Rinsho Shinkeigaku
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Brief Clinical Notes
A case of triple A syndrome with c.463C>T mutation in the AAAS gene
Hiroaki HirosawaHirofumi KonishiTakamasa NukuiTomohiro HayashiNobuhiro DouguYuji Nakatsuji
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2022 Volume 62 Issue 9 Pages 740-743

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要旨

症例は47歳女性である.幼児期から進行する四肢筋力低下の精査目的に入院した.食道アカラシアに対して手術歴がある.入院時,無涙症に加え,神経学的異常所見として腱反射亢進と四肢の筋萎縮,四肢遠位優位の感覚低下,自律神経障害を認めた.副腎皮質機能不全を認めないが,AAAS遺伝子にc.463C>T変異(p.R155C)を認め,triple A(Allgrove)症候群と診断した.副腎皮質機能不全を認めないtriple A症候群の成人例はまれである.副腎皮質機能不全を欠く症例でもtriple A症候群は否定しきれず,臨床経過次第では遺伝子検査を検討すべきである.

Abstract

A 47-year-old woman was admitted to our hospital for scrutiny of limb weakness and orthostatic hypotension that had progressed from childhood. She had been treated for alacrima and esophageal achalasia from childhood. On admission, she had hyperreflexia of upper and lower extremities, distal predominant muscle atrophy in the lower extremities, decreased sensation of the distal extremities, and autonomic neuropathy. Her blood test results ruled out adrenal insufficiency, but Schirmer’s test was positive. Given the lacrimation symptoms, esophageal achalasia, and neuropathy, the patient was diagnosed with triple A syndrome in whom a c.463C>T mutation (p.R155C) was found in the AAAS gene by genetic testing. Triple A syndrome is an autosomal recessive inherited disease caused by mutations in the AAAS gene. Genetic testing of the AAAS gene should be considered in patients with one or two of main symptoms of triple A syndrome.

はじめに

Triple A(Allgrove)症候群はAAAS遺伝子変異により発症する常染色体劣性遺伝疾患である1.染色体12q13上にあるAAAS遺伝子はalacrima-achalasia-adrenal insufficiency neurologic disorder(ALADIN)蛋白をコードする遺伝子である2.本邦で遺伝子検査にて変異を認めtriple A症候群と診断された症例は8例にとどまり,病態については未解明な点が多い34.またtriple A症候群は多様な神経障害を合併することが多い5.今回,我々は幼少期から食道アカラシア,無涙症に加え多様な神経障害を有し,副腎皮質機能不全を有さないが,遺伝子検査にてAAAS遺伝子にc.463C>T変異(p.R155C)をホモ接合性に認め,triple A症候群の1例を経験したので報告する.

症例

症例:47歳,女性

主訴:歩行障害

既往歴:食道アカラシアに対して24歳時にToupet手術,42歳時に経口内視鏡的筋層切除術.低血糖発作の既往歴な‍し.

家族歴:両親は従兄弟婚.兄は他院でtriple A症候群疑いとして経過観察されているが,本人の希望により遺伝子検査は未施行である.

現病歴:1978年(6歳),嚥下困難感と眼の乾燥を自覚し,徐々に涙が出なくなった.10歳代に起立時にふらつきを,20歳代に歩行困難感を自覚し,杖歩行となった.嚥下困難感の精査で食道アカラシアを指摘され,1996年(24歳)にToupet手術,2016年(42歳)に経口内視鏡的筋層切除術を施行されたが症状の改善には至らなかった.その後嚥下障害のため食形態はペースト食となった.2019年(47歳)には自力歩行が困難になり,車いすで移動するようになった.2019年9月当科に精査入院した.

入院時現症:身長158.6 cm,体重49.75 kg.バイタルサインに異常はなかった.神経学的所見は意識清明でMini Mental State Examination(MMSE)は30点(30点満点)であった.脳神経領域では構音障害,嚥下障害,舌萎縮を認めた.徒手筋力検査では頸部筋で4−,上肢近位筋両側4,上肢遠位筋両側3+,下肢近位筋両側4,下肢遠位筋両側3−と遠位筋優位に筋力低下と筋萎縮を認めた(Fig. 1A).握力は右5 kg,左3 kgであった.アキレス腱反射が両側で消失,上腕二頭筋反射,腕橈骨筋反射,膝蓋腱反射が両側で亢進していた.またBabinski徴候・Chaddock徴候は陰性だが,Hoffmann徴候・Trömner徴候は両側で陽性だった.下肢痙性を認めた.感覚系では四肢遠位優位に表在感覚・振動覚・位置覚の低下を認めた.指鼻試験や膝踵試験は正常であった.排尿困難に加え,起立負荷試験では安静時血圧124/83 mmHg・脈拍78/分であったが起立直後に血圧100/70 mmHg・脈拍84/分と血圧低下を認めた.

Fig. 1 Clinical picture (A) and result of hormone stimulation test (B).

A) Atrophy of both hand muscles. B) Changes in cortisol after intravenous ACTH (250 μg) injection.

検査所見:一般血液検査では明らかな異常を認めなかった.CK 44 IU/lで,甲状腺機能は正常であった.ACTHは38.5 pg/ml(正常7.2~63.3 pg/ml),空腹時コルチゾールは14.6 μg/dl(正常4.5~21.1 μg/dl)であった.抗核抗体は40倍以下,抗ds-DNA抗体,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体,MPO-ANCA,PR3-ANCAはいずれも陰性であった.髄液検査は無色透明,細胞数0/mm3,蛋白48 mg/dl,糖63 mg/dl(同時血糖101 mg/dl),ミエリン塩基性蛋白は正常範囲内,オリゴクローナルバンドは陰性,IgG indexは0.42であった.呼吸機能検査では,%VC 85.2%,FEV1% 76.6%と肺活量低下はなかった.心エコー検査に異常はなかった.心電図R-R間隔の変動係数(CV R-R)は安静時で1.52%と低値であった.右上下肢で施行した針筋電図では,僧帽筋で安静時に線維自発電位と陽性鋭波がみられ,僧帽筋・上腕二頭筋・大腿四頭筋で運動単位電位は高振幅を呈し,神経原性変化を認めた.神経伝導検査(nerve conduction study)では,運動神経系で複合筋活動電位の低下を認め,両側腓骨神経と脛骨神経は導出不能であった.また感覚神経系では,複合感覚神経電位の低下を認め,腓腹神経は導出不能であった(Table 1).

Table 1  Nerve Conduction Study.
Nerve MCS SCS
Distal motor latency (ms) CMAP amplitude (mV) Conduction velocity (m/s) F-Frequency (%) SNAP amplitude (μV) Conduction velocity (m/s)
Rt. Median 4 (<4.2) 3.3 (>3.5) 43.5 (>38) 50 Rt. Median 2.5 (>19) 40.6 (>44)
Rt. Ulnar 2.9 (<3.4) 1.7 (>2.8) 41.8 (>49) 0 Rt. Ulnar 5.8 (>18) 56.6 (>44)
Rt. Tibial N.E. N.E. N.E. 0 Rt. Sural N.E. N.E.
Rt. Peroneal N.E. N.E. N.E. 0

MCS: motor conduction study, SCS: sensory conduction study, CMAP: compound muscle action potential, SNAP: sensory nerve action potential, N.E.: not evoked. Rt: right, ( ) indicates normal range.

Triple A症候群が鑑別に挙がり,施行したシルマー試験は右3 mm,左3 mmと陽性だったが,迅速ACTH負荷試験は異常を認めなかった(Fig. 1B).本人の同意をえて遺伝子診断をおこなった.目的遺伝子領域をハイブリダイゼーションキャプチャー法で濃縮して,illumina社の次世代シークエンサーNextSeq500を用いて塩基配列の解析をおこなった.その結果,AAAS遺伝子にc.463C>T変異(p.R155C)をホモ接合性に認め,triple A症候群と診断するに至った.バリアントのdepthは959であった.次世代シークエンサーでリード数が20に満たない箇所はサンガー法で補完するが,本例のバリアントの検出グレードは特異性が100%であることがすでに確認できており未施行である.

考察

Triple A症候群は1978年にAllgroveらによってはじめて報告された,食道アカラシア,無涙症,副腎皮質機能不全を3徴とする常染色体劣性遺伝疾患である1.ALADIN蛋白をコードする染色体12q13に存在するAAAS遺伝子の変異が原因とされる.本邦で遺伝子検査にて確定したtriple A症候群の報告例は8例と非常に稀である34.Triple A症候群は神経障害を合併することが多く,中枢神経・末梢神経・自律神経障害などの報告例がある5.Triple A症候群は鑑別として筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis,以下ALSと略記)が挙がる場合がある.本例でも上位運動ニューロン徴候・下位運動ニューロン徴候を示唆する所見を認め,当初ALSも鑑別に挙がったが,経過や感覚障害の合併は非典型的であった.本例では副腎皮質機能不全を欠くが,食道アカラシア,無涙症に加え,遺伝子検査にてAAAS遺伝子にc.463C>T変異を認め,triple A症候群と診断するに至った.家系内で本例以外の遺伝子検査は未施行だが,両親が従兄弟婚であることや検査結果からもホモ接合性であると判断した.また過去のtriple A症候群の腓腹神経生検例では軸索変性や神経線維の減少を認めたとする報告例がある6.本例でも神経伝導検査で軸索障害を示唆する所見を認め,triple A症候群との関連が疑われる.

Triple A症候群に伴う副腎皮質機能不全は出生時には認めないが,思春期頃までに発現することが多く,85%に合併するとされる7.また発症年齢が遅い症例では副腎皮質機能不全を欠く場合もある8.Triple A症候群は未だに未解明な点が多いが,遺伝子変異の変異部位により表現型が異なる可能性がある.AAAS遺伝子の変異のうち,splice site変異やframeshift変異,nonsense変異を認める報告例は多い.一方でmissense変異例では発症年齢が遅いとされる6.我々が調べた限り,本例とは関連はないがAAAS遺伝子にc.463C>T変異を認めた既報告例は1例ある.本例と同様に副腎皮質機能不全を欠いており,遺伝子変異部位によって表現型が異なる可能性が示唆される4.副腎皮質機能不全を欠く症例でもtriple A症候群は否定しきれず,臨床経過次第ではtriple A症候群を疑い遺伝子検査を検討するべきである.

Notes

本報告の要旨は,第160回日本神経学会東海・北陸地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2022 Japanese Society of Neurology

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