Rinsho Shinkeigaku
Online ISSN : 1882-0654
Print ISSN : 0009-918X
ISSN-L : 0009-918X
Case Reports
Delayed white matter lesion after mechanical thrombectomy for middle cerebral artery occlusion with Libman-Sacks endocarditis
Akihito KutsunaJunya AokiHiroto KoderaYasuhiro NishiyamaToshinari NakaneKazumi Kimura
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 62 Issue 9 Pages 716-721

Details
要旨

症例は59歳女性.右片麻痺を主訴に近医搬送され,MRIで左中大脳動脈M2閉塞を伴う脳梗塞を認めた.アルテプラーゼ投与後に当院へ転送され,機械的血栓回収療法で再開通が得られた.Libman-Sacks心内膜炎による脳塞栓症と診断し,後遺症なく退院した.10ヶ月後のMRIで左深部白質に白質病変を認め,認知機能低下を伴っていた.MR spectroscopyでcholine/creatineの上昇,N-acetylaspartate/creatineの低下,Lactateの上昇を認めた.血栓回収療法が奏効し遅発性に高次脳機能障害を呈した際は遅発性白質病変を考慮する必要がある.

Abstract

A 59-year-old woman presented with right hemiparesis and was transported from outside hospital. MRI revealed acute infarction and the left middle cerebral artery M2 occlusion. Intravenous infusion of recombinant tissue-type plasminogen activator, and mechanical thrombectomy (MT) were performed. The cause of cerebral infarction was diagnosed as Libman-Sacks endocarditis. She discharged without sequelae. After 10 months later, she presented with mild cognitive decline, and MRI showed new white matter lesion in left deep white matter. In magnetic resonance spectroscopy, the lesion showed an increased rate of choline/creatine, and a decreased rate of N-acetylaspartate/creatine, elevated lactate peak. When new higher brain dysfunction presented after recanalization by MT, it might be related to the delayed white matter lesion.

はじめに

脳主幹動脈閉塞を伴う脳梗塞急性期に対する機械的血栓回収療法(mechanical thrombectomy,以下MTと略記)の有効性が示され,広く普及している.一方で,最近,術後慢性期に白質病変を来した症例の報告が複数例示されている1)~3.今回我々の施設で経験した,血栓溶解療法とMTによる再開通後に遅発性白質病変を呈した症例を報告する.

症例

症例:59歳,女性

主訴:運動性失語,右片麻痺

既往歴:シェーグレン症候群,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus,以下SLEと略記),混合性結合組織病,橋本病,非定型抗酸菌関節炎,白内障.

内服:プレドニン10 mg,タクロリムス3 mg,チラーヂン75 μg.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2020年2月某日9時50分に構音障害,右片麻痺が出現し,前医へ救急搬送された.頭部MRIで左放線冠に高信号域,MRAで左中大脳動脈M2閉塞を認め,脳梗塞急性期と診断され,14時5分にアルテプラーゼ2,190 × 104単位を投与した上で,MT施行目的に当院へ転院搬送となった.

入院時現症:身長:153.2 cm,体重:63.0 kg,血圧:177/109 mmHg,脈拍:86/分,整,体温:36.4°C.身体所見に異常所見はなかった.神経学的所見では,意識はJCS 2で,運動性失語を認めた.右上下肢筋力はMMT 4/5であり,右半身感覚障害を認め,National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア8点であった.

画像検査:頭部MRIのdiffusion weighted image(DWI)で左放線冠,左前頭葉皮質,左島皮質に高信号域を認め,DWI-ASPECTS 8点であった.MRAでは左中大脳動脈M2閉塞を認めた(Fig. 1).

Fig. 1 Neuroradiological findings on admission.

A, B) DWI reveals the high intensity lesion in the left insular cortex, frontal lobe, and corona radiata. C) MRA demonstrates the left middle cerebral artery M2 occlusion. D) Left internal carotid angiography after intravenous thrombolysis shows the left middle cerebral artery M2 occlusion (arrow) before mechanical thrombectomy. E) The middle cerebral artery is recanalized after the first pass with a direct first-pass aspiration technique.

来院後経過:アルテプラーゼ投与後であったが,皮質症状を認めたため,MTを施行した.脳血管撮影で左M2閉塞と左前大脳動脈から軟髄膜吻合を介した側副血行を認めた.JET7(メディコスヒラタ,大阪)を閉塞病変へ誘導し,吸引ポンプを用いて血栓回収を施行した.白色血栓を回収し,発症後7時間38分でThrombolysis in Cerebral Infarction grade IIIの再開通が得られた(Fig. 1).

術後経過:術翌日の症状は構音障害のみであった.頭部MRIでDWI高信号は左中心前回,左島皮質に限局していた(Fig. 2).入院中,心房細動や深部静脈血栓,右左シャントは認めなかったが,経食道心エコーで僧帽弁後尖に可動性のない5.9 mm × 9.9 mmの疣贅を認めた.発熱はなく,血液培養3セットは陰性,髄液所見は圧18 mmH2O,細胞数13/μl(単核球69%,多形核球31%),総蛋白56 mg/dlであった.MRAでは狭窄は認めず,造影MRIでは血管壁の造影効果は認めなかった.抗カルジオリピン抗体,抗βGPI抗体,ループスアンチコアグラントは陰性であった.感染性心内膜炎,血管炎,抗リン脂質抗体症候群は否定的と考えた.経過5年のSLEがあり,SLE Disease Activity Index(SLEDAI)は脳梗塞と心膜炎を満たした10点で活動性が高いと判断した.以上より,Libman-Sacks心内膜炎による脳塞栓症と診断しワルファリンによる再発予防を開始した.運動症状が改善傾向であるため,エダラボンは術後5日目で投与終了とした.術後18日にNIHSSスコア0点,modified Rankin Scale 0となり自宅へ退院した.退院前のMini Mental State Examination(MMSE)は30点であった.

Fig. 2 Brain MRI the after the procedure.

A, B) DWI reveals the high intensity lesion in the left insular cortex, and precentral gyrus. C, D) FLAIR reveals the high intensity the same lesion.

退院後は仕事に復帰し経過は良好であったが,発症後10ヶ月,定期受診の際の頭部MRIで左中大脳動脈領域の白質にFLAIR画像で新規の高信号域,T1強調画像で同部位の低信号域を認めた.同部位の中心部はDWIで高信号,Apparent diffusion coefficient(ADC)mapで低信号であった(Fig. 3).MRAでは左中大脳動脈の描出は良好であった.高次脳機能ではMMSEは28点(場所の見当識−1,計算−1),The Montoreal Cognitive Assessment(MoCA-J)は25点(計算−1,言語−1,遅延再生−3)であり,軽度の認知機能低下を認めた.その他の症状はなかった.

Fig. 3 Brain MRI ten months later.

White matter lesion appears in left middle cerebral artery area. A) In the same lesion, T1WI reveals the low intensity. B) T2WI reveals the high intensity. C) FLAIR reveals the high intensity. D) In part of the same lesion, apparent diffusion coefficient decrease. E) In the same lesion, DWI reveals the high intensity. F) T2* does not reveal low intensity.

頭部造影MRIでは病変は造影されず,SPECTでは病変部位で集積低下を認めた.髄液所見は圧15 mmH2O,細胞数1/‍μl,総蛋白34 mg/dl,ミエリン塩基性蛋白40 pg/ml未満であったが,IgG indexは0.70と軽度に上昇していた.脳波は正常所見であった.経食道心エコーでは疣贅は8.2 mm × 11.9 mmに増大し,新規に大動脈弁と三尖弁の肥厚を認めた.血液検査ではPT-INR 2.30,D-dimer 0.5 μg/mlであり,凝固亢進はなかった.甲状腺機能は正常で,元々指摘されていた抗ds-DNA抗体,抗U1RNP抗体,抗TPO抗体,抗SS-A抗体は陽性であったが増悪はなく,その他の自己抗体は陰性であった.低補体血症はなく,SLEDAIは心膜炎のみの2点であったが,疣贅の増大と認知機能低下の出現からSLEの活動性が高いと判断し,膠原病内科でシクロホスファミド,ステロイドパルスで加療となった.MR spectroscopy(MRS)ではcholine(Cho)/creatine(Cr)の上昇,N-acetylaspartate(NAA)/Crの低下,Lactate(Lac)の上昇を認めた.特にADC map低下を伴うDWI高信号の領域ではCho/Crの上昇,NAA/Crの低下の程度が強かった.

Fig. 4 Magnetic resonance spectroscopy.

A) The normal lesion shows. B) The white matter lesion shows an increased rate of choline/creatine, and a decreased rate of N-acetylaspartate/creatine. C) Among the white matter lesion, decreased apparent diffusion coefficient with DWI hyperintensity shows a tendency to be stronger findings. B, C) The white matter lesion shows an elevated lactate peak.

免疫強化療法導入後の発症19ヶ月後時点で,MMSE 28点,MoCA-J 25点と認知機能に変化はなく,白質病変も残存している.

考察

本症例は急性期中大脳動脈閉塞に対してMTを施行し再開通を得たが,遅発性に軽度の認知機能低下と白質病変を呈した1例である.白質病変は,T1低信号,T2高信号であり,一部にはADC低下を伴うDWI高信号の所見があり,長期間遷延していた.MRSではCho/Crの上昇,NAA/Crの低下,Lacの上昇を認めた.遅発性白質病変の形成に関する機序として,1)一過性灌流障害と,2)SLEとMTによる血管内皮障害,3)背景因子として免疫抑制剤の内服に関連する血液脳関門の破綻や血管透過性亢進を挙げ,これらについて考察したい.

本症例のMRI所見の経過の特徴として,MT施行前に放線冠に一過性のDWI高信号域を認めたことが挙げられる.これは,穿通枝領域の深部白質に一過性の虚血が存在したことを示している.そして数ヶ月経過した慢性期に同側の遅発性白質病変を認めた.過去のMT施行後の報告1)~3では発症1~2ヶ月に遅発性白質病変を認めており,遅発性低酸素白質脳症(delayed post-hypoxic leukoencephalopathy,以下DPHLと略記)の関連が推測されている.DPHLは低酸素血症による意識障害から一旦回復した数日から数週間後に高次脳機能障害や精神症状などの神経症状が出現し,大脳半球に広範な白質病変を呈する疾患である4)~5.病態の機序として,灰白質主体の病変となる重度低酸素脳症とは異なり,中等度の一過性灌流低下や低酸素脳症が,大脳白質でミエリン産生に関与するオリゴデンドロサイトのアポトーシスの遅延をもたらすとされる.臨床経過は2相性をたどり,病変の主体は白質と報告されている5.MRSの検討ではDPHLの白質病変は脱髄が主体とする報告6や,Cho/Crの上昇,NAA/Crの低下,Lacの上昇を認めた報告7もある.Cho/Crの上昇とNAA/Crの低下は脱髄を表し,Lacの上昇は低酸素によるエネルギー低下と脱髄によるエネルギー需要の増加の結果生じた解糖と乳酸産生を表していると報告されている7.本症例は塞栓性機序による急性M2閉塞であったが,側副血行が発達しており,7時間38分で再開通が得られている点,遅発性白質病変を呈した点,MRS所見が脱髄と矛盾しない点は,中等度の一過性灌流低下により脱髄病変が形成されたとの理論を指示する所見と考える.

本症例は脳梗塞発症から遅発性白質病変が出現するまで,抗凝固療法が適切に管理されていたにもかかわらずLibman-Sacks心内膜炎は増悪しており,SLEの活動性が高かったと考えられた.SLEでは,形質細胞様樹状細胞から産生されるinterferon (IFN)-αが内皮細胞や血管内皮前駆細胞のアポトーシスを誘導し,血管内皮前駆細胞や末梢血内皮細胞から成熟内皮細胞への分化を抑制することから,血管傷害の修復を阻害すると考えられており8,また,疾患活動性とIFN-αは相関する9と報告されている.また,MTによる血管内皮障害の動物実験の検討では,デバイスによる差はあるが,いずれも大小なりとも血管内皮障害を呈すると報告されている10.よって,本症例ではSLEの活動性が高く,MT施行後であることから,血管内皮障害が存在しており,白質病変の形成に寄与したと考えられる.

本症例はSLEに対してタクロリムスを長期内服していた.タクロリムスの副作用として血管内皮機能障害11や血液脳関門の破綻12が報告されており,タクロリムス脳症は血管透過性亢進による脳浮腫や,神経細胞に対する神経毒性が機序とされている.タクロリムスによるこれらの機序が再灌流による遅発性障害の発生に寄与した可能性も考慮されるであろう.以上より,本症例はタクロリムスの長期内服による血管透過性亢進が背景にあり,中等度の一過性灌流低下により,白質病変が遅発性に生じ,その主体は脱髄,及び,低酸素と脱髄による解糖と乳酸産生がMRSで示唆された.

脳主幹動脈閉塞を伴う脳梗塞急性期に対するMTの有効性が示され,広く普及している.急性期におけるDWIの信号の急激な変化と再燃の報告はある1314が,術後慢性期の白質病変についての報告は少なく,今回の報告はMTにより有効再開通が得られても,遅発性に症候性の白質病変を呈する可能性が示唆されたため,術後慢性期においても経過観察が重要と考えられた.今後の症例の蓄積が進み,病態の機序が解明されることが期待される.

結語

中大脳動脈閉塞に対するMTで再開通後に遅発性白質病変を認めた症例を報告した.有効再開通が得られたペナンブラにおいて,遅発性障害を呈する可能性があるため,経過観察が重要であると考えられた.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2022 Japanese Society of Neurology

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top