Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of generalized dystonia DYT28 with a novel de novo mutation in the KMT2B gene
Kenju HaraHaruka OuchiKohei HamanakaSatoko MiyatakeNaomichi Matsumoto
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2022 Volume 62 Issue 11 Pages 856-859

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要旨

症例は39歳男性である.5歳頃,歩行時に足を底屈させる歩容異常が出現し,6歳時に右手の書痙を,15歳時に発声障害を認めた.16歳時には歩行時に左下肢を跳ね上げるような動作性ジストニアが出現し,19歳時に右下肢にもジストニアが拡大した.頭部MRIには異常なく,レボドパ治療は無効であった.全エクソームシークエンス解析にてKMT2B遺伝子に新規のナンセンス変異(c.433C>T, p.Arg145*)を認めDYT28と確定した.両親には同じ変異はなくde novo変異であった.小児期に下肢のジストニアで発症する例ではDYT1,DYT5(瀬川病)の他,DYT28も考慮すべきである.

Abstract

The patient exhibited plantarflexion during walking at the age of five. He then developed writer’s cramp at the age of six, dysphonia at 15 years, and action-induced dystonia with left knee elevation and trunk swinging when walking at 16 years, which subsequently spread to the right leg at 19 years. Levodopa therapy was ineffective for dystonia. Brain MRI showed no abnormalities. He was diagnosed with DYT28 after detecting a novel heterozygous mutation (c.433C>T, p.Arg145*) in the KMT2B gene using whole-exome sequencing at age 39. Furthermore, the patient’s parents exhibited normal alleles, confirming the de novo status of KMT2B gene mutation. We should consider DYT28 in addition to DYT1 and DYT5 in patients who developed leg dystonia in childhood.

はじめに

DYT28は小児期に下肢のジストニアで発症し,徐々に顔面,頭頸部,喉頭,四肢,体幹にジストニアが拡大し,不随意運動や精神発達遅滞,低身長,小頭症,面長,団子鼻などを合併する遺伝性ジストニアの一病型である12.2016年にその原因遺伝子としてLysine-specific histone methyltransferase 2BをコードするKMT2B遺伝子が同定されてから欧米や中国,本邦からDYT28の報告が相次ぎ3)~6,最近,本疾患は小児期発症の遺伝性ジストニアの中で大きな割合を占めることが明らかにされつつある7.われわれは小児期には診断がつかず,発症34年後に診断がついたDYT28の症例を経験したため報告する.

症例

症例:39歳 男性

主訴:歩行障害

既往歴:特記すべき事項なし.

家族歴:類症なし.両親の血族婚なし.

現病歴:5歳頃,歩行時に足を底屈し,つま先を立てるような肢位異常が出現し,6歳時に右手で書字が困難になり,左手で書くようになった.15歳時に当院を初診し,息を詰まらせるような発声障害と右手の書痙を認めた.16歳時,歩行時に左下肢をガクガクと上下運動させながら歩くようになった.当院に検査入院となり,多巣性ジストニアと考えられたが,原因についてWilson病,ミトコンドリア脳筋症,瀬川病などが疑われ精査されたが,これらを支持する検査所見は得られなかった.トリヘキシフェニジル(6 mg/日)を投与したところ筆圧が高くなり読みやすい字が書けるようになり,書痙はある程度の改善を認めたが,発声障害や下肢のジストニアによる歩行障害には無効であった.またレボドパ製剤(300 mg/日)による治療では明らかな効果は認めず,症状の日内変動も認めなかった.19歳時に歩行時に膝をガクガクと動かしながら過度に持ち上げるジストニアが右下肢にも出現した.A大学病院に入院し,Wilson病,GM1ガングリオシドーシス,Machado–Joseph病,ミトコンドリア脳筋症などについて精査されたが,いずれも否定的とされた.歩行時のジストニアに対し再度レボドパが投与されたが効果なく,ジアゼパム(6 mg/日)投与により膝がガクガクする動きが軽減した.21歳時にB大学病院に入院し,DYT5(瀬川病)の原因であるGCH1遺伝子解析が行われたが変異は認めなかった.以後,徐々に発声障害と四肢のジストニアが進行し,33歳時にC病院でDYT1の原因であるTORIA遺伝子の解析が行われたが変異を認めなかった.39歳時に精査のため再度当院に入院した.

一般身体所見:身長150.0 cm,体重47.0 kg,血圧114/92 mmHg,脈拍80/分,心雑音や肺雑音なし.四肢の浮腫なし.

神経学的所見:意識は清明.認知機能はHDS-R 30/30,MMSE 30/30と正常であった.脳神経では努力性でかすれるような発声(spasmodic dysphonia)を認めた(Supplementary data 1:音声動画).運動系では筋力低下は明らかでなかったが,両下肢の痙性を認めた.指鼻試験では肘を過度に高い位置に保持する異常肢位を認めた(Supplementary data 2:動画の前半).歩行時は膝を過度に持ち上げ,挙上した足は内反尖足位となり,さらに右前腕を前に振るときに回内位となり,上体はやや右後方に傾けながら動揺する歩行異常を呈した(Supplementary data 2:動画の後半).筋伸張反射は両側の上腕二頭筋反射,上腕三頭筋反射,腕橈骨筋反射,尺骨回内反射,膝蓋腱反射,アキレス腱反射とも亢進し,右Babinski反射が陽性であった.感覚障害や小脳失調,自律神経障害は認めなかった.団子鼻,面長などの顔貌の小奇形は認めなかった.

検査所見:血算,電解質,腎機能,肝機能,甲状腺機能は正常であった.髄液一般検査では細胞数1/μl,蛋白31 mg/dl,Cl 127 mEq/l,糖66 mg/dlと異常なく,髄液の乳酸は7.9 mg/dl(基準値3.7~16.3),髄液ピルビン酸は0.67 mg/dl(基準値0.3~0.9)といずれも正常であった.髄液のホモバニリン酸は41.7 ng/ml(基準値1~73),髄液5ヒドロキシ酢酸は10.1 ng/ml(基準値10~20)といずれも正常であった.血清銅71 μg/dl(基準値70~132),尿中銅46 μg/dl(基準値14~63)と正常であり,血清セルロプラスミンは20 mg/dl(基準値21~37)とごく軽度低下していた.頭部MRIでは異常所見は認めなかった.

末梢神経伝導検査では右正中神経,右尺骨神経,右脛骨神経,右腓腹神経では運動神経伝導速度,感覚神経伝導速度,複合筋活動電位,感覚神経活動電位はいずれも異常を認めなかった.そこでDYT1とDYT5(瀬川病)以外の遺伝性ジストニアの可能性を考え,患者から遺伝子解析についての同意を得たあと,全エクソームシークエンス解析を行った.その結果,Lysine-specific histone methyltransferase 2BをコードするKMT2B遺伝子の全37エクソン中,エクソン2にヘテロ接合性のナンセンス変異(c.433C>T, p.Arg145*)を認めた(Fig. 1).この変異は一般集団の公共データベース(Exome Aggregation Consortiumや東北メディカル・メガバンク機構)に存在せず,病的変異と考えられた.以上からDYT28と確定した.さらに両親からも遺伝子解析についての同意を得たあと,サンガーシークエンス法にてKMT2B遺伝子の解析を行ったところ,両親には同じ変異を認めなかったためde novo変異と考えられた(Fig. 1).

Fig. 1 Family tree of the patients and sequence analyses of the KMT2B gene.

The filled symbols indicate the affected individual, whereas open symbols indicate the unaffected individuals. Squares indicate males and circles indicate female. The red arrow indicates a heterozygous C>T nucleotide substitution at position 433, leading to a premature stop codon (p.Arg145*). The black arrows indicate normal alleles, confirming the de novo status of the KMT2B gene mutation.

考察

小児期に多いジストニアの原因として,1)遺伝性ジストニア(DYT1, DYT5, DYT6, DYT8, DYT10, DYT11, DYT18, DYT26, DYT28, DYT29),2)代謝異常(ビオプテリン代謝異常症,Wilson病,Neurodegeneration with brain iron accumulation(NBIA),グルコーストランスポーター1欠損症,ミトコンドリア異常症),3)脳性麻痺が挙げられるが2,この中で下肢のジストニアで発症する疾患としては,DYT1, DYT5(瀬川病),DYT28,およびNBIA type 1(Pantothenate kinase-associated neurodegeneration; PKAN;PANK2遺伝子異常)が知られている8.とくにDYT1とDYT5(瀬川病)は本邦で頻度の高い遺伝性ジストニアであるため9,小児期発症の遺伝性ジストニアでは,まずこの2疾患を考慮することがガイドラインでも推奨されている2.DYT1は10歳前後に特に下肢より発症することが多く,月あるいは年単位で全身に広がる捻転性ジストニアが特徴とされ,DYT5(瀬川病)は10歳以下で発症し,昼から夕方にかけて悪化する日内変動,睡眠による改善効果,少量のレボドパの内服治療が奏効することなどが特徴とされる2.NBIA type 1の典型例は7~12歳にジストニアや筋強剛,舞踏運動,アテトーシスを呈し,頭部MRIでの “eye of the tiger sign” が特徴とされる10.なお,若年性パーキンソニズム(PARK2;parkin遺伝子異常)でも10歳前後に下肢の姿勢ジストニアで発症する場合があり,睡眠効果や少量のレボドパが著効するなどDYT5(瀬川病)との鑑別が難しい例があるため811,小児期発症のジストニアの原因として考慮する必要がある.本例の臨床像を改めて振り返るとDYT1, DYT5(瀬川病),NBIA type 1,PARK2のいずれにも合致しないと考えられ,一方,下肢ジストニアで発症し低身長を伴い,年単位で捻転を伴わないジストニアが全身に拡大する経過はDYT28の臨床像に矛盾しないものであったと考えられる1

DYT28は面長(long face),団子鼻(bulbous nose),小頭症,精神発達遅滞,低身長が特徴とされているが12,本例では低身長以外の特徴に乏しいことや他院に検査入院した時点ではDYT28の原因遺伝子が発見されていなかったこともあり,確定診断までに難渋した.また本例では家族歴がない点も当初は遺伝性疾患を想定しにくくさせた要因と考えているが,遺伝性ジストニアでは優性遺伝であっても浸透率が低く,一見孤発性に見えることや,de novo変異の頻度が高いことにも注意が必要である2

DYT28の原因遺伝子は2016年に同定され,以降ヨーロッパ,北米,中国などから76例以上のKMT2B遺伝子変異が確認されており1,本邦でも約10例の報告を認める4)~6.常染色体優性遺伝であるが,70%が本例のように突然変異とされている1.平均発症年齢は6.4歳(生後6週~43歳)で,下肢のジストニアで発症し2~10年以内にジストニアは体幹や上肢に拡大していく.ジストニア以外の症候としては面長や団子鼻などの特徴的な顔貌(51%),知能低下(51%),発達障害(33%),低身長(29%),小頭症(21%),痙性(14%),ミオクローヌス,バリスムなどの不随意運動(13%),眼球運動障害(11%),精神障害(7.8%)痙攣(2.6%)が報告されているが1,このうち本例では低身長のみを認めた.喉頭ジストニアによる構音障害についても報告されている4612.頭部MRIではT2強調画像にて淡蒼球外節に低信号を認める場合があるが(25%)1,本例では異常所見を認めなかった.DYT28の治療としては抗コリン薬がジストニアに有効とする報告があるが1,本例では初期の書痙に対しては有効であったが,四肢のジストニアや構音障害には無効であった.一方ジストニアに対する脳深部刺激療法(deep brain stimulation,以下DBSと略記)の効果については,有効であるという報告が多い15613.Cifらは18例のDYT28に対しDBSを行い,1年後の時点で50%以上の患者がFahn-Marsden dystonia movement scale(BFM scale)にて30%以上の改善を維持していること,さらに8例は5年後も同様の効果を維持していることを報告しているが,喉頭ジストニアには無効であったと報告している13.本邦では熊田らが6例のDYT28に対しDBSを行っており,平均改善率が54.7%であることを報告しているが,喉頭ジストニアによる発声障害には効果が乏しいこと,さらに2例は痙縮の増悪を認めた点も注意点として指摘している6.したがってDYT28にDBSを導入する場合はこうしたデメリットについても患者,家族に十分説明する必要があると考えられる.本例でもDBS治療を勧めているが,現時点では本人,家族とも希望していない.

DYT28の分子病態についてはまだ十分に解明されていないが,KMT2B(lysine-specific histone methyltransferase)はヒストン(H3)のメチル基転移酵素として,ヒストンH3の4番目のリジン残基をメチル化することで転写活性を促進する働きを持つため,KMT2Bの変異により機能喪失が起き,H3のメチル化阻害により転写活性が低下することが推測される3.実際,本例と同様のKMT2B遺伝子にヘテロ接合性のナンセンス変異を有する患者のリンパ球や線維芽細胞では,ナンセンス変異依存性分解機構によってKMT2BのmRNAの発現が有意に低下していることが示されているため,KMT2Bの機能喪失によるハプロ不全が原因と考えられている34

KMT2B遺伝子に新規のde novo変異を認めたDYT28を報告した.幼少期に下肢のジストニアで発症する遺伝性ジストニアとして本邦ではDYT1とDYT5(瀬川病)が多いが,面長や団子鼻などの顔貌,知能低下,低身長などの特徴を認めた場合はDYT28を考慮する必要がある.

Movie legends

Movie 1 The patient exhibits a forced and husky voice, which are presumably induced by laryngeal dystonia.

Movie 2 The patient exhibits an abnormal posture, in which he kept his elbows in a high position during the finger-to-nose test. Moreover, he excessively elevates his knee with his foot in the varus position and swings his trunk when walking, indicating action-induced dystonia.

Movie is published with patient’s permission.

Notes

本報告の要旨は,第105回日本神経学会東北地方会で発表した.

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2022 Japanese Society of Neurology

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