臨床神経学
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短報
沖縄型神経原性筋萎縮症(hereditary motor and sensory neuropathy with proximal dominant involvement: HMSN-P)の進行期患者への質問票による調査
谷口 雅彦頼島 有紀庄司 紘史井手 睦久村 悠祐国崎 啓介
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2022 年 62 巻 2 号 p. 152-156

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要旨

沖縄型神経原性筋萎縮症(hereditary motor and sensory neuropathy with proximal dominant involvement,以下HMSN-Pと略記)進行期の患者16名(年齢48~70歳)に対し,病名告知・受容・治療への期待などについて調査票による調査を実施した.本症は30年を超える緩徐進行性であり,また家族歴を有することから,病名告知の際に多くの患者は疾患について予想していた.しかし,若年者や発症から告知までの期間が短い患者では,精神的に動揺し,仕事を継続できるか子供へどう説明するか悩んだと書き込まれた.治療については,核酸医薬などの特異的治療の開発に期待するという回答がみられた.

Abstract

We conducted a survey of 16 Japanese patients (9 males, 7 females) aged 48–70 years in the advanced-stage Okinawa-type neurogenic muscular atrophy (i.e. hereditary motor and sensory neuropathy with proximal dominant involvement: HMSN-P) by a questionnaire asking the patients’ disease name notification, acceptance, and expectations for treatment. In amyotrophic lateral sclerosis (ALS), since symptoms such as four-limb motor weakness and respiratory disorder are serious, patients are notified of the disease name at each progression stage. Individuals with HMSN-P exhibit ALS-like severe motor paralysis, but HMSN-P shows autosomal dominant inheritance, and progresses slowly (over >30 years). Many of the present patients who had one parent with the disease were able to predict what their diagnosis would be. However, several patients stated that they could not sleep for several months due to the shock of the diagnosis and their concern about how to explain to their children that the disease is hereditary. All patients in the advanced stage of HMSN-P progress to severe proximal dominant quadriplegia and ultimately need auxiliary tools such as a wheelchair. New developments toward a specific HMSN-P treatment are expected, with methods such as nucleic acid medicine.

はじめに

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis,以下ALSと略記)では病名告知・受容・呼吸補助機器使用に精神的にも苦痛を伴い,延命治療の停止,嘱託殺人などの事件が発生し,社会的関心も集めている‍1)~3.沖縄型神経原性筋萎縮症(hereditary motor and sensory neuropathy with proximal dominant involvement‍45,以下HMSN-Pと略記)は成人発症,常染色体優性遺伝,30年を超える緩徐進行性の近位部優位の四肢運動麻痺を主徴とし,沖縄に多発する希少神経難病である.2017年以降,我々は厚労省分担研究において,HMSN-P患者に対しロボットスーツ上肢単関節hybrid assistive limb(HAL)を用い,実用化に向け研究を継続してきた‍67.研究の過程で,HMSN-Pの患者は進行期にはALS類似の重度四肢麻痺に陥るが,ALSや他の遺伝性疾患と比べて,病名告知や受容に差があるのか疑問を持った.また,脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy,以下SMAと略記)に対しては,新たな核酸医薬‍8が実用化しており,induced pluripotent stem cell(iPS)の応用も始まっている中で,HMSN-Pの治療にどんな期待を持っているのかも探る必要があると考えた.そこで,質問票を用いて系統的に検討することによってこれらの点を明らかにすることを目的とした.

方法

2017年以降,我々は当院ならびに沖縄県の就労施設アネラハウスにて進行期HMSN-P 6名に対し上肢単関節HALを用い,ADLの向上に取り組んできた.今回の調査は,48~70歳の進行期HMSN-P患者を対象とし,以下の条件を満たす人を,HMSN-P患者会「希の会」事務局と打ち合わせて選定した:募集期間は2020年4月より6月まで,対象症例はHAL使用の6名を含む,48~70歳の進行期HMSN-P 16名とし,40歳以下の患者は除外した.当院倫理委員会へ研究計画書を提出し,承認された(研20-0408,2020年4月28日).対象とした16名は,Fujisakiら‍5のHMSN-P 97例の自然経過の解析における呼吸・嚥下障害出現前,歩行困難・不可の時期に相当した.調査は質問票(Fig. 1)を用い,病名告知・受容,治療への期待を中心に10項目について質問した.16名への調査票の配布,全例から回答を得,収集は患者会の協力を得て行った.2020年6,8,12月,沖縄県の就労施設にてHMSN-P 16名に対し,個別に内容について確認した.核酸医薬と関連して,患者会「希の会」の6月の集会においてSMAへのスピンラザ‍®について作用機序などを説明した.続いて,2021年2月 教育歴,病名告知年齢など追加調査を実施した.

Fig. 1 沖縄型神経原性筋萎縮症への質問票による調査の依頼

厚労省筋ジストロフィー調査分担研究,2020.6~12

聖マリア病院 谷口雅彦

結果(Table 1)

対象とした16例の平均年齢は60.0 ± 5.9(SD)歳,男性9名,女性7名,発症年齢の平均は41.8 ± 6.3歳.教育歴は大学卒2名,高校卒13名,専門学校卒1名であった.発症時気づいた主な症状は,筋肉の痙攣が16名中10名と先行し,次に下肢の脱力8名,上肢の脱力4名,感覚障害4名と続いた.仕事の経験は,平均26年間従事されており,その内容は,会社代表,看護師,販売業,米基地の運転手,事務職などさまざまであった.多くは50歳代前半で退職されているが,症例1,7,13は継続されている.診断の際の説明では,2名を除いて,HMSN-Pと説明された.2名では,ミトコンドリア筋症,シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot–Mari–Tooth病)であった.後に遺伝子診断でHMSN-Pと診断された.

Table 1  進行期沖縄型神経原性筋萎縮症への質問票による調査結果(N = 16, 2020.6–12).
症例 年齢/性別
教育歴
遺伝子診断
発症年齢
診断告知時期
1 予想していた
2 混乱した
仕事の年数 現在の主症状
補助具
治療への期待
1 核酸医薬
2 再生医療(iPS)
1 64/男
大学卒
+,35 45歳,1 40
継続
近位筋優位の四肢運動麻痺
上肢補助具,電動車椅子
1*,HALと核酸医薬など治療への道筋を希望
2 69/男
高校卒
+,40 50歳,1 25 近位筋優位の四肢運動麻痺
電動車椅子
2*
3 64/女
高校卒
+,50 54歳,1 20 近位筋優位の四肢運動麻痺
嚥下障害,電動車椅子
1*,早期の開発
4 65/女
高校中退
+,30 49歳,1 20 筋痙攣,四肢運動麻痺
電動車椅子
1*,特異的治療を希望
5 69/男
高校卒
+,65 65歳,1 35 四肢運動麻痺,杖 1*,早期希望する
6 62/女
高校卒
+,43 47歳,2 ショックで眠れなかった 30 四肢運動麻痺,杖 1*
7 64/男
高校卒
+,50 50歳,1 40
継続
四肢運動麻痺,構音障害,
電動車椅子
回答なし
8 70/女
高校卒
+,50 50歳,1 10 嚥下障害,四肢麻痺
車椅子
2
9 51/男
高校卒
+,35 46歳,1 30 上肢の筋力低下 1
10 58/女
高校卒
+,43 43歳,2 ショックで眠れなかった 20 筋痙攣,四肢運動麻痺,杖 2,早期の希望
11 55/女
高校卒
+,40 48歳,1 20 筋痙攣,四肢運動麻痺,杖 2,特異的治療を期待
12 48/男
高校卒
+,38 38歳,2 仕事が出来なくなる不安 24 四肢運動麻痺,杖 回答なし
13 51/男
高校卒
+,30 40歳,1 20
継続
下肢の筋力低下 回答なし
14 55/女
高校卒
+,41 45歳,2 泣いて暮らし,子供への説明に悩んだ 14 四肢運動麻痺,杖 1,特異的治療の希望
15 58/男
専門校卒
+,40 45歳,2,ショックだった 32 四肢運動麻痺,杖 2,特異的治療の開発
16 57/男
大学卒
+,38 48歳,1 30 四肢運動麻痺,杖 2,早期希望する

略:+; 遺伝子診断陽性,HAL; hybrid assistive limb, iPS; induced pluripotent stem cell, *: HAL使用例

病名告知された告知時の平均年齢は47.7 ± 4.1歳,告知は本人のみが9名(56%)と過半数をしめていた.残りの7名では配偶者などが同席した.告知された時,予想していたか,混乱があったか否かに関しては,多くの患者は予想できていた(11/16名,69%).一方,症例14は,ショックで1~2か月眠れない日が続き,子供へどう説明するかに悩んだ.50歳代の3名では同様の混乱,40歳代の1名は仕事を継続できるか心配の記載がみられた.

現在の症状,合併症:筋肉の痙攣は4名に減少し,14名の四肢脱力に加え,60歳以上の8名において,構音障害1名,嚥下障害2名が記載され,近位筋優位の四肢運動麻痺は下肢優位に車椅子レベルの障害度を示した.合併症には,骨折の頻度がたかく,骨折5名,糖尿病・高脂血症・高血圧が各3名,脳梗塞1名であった.ロボットスーツHALの上肢単関節タイプの効果については,6名において2年間間歇的に継続し,4名で軽度改善,維持 1名,効果なしが1名であった.

治療への期待では,核酸医薬の開発に16名中7名(44%),iPS細胞の応用が6名あった.自由記載では,早期の開発が4名,特異的治療を希望するが4名にみられた.HAL使用で改善のあった症例1では,HALと核酸医薬併用の道筋ができることと書き込まれた.

考察

HMSN-P患者の進行期ではALS類似の重度四肢麻痺に陥る.ALSと比べて病名告知・受容に差があるのか,治療にどのような期待を持っているのかを知るために,進行期のHMSN-P患者16名に対し調査票による調査を実施した.その結果,多くは病名告知のさい予想されていたが,数名がショックで眠れない日をすごし,子供への遺伝性をどう説明するか悩み,治療への期待では,核酸医薬などの特異的治療の開発を選択された.以下,ALS,およびHMSN-Pと同様に常染色体優性遺伝を示すハンチントン病(Huntington’s disease,以下HDと略記)と今回の調査と比較し考察をすすめる.

2002年,湯浅ら‍1のALSでの病名告知と比較すると,ALSでは経過が早く,人工呼吸器の説明はダメージを与えない様に段階的にゆっくりの告知希望が記載されている.HMSN-Pでは付き添いなしの本人のみへの告知が過半数を占めていたが,これは本疾患が常染色体優性遺伝であり経過が緩徐であるため,ALSのような段階的告知の配慮が少なかったためと思われる.しかし,数名において,ショックで眠れない日をすごしたという記載がみられた.混乱した5名の告知年齢の平均は43.6歳と若年であり,本症は筋痙攣で初発し,四肢運動麻痺へと進展するが,発症から告知時年齢が比較的近く(同時期2名,4年2名,5年1名),仕事に従事されており,病初期で四肢麻痺が軽度であるなど,HMSN-Pかどうか,本人の認識が十分ではなかったことに起因したと思われる.ALSの場合は,約6割の患者が病名を理解できていないと報告され,病名告知後の面談には,家族以外に支えになる看護師・ケースワーカーなどの附き添いが100%近く必要と記載されている‍1.他方,HMSN-Pの場合,進行が緩徐なため多くは立ち直れている状況と推察されるものの,長期的には重度四肢麻痺に陥る.従って,本人だけに一度に告知するやり方のままで良いのかが問題になるが,患者の属性を踏まえ,時間をかけて家族等も交えて段階的な告知と受容を進める過程が望ましいと考えられる.

次に,HDの場合,狭間ら‍9の15名の聞き取り調査では,本人だけの告知の例はなく,認知症様症状のため配偶者などと一緒が多く,未発症近親者への配慮などの問題が残されている.HMSN-Pでは,遺伝性である点を子供へどう説明するかで悩みがみられたが,子供の成長とともに話すと書き込まれていた.「希の会」の集いでは,明るい表情もみられるが,進行終末期には,呼吸障害・重度四肢麻痺に進行し,最大50%遺伝する神経難病であることへの不安は払拭できない.しかしながら,福祉・終末期医療の充実,加えて核酸医薬を含む特異的治療の開発によって不安が軽減していくことが期待される.

「治療への期待」についての質問はやや難しかったようで,患者の教育歴などの属性の差や核酸医薬の説明が十分か否かなども影響したと思われた.ほとんどが高校卒の教育歴以上であったが,3名では説明の機会が不十分なためか無回答であった.核酸医薬とiPS細胞をほぼ同数選択し,特異的治療法への期待を書き込まれ,治療への期待への方向性を示されたと考えられる.中島‍10は指定難病SMAなど8疾患への小型ロボット単関節型HALによる運動療法と抗体医薬や核酸医薬などの特異的治療法との複合療法によりQOLを維持できると言及している.HAL使用の症例1においても,同様にHALと核酸医薬併用療法への期待を書き込まれた.

この調査の限界として,「希の会」所属の進行期患者に限定していた点において,HMSN-P全体の患者の意見を反映しているか疑問があり,今後,40歳以下の発症者や県外の患者など含めた幅広い調査が待たれる.

以上,進行期HMSN-P患者16例の調査票による調査において,11名(69%)は病名を告知された際に診断を予想されていたが,数名で混乱を経験し,ショックで眠れない日をすごし,子供への遺伝性をどう説明するか悩んだ.治療については,核酸医薬などの特異的治療の開発に期待するという回答がみられた.

Acknowledgments

謝辞:本研究は,松村剛代表:筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究班・分担研究において実施した.調査にご協力いただいた,患者会「希の会」代表 我如古盛健氏にお礼申し上げます.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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