臨床神経心理
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Print ISSN : 1344-0292
臨床神経心理
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びまん性軸索損傷による未来思考の障害機序
*増田 柚衣*朴 白順*上田 敬太*生方 志浦*村井 俊哉*月浦 崇
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 1-

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抄録

未来思考とは、将来自分に起こり得る出来事を想像し、シミュレーションすることである。未来思考には、デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network: DMN)や前頭頭頂ネットワーク(Front-Parietal Network: FPN)などの大規模脳機能ネットワークが関与することが指摘されているが、これらの機能的ネットワークの基盤となる神経線維連絡がびまん性に損傷されることによって、未来思考がどのように障害されるのかについては、これまでに明らかにされていない点が多かった。本研究では、神経線維連絡が広範囲に損傷されているびまん性軸索損傷(Diffuse Axonal Injury: DAI)患者を対象として、神経線維連絡の広範囲な損傷が未来思考に与える影響を検証した。本研究では、DAI患者7名と年齢や教育歴を統制した健常者(HC)8名を解析の対象とした。全ての参加者には、半構造化面接による未来思考課題と自伝的記憶課題が実施された。未来思考課題では、1週間以内の近い将来と、1年後から5年後までの遠い将来に経験することが想定される出来事を想像し、その内容を口頭で回答することが求められた。自伝的記憶課題では、子供時代、成人期初期、成人期後期に経験した出来事を口頭で再生するように求められた。さらに両課題において、参加者は回答した全ての出来事に対しての主観的鮮明度を評価することが求められた。その結果、未来思考課題の成績は、近い将来と遠い将来の両時期において、HC群と比較してDAI群において有意な成績の低下が認められた。自伝的記憶課題では、成人期後期のみHC群と比較してDAI群での再生成績が有意に低下していた。鮮明度の評価については、HC群では近い将来の鮮明度が遠い将来と比較して有意に高かった一方で、DAI群では近い将来と遠い将来との間で有意差は認められなかった。これらのことから、DAI患者ではDMNやFPNなどの大規模脳機能ネットワークが障害されることによって、自伝的記憶や、自伝的記憶を用いて将来起こり得る出来事を再構成するための実行機能が障害され、未来思考の成績が低下することが示唆された。またDAI患者では、近い過去の自伝的記憶が障害されることにより、これを用いてシミュレーションされる近い将来の出来事の鮮明な想像が困難になっていることが考えられた。

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