Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of neuromyelitis optica associated with pulmonary Mycobacterium avium complex disease
Shinya OginezawaShoko HongoYoshitaka UmedaMaiko UmedaMutsuo OyakeNobuya Fujita
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2021 Volume 61 Issue 9 Pages 635-639

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要旨

症例は,62歳女性.43歳時に肺Mycobacterium avium complex(MAC)症と診断され加療中であったが,発熱,視力障害,下肢運動障害などをきたし入院した.MRIで視交叉病変と長大な頸髄病変があり,胸部CTで肺MAC症の増悪を認めた.視神経脊髄炎(neuromyelitis optica,以下NMOと略記)と診断し,ステロイドパルス療法と二重濾過血漿交換を行い,抗アクアポリン4抗体は,ELISA法で検出感度未満に低下した.約半年後に視力障害で再発し,頭部MRIで視神経・視交叉に再発病変を認め,エクリズマブを開始した.NMO発症に肺MAC症の関連が示唆された貴重な症例である.

Abstract

A 62-year-old woman suffering from pulmonary Mycobacterium avium complex (MAC) disease was admitted to our hospital with fever, visual impairment, and lower limb weakness. MRI detected lesions in the optic chiasm and spinal cord extending the length of 6 vertebrae. The anti-aquaporin 4 (AQP4) antibody titer determined by ELISA was elevated to 8.3 IU/l. On the basis of these findings, the patient was diagnosed as having neuromyelitis optica (NMO), when chest CT also demonstrated exacerbation of pulmonary lesions. Methylprednisolone pulse therapy and double-filtered plasma exchange ameliorated the symptoms, and the EDSS score improved from 8.5 to 6.5. Six months later, visual impairment recurred, although ELISA showed that the anti-AQP4 antibody titer had become undetectable. Also, the CSF interleukin-6 (IL-6) level was elevated to 34.8 pg/ml. There have been few reports of NMO associated with pulmonary MAC disease. An increase of IL-6 is considered to exacerbate the clinical picture of NMO, whereas it may suppress progression of the pulmonary MAC disease. Exacerbation of the pulmonary MAC disease and the following internal counteraction with IL-6 may have resulted in a NMO relapse. The present patient was therefore administered eculizumab but not satralizumab, a humanized anti-IL-6 receptor antibody, for prevention of NMO recurrence.

はじめに

視神経脊髄炎(neuromyelitis optica,以下NMOと略記)では,アクアポリン4(aquaporin 4,以下AQP4と略記)に対する自己抗体が,発症に関わる重要な免疫分子と考えられている.近年,NMOの病態には,抗体依存性だけでなくサイトカインや補体系による神経系細胞障害も関与すると考えられるようになり,重症度や再発は,抗AQP4抗体価によらないことが報告されている1.今回われわれは,肺Mycobacterium avium complex(MAC)症に合併した抗AQP4抗体陽性のNMOを経験した.NMO発症時に肺MAC症の病変の増悪を認め,初回の免疫治療後に抗AQP4抗体価が,ELISA法で検出感度未満に低下したにも関わらず再発した.肺MAC症が,NMO発症に関与した可能性が考えられる貴重な症例であり,報告する.

症例

症例:62歳,女性

主訴:目が見えづらい,背中の違和感,下肢の脱力感

生活歴:主婦.ガーデニングなどの趣味はなかった.

既往歴:43歳時より血痰が出現した.左中肺野に散布状の結節性陰影を指摘され,喀痰培養でMycobacterium aviumを検出し,肺MAC症と診断された.リファンピシン,クラリスロマイシン,シタフロキサシンによる内服治療を開始され,変更なく継続された.47歳時に左肺の2/3を切除し,その後病状は安定していた.

現病歴:2019年11月下旬から38°C台の発熱があり,1週間程度で解熱した.同時期より背部の異常感覚,目の霞み,足の動かしにくさを自覚し,徐々に増悪した.12月初旬当科を初診し,視力低下(RV = 0.05, LV = 0.05),両側耳側半盲,Th6レベル以下の左半身の異常感覚と温痛覚低下,両下肢右優位の徒手筋力テスト(MMT)3レベルの筋力低下を認め,歩行困難で,第1回目の入院となった.入院時に発熱はなく,呼吸器症状はなかったが,胸部X線で,直近の画像と比較して左肺野の陰影が増強していた.頭部MRI脂肪抑制T1強調画像で,視交叉に高信号病変があり,ガドリニウム(Gd)増強効果を示した(Fig. 1A).頸髄MRI T2強調画像では,C6からTh4椎体レベルの髄内に長大な高信号病変を認めた(Fig. 1B).血清抗AQP4抗体は,ELISA法で8.3 IU/lと陽性であった.抗AQP4抗体陽性のNMOと診断し,ステロイドパルス療法を2回と二重濾過血漿交換(double filtration plasmapheresis,以下DFPPと略記)を7回実施してリハビリを行い,歩行器での歩行が可能となり,EDSSは入院時の8.5から6.5と改善した.視力もRV = 0.08, LV = 0.5まで回復した.後療法としてプレドニゾロン(PSL)40 mg/日とアザチオプリン(AZP)100 mg/日の内服を開始した.治療開始1か月後にELISA法での血清抗AQP4抗体が,検出感度(1.5 IU/l)未満であることを確認した.PSLは漸減し,15 mg/日とした.2020年1月の胸部CTは,直近のものと比較して,左肺の空洞病変の拡大があり,肺MAC症が増悪していた(Fig. 2).

Fig. 1 Serial brain and spinal MRI findings.

Brain MRI gadolinium (Gd)-enhanced fat suppression T1-weighted images (WIs) at the time of first admission (axial and coronal, 1.5 T; TR 460 ms, TE 12 ms) show the enhanced area in the optic chiasma (A; arrows). Spinal MRI T2-WIs (sagittal, 1.5 T; TR 2,500 ms, TE 103 ms) show a longitudinal hyper-signal lesion in the spinal cord extending from C6 to Th4 (B). Brain MRI Gd-enhanced fat suppression T1-WIs at the time of recurrence half a year later (axial and coronal, 1.5 T; TR 468 ms, TE 12 ms) show the enhanced area in the right optic nerve and optic chiasma (C; arrows), which disappeared after immunotherapy (D).

Fig. 2 Chest CT findings.

Chest CT scans at the time of initial onset of neuromyelitis optica show enlargement of multiple cavitary nodules (B; arrows), compared to the latest one before onset (A), suggesting exacerbation of pulmonary Mycobacterium avium complex disease.

NMO発症の約半年後の2020年5月中旬から,目の見えづらさを自覚した.6月下旬の眼科診察で視力低下と視野障害を指摘され,NMOの再発で当科に第2回目の入院となった.

入院時現症:血圧141/81 mmHg,脈拍70回/分.体温36.7°C.SpO2 99%(室内気).血痰はなく,心・肺雑音はなかった.神経学的には,意識清明で,高次機能には異常がなかった.右優位の視力低下(RV = 0.02, LV = 0.3)と両側の耳側半盲と左同名半盲を認めた.前回入院時の後遺症であるTh6以下の感覚障害と右下肢MMT 3レベルの筋力低下,右跛行を認めた.深部腱反射は,右膝蓋腱で亢進していた.病的反射は,右バビンスキー反射陽性で,右下肢クローヌスが陽性だった.EDSSは,6.5であった.

検査所見:血液検査では,白血球7,890/μl,CRP 0.39 mg/dlで炎症所見はなかった.肝・腎機能障害を認めなかった.β-Dグルカン,アスペルギルス抗原,抗MAC抗体はすべて陰性だった.抗核抗体と抗SS-A抗体は陰性で,抗SS-B抗体は1.8 IU/lと上昇はなかった.抗好中球細胞質抗体(MPO-ANCA, PR3-ANCA)は陰性だった.血清IgG 968 mg/dl,C3 133 mg/dl,C5 24 mg/dlといずれも低下はなく,CH50 76 mg/dlと軽度高値であった.血清抗AQP4抗体はELISA法で検出感度未満であったが,cell-based assay(CBA)法で陽性であった.髄液検査では,細胞増多はなく,蛋白26 mg/dl,IgG indexは0.53,ミエリン塩基性蛋白192 pg/mlで,オリゴクローナルバンドは陰性であった.髄液インターロイキン6(Interleukin-6,以下IL-6と略記)は,34.8 pg/ml(基準値4.0 pg/ml以下)と上昇していた.頭部MRIでは,右視神経と視交叉にGd増強効果を伴う病変を認めた(Fig. 1C).

経過:入院後ステロイドパルス療法を2回,DFPPを3回実施した.後療法は,AZPに加えてPSLを30 mg/日に増量した.視力(RV = 0.09, LV = 0.5)と左同名半盲が改善し,退院した.2020年11月より,再発予防を目的としてエクリズマブ投与を開始した.治療前後で血清CH50値を測定し,初回投与後すみやかに検出感度以下に低下した.頭部MRIで視交叉の増強効果は消退し(Fig. 1D),神経学的所見の悪化はなく,EDSS 6.5で経過している.

考察

本例は,肺MAC症の経過中に発症した,抗AQP4抗体陽性NMOである.NMO発症時期の胸部X線,胸部CTでは,肺MAC症増悪の所見を認めた.急性期免疫治療後は,ELISA法で血清抗AQP4抗体価は検出感度未満で経過していたが再発をきたした.再発までの経過中CBA法での血清抗AQP4抗体は測定しておらず,増減の有無は不明であったが,再発時にCBA法で測定した血清抗AQP4抗体は陽性であった.

NMOの発症には,さまざまな感染症の関与が指摘されている2.初発のNMO患者では,約25%で先行する感冒症状が見られ,EBウイルス感染の合併など,ウイルス感染との関与が知られている2.細菌感染では,結核菌感染の関与も報告されており,NMOに先行,あるいは同時期に結核の発症がみられる3

肺MAC症の起炎菌は,結核菌と同じ抗酸菌のMycobacterium avium complexで,水系・土壌などから経気道的に感染する.肺MAC症は,中年女性に多くみられ,本邦では非結核性抗酸菌症の約7割を占める.近年罹患率が増加傾向にあるが,年間10万人あたり約14人と比較的まれな疾患である4

本例のように先行する肺MAC症に合併したNMOの報告はない.NMOの発症時に,画像上肺MAC症の増悪を認めた点は,肺MAC症がNMOの発症に関与した可能性を示唆する所見として興味深い.Mycobacterium aviumには亜種としてMycobacterium avium subsp. paratuberculosis(MAP)が存在し,主に反芻動物に感染し腸炎症状を引き起こす.一般的には人間には病原性はないとされているMAPであるが,NMO患者血清でMAP既感染の所見がみられ,NMOの病態への可能性を示す報告もある56.肺MAC症での同様の報告はなく,今後の検討が重要である.

本例では,免疫療法により,血清抗AQP4抗体がELISA法で検出感度未満に低下したが,再発時にCBA法では検出された.ELISA法は,CBA法に比べると,測定感度は10~20%程度低いとされる7.NMOを強く疑う場合は,CBA法での測定が重要である.また,血清抗AQP4抗体価とNMOの疾患活動性は相関しないことが報告されており1,本例でも疾患活動性や治療評価の指標とはならなかった.

NMOの発症と再発には,抗AQP4抗体だけでなく,IL-6などのサイトカインや補体系の関与が注目されている.

IL-6は,血液脳関門の透過性を亢進させ,脳内でのT細胞由来の炎症を惹起し,アストロサイトを傷害し,ミエリンの軸索への接着を阻害すると考えられている8.髄液中のIL-6値上昇が,NMOの病状の悪化や再発と有意に相関するとの報告もあり9,本症例でも再発時に脳脊髄液中のIL-6値が上昇していた.一方,MAC症などの非結核性抗酸菌症では,IL-6が発症の抑制に関与する.IL-6が,マクロファージを動員して,防御免疫の役割を担うと考えられている10.関節リウマチなどの免疫炎症性疾患で,IL-6阻害薬を投与されると肺MAC症の発症や増悪がおこることも,MAC症でIL-6が防御免疫として働いていることを示唆する所見である11.本例でも,肺MAC症が増悪した際に,防御的に増加したIL-6が,NMOの発症を引き起こす一因となった可能性も考えられる.

補体系に関しては,活性化した補体(C5)が膜侵襲複合体を形成して,炎症が促進され,アストロサイトの障害を引き起こすとされる12.NMOの再発予防として,抗C5モノクローナル抗体であるエクリズマブが高い有効性を示している13

NMOの再発を抑える薬剤として,抗IL-6受容体抗体薬のサトラリズマブの有効性も報告されている14.本例では,サトラリズマブによりIL-6が抑制され,肺MAC症が増悪する可能性があると考え選択しなかった.一方,MAC症では,補体系は増悪因子にはならないとされ11,抗C5モノクローナル抗体のエクリズマブを選択した.エクリズマブの有効性の指標として,血清CH50値が使われており,CH50値の抑制とEDSSは相関する15.本例でもエクリズマブの投与で血清CH50値は低下して,NMOの再発や肺MAC症の増悪もなく経過している.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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