前頭側頭型認知症の初期診断はしばしば困難である。その中でもとりわけ困難であるのは鑑別に役立つ症状が比較的少ないright temporal variant frontotemporal dementiaである。本稿で初期にアルコール性認知症と誤診されていたright temporal variant frontotemporal dementiaの例を提示する。初期には社会的文脈から外れた言語症状と顕著な行動異常を呈していたが、アルコール性認知症の影響と捉えてしまっていた。病気の進行とともに相貌失認、人物認知の障害、社会的文脈の認知や社会的知識の障害、意味記憶障害、語義失語、常同行動などright temporal variant frontotemporal dementiaに出現しやすい症状が展開し、発症からようやく8年後に正しく診断された。後方視的にみると、アルコール依存症自体がright temporal variant frontotemporal dementiaの初期症状であった。本例に出現した症状と過去の研究を参考にしながら、right temporal variant frontotemporal dementiaの特徴を検討し、概念知識の低下、社会的文脈の認知や社会的な知識の低下、意味記憶障害が一部の行動異常に導く可能性を挙げた。