Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of conduction aphasia with specific jargon utterance
Takeharu TsuboiHiroshi TatsumiMasahiko YamamotoYoshiya ToyosimaTaiji KatayamaKazuo Hadano
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2021 Volume 61 Issue 5 Pages 297-304

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要旨

2度の脳梗塞による両側半球病変後に特異なジャルゴン発話を呈した伝導失語の1例を報告した.症例は84歳の右利き男性である.第2回目の発症当初(以下,発症はこの時点をさす)より語新作ジャルゴンと音韻性変復パターンを認めた一方,表出面全般にわたる音韻性錯語や接近行動を認め,失語症の病態像としては伝導失語に語新作ジャルゴンが混在していた.発症27ヶ月後時点で,語新作と音韻性変復パターンは消失したが,豊富な音韻性錯語と接近行動は残存し,伝導失語の病態像が明確化した.本例の語新作の発生機序としては,伝導理論が説得性を有していると考え,語新作と音韻性錯語との症候論的な関連性を指摘した.

Abstract

We report a patient with bilateral hemispheric lesions caused by two episodes of cerebral infarction who exhibited conduction aphasia with unique jargon. The patient was an 84-year-old, right-handed man. Beginning after the second episode of cerebral infarction (defined as the time of symptom onset), neologistic jargon and an iterative pattern of phonemic variation became prominent, whereas phonological paraphasia and conduite d’approche were observed in the patient’s overall speech. Therefore, the aphasia was characterized by the combination of conduction aphasia and neologistic jargon. At 27 months after symptom onset, the neologisms and iterative pattern of phonemic variation had disappeared, but a wide variety of phonological paraphasia and conduite d’approche persisted, clarifying the pathological features of the conduction aphasia experienced by this patient. The conduction theory (Kertesz et al., 1970) provides a convincing explanation for the mechanism of the onset of neologisms in the present case. Thus, we propose the existence of a symptomatic relationship between neologisms and phonological paraphasia.

はじめに

伝導失語は流暢性失語群に属する1.言語理解面では語音と語義の理解は良好で,日常生活水準で大きな支障を呈しない.発話面では失構音anarthriaを認めないが,高度の復唱障害があり,表出面全般にわたり音韻性の誤謬(錯読,錯書)が出現する.患者は自分の発話の誤りに気づき,頻りに自己修正を繰り返す接近行動(conduite d’approche)を認めることが多い1)~3

一方,語新作ジャルゴン失語は,多幸的または軽躁的な精神症状を背景に,非常同的で了解困難な多量の言語表出を呈する.原則として高度の理解障害を伴い,自己の言語障害に対して病態否認的で,日常会話はほとんど成立しない45.加えて,語新作が少しずつ韻を踏むかのように語音上の形式を変えながら反復出現する音韻性変復パターン(iterative pattern of phonemic variation)を認めることがある467

本例は,語新作および音韻性錯語が変化しながら反復する特異な発話症状(音韻性変復パターンおよび接近行動)を呈しつつ,伝導失語に語新作ジャルゴンが混在していた状態から伝導失語へという症候の変化を示した.そこで,我々は語新作および音韻性錯語の発現機序について理論的背景を明らかにすることを目的として,本例の発話特性の詳細な分析を行った.

症例

症例:84歳,右利き男性,Edinburgh利き手検査ではLaterality Quotient: 100

主訴:少し言葉が話しにくい

既往歴:約10年前に右中大脳動脈領域の脳梗塞の既往があるが,家族からの情報では,この時点では日常会話に影響を及ぼす明らかな言語障害はなかった.

家族歴:特記すべきことなし.2親等以内に左利き素因はなかった.

現病歴:2016年4月下旬,S状結腸の多発憩室の治療のためA病院に入院中に,右片麻痺と失語症が出現し,頭部MRIにて左中大脳動脈領域に新規の高信号域を認めた.右内頸動脈の高度狭窄に対する頸動脈ステント留置術を施行した.発症2ヶ月後に,当院へ転入院となった.

神経学的所見:当院初診時(発症2ヶ月後時点)は意識清明で,構音障害を認めた.四肢に粗大な麻痺はなく,病棟生活は自立していた.

精神医学的所見:情動は安定しており,抑鬱傾向はなかった.自己の発話に対する病識低下を認めた.

神経心理学的所見:後述する非典型的な失語と口腔顔面失行,構成障害を認めた.レーヴン色彩マトリックス検査は26/36点(80歳代平均24.9 ± 5.3)で知的機能は保たれていた.

放射線学的所見:発症2ヶ月後の頭部MRIでは,陳旧性脳梗塞(右半球の中心前回・後回,上頭頂小葉,縁上回,角回)に加えて,左半球の中心前回・後回,縁上回,島回,上頭頂小葉,前頭弁蓋部,頭頂弁蓋部に新規の脳梗塞を確認した.左側頭葉領域には粗大な病変は認めなかった(Fig. 1A).発症2ヶ月後の123I-IMP SPECTでは,右半球は陳旧性脳梗塞部位と一致した領域に血流低下があり,左半球は内頸動脈領域に広範な血流低下を認めた(Fig. 1B).

Fig. 1 (A) Axial views of head MRI FLAIR images (1.5 T, TR = 8,002, TE = 144.7) obtained at 2 months after onset. (B) 123I-IMP SPECT images obtained at 2 months after onset.

(A) In addition to evidence of an old cerebral infarction (in the precentral gyrus, postcentral sulcus, superior parietal lobule, supramarginal gyrus and angular gyrus of the right hemisphere), a new cerebral infarction was identified in the precentral gyrus, postcentral sulcus, supramarginal gyrus, insular gyrus, superior parietal lobule, frontal pars opercularis and parietal pars opercularis of the left hemisphere. (B) In the right hemisphere, a hypoperfusion in the parietal lobe corresponded with the old cerebral infarction. In the left hemisphere, extensive hypoperfusion was present in the internal carotid artery region.

経過:当院にて約4ヶ月間の言語治療を実施した後,発症6ヶ月後に自宅退院となった.この時点で言語障害は残存していたものの,本人の強い希望がありリハビリテーションは終了となった.しかし,発症27ヶ月後に誤嚥性肺炎にて当院へ再入院となり,言語治療を再開した.

言語所見

標準失語症検査(Standard Language Test of Aphasia,以下SLTAと略記)の結果はFig. 2に示した.

Fig. 2 Results of Standard Language Test of Aphasia (SLTA).

【発症2ヶ月後時点】

1.理解面

聴覚的理解は短文レベルで軽度の低下を認めたが,日常会話に大きな問題はなかった.

2.表出面

構音障害による構音の歪みを認めた.発話発動性は亢進し多弁で,統語構造を有する文水準の発話がみられた.一方,復唱や音読は単語水準から重度に障害されていた.発話は音韻性錯語(例:とりい→とりう)や語新作(例:つくえ→くぬとろ)が大勢を占め,文意が不明なジャルゴン発話を呈していた.書字は,漢字単語の書称・書取ともにほぼ良好であったが,仮名単語においては音韻性錯書(例:いぬ→いね)を認めた.

【発症5ヶ月後時点】

1.理解面

言語理解は音声言語,文字言語ともに日常会話水準で支障なく,SLTAの理解項目は全て100%の正答率であった.

2.表出面

SLTAの呼称や単語復唱,仮名1文字の音読課題で若干改善傾向を示したが,依然として発話発動性は亢進しており,顕著なジャルゴン発話を呈していた.目標語のモーラ数が大きいほど困難度が増すなど語長効果を認めた.目標語に対する接近行動もしくは音韻性変復パターンを示唆する反応が顕著にみられたが,最終的に正答に至ることはごくわずかであった.患者の発話に対して,対話者が十分に理解できない様子を示すと,「なぜ分からないのか」と訝しむ表情を示し焦燥的反応が強くなった.書字は,漢字単語は良好で,仮名単語で音韻性錯書(例:しんぶん→じんしんぶ)が観察された.

発症6ヶ月後に自宅退院となり,本人が外来通院を希望せず言語治療は終了となった.

以下に自由会話と課題場面の発話例を示す.○は表記不能の部分,( )検査者の発話である.

〈自由会話〉

(病気について)これやってる

(ステントをやってますね)こ,こんなだ,ぜーんふ

(生きるためにとおっしゃってましたね)○○○,お,○,でんつー,でーんかー,こっち,○,○,こっちゃー,こっち,こちゃちうー,これ,ちうー,○

〈呼称〉

(飛行機)とっと,しょうしょう,ひこうしょ,ひ,ひこうひ

(提灯)ちんちょ,いーよ,ちんちょう,ちんちん

(鹿)ひち,ひつ,しーか

(傘)はか,はく,はん

〈動作説明〉

(電車が鉄橋を渡っている)えー,でんせんがでっかーをやっている

(子どもが風船をふくらませている)ふうそんを,○,ふくすます

【発症27ヶ月後時点】

2018年7月に誤嚥性肺炎にて当院に再入院となった.この時点で日常生活は自立しており,発語は開鼻声が強くなり構音障害の増悪が認められたものの,日常会話水準のコミュニケーションに大きな変化はなかった.頭部MRIでは新規の病変(異常信号域)は認めなかった.

1.理解面

日常会話水準の言語理解に大きな支障は認めなかった.

2.表出面

自発話は以前と比して発話発動性は低下しており発話量は減少していた.SLTA(呼称)課題における検討では,音節数が長くなるほど成績が低下したことから,語長効果を確認した.正答率は同じであったが,誤反応は前回と異なっていた(Table 1).発症5ヶ月後時点でみられた音韻性変復パターン(例:傘→はか,はく,はん)は認めず,接近行動(例:こま→く,くん,かま,こま)は残存していた.さらに,自発的に指タッピングを行いながら語音探索する行動が頻繁に観察された.また,対話者に自分の話が伝わらない時は,諦め顔で発話を途中でやめてしまうことが多く,自己の発話困難に対しては強く自覚している様子であった.

Table 1  Percentage of correct answers according to number of moras in an object naming task (Standard Language Test of Aphasia: SLTA).
5 months after onset 27 months after onset
2 moras 100% 100%
3 moras 38% 38%
4 moras 17% 17%

At both 5 and 27 months after onset, the percentage of correct answers decreased as the number of moras increased.

約4ヶ月間の加療後に自宅退院となった.

〈自由会話〉

(御飯は食べていますか)うん,そうだね,お,おら,お,おかず,おかずの

(とろとろってことですか)そう,○,おかず

〈呼称〉

(本)ほ,ほん

(独楽)く,くん,かま,こま

(眼鏡)めがえ,ね,ね,めがね

〈動作説明〉

(子どもがみずを飲んでいる)○○が,みじ,みずを,もっ,もつ,のんでいる

(子どもが本を読んでいる)こ,これが,これ,よんを,よんでいる

呼称における発話分析

1. 方法

本例の発話の誤り方の変化を把握するために,発症5ヶ月後と27ヶ月後に実施したSLTA「呼称」を対象に発話分析を行った.分析対象は,語頭音ヒントが与えられる前までに観察された1音節以上の全ての発話とした.分析方法は,波多野や平野らに準じ,①正答,②音韻性錯語,③語新作,④音綴断片(1音節の反応),⑤空語句,⑥無関連性錯語,⑦意味性錯語の7つに分類した89.音韻性錯語と語新作との鑑別は,真崎らの音素類似指標計算方法に基づき10,音韻的関連性有り(音韻性錯語)を0.40以上とした9

構音の障害のため聴取が困難で表記できない発語は分析対象から除外した.音綴断片と空語句に関しては,連続して発話された場合は1語として数えた(例:時計→え,えー,え・・).発話内容の分析結果に際しては,臨床経験7年以上の言語聴覚士2名が協議し決定した.

2. 結果

SLTA(呼称)の全反応数の結果内訳をFig. 3に示した.発症27ヶ月後(全反応数:59語)の誤反応を発症5ヶ月後(同:60語)の誤反応と比較すると,音韻性錯語の出現状況に著変は認めなかったが,語新作はわずか1語のみと著しく減少した.なお,意味性錯語は全経過を通じて一度も観察されなかった.

Fig. 3 Breakdown of speech analysis results for object naming tasks.

At 27 months after onset, the patient’s neologisms had mostly disappeared, but the phonological paraphasia persisted.

具体的には,全反応数の約3割を音韻性錯語(発症後5ヶ月:33%,発症後27ヶ月:37%)が占め接近行動が頻繁に確認された(目標語「大根」→「たいげん(音素類似指標0.5),だいけん(同0.83),だいこん」).一方,発症後5ヶ月時点の語新作の出現率は12%で,語新作が韻を踏んでいるかのように変化しつつ反復する音韻性変復パターンを認めた(「こっち,こっちゃー,こっち,こちゃちうー」,目標語「手」→「こちょ(同0),おちょ(同0)」).

さらには,「ちょうちん」を「ちんちょ(同0.55),いーよ(同0.2),ちんちょう(同0.55),ちんちん(同0.64)」のように音韻性錯語と語新作が混在しつつ反復される発話がしばしば観察された.

考察

1. 失語症タイプ分類について

本例は,発症当初より言語理解力が良好に保持されていた一方で,語新作ジャルゴンと音韻性錯語が混在する特異かつ非典型的な失語病態像を呈していた.経過とともに,ジャルゴン発話は消退し,音韻性錯語と接近行動が残存し伝導失語の病像が明確化した.

発症5ヶ月後までの言語症状の特徴は,1)音韻性錯語と音韻性変復パターンを伴う語新作ジャルゴン,2)高度の病識低下,3)言語理解力は日常会話水準で良好,4)呼称や復唱,音読,書字(書取)における語長効果,5)音韻性錯語に対する接近行動,であった.従って,この時点の失語症は,伝導失語を基盤としてジャルゴン発話が重畳した特異な言語病態像であったと推察される.

発症27ヶ月後では,1)語新作と音韻性変復パターンは消失,2)発語障害に対する病識保持,3)言語理解力は良好,4)語長効果を伴う高度の復唱障害や音読障害が残存,5)音韻性錯語(錯読,錯書)や接近行動が残存,6)意味性錯語は観察されず,などの点から典型的な伝導失語の病態に移行したものと考えられた.

2. 語新作の発現機序仮説について

語新作の発生機序に関しては様々な仮説が提唱されている.二段階理論1112は,意味レベル・音韻レベルの両水準が関与し,目標語を回収する段階で意味性錯語が生じ,さらに,音韻的変化が加わり語新作となる.失名辞理論71314は,喚語困難が基盤にあり回収されない語彙の音韻を補填したものが語新作であるとする.雑種語彙仮説15は,複数の記号素の結合を起源とし,記号素(意味を担う最小の単位)の選択段階の障害で,実在する二つ以上の記号素が合成して表出される記号素性錯語(例:時計→「タイユミ(鯛・弓)」)に起因する.伝導理論conduction theory16は,語新作を重篤な音韻性錯語とみなし,音韻レベルの解体を機序とする.

本例の場合,呼称における発話分析において,「ちょうちん」の例示のごとく語新作と音韻性錯語との症候的な関連性が示唆される反応が観察され,しかも,経過を追うにしたがい,復唱や仮名の音読成績の向上が示すように音韻レベルの改善がみられ,語新作から音韻性錯語への発話様相の変化が明瞭となった.意味性錯語が観察されないことや語新作がほぼ消失し,音韻性錯語が残存したことから音韻レベルの障害が主であると思われ,意味と音韻の両水準が関与する二段階理論や喚語困難に起因する失名辞理論,記号素性錯語によるとする雑種語彙仮説は,本例の語新作の出現機序を説明するには不十分であると解釈した.

本例においては,音韻を抽出する段階での障害が主症状であることから,Kerteszらが提唱した「伝導理論」に親和性が高いと判断された.類似例の報告としては,初期には語新作ジャルゴンを伴うウェルニッケ失語を呈し,回復とともに伝導失語へと変化した1例があり,語新作の発現機序として伝導理論を支持している17

3. 接近行動と音韻性変復パターンの症候論的対比について

伝導失語の接近行動と語新作ジャルゴン失語の音韻性変復パターンの症候論的対比についてTable 2にまとめた.

Table 2  Symptomatic comparison between conduite d’approche and iterative pattern of phonemic variation.
Conduite d’approche
in conduction aphasia
Iterative pattern of phonemic variation
in jargon aphasia
Language effort for word-finding difficulties Effortful No effort
How to find words Spontaneous self-correction No self-correction
Number of moras Constant Not constant
Duration of repetitions Short Long
Duration of speech interruptions Long Short
Amount of speech Normal Excessive
Automaticity of speech No automaticity
(a “trial-and-error” exercise)
Automatic
(disinhibited)
Awareness of illness for spontaneous speech Aware of illness Unaware of illness
Psychiatric symptoms (manic state) Absent Present
Speech examples “Wani”
(meaning “crocodile” in English)
-> “Eni,” “Wani”
“Te”
(meaning “hand” in English)
-> “Kocho” or “Ocho

*The solid line indicates phonological paraphasia, while the broken line indicates a neologism.

接近行動は,原則として病識は保たれ,発話は自動的ではなく音韻を探索する言語努力が著明で,試行錯誤的に探索と修正を繰り返し目標語に近づいていくという特徴がある.音韻探索において発話の生産量は保たれ,反復のパターンは比較的短く,発話の中断は長く,表出された発話のモーラ数はある程度は一定している傾向がある.

一方,音韻性変復パターンは,病識低下が強く,言語産出に伴う努力性反応は認めず,自動性があり脱抑制的に多量の言語表出がみられ,発話は韻を踏んでいるかのように繰り返すが,目標語には至らない.保続的な傾向の現れであり,発話量は過剰で,目標語に対する発語のモーラ数は不定である.そのため,反復のパターンは比較的長く,常同症的発話であるため反復の間隔は短くなることが多い.重度の言語障害を伴い,躁状態であることが多い.

本例の急性期から回復期へ至る経過においては,高度の病識低下や脱抑制的傾向を認めたが,表出面全般にわたる音韻性錯語,聴覚的理解や書字は良好に保たれ,音韻性変復パターンと接近行動が混在するなど特異な発話特性を呈していた.その後,音韻性変復パターンは消退し,接近行動が残存したことから,伝導失語に語新作ジャルゴンが混在していた状態から伝導失語へと症候が変化したと考えた.

4. 責任病巣について

本例の言語障害は,約10年前の右半球病変に,左前頭葉・頭頂葉領域の新規病変が加わったことにより顕在化した.左側頭葉領域に粗大な病変がなかったことが,急性期より言語理解が保たれた要因と思われた.脳血流SPECTでは左内頸動脈領域の広範囲の血流低下を認めたが,MRIでは左半球の病巣は比較的小さく,左縁上回を中心とした病変を有する伝導失語218が本例の失語症の本態として矛盾がないと考えられた.ジャルゴン発話は左一側病変例だけではなく,両側半球病変例の報告もある8.ジャルゴンは左一側病変でも出現し得るが,右半球病変が代償能力を奪い,失語症状をより重度に,また機能回復を不良にしている可能性がある19.両側半球病変でジャルゴン発話を認めた過去の報告例(Table 320)~22をまとめた.右半球の前頭葉,頭頂葉,側頭葉と様々な病変を認め,病変の範囲は症例によって異なっており,共通した病変はなかった.本例では,ジャルゴンの発現に発話衝動の亢進と病識低下が関係しており,さらに発話衝動の亢進と病識低下の原因に陳旧性右半球病変も考えられることから,陳旧性の右半球病変の存在がジャルゴン発話の出現に影響した可能性が推測された.

Table 3  Past reported cases of jargon aphasia due to bilateral hemispheric lesions.
Reporter Age Sex Dominant hand Lesion
Initial onset Recurrence
Hadano20)
1986
75 Female Right Left frontal lobe, left temporal and parietal lobe lesions Right temporal and parietal lobe lesion
Izawa et al.21)
1998
63 Female Right Left temporal lobe, right temporal and parietal lobe Left inferior precentral gyrus, right temporal lobe
Funayama et al.22)
2007
68 Male Right Posterior part of the left superior temporal gyrus to the supramarginal gyrus, pars triangularis of the inferior frontal gyrus Right inferior frontal gyrus to middle frontal gyrus
Author of this
article et al. 2020
84 Male Right Right precentral gyrus and postcentral sulcus, superior parietal lobule, supramarginal gyrus and angular gyrus Left precentral gyrus and postcentral sulcus, supramarginal gyrus, insular gyrus, superior parietal lobule

Supplementary data. Method for calculating the index of phonemic similarity.

Acknowledgments

謝辞:論文作成に際し,貴重なご指導を頂きました愛知学院大学心身科学部伊藤高行先生に感謝申し上げます.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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