Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of anti-Th/To antibody-positive systemic sclerosis with muscle symptoms and interstitial pneumonia
Shiori KikuchiJun SawadaTsukasa SaitoTakayuki KatayamaDaisuke FujishiroIchizo NishinoNaoyuki Hasebe
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2021 Volume 61 Issue 4 Pages 228-233

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要旨

症例は62歳男性.四肢近位筋の筋力低下,筋痛により歩行困難となり入院した.手指の腫脹やRaynaud現象と共に非特異疹を認め,血清creatine kinase(CK)値は7,380 U/lと著明に高値であり,急速に進行する間質性肺炎を認めた.筋生検では壊死・再生線維が主体であり,線維化は認めなかった.抗Th/To抗体陽性と共に,臨床的・組織学的に手指の皮膚硬化が認められ,抗Th/To抗体陽性全身性強皮症と診断した.本例は抗Th/To抗体陽性の全身性強皮症関連ミオパチーの筋病理所見について検討した初めての症例であり,免疫介在性壊死性ミオパチーの病理像を呈し,複数の免疫療法が有効であることを確認した.

Abstract

A 62-year-old Japanese man with swollen fingers and walking difficulty due to myalgia and muscle weakness in proximal limb muscles was admitted to our hospital. Serum creatine kinase was remarkably increased (7,380 U/l) and rapidly progressing interstitial pneumonia developed. Muscle biopsy showed necrotic and regenerating fibers without mononuclear infiltration and fibrosis. Anti-Th/To antibodies were detected in the serum, and anti-Th/To antibody-positive systemic sclerosis was diagnosed. Anti-Th/To antibody-positive sclerosis-associated myopathy has not yet been reported in the literature. The present case suggests that anti-Th/To antibody-positive systemic sclerosis can be accompanied by immune-mediated necrotizing myopathy and be effectively treated with immunotherapy comprising corticosteroids, tacrolimus and immunoglobulin.

はじめに

全身性強皮症は線維化と循環障害により様々な臓器障害をきたす自己免疫性疾患であり1,時にミオパチーを合併する2.抗Th/To抗体は全身性強皮症に関連する自己抗体であるが34,筋症状の合併に関して詳細な報告はない.今回,抗Th/To抗体陽性の全身性強皮症において,筋症状の経過や筋病理所見に関して詳細な検討を行ったため報告する.

症例

症例:62歳,男性

主訴:四肢の筋力低下,関節痛,筋痛

既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.

生活歴:喫煙 30本/日,42年間.飲酒 ウイスキー(水割り)1,000 ml/日,30歳で禁酒.

現病歴:2010年より寒冷刺激で手指が蒼白色に色調変化することを自覚した.2017年6月上旬,四肢の筋力低下,関節痛,筋痛が出現した.7月に歩行困難となり,Aクリニックを受診し,血液検査で高creatine kinase(CK)血症,抗核抗体陽性を指摘された.8月上旬にB病院脳神経内科を受診し,炎症性筋疾患が疑われ,8月下旬に精査加療目的で当科入院となった.

入院時現症:身長169.5 cm,体重74.3 kg,BMI 25.9 kg/m2,体温36.4°C,血圧126/67 mmHg,脈拍86回/分,整,呼吸数15回/分,SpO2 94%(室内気).体動時はSpO2 90%まで低下し,呼吸苦を伴った.胸腹部に異常はなかった.四肢の圧痕性浮腫,関節痛,関節腫脹があった.手指の腫脹,爪囲紅斑,爪上皮延長,爪上皮出血点,Raynaud現象があり(Fig. 1A),両足外側縁・内側縁に暗赤色紅斑もあったが(Fig. 1B),いずれも非特異疹であった.ヘリオトロープ疹,ゴットロン丘疹,ゴットロン徴候はなかった.神経学的には,意識清明で,軽度の嚥下障害があった.その他,脳神経系に異常はなかった.徒手筋力テスト(MMT)は頸部屈曲4,頸部伸展4,三角筋2/2,上腕二頭筋4/4,上腕三頭筋4/4,手根屈筋5/4,手根伸筋5/4,腸腰筋4/3,大腿四頭筋4/4,大腿屈筋群4/4,前脛骨筋5/4,腓腹筋5/5と四肢近位筋優位に低下していた.四肢の筋自発痛・把握痛があり,体動は困難であった.感覚系,腱反射,協調運動の異常はなかった.

Fig. 1 Physical findings of the patient’s extremities.

(A) Swelling in the fingers and nail fold bleeding (arrows) and (B) acrocyanosis on the toe.

検査所見:血液検査では,血算は白血球12,830/μlと高値であった.血液生化学では,CK 10,100 U/l,LDH 1,450 U/l,アルドラーゼ141.1 U/l,AST 328 U/l,ALT 325 U/lと筋原性酵素とトランスアミナーゼの上昇を認めた.Krebs von den Lungen-6(KL-6)709 U/ml,pulmonary surfactant protein-D(SP-D)181.2 ng/ml,フェリチン2,990 ng/mlと高値であった.免疫学的検査では,抗核抗体320倍(核小体型)と陽性であり,抗Scl-70抗体,抗セントロメア抗体,抗U1RNP抗体,抗ARS抗体,抗MDA5抗体,抗TIF1-γ抗体,抗Mi-2抗体,抗SRP抗体,抗HMGCR抗体はいずれも陰性であった.呼吸機能検査では肺活量2.44 l(%予測値69.5%),拡散能11.50 ml/min/mmHg(%予測値60.7%)と低値であった.心臓超音波検査では,心機能に異常なく,肺高血圧症は認めなかった.胸部X線検査では両下肺野に網状影があり(Fig. 2A),胸部CTでは両肺底部に線維性変化を認めた(Fig. 2B).針筋電図では右上腕二頭筋と右大腿直筋において,持続時間の短い低振幅電位を認め,安静時には線維自発電位を認めた.筋MRI脂肪抑制画像では,四肢近位筋に高信号を認めた(Fig. 3).左上腕二頭筋の筋病理所見では,筋線維の大小不同を認め,壊死再生線維が主体であり,炎症細胞浸潤は乏しく,線維化は認めなかった(Fig. 4A).免疫染色では,HLA-ABCの発現と,membrane attack complexの筋線維膜上への沈着をわずかに認めた(Fig. 4B, C).手指と足の皮膚病理所見では,表皮真皮境界部の液状変性を認め,膠原病を支持する所見であった.

Fig. 2 Radiological findings.

(A) Chest radiograph on admission showing reticular shadows in both lower lung fields; (B) Chest CT scan on admission showing fibrosis in both lower lobes; and (C) Chest CT scan on the 72nd hospital day showing acute relapse of interstitial pneumonia triggered by aspergillosis pneumonia.

Fig. 3 Muscle MRI scan of proximal limbs.

Short-tau inversion recovery (STIR) imaging of the patient’s thighs at (A) 1.5 T; TR 3,088 ms, TE 100 ms (B) 1.5 T; TR 2,859 ms, TE 60.0 ms; and left upper arm at (C) 1.5 T; TR 2,600 ms, TE 25.0 ms, and (D) 1.5 T; TR 2,367 ms, TE 70.0 ms. High-intensity signals are visible in the muscles of upper arm and extensor muscles of both the thighs.

Fig. 4 Histopathological findings of the left biceps brachii muscle.

(A) Moderate variations in fiber size and necrotic and regenerating fibers (hematoxylin and eosin staining, bar = 50 μm); (B) HLA-ABC antigen expression in the muscle fibers (Immunostaining, bar = 50 μm); and (C) equivocal expression of the membrane attack complex antigens in the muscle fibers (Immunostaining, Bar = 10 μm).

臨床経過:上記所見より,皮膚筋炎,全身性強皮症,免疫介在性壊死性ミオパチーが鑑別に挙げられたが,特異的な自己抗体や病理所見が得られず,確定診断に至らなかった.前医の胸部CT画像所見と比較して,間質性肺炎が急速に増悪傾向であったため,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000 mg/日,3日間)を施行し,プレドニゾロン60 mg/日(0.8 mg/kg/日)内服,タクロリムス6 mg/日内服を開始した(Fig. 5).また症状が重篤であったことから,免疫グロブリン大量静注療法(IVIg;400 mg/kg/日,5日間)を併用した.筋症状は改善傾向となり,CK値は低下したが,間質性肺炎のコントロールに難渋し,KL-6やSP-Dは経時的に上昇傾向であった.胸部CT所見を参考にしながら慎重にプレドニゾロンを減量したが,11月中旬にアスペルギルス肺炎の合併を契機に間質性肺炎が急速に増悪した(Fig. 2C).再度ステロイドパルス療法を実施し,プレドニゾロンを増量したところ,KL-6やSP-Dは低下し,胸部CT画像所見は改善傾向となった.12月に全身性強皮症の自己抗体である抗Th/To抗体に関して,リコンビナント蛋白を用いた免疫沈降法とELISA5により,主要対応抗原のhPop1に対する自己抗体が陽性であることが判明した.皮膚所見の再評価を行ったところ,足の暗赤色紅斑について臨床・組織学的に皮膚硬化を認め,全身性強皮症に関連したアクロチアノーゼの可能性が考えられた.手には皮膚硬化の所見は認めなかったが,手指の腫脹やRaynaud現象など,全身性強皮症として矛盾しない所見であった.皮膚所見が非特異的で診断に難渋したが,全身性強皮症診断基準を満たしたことから,最終的に抗Th/To抗体陽性全身性強皮症と診断した.現在プレドニゾロンとタクロリムスの内服を継続し,症状の寛解を維持しており,CK値も基準値内で推移している.

Fig. 5 Clinical course.

The patient was treated with mPSL pulse therapy followed by oral high-dose PSL, tacrolimus and IVIg. Although his muscle weakness and CK levels were improved, the IP was difficult to control. In spite of the slow and careful tapering of PSL, IP relapsed, triggered by aspergillosis pneumonia. Retreatment with mPSL pulse and high-dose prednisolone resulted in a gradual improvement in the IP, KL-6 and SP-D.

IP, interstitial pneumonia; CK, creatine kinase; KL-6, Krebs von den Lungen-6; SP-D, pulmonary surfactant protein-D; IVIg, intravenous immunoglobulin; mPSL, methylprednisolone; PSL, prednisolone.

考察

本症例は非特異的な皮膚症状と筋症状,活動性の高い間質性肺炎を有し,抗Th/To抗体陽性を確認したことを契機として全身性強皮症の診断に至った.全身性強皮症の皮膚症状は,線維化と循環障害という二つの病態からなり,線維化による皮膚硬化や,循環障害によるRaynaud現象や指尖部虫喰状瘢痕,潰瘍・壊疽を呈する6.膠原病に共通してみられる非特異疹は循環障害を基盤とする症状であることが多く6,本症例では手指のRaynaud現象や爪上皮出血点,足のアクロチアノーゼを認め,治療経過とともに改善した.

抗Th/To抗体は蛍光抗体間接法で核小体型を示し,hPop1とRpp25を主な対応抗原とし,全身性強皮症の4.6%に検出される34.限局型の皮膚硬化,間質性肺炎,肺動脈性肺高血圧症と相関し,合併する間質性肺炎,肺高血圧症は重症であることが多く,予後不良因子とされている7.本症例は抗核抗体320倍と陽性であり,核小体型であったことから,抗PM/Scl抗体や抗U3-RNP抗体についても調べたが,それらは陰性であった.限局性の皮膚硬化や難治性の間質性肺炎を合併する点が既報告と一致していたが,肺高血圧症は現時点まで確認されておらず,今後も慎重な経過観察が必要である.

全身性強皮症関連ミオパチーについては,明確な分類や診断基準はなく,合併頻度も16~81%と報告によって大きく異なる2.強皮症のサブタイプや罹病期間に関わらず,全身性強皮症関連ミオパチーは機能障害をきたす独立した因子とされている8

全身性強皮症関連ミオパチーの分類に関して,軽度の筋力低下のみで検査の異常は明らかでない “simple myopathy” に対して,対称性の四肢筋力低下,血清CK高値,針筋電図で筋原性変化,筋病理で炎症性ミオパチーに類似した像を認め,ステロイドにより症状が著明に改善した例を “complicated myopathy” と分類した報告がある9.近年の報告では,筋症状を合併した全身性強皮症患者42例の筋病理所見において,非特異的筋炎15例(35.7%)や壊死性ミオパチー9例(21.4%)の所見が多く認められた10.また治療反応性に関して,筋病理所見で壊死や炎症が見られた患者ではステロイドへの治療反応性が良好であり11,線維化のみを認めた例では死亡率が高かった12.本症例は四肢近位筋の筋力低下,著明な高CK血症,針筋電図で筋原性変化が認められ,上記の “complicated myopathy” に近い病像と考えられた.筋病理は壊死再生線維が主体で線維化を認めず,既報告と同様にステロイド反応性は良好であった.ステロイド使用時には強皮症クリーゼの発症に留意する必要がある.

本症例はステロイドに加えて,間質性肺炎の増悪がみられたことからタクロリムスを併用し,筋病理所見より免疫介在性壊死性ミオパチーを疑ったことから早期にIVIgを併用し,計3クール施行した.IVIgは全身性強皮症関連ミオパチーに対する標準的な治療ではないが,IVIgの併用はステロイドの減量や維持量の低下に有用であったと報告されている13.本症例は複数の免疫療法を併用したため,IVIg単独の評価は困難であるが,ステロイドの減量に有効であった可能性が考慮された.

現在までに抗Th/To抗体陽性例に筋症状を合併した症例の報告はあるものの1415,筋症状の程度や筋病理などの検査所見,治療に関して詳細な検討は行われていないことから,本例は抗Th/To抗体陽性全身性強皮症に合併する筋症状の病態を考える上で重要な症例と考え報告した.

Acknowledgments

謝辞:貴重な症例をご紹介頂いた旭川医療センター脳神経内科 柴田曜先生・油川陽子先生・木村隆先生,皮膚所見や皮膚病理のご評価を頂いた旭川医科大学皮膚科学講座 飯沼晋先生,全身性強皮症の診療を頂いた旭川医科大学病態代謝内科学分野 岡本健作先生,抗Th/To抗体の測定に尽力頂いた名古屋大学医学部皮膚科 室慶直先生に深謝いたします.また本研究は,国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(2-5, 29-4)の支援を受けたものである.

Notes

本報告の要旨は,第102回日本神経学会北海道地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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