抄録
記憶課題では、構音抑制を行うことで記憶成績が低下すると考えられている。本研究では、テキストと音声で視聴覚に同時に異なる単語が呈示される再認課題を行い、統制条件と構音抑制条件において、テキストと音声のそれぞれで呈示された単語の記憶成績の個人差を調べた。また、実験参加者は、日常的な思考スタイルの言語化傾向?視覚化傾向を調べる質問紙VVQに回答した。再認課題の結果、視聴覚のどちらの刺激に対しても、構音抑制による有意な記憶成績の低下がみられた。しかし、視覚刺激と聴覚刺激の記憶成績の低下に相関がみられなかった。また、構音抑制による視覚刺激の記憶成績の低下が聴覚刺激の記憶成績の低下より大きい群とその逆の群では、VVQ得点に有意差がみられた。実験結果から、構音抑制は視聴覚が同時に呈示された際、視覚刺激と聴覚刺激の両方の記憶成績に影響を与えるが、感覚間の影響の差は実験参加者によって異なり、その違いは日常における思考スタイルと関係している可能性が示唆された。