Rinsho Shinkeigaku
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Brief Clinical Notes
A case of dermatomyositis positive for anti-nuclear matrix protein 2 antibody without dermatologic symptoms
Eriko TakeuchiDaisuke HirozawaNaoko OkiyamaMichio InoueIchizo NishinoFuminobu Sugai
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2021 Volume 61 Issue 4 Pages 258-261

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要旨

47歳女性.1か月半で四肢の筋痛,筋力低下,嚥下障害が進行し,MRIで四肢近位筋・体幹筋に炎症を示唆する異常信号域を認めたが,入院時に皮膚所見はみられなかった.左上腕二頭筋の筋生検では筋束周囲性萎縮(perifascicular atrophy)の所見はなかったが,筋線維でのmyxovirus resistance protein A発現と血清抗nuclear matrix protein(NXP)-2抗体陽性から皮膚筋炎(dermatomyositis,以下DMと略記)と確定診断した.副腎皮質ステロイド,免疫抑制剤,免疫グロブリン療法で症状は徐々に改善した.皮膚所見がないDMもあることを念頭に,抗NXP-2抗体を含む筋炎特異的自己抗体の測定を積極的に検討すべきと考えられる.

Abstract

We report a 47-year-old woman who presented with progressive myalgia, weakness in the proximal limbs, and dysphagia for a month and a half. No skin rash was observed on admission. Examination of MRI data suggested inflammatory changes in the proximal limbs and trunk muscles. Biopsy specimens from the left biceps muscle showed no perifascicular atrophy, but immunohistochemical staining revealed the presence of myxovirus resistance protein A (MxA) in myofibers, strongly suggesting dermatomyositis (DM). In addition, her serum was positive for anti-nuclear matrix protein 2 (anti-NXP-2) antibody, which is reportedly useful as a marker of DM without skin lesions. Her symptoms gradually improved upon intravenous methylprednisolone pulse therapy in conjunction with oral prednisolone, oral tacrolimus, and intravenous immunoglobulin therapy. Our findings suggest that in cases where inflammatory muscle disease is suspected, anti-NXP-2 antibody analyses should be considered for precise diagnosis, even if there are no dermatological symptoms.

はじめに

皮膚筋炎(dermatomyositis,以下DMと略記)は原則として定型的皮膚症状を伴う炎症性筋疾患である.しかし最近,皮膚症状を伴わないDM(DM sine dermatitis,以下DMSDと略記)も存在すること,さらには,DMSDは抗nuclear matrix protein(NXP)-2抗体陽性例が有意に多いことが報告された1.今回皮疹のない筋炎症状で発症し,myxovirus resistance protein A(MxA)発現と抗NXP-2抗体陽性によって,診断が確定した成人DMSD例を報告する.

症例

症例:47歳,女性

主訴:筋痛,筋力低下

既往歴:特記事項なし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2018年12月中旬に咳嗽,鼻汁,同月下旬より大腿や腹部の筋痛を自覚した.筋痛が徐々に頸部,腰部,臀部,上腕に進展したため,2019年1月中旬に近医を受診したところ血清CK高値のため,当院内科へ紹介・入院となった.

入院時現症:身長169 cm,体重64 kg,血圧109/75 mmHg,体温36.8°C.ヘリオトロープ疹,爪周囲紅斑や石灰化沈着はなかった.意識清明で,脳神経系に異常はなく,左右対称性に,頸部屈筋,三角筋,上腕二頭筋,腸腰筋でMMT4の筋力低下と筋自発痛,把握痛を認めた.腱反射は四肢で減弱し,病的反射はなく感覚系や協調運動系に異常はなかった.

入院時検査所見:血液検査では血清CKが7,094 IU/lと高値で白血球やCRPの上昇はなかった.抗Jo-1抗体,抗ARS抗体,抗TIF-1γ抗体,抗Mi-2抗体,抗MDA5抗体はいずれも陰性であった.右上下肢の針筋電図検査では,線維自発放電,早期動員を認めた.MRIで両側の三角筋・上腕二頭筋・背筋・腸腰筋にT2強調脂肪抑制像で高信号を認めた.体幹の単純・造影CTで間質性肺炎や悪性腫瘍,石灰沈着は認めなかった.

入院後経過:内科へ入院後,補液,安静ではCKおよび筋力が改善しなかったため入院9日目に脳神経内科へ転科した.入院16日目に左上腕二頭筋から筋生検を施行した.経過と症状から炎症性筋疾患を疑い入院17日目よりメチルプレドニゾロン1,000 mg/日×3日間を計2クール実施した後に,プレドニゾロン(PSL)60 mg/日内服を開始した.入院28日目に手指の爪周囲にわずかな発赤がみられ皮膚科へ紹介したが,爪上皮の点状出血点,後爪郭の紅斑のみで,DM特異的な皮疹は認めなかった.筋力の改善なく,入院29日目より免疫グロブリン療法(intravenous immunoglobulin[IVIg]療法;25 g/日)を5日間1クール実施し,タクロリムス4 mg/日内服を開始した.その後も頸部,四肢近位筋の筋力低下は進行し,独歩困難となった.また嚥下障害が徐々に出現,進行した.入院48日目に他院免疫内科へ転院した.転院後は症状の増悪がみられず,PSL内服量を漸減し,月1回の頻度でIVIg療法が2クール実施された.筋力と嚥下障害は改善し,自宅退院した(Fig. 1).

Fig. 1 Clinical course.

The symptoms gradually improved upon intravenous methylprednisolone pulse therapy in conjunction with oral prednisolone, oral TAC, and intravenous immunoglobulin therapy. mPSL; methylprednisolone, PSL; prednisolone, TAC; tacrolimus, IVIg; intravenous immunoglobulin.

筋病理所見では,ヘマトキシリン・エオジン染色では2型線維萎縮を認めたが炎症細胞浸潤はなく,筋束周囲性萎縮は認めなかった(Fig. 2A).免疫染色ではMHC-Class Iが広範な筋線維に発現するとともに,一部の筋束に含まれる筋線維でMxAが発現しており(Fig. 2B),筋病理学的にDMと診断された.さらにK562細胞を用いた血清免疫沈降後のウエスタンブロット解析で抗NXP-2抗体が検出され,抗NXP-2抗体陽性DMSDと診断した(Fig. 2C).

Fig. 2 Muscle pathology in the left biceps brachii muscle.

(A) Hematoxylin and eosin staining revealed no apparent perifascicular atrophy and an absence of mononuclear cell infiltration in the endomysium. (B) Myofibers showed expression of myxovirus resistance protein A. In panels A and B, the scale bar indicates 100 μm. (C) Western blot analysis identified antibodies for nuclear matrix protein (NXP)-2 in the serum. Lane 4 was obtained from the patient before immunotherapy. Lane 1: negative control; Lane 2: antibody for SAE positive control; Lane 3: antibody for NXP-2 positive control.

考察

ヘリオトロープ疹,ゴットロン徴候,関節伸側の落屑性紅斑といった定型的皮膚所見をDMの診断に必須とするBohanとPeterの診断基準2や,筋病理所見における筋束周囲性萎縮を重視したDalakasとHohlfeldの診断基準3では,皮疹や筋束周囲性萎縮を欠く本症例のDM診断は困難であった.UruhaらはDM34例とその他の特発性炎症性筋疾患(idiopathic inflammatory myopathies,以下IIMと略記)120例における検討で,MxA発現は感度71%,特異度98%と,筋束周囲性萎縮(47%)や毛細血管への補体沈着(35%)と比べより有用なDM診断マーカーであると報告している4.MxA発現はヨーロッパ神経筋センター国際ワークショップの基準においてもDMの診断基準となっており5,筋束周囲性萎縮のない本症例においてはMxAによって筋病理学的にDMと診断することが可能であった.DM発症には1型インターフェロン(IFN)が重要な役割を果たしていることが示唆されており6,MxAは1型IFNによって誘導され発現する蛋白である4.近年,1型IFN作用を引き起こすJAK-STAT経路を標的とする治療薬が開発されDMでの効果が報告されており,DMを他のIIMと鑑別する重要性が高まっている6.本症例は皮膚症状や筋束周囲性萎縮を呈しておらず,筋線維におけるMxA発現はDM診断にきわめて有用であった.

また,成人抗NXP-2抗体陽性DMの臨床的特徴である嚥下障害,筋痛78はみられたが,四肢末梢の浮腫78,石灰化沈着9,悪性腫瘍合併10は一切認められなかった.

一方で,Inoueらは,筋線維でMxAの発現がみられ,かつDM特異的自己抗体が陽性のDM患者のうち,8%(14/168)で皮疹のないDMが存在することを明らかにし,本症例も調査対象に含まれている1.同報告で血清抗NXP-2抗体陽性となったのは,皮疹のあるDM患者で28%(47/168人),皮疹のないDM患者で86%(12/14人)であり,抗NXP-2抗体がDMSDに関連することが示された1.同報告では筋炎発症時皮疹がなく,後の治療経過で皮疹がみられた抗NXP-2抗体陽性DMの症例も14例中4例あったとしており,その機序として,①筋炎が皮疹に先行する一群が存在する可能性②免疫抑制治療により皮疹の出現が抑制されている可能性があげられている.本症例は筋生検後に皮疹を認めた4例中の1例であるが,筋生検半月後にDMに特異的とは言い難い両手指爪上皮の点状出血点,後爪郭の紅斑を認めたのみであり,経過中にDM特異的な皮疹は一切指摘されていない.このような例はこれまでの基準ではDMとは診断困難であった.

DMSDの存在を踏まえると,筋炎の診断においては皮膚所見を欠く場合でもより詳細な筋病理組織診断,および抗NXP-2抗体を含めたDM特異的自己抗体測定を積極的に行うことが肝要と考える.

Acknowledgments

謝辞:本報告の筋病理診断は,国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(29-4,2-5)の支援を受けたものである.

Notes

※本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業・組織や団体

○開示すべきCOI状態がある者

沖山奈緒子:講演料:サノフィ,研究費・助成金:第一三共株式会社,マルホ株式会社

○開示すべきCOI状態がない者

竹内恵里子,廣澤 太輔,井上 道雄,西野 一三,須貝 文宣

本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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