抄録
自伝的記憶の想起や未来思考の際の視覚的視点は,精神疾患と関連する。例えば,健常群に比べ,うつ病群はポジティブな未来思考を一人称視点で想像しにくいとされる。本研究は,抑うつ傾向でも同様の傾向が見られるかどうかを調べた。実験1では,ポジティブな未来思考時の視覚的視点と抑うつ傾向との関連を調べたところ,両者との間には有意な相関はなかった。さらに,未来思考の感情価による違いと実験1の再現性を検討するために,ネガティブな未来思考を加えた実験2を実施したが,ポジティブ,ネガティブに関わらず,抑うつ傾向と視点の間には有意な相関はなかった。一方で,2つの実験を通して,ポジティブな未来思考でのみ,想像時の鮮明度などの視覚的視点以外の指標と抑うつ傾向の間に関連が見られた。以上のように,抑うつ傾向が鮮明度などのポジティブな未来思考の特異的な処理と関わるものの,視覚的視点とは関連しない可能性が示された。