Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Paraneoplastic sensorimotor neuropathy with anti-Hu antibody associated with gallbladder carcinoma
Shizuka HaradaYuichiro InatomiMakoto NakajimaToshiro Yonehara
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2021 Volume 61 Issue 7 Pages 471-476

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要旨

症例は78歳,女性.歩行困難で発症し,約1か月で独歩不能となった.入院時,脳神経に異常はなく,四肢筋力低下,四肢末梢の異常感覚,深部感覚低下,および腱反射減弱を認めた.Guillain-Barré症候群を疑い,免疫グロブリン大量静注療法とステロイドミニパルス療法を施行したが,神経症候の改善は軽微であった.血清中の抗Hu抗体が陽性であることが判明し,胆囊癌も確認された.化学療法を実施したが,神経症候は進行性に増悪した.本例は胆囊癌に合併することはまれな,抗Hu抗体陽性の傍腫瘍性感覚運動性ニューロパチーであると考えられた.

Abstract

A 78-year-old woman experienced gait disturbance. She became unable to walk within a month. On admission, her cranial nerves were normal. She had motor weakness in the arms and legs, dysesthesia of the peripheral extremities, impaired deep sensation in the legs, and hyporeflexia in the arms and legs. She was initially diagnosed with Guillain-Barré syndrome; therefore, she was treated with intravenous immunoglobulin therapy and steroid mini-pulse therapy, however improvements of her neurological deficits were minimal. Anti-Hu antibody was positive in serum and gallbladder carcinoma was detected. She was treated with chemotherapy but neurological symptoms worsened progressively. Gallbladder carcinoma can rarely cause anti-Hu associated paraneoplastic sensorimotor neuropathy.

はじめに

傍腫瘍性神経症候群に併存する腫瘍としては成人では肺癌が最も多く,乳癌,卵巣癌なども知られている1.しかし胆囊癌による傍腫瘍性神経症候群はまれである.その臨床像としては多発筋炎/皮膚筋炎23が多いが,その他の症候としては,オプソクローヌス4,感覚性ニューロパチー56,多発脳神経麻痺7の計4例が報告されるのみである.

傍腫瘍性神経症候群に関連する自己抗体の一つとして,抗Hu抗体が知られている.Huは細胞内抗原で,腫瘍と神経組織に共通して発現し,腫瘍による異所性の発現が免疫応答を誘発すると考えられている8.細胞内抗原に対する抗体自体の病原性は乏しく,免疫応答の結果,細胞傷害性T細胞が神経組織へ浸潤し神経変性に至る8.抗Hu抗体陽性の傍腫瘍性神経症候群では感覚性ニューロパチー,辺縁系脳炎,小脳変性症,脳幹脳炎などを来すが910,感覚運動性ニューロパチーは同抗体陽性の傍腫瘍性神経症候群200例中9例と少ない10.また同抗体陽性の傍腫瘍性神経症候群のうち腫瘍が判明した167例中144例の症例は肺癌であるが,胆囊癌は1例のみであった10

さらに胆囊癌に関連する抗Hu抗体陽性の傍腫瘍性神経症候群を来した症例はこれまでに2例報告されているが,いずれも感覚性ニューロパチーであり56,感覚運動性ニューロパチーを来した症例は渉猟した限りでは報告はない.

今回我々は,胆囊癌に関連する抗Hu抗体陽性の傍腫瘍性感覚運動性ニューロパチーを経験した.文献的考察を加え報告する.

症例

患者:78歳,女性

主訴:歩行困難

既往歴:特記事項なし.

生活歴:喫煙歴や飲酒歴なし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:生来健康であり,実娘との二人暮らしでの日常生活は自立し,屋外に独歩で買い物に行くことも可能であった.今回発症前に先行感染を示唆する症状はなかった.2020年1月下旬の某日(第1病日)より両下肢脱力感を自覚した.症状は進行性に増悪し,2月初旬には手すり等につかまらないと歩行が困難となった.前医を受診し,頭部,脊椎MRIが実施されたがいずれも異常なく,経過観察となっていた.2月中旬頃には両手指,両足趾のじんじんするような異常感覚も出現し,独歩不能となった.第24病日に当科に紹介され,即日入院した.本人,家族より物忘れや言動異常などが顕著となったという訴えはなかった.

一般身体所見:血圧138/74 mmHg,脈拍80/分,整,体温36.8°C,身長152 cm,体重59 kg,全身でリンパ節は触知せず,その他胸腹部,皮膚筋骨格系に特記すべき異常はなかった.

神経学的所見:日付の失見当識はあるが,覚醒は良好で,精神症状はなかった.脳神経では瞳孔径は3/3 mmで正円同大,対光反射迅速であり,眼球運動障害や嚥下障害はなかった.筋力はMMT(右/左)で上肢近位5−/4遠位5−/4,下肢近位4/4−遠位5−/4と低下していた.感覚系では両手指,両足趾のMP関節以遠に上述の異常感覚があったが,表在感覚低下はなかった.下肢の振動覚(足関節内果)は右6秒,左7秒であった.両足趾の関節位置覚は完全に消失していた.指鼻試験や膝踵試験では左優位に重度の運動分解と測定障害を認めたが,指鼻指試験は視覚の代償によりいずれも軽度であった.起立保持は開眼でも不能であり,Romberg試験は評価不能であった.自力歩行は平行棒や歩行器の使用下も不能であった.腱反射は両側上腕二頭筋,三頭筋,腕頭骨筋,膝蓋腱,アキレス腱の全てで減弱し,病的反射は認めなかった.自律神経系では便秘を認めたが,排尿障害や起立性低血圧はなかった.神経心理学的には失語,失認は認めなかった.四肢麻痺,感覚障害のため書字や描画など道具を使う行為の詳細な評価は困難であった.また易疲労性があり複雑な課題は遂行困難であった.この結果,第37,39病日に施行した日本語版Montreal Cognitive Assessmentは9点(失点は視空間実行系4,命名1,注意5,言語2,抽象概念2,遅延再生5,見当識2),KOHS立方体検査ではIQは26.7と低く,Mini-Mental State Examinationは中断した.

検査所見:一般血液検査では明らかな異常は認めなかった.HbA1c 6.2%で,甲状腺機能は正常であった.ビタミンB1,ビタミンB12,抗核抗体,抗SSA抗体,抗SSB抗体,MPO-ANCA,PR3-ANCAは正常範囲ないし陰性であった.腫瘍マーカーでは,CEA 6.5 ng/ml,CYFRA 3.7 ng/ml,NSE 40.2 ng/mlと上昇していたが,CA19-9とSCCの上昇は認めなかった.髄液検査は無色透明,細胞数2/mm3,蛋白105 mg/dl,糖64 mg/dl(同時血糖93 mg/dl)であった.髄液中の抗N-methyl-D-aspartate receptor抗体は陰性であった.抗糖脂質抗体ではGM1,GM2,GM3,GD1a,GD1b,GD3,GT1b,GQ1b,Gal-Cer,GT1aに対するIgM,IgG抗体はいずれも陰性であったが,フォスファチジン酸との混合抗原に対するIgG抗体はGM1で1+と弱陽性であった.前医の頭部MRI(Fig. 1A, B)では海馬に軽度の萎縮を認めたが,その他には明らかな異常は認めなかった.また胸腰椎単純MRIでも異常を認めなかった.左上下肢の神経伝導検査(Table 1)では,運動神経系においてM波遠位潜時延長,複合筋活動電位の低下,F波潜時延長を認めた.感覚神経系では,正中神経で感覚神経伝導速度が低下し,他の神経では導出不能であった.脳波では明らかな異常は認めなかった.

Fig. 1 Contrast enhanced CT and 11F-fluorodeoxyglucose (FDG)-positron emission computed tomography (PET).

A, B: MRI shows no abnormal findings in fluid attenuated inversion recovery images. C, D: Contrast CT shows thickening of the gallbladder wall and swelling of the abdominal lymph nodes (arrows). E: PET-CT shows abnormal accumulation in the base of the gall bladder and abdominal lymph nodes (arrowheads).

Table 1  Nerve conduction study.
Day 25 Day 65 Normal range
Motor
Lt. Median Distal latency, ms 4.5 4.4 <4.6
MCV, m/s 55.6 46.5 >49.5
CMAP, mV 2.2 2.6 >3.0
F wave latency, ms 34.0 30.7 <28.2
Lt. Ulnar Distal latency, ms 3.3 3.4 <3.8
MCV, m/s 53.4 51.9 >49.9
CMAP, mV 10.5 5.2 >5.8
F wave latency, ms 28.5 27.8 <29.7
Lt. Tibial Distal latency, ms 9.6 NE <5.7
MCV, m/s 41.4 NE >41.6
CMAP, mV 12.9 NE >4.3
F wave latency, ms 52.8 NE <51.7
Lt. Peroneal Distal latency, ms 8.7 NE <6.8
MCV, m/s 15.1 NE >42.7
CMAP, mV 0.3 NE >2.6
F wave latency, ms NE NE <51.7
Sensory
Lt. Median SCV, m/s 43.8 NE >47.1
SNAP, μV 7.0 NE >7.0
Lt. Ulnar SCV, m/s NE NE >46.8
SNAP, μV NE NE >6.9
Lt. Sural SCV, m/s NE NE >40.7
SNAP, μV NE NE >7.4

MCV; motor nerve conduction velocity, CMAP; compound muscle action potential, SCV; sensory nerve conduction velocity, SNAP; sensory nerve action potential, NE; not evoked.

臨床経過(Fig. 2):入院後,神経症候は進行性に増悪し,第25病日までには振動覚は両下肢で消失した.Guillain-Barré症候群と考え,第26病日より免疫グロブリン大量静注療法(400 mg/kg/日,5日間)とステロイドミニパルス療法(メチルプレドニゾロン500 mg/日,5日間)を開始した.治療後,異常感覚は軽減し,下肢の振動覚は右6秒,左7秒となり,関節位置覚低下は軽度となった.軽介助で平行棒内での歩行が可能になった.しかし,第24病日に採取した血清中の抗Hu抗体が3+(イムノブロット法)と強陽性であることが判明した.一方,抗AMPH抗体,抗CV2抗体,抗PNMA2抗体,抗Ri抗体,抗Yo抗体,抗Titin抗体,抗SOX1抗体,抗リカバリン抗体,抗Zic4抗体,抗GAD65抗体,抗Tr抗体は全て陰性であった.傍腫瘍性神経症候群を疑い,腫瘍性疾患の検索を行った.この結果,第37病日の胸腹部造影CT(Fig. 1C, D)では胆囊壁の肥厚と腹部リンパ節の腫大,右卵巣の成熟囊胞奇形腫を認めた.PET-CT(Fig. 1E)では胆囊底部と腹部リンパ節に異常集積を認めたが,胸郭内や卵巣を含む骨盤内に集積は認めなかった.超音波内視鏡下穿刺吸引術による胆囊とリンパ節の組織診断からは低分化腺癌が検出され,リンパ節転移を伴う胆囊癌(N1M0 cStage IIIB)と診断した.手術の希望はなく,第53病日よりゲムシタビンとTS-1を開始した.1クール終了時の神経症候では下肢の振動覚は右6秒,左5秒,位置覚は中等度低下し,起立は全介助となった.再検時の神経伝導検査(Table 1)では,脛骨神経と腓骨神経の複合筋活動電位,正中神経と尺骨神経と腓腹神経の感覚神経活動電位はいずれも消失していた.患者は化学療法の継続を希望せず,緩和療法の方針となり前医に転院した.神経症候は改善なく徐々に衰弱し,第125病日に転院先で死亡した.

Fig. 2 Clinical course.

IVIG, intravenous immunoglobulin. After admission, sensory impairment and sensory ataxia progressively worsened. She was initially diagnosed with Guillain-Barré syndrome; intravenous immunoglobulin therapy (400 mg/kg daily for 5 days) and steroid pulse therapy (methylprednisolone 500 mg daily for 5 days) were started on Day 26. After the treatment, she was able to walk with partial assistance using parallel bars. Anti-Hu antibody was positive in the serum; therefore, she was diagnosed with paraneoplastic neurological syndrome with gallbladder carcinoma. Gemcitabine and TS-1 was started on Day 53, but neurological symptoms worsened progressively. She was transferred on Day 66.

考察

本例では亜急性に感覚運動性ニューロパチーを呈し,免疫療法や胆囊癌に対する化学療法も施行したが,神経症候の改善は軽微であった.当初Guillain-Barré症候群が疑われ,電気生理学的にはHoらの診断基準11ではacute inflammatory demyelinating polyneuropathyに該当した.免疫療法が奏効せず,3週間以上にわたり神経症候が進行性に増悪したことが,Guillain-Barré症候群としては非典型的であった.一方で亜急性感覚運動性ニューロパチーを呈し,抗Hu抗体が強陽性で,悪性腫瘍も認めることから,Paraneoplastic Neurological Syndrome Euronetworkの傍腫瘍性神経症候群臨床診断基準12ではdefiniteに相当した.また,本例では抗GM1抗体も弱陽性であった.傍腫瘍性神経症候群において抗糖脂質抗体を認めることがあるが13,同抗体の病態生理学的意義は未確定である.本抗体は弱陽性であったことからも本症例の神経障害に関与した可能性は否定できないが,その程度はわずかであったと推測された.さらに,本症例では比較的左右対称性の四肢の末梢神経障害を認めた.抗Hu抗体陽性の末梢神経障害20例を検討した研究報告では,65%で対称性に,30%で四肢に神経障害を認めた14.このことから,本例は抗Hu抗体陽性例としては比較的典型的な分布様式の末梢神経障害であると考えられた.なお神経心理学的評価では易疲労性を考慮しても記憶,注意障害の併存が完全には否定できず,軽症ながら辺縁系脳炎が合併していた可能性も示唆された.

前述の様に本例では胆囊癌としてはまれな傍腫瘍性神経症候群を呈した.胆囊癌に傍腫瘍性神経症候群を伴った本例を含む5例(Table 2)では腺癌が4例,小細胞癌が1例であった.ただしOgawaの症例では剖検で十二指腸に小細胞癌も認めていた6.抗Hu抗体は本例を含め3例に認めており,胆囊癌に傍腫瘍性神経症候群を伴う症例の特徴と言えるかもしれない.本例では全経過を通して胆囊癌以外の腫瘍性疾患は卵巣の成熟囊胞奇形腫以外に認めなかったが,剖検は行っておらず,抗Hu抗体に関連する他の腫瘍性疾患の潜在は完全には否定できない.

Table 2  Clinical characteristics of patients with paraneoplastic neurological syndrome associated with gallbladder carcinoma.
Age (y), sex Neurological findings Auto-Ab Time from onset of neurological symptoms to detection of carcinoma Pathology of gallbladder carcinoma mRS at diagnosis Treatment General outcome Neurological outcome Reference
72M Opsoclonus Anti-Hu, anti-Ri, and anti-Yo Ab were negative. Unknown Moderately differentiated adenocarcinoma Unknown IVIG, steroid Death at 5 weeks Immunotherapies were ineffective 4
48F Sensory neuropathy Anti-Hu Ab 9 months Small cell carcinoma Unknown Cholecystectomy, chemotherapy Lost to follow-up Partial remission of the neurological symptoms 5
80F Sensory neuropathy Anti-Hu Ab 4 months Adenocarcinoma of the gallbladder and small cell carcinoma of the duodenum ≥4 None Death at 8 months due to pulmonary failure Development of muscle weakness 6
69M Multiple cranial nerve palsies None 3 months Well-differentiated tubular adenocarcinoma 2 or 3 Steroid, cholecystectomy, chemotherapy Alive 5 years after diagnosis of carcinoma Improved after cholecystectomy 7
78F Sensorimotor neuropathy Anti-Hu Ab 
anti GM1 Ab
1 month Poorly differentiated Adenocarcinoma 4 IVIG, steroid, chemotherapy Death at 4 months No improvement Present case

Ab: antibody, IVIG: intravenous immunoglobulin, mRS: modified Rankin Scale.

また本例では感覚運動性ニューロパチーを認めた.傍腫瘍性神経症候群では感覚性ニューロパチーが54%であり,感覚運動性ニューロパチーの症例は少数とされる10が,Ohらの抗Hu抗体陽性の傍腫瘍性神経症候群の16例では感覚運動性ニューロパチーの症例が過半数を占めた15.軽度の運動障害を許容するか否かで感覚性ニューロパチーか感覚運動性ニューロパチーかの分類の差が生じていると考えられる15.本例のような感覚運動性ニューロパチーの症例は傍腫瘍性神経症候群においても一定数存在すると考えられる.

本例では免疫グロブリン静注療法とステロイドミニパルス療法による神経症候の改善は軽微であり,化学療法での改善も得られなかった.抗Hu抗体のような細胞内抗原に対する抗体が陽性の傍腫瘍性神経症候群では,ステロイドや血漿交換療法,免疫グロブリン静注療法などを含めた免疫療法の効果は限定的である1617.しかし免疫療法の効果が得られた症例の報告もあり1018,腫瘍が発見されない症例や腫瘍に対する治療後に神経症候が出現した症例では,特に免疫療法を考慮する必要がある10.また傍腫瘍性神経症候群は神経学的予後と生命予後ともに不良であり,特に年齢,診断時のADL,神経障害の範囲,治療の有無が予後と関連する因子であった910.胆囊癌に傍腫瘍性神経症候群を伴った症例においても,胆囊癌治療や免疫療法を実施しても神経学的予後と生命予後ともに不良であることが多かった(Table 2).本例では上述の予後関連因子のうち,年齢に加え,胆囊癌発見に先行した神経症候に伴う診断時ADL不良が該当した.

本例のように,胆囊癌患者に抗Hu抗体陽性の傍腫瘍性感覚運動性ニューロパチーが起こることがある.このような症例は過去類例がなく,今後の症例蓄積が必要と考える.

Acknowledgments

謝辞:抗糖脂質抗体を測定して頂きました近畿大学医学部脳神経内科 楠 進先生に深謝いたします.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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