entering a nursing home with a good response to medium-chain triglyceride oil therapy
Kazuma KodaMariko AkaogiHiroaki SekiyaYoshihisa OtsukaYukihiro YonedaAtsuo KikuchiShigeo KureYasufumi Kageyama
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2021 Volume 61 Issue 3 Pages 200-203

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要旨

症例は知的障害のある49歳女性.福祉施設入所後から高アンモニア血症による夜間の異常行動,意識障害を繰り返した.入所前はフライドチキンなどの高蛋白・高脂質を好む食嗜好があった.血清アミノ酸分析のシトルリン異常高値から尿素サイクル異常症を疑い,遺伝子検査によりシトリン欠損症(成人発症II型シトルリン血症)と診断した.低糖質食療法のみでは治療効果は不十分であり,中鎖脂肪酸(medium-chain triglyceride,以下MCTと略記)オイルを併用し,症状は消失した.再発性の高アンモニア血症では尿素サイクル異常症を鑑別する必要があり,その一型であるシトリン欠損症にはMCTオイルが有効である可能性がある.

Abstract

A 49-year-old woman with intellectual disability and a food preference for fried chicken entered a nursing home. After nursing home diet, she developed episodic attacks of hyperammonemic encephalopathy. Her characteristic food preference and the negative results for brain and liver imaging studies suggested urea cycle disorder. A high plasma citrulline level on amino acid analysis and a genetic test for citrine gene confirmed a citrine deficiency (adult-onset type II citrullinemia). Although a low-carbohydrate diet was insufficient, a combination therapy of a low-carbohydrate diet and a medium-chain triglyceride (MCT) oil was effective. MCT oil may be a promising treatment option.

はじめに

成人発症II型シトルリン血症(adult-onset type II citrullinemia,以下CTLN2と略記)は肝ミトコンドリア膜に存在するアスパラギン酸-グルタミン酸輸送体であるシトリンをコードする遺伝子の異常による成人発症型のシトリン欠損症である.CTLN2では尿素サイクルの異常により高アンモニア血症をきたし,発作性の異常行動や意識障害などの中枢神経症状を呈する1.近年CTLN2による高アンモニア血症に対して中鎖脂肪酸(medium-chain triglyceride,以下MCTと略記)オイルが有効であることが報告されている23.今回我々は生活環境の変化によりCTLN2を発症し,MCTオイルの投与により発作が消失した症例を経験したため報告する.

症例

患者:49歳女性

主訴:意識障害

既往歴:知的障害あり.小児期にけいれんがあり,てんかん治療(バルプロ酸400 mg/日)を継続していた.

生活歴:福祉施設入所以前は社会資源を利用しておらず,詳細は不明.近隣住民によるとフライドチキンを好んで食べていた.

家族歴:不明.

現病歴:来院2か月前,介助者であった母の急逝に伴い施設に入所し,その後食事量が減少した.来院当日夜間,施設内を徘徊した後に意識障害をきたし,救急外来を受診した.来院時JCS300で,血中アンモニアが319 μg/dl(基準値:12~66)と高値であったため分枝鎖アミノ酸製剤を投与したところ,意識障害は改善した.てんかん発作や薬剤性高アンモニア血症の可能性を考慮し,内服していたバルプロ酸をレベチラセタムに変更し退院した.2週間後,同様の症状で救急外来を受診し,再び血中アンモニアが高値となっており,精査目的に入院した.

入院時現症:身長151.0 cm,体重43.6 kg,BMI 19.1 kg/m2.基本的日常生活動作は自立しているが,発語は2語文程度であり,簡単な従命のみ可能であった.その他に特記所見はなかった.

検査所見:頭部CT,MRIでは異常はなかった.脳波ではびまん性に低振幅の徐波を認めた(Fig. 1).血液生化学所見ではアンモニアが455 μg/dlと高値である以外に特記所見はなかった.

Fig. 1 Brain MRI (FLAIR) and EEG (monopolar derivation).

(A) MRI revealed no abnormalities. (B) Repeated EEG examinations showed diffuse low-amplitude slow activity. Triphasic waves were not observed. (C) EEG 15 months after administration of medium-chain triglyceride oil showed 7–8 Hz basic rhythm.

入院後経過:高アンモニア血症の原因として肝硬変や門脈体循環シャントを考慮し,腹部の超音波とCTを施行したが,異常所見はなかった.鑑別として尿素サイクル異常症を疑い,血清アミノ酸分析を施行したところ,シトルリンが348.4 nmol/ml(基準値:17.1~42.6)と高値であり,フライドチキンを好む食嗜好と合わせて,シトリン欠損症を疑った.遺伝学的検査の結果,患者本人についてSLC25A13遺伝子にc.851_854delGTATおよびc.1230+1G>Aが検出され,臨床症状から複合ヘテロ接合体変異と推測し,CTLN2と診断した.低糖質食療法を開始し,意識障害はなくなったが,施設に退院すると食事量が減少し,1週間おきに再発による入退院を繰り返したため,食事療法にMCTオイルを追加した.その後発作は消失し,現在まで1年以上再発は認めず(Fig. 2),脳波でも8 Hz程度の基礎律動の出現を認めた(Fig. 1).

Fig. 2 Clinical course.

Episodic attacks of hyperammonemic encephalopathy disappeared after initiation of MCT oil therapy. BCAA, branched chain amino acids; MCT, medium-chain triglyceride oil.

考察

本例は,福祉施設入所後に高アンモニア血症による脳症をきたし,蛋白・脂質を好む食嗜好を手掛かりに遺伝子診断を行い,CTLN2と診断した.治療として低糖質食とMCTオイルが有効であった.シトリン欠損症は東アジア地域で多く見られる疾患で,繰り返す高アンモニア血症では鑑別すべき疾患である4.シトリン欠損症は常染色体劣性遺伝形式をとり,日本人では原因遺伝子SLC25A13の変異保因者の頻度は1/42人とされており,変異アリルのホモ接合体であるシトリン欠損症の頻度は1/7,100人と推定されているが5,実際にCTLN2を発症するのは1/100,000~1/230,000人とされている67.シトリンは肝細胞ミトコンドリア内膜に存在し,ミトコンドリア内にNADHを産生する反応に関与する.シトリン欠損症では,細胞質内にNADH還元エネルギーが過剰に蓄積し,尿素サイクルや糖代謝など様々な代謝異常を生じる2.シトリン欠損症は新生児期には肝内胆汁うっ滞として発症する(neonatal intrahepatic cholestasis due to citrin deficiency,以下NICCDと略記)が,多くは6カ月程度で軽快する.以降は無症状の代償期となるが,糖質を忌避し,豆類,乳製品,肉類を好む特異な食嗜好を示す.その後,思春期以降に夜間の高アンモニア血症による意識障害,異常行動,痙攣などの症状でCTLN2として発症する.本例では施設入所前にフライドチキンを好んでいたという食嗜好が確認され,入院中も米やイモといった糖質は好まず,ヨーグルトなどの乳製品を好んでいた.この食嗜好は糖質負荷によるNADHの蓄積を避ける本能的な反応とされており,常食していた豆類が齲歯8や海外旅行9を契機に摂取できなくなりCTLN2を発症した症例が報告されている.本例は施設入所により食事内容が変化したことが発症の原因であったと推測される.

CTLN2に対する治療としては低糖質食療法が行われるが,本例は知的障害により厳密な食事療法が困難であったため,MCTオイルを併用した.MCTは肝細胞にATPを供給し,細胞質のNADHの蓄積を改善する2.MCTオイルは当初NICCDで有効とされたが,近年CTLN2でも有効性が報告されている23.既報例ではMCTオイルにより,肝合成能の改善による体重の増加とともに高シトルリン血症が改善することが報告されており2,本例ではMCTオイルを開始後,高シトルリン血症の改善は乏しかったものの,高アンモニア血症による意識障害が消退し,体重が54.8 kgに増加した.これまでは保存的治療に不応のCTLN2では肝移植が唯一の治療法であったが19,MCTオイルは食品として容易に入手でき,選択すべき治療法と考えられる.

本例は知的障害を合併しており,小児期の高アンモニア血症の影響も推察されるが,MRIでは脳萎縮はなく,シトリン欠損症および高アンモニア血症と知的障害の関連は不明である.しかし,シトリン欠損症の有病率は比較的高く,これまで知的障害を伴うてんかんや原因不明の高アンモニア血症とされてきた患者の中にCTLN2が潜在する可能性がある.CTLN2は低糖質食療法やMCTオイルの投与により症状が改善しうる疾患であり,食嗜好を確認することが重要である.

Acknowledgments

謝辞:本報告の執筆に関してご指導いただきました兵庫県立尼崎総合医療センター脳神経内科 大塚 喜久 先生に深謝いたします.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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