Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of neurosyphilis presenting as sudden onset of limbic encephalitis
Kanako Akashi (Hasegawa)Yoshiaki TakahashiMizuki MorimotoKyoko YokotaNobutoshi Morimoto
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2023 Volume 63 Issue 1 Pages 15-20

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要旨

症例は52歳男性.突然の異常行動と意識障害で救急搬送された.搬送直後から全身痙攣をきたし,ミダゾラムにて痙攣は停止するも健忘症状が遷延した.髄膜刺激徴候を認め,臨床経過と合わせ辺縁系脳炎と考えた.血清・髄液梅毒反応陽性の結果より脳炎の原因を神経梅毒と判断し,ペニシリンGで治療を開始した.頭部MRIでは両側側頭葉内側に左側優位のT2/FLAIR高信号病変を認め,ヘルペス脳炎の可能性も考慮し,髄液HSV-DNA陰性が判明するまでアシクロビルを併用し,ステロイドパルス療法も行った.経過とともに症状は改善し職場復帰した.辺縁系脳炎で発症する神経梅毒は稀だが治療方針を考える上で極めて重要な疾患である.

Abstract

A 52-year-old male was carried to hospital by ambulance, because of an abrupt abnormal behavior and impaired consciousness. Soon after the arrival, the patient started a generalized seizure. Although the seizure was stopped by Midazolam, amnesia were observed. With meningeal irritation signs, in addition to the clinical course, the patient was thought to develop limbic encephalitis. The cause of the encephalitis was diagnosed as neurosyphilis because of the positive serum and CSF syphilis reactions, and the patient was treated with penicillin G from the first admission day on. Steroid pulse therapy was also conducted, followed by acyclovir since herpes encephalitis could not be ruled out; the brain MRI showed left-side dominant T2/FLAIR high intensity lesions in the bilateral temporal lobes and left hippocampus. With the treatment progression, the amnestic syndrome improved and the patient returned to work. Although neurosyphilis is a rare cause of acute onset limbic encephalitis, it is important to keep the possibility of this disease in mind in making a treatment plan.

はじめに

神経梅毒の一病態として辺縁系脳炎が知られている.今回我々は突然の異常行動,意識障害,全身痙攣で発症し,辺縁系脳炎と診断した神経梅毒を経験した.

症例

症例:52歳 男性

主訴:発熱,意識障害,痙攣

既往歴:高血圧症,高脂血症.

家族歴:家族内に類症なし.

生活歴:喫煙習慣なし,飲酒は機会飲酒,右利き.結婚歴はあるが子供はいない.ホモセクシャルではなく,30歳代以降は不特定の異性間性交渉歴はない.海外渡航歴なし.

現病歴:生来健康で家族と同居し,会社員として問題なく仕事をこなしていた.物忘れや体調不良の自覚はなく,同居の家族も異常を感じていなかった.2020年6月X日の夕方まで仕事をこなし,自家用車を運転し帰宅.17時30分に帰宅した際は,自分で服を着替えることはできていたが,妻が声をかけても発語はなかった.その後もぼんやりしていて発語のない状態が続いたため妻が救急要請した.救急隊が到着するまでの間に自分の肩を噛むような異常行動が見られた.18時10分に当院へ搬送され,画像検査等を行っていたところ,18時50分から突然うめき声をあげ,30秒間の全身の強直性痙攣を生じた.その後も断続的に痙攣を生じたため,ミダゾラム5 mgを静注し痙攣は停止した.痙攣停止後も発語はなく意思疎通も困難であったため,同日入院した.

入院時現症

一般理学所見:身長172 cm,体重74.3 kg,体温37.6°C,血圧129/66 mmHg,脈拍61/分・整,呼吸数16回/分(呼吸は浅く,頻回に無呼吸となる),SpO2 100%(鼻カニューレ酸素4 l/分投与中).心肺聴診異常なし.頭部に多量の発汗あり.流涎あり.

神経学的所見:意識レベルはGlasgow Coma Scale E4V2M5.開眼しているが視線は合わない.項部硬直あり,Kernig徴候は陰性.瞳孔は正円,右3.0 mm/左4.0 mmと瞳孔不同あり,対光反射は両側迅速.眼振なし.発語なし.明らかな顔面麻痺なし.明らかな四肢麻痺なし.意思疎通はかれず感覚障害の有無は不明であった.深部腱反射は四肢で正常,病的反射なし.

入院時検査所見

血液検査:白血球11,400/μl(好中球61.3%,リンパ球32.2%),赤血球数440×104l,血小板28.3×104lと白血球増多を認めた.アンモニア16 μg/dl,グルコース100 mg/dl,CRP 0.01 mg/dl,その他の生化学・電解質・凝固系・動脈血ガス分析には特記すべき異常なし.感染症検査では,HBs抗原・HCV抗体・HIV抗原抗体はいずれも陰性であった.TPHA定量163,480倍・RPR定量4.7倍と血清梅毒反応が陽性であった.自己抗体に関しては,抗GM1-IgG抗体・抗GQ1b-IgG抗体・血清抗LGI-1抗体・血清抗CASPR2抗体・血清抗GAD抗体・抗核抗体は陰性であった.

髄液検査:初圧25 cmH2O,外観は水様透明,細胞数24/μl(単核球100%),髄液蛋白113 mg/dl,髄液糖67 mg/dl,髄液Cl 129.5 mmol/l,IgGインデックス1.14,髄液RPR定量3.2 R.U,髄液TPHA 10,240倍,HSV-DNA(PCR法)は陰性,髄液抗NMDA受容体抗体は陰性.

画像検査:入院時の頭部CT・MRIでは明らかな異常所見を認めなかった.胸腹部CTにて腫瘍性病変やリンパ節腫脹を認めず.

入院後経過(Fig. 1

入院直後より頻回に無呼吸を繰り返していたため,入院4時間後に動脈血ガス分析を施行したところpCO2 108.0 mmHgまで上昇していた.時間経過からミダゾラムによる呼吸抑制ではない可能性を考え,ICUへ移動して気管内挿管及び人工呼吸器管理を行った.痙攣に対してレベチラセタム1,000 mg/‍日を開始した.6月X+2日目には換気量が安定したため抜管したところ,大声を張り上げるなど興奮状態となり,プロポフォール及びデクスメデトミジンを用いて鎮静を行った.6月X+5日頃より入院中であることを理解できるようになり,興奮することはなくなり鎮静も不要となった.自分が結婚していることを忘れていたり,自分の状況について同じ質問を繰り返したりするなど逆向性健忘および前向性健忘が持続し‍た.

Fig. 1 Clinical course of our patient.

Retrograde and anterograde amnesia appeared following sudden consciousness disturbance and generalized convulsions. Antimicrobial administration reduced CSF syphilis response and ameliorated the amnesia.

R. U.; RPR unit, IVMP; pulse intravenous methylprednisolone, DEX; dexmedetomidine.

6月X+5日に記録した脳波では左優位に両側前頭側頭部のδ波を散見したが,明らかなてんかん性放電は認めなかった(Fig. 2 left).6月X+7日に撮影された頭部MRI画像では,両側側頭葉内側に左側優位のT2/FLAIR高信号病変が見られた.また,同日のGd造影画像では右側頭葉内側に造影病変が見られた(Fig. 3).

Fig. 2 Electroencephalogram.

The EEG demonstrated one hour after the discontinuation of propofol on the day X+5 showed bilateral frontotemporal intermittent delta frequency activity (left). EEG examination 3 months after discharge showed that the bilateral frontotemporal delta frequency activities had disappeared (right), Occipital dominant 11 Hz α waves and α blocking by opening eyes were observed. EEG waves are shown on the mono-polar montage with the time constant of 0.1 second, and high frequency filter of 30 Hz.

Fig. 3 Brain MRI findings taken one week after hospital admission.

FLAIR images showed hyperintensity lesions in bilateral medial temporal lobes and left hippocampus. Contrast-enhanced images showed a small enhanced lesion in the right mesial temporal lobe (arrow).

治療としては臨床的に辺縁系脳炎を考えたが,梅毒血清反応・髄液検査の結果から神経梅毒を疑って,入院初日からペニシリンG 2400万単位/日を14日間静注し,続けてアモキシシリン3,000 mg/日とプロベネシド750 mg/日の内服を14日間行った.また,単純ヘルペス脳炎の可能性を否定できなかったため,アシクロビル1,500 mgを髄液HSV-DNA PCRで2回目の陰性を確認するまでの14日間投与し,メチルプレドニゾロン500 mgを6月X日~3日間,X+8日~3日間投与した.

髄液検査及び血液検査でもRPR・TPHAの改善が見られた.X+30日時点では,改善傾向ではあるものの中等度の健忘が残存し,WMS-Rでは言語性記憶62,視覚性記憶64,一般的記憶57,注意/集中97,遅延再生66(指標)であった.内服治療終了後,X+33日でリハビリテーション病院へ転院し,転院から2ヶ月後に自宅へ退院した.リハビリ病院退院から約3ヶ月後に職場復帰した.MMSEはX+7日で22点(場所の見当識4/5点,注意集中3/5点,遅延再生0/3点,口頭指示2/3点,自発書字0/1点),X+14日で24点(注意集中3/5点,遅延再生0/3点,自発書字0/1点),職場復帰時に27点(場所の見当識4/5点,遅延再生2/3点,口頭指示2/3点)と回復した.退院後3ヶ月後で記録した脳波においてもてんかん性放電を認めず,両側前頭側頭部の間欠的δ波は消失していた(Fig. 2 right).痙攣予防のため退院後もレベチラセタム2,000 mg/日で内服継続した.

考察

梅毒はTreponema pallidumによる感染症である.病期は第1期から第3期までに分けられ,第2期までを早期梅毒,第3期以降を後期梅毒と呼ぶ.以前は,神経梅毒は第3期の晩期梅毒で生じると考えられていたが,実際にはTreponema pallidumは早期から血行性に中枢神経系へ浸潤するため,感染の過程でいつでも発生する可能性がある1.今回我々は,皮疹の既往もなく健康状態良好な成人男性に辺縁系脳炎として突然発症した神経梅毒を経験した.

辺縁系脳炎の原因としては,ヘルペス脳炎を含むウイルス感染によるものの他に,抗NMDA受容体脳炎や抗LGI-1抗体脳炎など自己免疫的機序によるものが多く知られている2.神経梅毒を原因として発症する辺縁系脳炎は稀であり,検索しえた限りでは25件の症例報告が掲載されている.それらの疫学としては,30歳代から60歳代までの年齢で発症し,その男女比は23:2で9割以上を男性が占める.また,25例中10例(約38%)が急性の経過で発症したと報告されており(Table 1),神経梅毒が急性発症の運動障害・意識障害・全身痙攣等の原因疾患となりうることが示されている3)~12.本症例では,前兆なく突然異常行動を生じ,数時間後に全身痙攣を生じて重篤化するという極めて短時間の経過が特徴的であった.本症例においては,スクリーニング検査での梅毒反応陽性という結果を解釈する際に,症状の原因として神経梅毒が存在していると判断してよいのか,偶然の梅毒陽性例として他の原因で脳炎を生じている可能性を検討すべきなのかという点について治療開始時点での判断は難しく,発症経過からヘルペス脳炎がもっとも注意すべき鑑別診断と考えられたため,ヘルペス脳炎に準じアシクロビルとメチルプレドニゾロンでの治療を並行して行った.

Table 1  Sudden onset neurosyphilis with limbic encephalitis.
No. Age, sex Symptoms and signs MRI-Sequence and side of medial temporal findings CSF Author
1 41, m memory impairment, seizure T2 hyperintensity mainly in the left temporal lobe CSF-cell 43/mm3 (40% lymphocytes)
CSF VDRL 1:16
Ances, B. M.
(2004)
2 51, f disorientation, memory impairment T2 hyperintensity in the left temporal lobe CSF-cell 20/mm3 (90% lymphocytes)
serum-TPHA 1:40960
serum-FTA-ABS 1:12800
Denays, R.
(1999)
3 62, m aphasia, hemiparesis, seizure T2 hyperintensity in the caudate nucleus on the left side, the bottom of the frontal lobe, and the cingulate gyrus CSF-lymphocytes 5/mm3
CSF-TPHA 1:2048
Lauria, G.
(2001)
4 48, m memory impairment, seizure T2 hyperintensity in the right temporal lobe and the bottom of the right frontal lobe. CSF-lymphocytes 12/mm3
CSF-VDRL positive
Marano, E.
(2004)
5 34, m disorientation, memory impairment, seizure Atrophy of the left medial temporal lobe CSF-cell 22/mm3
CSF-VDRL 1:4
Scheid, R.
(2005)
6 55, m disorientation, confusion, memory impairment, seizure T2 hyperintensity in the left temporal lobe CSF-cell 79/mm3 (93% lymphocytes)
CSF-VDRL 1:8
Szilak, I.
(2001)
7 50, m an inaugural status epilepticus FLAIR hyperintensity in the left temporal lobe than right lobe CSF-cell 32/mm3 (95% lymphocytes)
CSF-VDRL 1:64
CSF-TPHA 1:2560
Derouich, I.
(2013)
8 66, m a generalized epileptic seizure T2 hyperintensity in the right temporal lobe CSF-cell 129/mm3 (95% lymphocytes)
CSF-FTA-ABS was positive.
Geisler, F.
(2013)
9 55, m delirium, memory impairment, and disorientation T2 hyperintensity in the left temporal lobe CSF-lymphocytes 15/mm3
CSF-TPHA 1:256
Gaud, S.
(2011)
10 63, f irritability, personality changes, and slight tremors throughout her both hands T2 hyperintensity in the left temporal lobe CSF-leukocytes 60×106/l
CSF-RPR 8
Li, F-Z
(2021)
11 52, m seizure, abnormal behavior T2 hyperintensity in bilateral medial temporal lobes and left hippocampus CSF-leukocytes 24/μl
CSF-RPR 3.2
CSF-TPHA 1:1024
This case
(2021)

m; male, f; female.

辺縁系脳炎を呈する神経梅毒で見られるMRI画像所見としては,側頭葉や大脳辺縁系にT2強調/FLAIR画像で左右差のある高信号病変を認め,画像上はヘルペス脳炎と類似しているとされている9)~14.本症例でも入院後のMRIでは両側側頭葉内側のT2高信号病変と右側頭葉内側にGd造影病変を認めており,画像所見からヘルペス脳炎の可能性を否定することはできなかった.神経梅毒においてMRIで側頭葉内側に信号変化を生じる機序は,抗菌剤投与で画像所見が改善することからTreponema pallidumの直接浸潤の機序が推定されている.Saundersonらは,神経梅毒におけるMRIの信号異常の機序に関して,①髄膜血管の炎症が関与する血管性浮腫,②小血管の閉塞による脳実質の低酸素で生じる細胞性浮腫,③フィブリンや白血球の沈着に伴うarachnoid villiの閉塞による間質性浮腫 といった混合性の浮腫が生じているという仮説を提唱している13.とくに神経梅毒においてヘルペス脳炎類似の病態を発症する機序に関しては,小血管内でTreponema pallidumが増殖して血管閉塞が生じるという仮説が重視されており915,本症例のように短時間で急性脳炎として発症する病態も生じうると考えることができる.一方でTsukitaらは,両側の内側側頭葉にMRIで異常高信号域を認める辺縁系脳炎として発症した神経梅毒を報告し,類似の画像所見を呈するヘルペス脳炎における自己免疫的機序の関与と同様に,神経梅毒においても自己免疫学的機序が関与している可能性を指摘している14.本症例では先に述べたように当初ヘルペス脳炎に準じた治療を並行して行ったため,治療としてはアシクロビルに加えメチルプレドニゾロン500 mg 3日間のパルス治療を合計2コース行っている.本症例でのステロイド併用は,抗菌剤開始に伴うJarisch-Herxheimer反応を予防する効果があっただけでなく,辺縁系脳炎の自己免疫的機序に対しても有効であったかもしれない.梅毒による神経症状に対してステロイド治療が有効であった症例も報告されており1617,神経梅毒の治療において自己免疫的機序を想定した治療を行うべきかどうかについては今後の症例の蓄積が期待される.また,本症例で認めた発汗過多,流涎,無呼吸などの自律神経症状はヘルペス脳炎や自己免疫性脳炎等の辺縁系脳炎に特徴的な症状であり,共通の機序の存在が示唆される.本症例は血清抗LGI-1抗体・血清抗CASPR2抗体・血清抗GAD抗体・抗核抗体は陰性ではあったが,辺縁系脳炎の原因として他の自己免疫性脳炎の可能性も念頭に置いて慎重に経過を見なければならない.とくにneuropsychiatric systemic lupus erythematosus(NPSLE)では辺縁系脳炎と同様の精神神経症状を示し,50歳以上で発症する高齢発症SLEにおいて男女比が1:2.5と男性の頻度も高く,蝶形紅斑などの特徴的な皮膚所見を欠くことも多いため注意が必要である18.辺縁系脳炎では抗GAD抗体関連脳炎を鑑別するために抗GAD抗体の測定だけでなく糖尿病合併の可能性も十分検討しなければならない.本症例では初診時の血糖が正常であったことに加え,ICU入室中は連日血糖チェックを行ったが高血糖は記録されていないことから糖尿病の合併は否定的と考えた.

本症例では,入院後5日目(X+5日)に施行した脳波検査‍で棘波や鋭波を認めておらず,痙攣停止後の精神症状や健忘が非けいれん性てんかん重積(non-convulsive status epilepticus,以下NCSEと略記)の経過であると積極的に診断する根拠を示すことはできなかったが,ミダゾラム静注で痙攣停止した後にレベチラセタムを連日投与し,てんかん発作に準じた治療も継続した.神経梅毒における痙攣重積については多くの報告があり,特にPrimaveraらは突然の精神錯乱で発症した未診断の髄膜血管型神経梅毒の初発症状がNCSEであったという症例を報告しており,本症例の経過と酷似している1920

CDCガイドラインでは神経梅毒の治療として,ペニシリンG 1,800~2,400万単位/日・10~14日間点滴が推奨されており,また,潜伏梅毒に対してはベンザシンペニシリンG240万単位/週筋注を3回投与することが推奨されている.このため,神経梅毒の治療期間のみでは潜伏期梅毒の治療期間に不十分であり,潜伏期梅毒で神経梅毒を有する事例では,ペニシリンの点滴加療終了後に,ベンザシンペニシリンG240万単位/週筋注を3回までの追加投与が考慮されるとしている21.本症例は,梅毒血清反応・髄液検査の結果から辺縁系脳炎は神経梅毒によるものと判断した.また,梅毒の既往はなく,患者が自覚しうる限りでは発症1年前以内に陰部潰瘍やバラ疹など梅毒で見られる症状はなかったため感染時期不明の3期梅毒と考えた.本症例でもCDCガイドラインに準拠してペニシリンG点滴で治療を行ったのち,ベンザシンペニシリンGは日本では使用できないため,日本でHIV感染梅毒患者の晩期梅毒にアモキシシリンとプロベネシドの28日間投与が有効とされた報告に準じて,14日間のアモキシシリンとプロベネシドの追加投与を行った22

本症例は,突然発症であることに加え,海外渡航歴やリスクの高い性行動の経歴もなかったことから感染時期の特定は困難であった.梅毒は無症候期を含め長きにわたり感染力が持続するため,無自覚に感染を広めてしまっている可能性があるが,性感染という特殊性から感染時期や感染源に関して正確な情報が得られにくいという社会的課題も挙げられる.

日本での梅毒患者数は2010年に600名程度だったものが2018年には7,000名を超えており,増加が著しい23.梅毒患者の増加に従って,本例のように急性脳炎・辺縁系脳炎の症状を呈する神経梅毒の症例は今後も増加していくことが予想されるため,鑑別診断として常に念頭におき,治療経験を蓄積していくことが重要である.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2023 Japanese Society of Neurology

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