Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Sibling cases of four and a half LIM domains 1 (FHL1) myopathy who developed respiratory failure without apparent limb weakness
Kenta AoharaHiroko KimuraAkitoshi TakedaYasuhiro IzumiyaIchizo NishinoYoshiaki Itoh
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2022 Volume 62 Issue 9 Pages 726-731

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要旨

60歳男性.主訴は呼吸困難.30歳代で心拡大,42歳時より心房細動,心不全を認め,弟とともにfour and a half LIM domains 1FHL1)遺伝子変異を認めた.60歳になり食思不振と呼吸困難を自覚,心不全の増悪が疑われ循環器内科へ入院した.血液ガスにて呼吸性アシドーシスを認め,人工呼吸器を装着した.筋力は肩甲帯筋でのみ低下し,肘,足首,脊椎に関節拘縮を認めた.Emery–Dreifuss型筋ジストロフィー様のミオパチーにより筋力低下の自覚なく呼吸不全を呈した兄弟例と診断し,兄は気管切開を施行,日中は人工呼吸器を離脱するようになり退院した.FHL1変異では主徴として呼吸筋障害をきたすことがあり,心筋症による心不全と鑑別する必要がある.

Abstract

A 60-year-old man developed dyspnea without apparent limb weakness. He had cardiomyopathy in his 30s and was treated for chronic heart failure since 42. He was diagnosed as having four and a half LIM domains 1 (FHL1) mutation at 53 following the same diagnosis of his younger brother. He was first admitted to the cardiology department for possible worsening of chronic cardiac failure. Blood gas analysis showing respiratory acidosis prompted his treatment with a respirator. Neurological examination revealed that he had mild weakness limited to the shoulder girdle muscles and contracture at jaw, spine, elbows and ankles. Skeletal muscle CT showed truncal atrophy. He, as well as his younger brother, was diagnosed with FHL1 myopathy resulting in ventilation failure and was discharged after successful weaning from the respirator in the daytime. The present sibling cases are the first with FHL1 mutation to develop respiratory failure without limb weakness and suggest that FHL1 myopathy as a differentially diagnosis of hereditary myopathies with early respiratory failure.

はじめに

Four and a half LIM domains 1FHL1)遺伝子は,LIMドメインを繰り返し含有するFHL1蛋白をコードし,骨格筋や心筋の構造や機能を調節する1FHL1遺伝子変異は多彩な神経筋疾患を引き起こすことが知られており,臨床病型は還元小体ミオパチー(reducing body myopathy,以下RBMと略記),X連鎖性姿勢筋萎縮症(X-linked myopathy with postural muscle atrophy,以下XMPMAと略記),肩甲腓骨ミオパチー(scapuloperoneal myopathy,以下SPMと略記),Emery–Dreifuss型筋ジストロフィー(Emery–Dreifuss muscular dystrophy,以下EDMDと略記),強直脊椎症候群(rigid spine syndrome,以下RSSと略記)などに分類されるが,いずれも最近の報告で症例数がまだ少ないため十分な検討がなされていない2

今回我々は,心不全にて発症し,類症を有する弟の診断を契機にFHL1遺伝子変異がみつかり,四肢の筋力低下の自覚がないまま呼吸筋障害をきたした兄弟例を経験した.

症例

症例:60歳男性

主訴:呼吸困難

既往歴:なし.喫煙歴なし.

家族歴(Fig. 1):弟(55歳)は乳児,幼少期の発達の遅れはなかった.中学,高校での運動はやや苦手な程度で,30歳代までスキーも可能であった.学業は得意な方で大学卒業後にデスクワークの職業についている.40歳頃から心房細動,心筋症を認め,50歳時に心不全,呼吸困難,嚥下障害を認め某市民病院循環器内科に入院.心エコーでは左室拡大なし,心室中隔径8 mm,左室後壁径9 mmと壁肥厚なく,描出不良ではあるが心尖部壁肥大が疑われる心筋症の所見,左室駆出率は70.5%と正常であった.心疾患では説明しがたい拘束性呼吸障害,二酸化炭素貯留を認め神経内科転科,筋力低下は明らかではなかったが頸部の前屈制限,脊柱起立筋に強い萎縮を認めた.筋電図にて筋原性変化を認め,兄(本症例)に不整脈,前屈障害があったことから遺伝性ミオパチーが疑われた.上腕二頭筋より筋生検を施行,中等度以上の筋線維大小不同を認め,壊死再生線維なし,リンパ球浸潤なし,type 2 atrophyの所見であった.特殊染色は未施行.遺伝子検査にてFHL1 c.764G>C (p.Cys255Ser)のヘミ接合を認め,兄(本症例)に同様な変異,母(85歳)にヘテロ接合性の変異を認めた.母に心不全や呼吸不全はなかった.

Fig. 1 Family tree. The case (arrow) has a brother who also has four and a half LIM domains 1 (FHL1) mutation.

Their mother, a heterozygous carrier of FHL1 mutation (dotted circle), does not show similar neurological and/or cardiac symptoms.

現病歴:幼少期より運動は苦手で,徒競走はいつも最後であった.また足関節,脊柱の可動域が狭く,しゃがみ込みや前屈ができなかったが,四肢,体幹の筋力低下の自覚はなく,生活に支障は感じなかった.30歳代の健診で心拡大を,その後に不整脈を指摘されたが精査は受けなかった.42歳時に心原性脳塞栓症をきたし,その際に心房細動,僧帽弁閉鎖不全症,心不全を認め,抗凝固薬が開始された.50歳時よりカテーテルアブレーションを3回施行した.54歳時に三尖弁閉鎖不全症を認めた.59歳時に心房細動,僧帽弁・三尖弁閉鎖不全に対しMaze手術および左心耳閉鎖術,僧帽弁人工弁置換術および三尖弁輪縫縮を施行した.その後,完全房室ブロックとなりペースメーカー埋込みを行った.この頃から水分摂取時のむせ,誤嚥性肺炎を繰り返し,嚥下内視鏡検査で嚥下障害を認めた.60歳時にADLは自立しており四肢筋力低下の自覚はなかったが,呼吸困難と食思不振,傾眠が出現.数日で症状は急速に増悪し,当院循環器内科に入院した.入院後,心不全急性増悪の疑いで非侵襲的陽圧換気下にドブタミンの投与を開始し,合併する誤嚥性肺炎に抗生物質を投与したが動脈血液ガスにて二酸化炭素貯留,呼吸性アシドーシスの改善に乏しく気管内挿管を施行し人工呼吸器を装着,呼吸筋麻痺が疑われ当科に紹介となった.

一般身体所見(循環器内科入院時):身長162 cm,体重38 kg,BMI 14.5,血圧77/46 mmHg,脈拍60/分,呼吸数24回/分,呼吸補助筋の使用あり,SPO2 76%(室内気),体温36.4°C,頸静脈の怒張あり,心音は純,I音,II音正常,III音なし,肺野は清,右背側含め明らかなラ音を聴取しなかった.四肢に浮腫はなかった.肘関節・脊柱・足関節の拘縮があった.

神経学的所見(入院22日目,脳神経内科受診時):意識清明,右利き,眼球運動制限はなかった.挿管中のため嚥下機能,構音障害は評価できなかった.肩周囲と前脛骨部の筋萎縮があったが筋肥大は認めなかった.MMTは胸鎖乳突筋(4/4),頸部屈曲(3),三角筋(4/4)と上肢近位筋の筋力低下を認めたが,その他の上肢,傍脊柱筋を除く体幹,下肢に筋力低下は認めなかった.上腕三頭筋腱反射と膝蓋腱反射は減弱し,その他の腱反射は正常,病的反射はなかった.明らかな感覚障害,四肢運動失調はなかった.

検査所見:血液検査では尿素窒素84 mg/dl,クレアチニン3.01 mg/dl,BNP 863.8 pg/ml(正常値 <18.4)と著明な上昇を認めた.動脈血液ガス検査所見では鼻カニュラ3 l/分酸素投与下でpH 7.192,PaCO2 107.0 Torr,HCO3 39.6 mEq/lと著明な呼吸性アシドーシスを認めた.胸部単純X線検査所見では肺浸潤影を認めず,肋横隔膜角は鋭で心拡大も認めなかった.骨格筋CT(Fig. 2)では傍脊柱筋(Fig. 2A)や外側広筋,大内転筋,大腿二頭筋長頭(Fig. 2B),腓腹筋内側頭(Fig. 2C)に左右差を伴う脂肪変性を認めた.加療後の経胸壁心エコーでは,左室拡張末期径50 mm,左室収縮末期径37 mm,心室中隔径9 mm,左室後壁径10 mm,左房径53 mm,右房径40 mm,左室駆出率45%,下大静脈(呼気)12 mm,(吸気)7 mm,僧帽弁・三尖弁機能良好.胸部CTでは,右肺下葉背側を中心に浸潤影,すりガラス影,網状影あり.横隔膜挙上や横隔膜脚の萎縮は認めなかった.

Fig. 2 Skeletal muscle CT.

The skeletal muscle CT images show atrophy with fatty degeneration of paraspinal muscles (A), vastus lateralis, adductor magnus muscles, long head of the biceps femoris muscle (B) and medial head of gastrocnemius muscle (C) with striking laterality.

経過(Fig. 3):心不全を示唆する所見に乏しい一方,著明な呼吸不全をきたしていたことから,ミオパチーによる呼吸筋障害をきたしたと考えた.高度脱水に対しては補液,血圧低下に対してはノルアドレナリン,ドブタミンの使用による循環管理を開始した.その後,循環動態は改善し循環作動薬は終了したが,呼吸筋障害は残存したため入院20日目に気管切開を施行した.その後,人工呼吸器離脱をすすめ入院48日目から日中は人工呼吸器を離脱した.嚥下リハビリテーションを行ったが,嚥下内視鏡,嚥下造影で嚥下障害の残存を認め胃瘻を造設した.ADLは当初廃用の影響を認めたが,リハビリテーションにて見守り下で独歩可能なまでに回復した.四肢近位筋や体幹の筋力低下の進行は認めず入院後72日目に退院した.

Fig. 3 Clinical course.

After intubation, mechanical ventilation was started. Respiratory failure was successfully treated with antibiotics for aspiration pneumonia and vasopressors. After tracheostomy, daytime weaning of respirator was successfully introduced. Amino­benzyl­penicillin (ABPC), sulbactam (SBT), meropenem (MEPM), vancomycin (VCM), tazobactam (TAZ), piperacillin (PIPC).

考察

本症例(兄)は心不全にて発症し,四肢の筋力低下の自覚がないまま呼吸筋麻痺をきたしたFHL1ミオパチーの症例で,5歳年下の弟は兄とほぼ同様な臨床経過をたどった.

本症例は呼吸不全にて入院となり,当初心不全の増悪が疑われた.しかし身体所見にて喘鳴は聴取されず,肺うっ血や心機能の低下も進行していなかったことから呼吸筋麻痺が疑われた.本症例のように四肢の筋力低下がないか軽度であるにもかかわらず呼吸筋麻痺をきたす代表的な神経筋疾患として,筋萎縮性側索硬化症,ポンぺ病,筋強直性ジストロフィー1型,肢帯型筋ジストロフィー,筋原線維性ミオパチーがあげられ,見落とされたり診断が遅れたりしやすいため注意する必要がある3.Naddafらは成人発症で初期主徴が呼吸不全であった遺伝性ミオパチー22例を解析し,ポンぺ病,筋原線維性ミオパチー,マルチミニコア病,筋強直性ジストロフィー1型の頻度が高いと報告した4.特に最近は,TTN遺伝子の変異によるhereditary myopathy with early respiratory failure4)~6および筋原線維性ミオパチーの一因であるデスミン遺伝子の変異によるデスミノパチーの症例47が,呼吸不全を初期主徴とする遺伝性ミオパチーとして新たに同定され世界的に報告されてきている.本例は兄弟ともに関節症状,心筋症が先行しておりFHL1遺伝子異常の診断もついたため上記の疾患との鑑別に苦慮することはなかったが,骨格筋の筋力低下として呼吸筋麻痺が四肢の筋力低下に先行する特徴的な病態をとりうる疾患として上記の疾患とともに銘記されるべきと考える.

FHL1遺伝子はXq27に位置する8FHL1遺伝子変異による疾患はX連鎖性を示し,男性の発症者が多いが,女性保因者でも軽度な症状を呈する場合がある.代表的な表現型は,RBM,SPM,XMPMA,EDMD,RSSの5型である2.RBMは最初の報告が1972年と最も早く報告された病型で,FHL1ミオパチーの中で最も重症である9.発症年齢は乳児期から小児期で,近位筋の筋力低下で始まり,1~7年で歩行不能となり呼吸不全で死亡する10.病理にてGomoriトリクローム変法で青黒色に染色される細胞内封入体(還元小体)を認めるのが特徴である.SPMは肩甲腓骨型の名の通り肩甲帯および腓骨筋の筋力低下をきたすもので,10代から20代で発症し,上肢近位筋の筋力低下,翼状肩甲,垂れ足を呈する11.心疾患を呈するものもあるが呼吸不全はまれである.病理学的にはSPMもRBM同様に還元小体を認めることが報告され,RBMと一連のスペクトラムにあると考えられる12.XMPMAは起立筋の萎縮を伴い腰曲がり(前屈位)を主徴とするもので,初期には偽運動選手pseudoathleticとよばれる仮性肥大を上肢帯筋に認めるのも特徴である13.20代で発症し,心筋症や呼吸不全で死亡する13.EDMDは早期から関節拘縮をきたし,強直脊椎,肩甲上腕型の筋力低下・筋萎縮ならびに心疾患を呈する14.心疾患には,不整脈,肥大型心筋症,拡張型心筋症などが含まれ,骨格筋の筋力低下をきたす前に心疾患で発症し死亡することもある.EDMDをきたす遺伝子変異にはX連鎖性のEMD変異や常染色体のLMNA変異が知られており病型の50%ほどを占めるが,最近はFHL1変異やSYNE1SYNE2変異も報告されており,遺伝学的背景は多彩である15.RSSは強直脊椎を専らの初期主徴とする病型で最近1例が報告された16.還元小体を認め,遺伝子異常もRBMをきたす変異に類似するためRBMの軽症型であることが示唆されている.EDMDとXMPMAは,心疾患や呼吸不全の合併,強直脊椎や関節拘縮など臨床症状が近いことが指摘されており14,還元小体も陰性であることもRBMやSPMと対照的である.

本兄弟例は,30~40歳で心筋症として発症し,50~60歳で呼吸不全をきたした症例である.いずれも診察にて日常生活に差支えない程度の肩甲上腕筋の筋力低下,肘・足関節の拘縮,強直脊椎を認めた.こうした臨床経過,症状から本兄弟例はFHL1変異の五つの表現型の中ではEDMDが最も近いと診断した.さらにEDMDの7家系の報告14では,発端者7人のうち2人では自立歩行は可能な状態で非侵襲的陽圧換気を要する呼吸不全を認めており,この点も本兄弟例はEDMDと類似している.本兄弟例で認められたc.764G>C遺伝子変異は,本兄弟例と類似する心筋症を主徴とするEDMDの1大家系17および遠位型ミオパチーを示す症例の報告がある18.前者では4例中3例に起坐呼吸から睡眠時無呼吸まで様々な程度の呼吸障害を認めている17

FHL1ミオパチーのうちRBMは,筋病理学的に,還元小体とならんで筋原線維走行の乱れと筋細胞内の異所性タンパク質の集積を認め筋原線維性ミオパチーを呈すると報告されている12.一方EDMDでは還元小体を認めず,筋原線維蛋白に対する免疫染色で異常は呈さず筋原線維性ミオパチーを呈さないと報告されている14.本例(兄)では筋生検は施行されていないが,弟の筋生検では特異的異常を認めておらず,臨床病型はEDMDに類似するため,筋原線維性ミオパチーの病理を呈していない可能性が高い.

本症例(兄)の心筋症は,心拡大,不整脈の指摘後,心房細動,僧帽弁閉鎖不全症,心不全にて発症している.心エコーでは心室中隔含め左室壁厚は正常で肥大型心筋症の所見は認めなかった.また入院加療後は右房,左房の著明な拡張は残存したのに対し左室,右室の拡張は認めなかった.弟の心エコー所見も同様である.過去に報告された本兄弟例と同一の遺伝子異常で認められた心筋症は,軽度な壁肥厚,収縮障害,心室拡大はなく,不整脈をきたす“unclassifiable arrhythmic cardiomyopathy”17とされており,本兄弟例に類似する.

本兄弟例はEDMDを呈したFHL1ミオパチーの報告であり,検索した限り四肢の筋力低下に先立って呼吸筋麻痺をきたしたFHL1ミオパチーとしては初めての報告である.成人発症で初期主徴が呼吸不全である遺伝性ミオパチーの鑑別として,ポンぺ病,マルチミニコア病,筋強直性ジストロフィー1型,筋原線維性ミオパチーとならんでFHL1ミオパチーが重要と考えられる.

Acknowledgments

謝辞:弟例の情報をご教示頂いた神戸市立医療センター中央市民病院 藤原悟先生,遺伝子解析をご施行頂いた国立精神・神経医療研究センター 小笠原真志先生に深謝いたします.遺伝子解析は国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(29-4, 2-5, 2-4),AMED(JP21ek0109490h0002, 19ek0109285h0003)の支援を受けたものである.

Notes

※本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業・組織や団体

〇開示すべきCOI状態がある者

西野一三:研究費・助成金:Sanofi,第一三共,CYTOO

〇開示すべきCOI状態がない者

青原健太,木村裕子,武田景敏,泉家康宏,伊藤義彰

本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
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